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気付くと十冊くらい抱えていた。すべて食べ物に関する本だ。
重さにふらつきつつ、清算の為にカウンタへ向かう。店員さんが駈けてきて、持ってくれた。
占めて、銀貨75枚。価値のある古書が紛れていたらしい。しかしそんなことはどうでもいい。どの料理も旨そうだからつくって食べるのだ!
代金を払って本をもらい、ほくほく顔で収納空間へ仕舞い込む。
お腹空いたし、ああ料理したい。自炊めんどいとか時間がねえとかいうひとも多いが、好きなものを好きなだけつくってくえるんだぞ。嫌いなものはなにひとつはいっていない食事って最高じゃないか。
店員さんにいいかもだと思われたか、あれもこれもと本をすすめられる。
「こちらはおよそ千年前の料理を再現した、その調理法が載っているものでして……このように詳細な挿絵と、原典からの引用付きです」
「わー、おいしそうですね。これはおいくらですか?」
「大変希少な本で、当店には二冊しか残っていませんが、そうですね、こちらの「連邦南部の食習慣」、「裾野の安くておいしい! 食堂めぐり」と、合わせて銀貨200枚では?」
「買います、下さい」
「ありがとうございます、いやあこの時期は本の売り上げが落ちるもので、助かります」
時期?
銀貨を支払う。店員さんはうやうやしく本を差し出してきた。「お若いかた達は試験が大変ですから」
ああ、受験シーズンなのな。
本を受け取って収納空間へいれる。なんでもぽいぽいいれないほうがいいと思って、こっそりだ。腰のポーチへいれるふりをして、ポーチのなかに開けた収納空間の口へ放り込んでいるのである。
そんなにポーチにはいる筈ないというのはまったく頭から抜け落ちていた。
ところで今って何月だ?
そもそも一年十二ヶ月三百六十五日なのだろうか。違ったら戸惑う。
さぐりをいれてみる。「試験って今の時期なんですか?」
「毎年十月に行われます。入山までに余裕を持たせませんと、本国へ戻っていろいろと準備をするかたもおいでですので」
まるでスポークスマンだ。
「結果が出るのは十月の終わり、そこから入山まで一年近く御座います。婚礼を済ませてから入山するかたも居るのですよ」
ぺらぺらと説明してから店員はきょとんとする。「お客さまは、入山志望のかたではないのですね」
あははと笑った。そんなに幼く見えます?




