神聖公国にて 3
野苺は、結局ふたりのおなかに収まった。また別のとこをさがしゃいいさと云うミューを、ジーナはくすくすして叩いた。
邸に辿りつく。ここで寝起きしているのは、ミューとジーナだけだ。勿論めしつかい達は別として。
それも、ミューの要望ではある。ジーナからあの母親や父親を引き離しておくには、ふたりがいいとごねるしかなかった。
薔薇の咲く前庭を、ジーナが前になったり、ミューが前になったりして歩く。チェルノーラ下邸は、灰茶の石でつくられた、横に横に伸びた建物だ。高さはあまりない。丘に建っているから一部が高く見えるが、ほとんどが二階までしかなく、三階はふた部屋か三部屋あるだけだ。
「ミュー、はやく」
「解ったよ、袖をもぎとろうとしないでくれ」
「今日はとても巧くいったの」
「今日も、だろ。君が料理を失敗したところは、俺は見たことがない」
「見せていないだけよ」ジーナは小首を傾げる。「そんなことも解らないのね」
「ああ、俺は頭が鈍いんだ。サキみたいに賢いほうがよかった?」
ジーナは顔を強張らせた。つい三日前、サキからの手紙が届いたので、サキの名前を出したのだが、なにか拙かったろうか。
「どうしてサキと比べるの」
「別に……深い意味はないさ。サキから手紙が届いたばかりだろう?それで」
ミューはにこっとする。「リオと漸くと会えたって、嬉しそうだったじゃないか」
「そうね。とっても嬉しそう……やっぱり、あのふたり、いいかわしているのじゃないかしら」
ジーナが目を逸らした。ミューは笑う。「おいおい、君こそどうしたんだ。まるで女の子だぜ、美貌の少年の許嫁が誰かを気にするなんて?」
「……あなたって鈍いわ」ジーナは軽く息を吐いたが、すぐにやわらかく微笑んだ。「でも、そう云うところが好きよ」
「俺は君の訳の解らないところが嫌いだよ。でもその百倍くらい、君の訳の解らないところが好きなんだ。変だろ」
ジーナの髪を掬う。まっすぐで、つやつやしている。
いやな気配がして、邸の玄関を見た。ジーナもだ。そこには、ジーナのおそるべき母親が立っていて、満足げににんまりしていた。
「まあ、まあ、ごめんなさいねえ、今日はどうしても、可愛いジーナの顔をしっかり見ておきたかったから……本当にごめんなさい、歳をとると間が悪くなってしまって」
「お母さま。ごきげんよう」
ジーナは流れるように優雅なお辞儀をする。ミューも軽く会釈した。ファバーシウスのほうが家格は圧倒的に上だ。きちんとした礼をする必要はない。個人的にも、ジーナの母親を敬う気は起こらないので、丁度いい。
「新しいドレスを届けに来たついでに、お前の顔を見たかっただけなのよ」
ジーナの母親はゆったり歩いてくる。侍女達が走り出てきて、馬車の準備を始めた。ジーナは母親を見ているが、目に感情はない。
「お母さま、お菓子を焼いたところです。お茶に」
「いいえ、これ以上お前とファバーシウス卿の邪魔をする母ではありません。ふたりでのお喋りもあるでしょう。内証のね」
ジーナの母親はミューに丁寧なお辞儀をして、馬車へのりこむ。




