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金髪はきらきらして綺麗だが、みつあみにしてしばっているだけ。
ピアス穴はあるっぽいが(ちらっと見えた)、ピアスそのものはつけていない。ネックレスや腕環指環の類もなし。
男の子はにっこりした。
「申し訳ありません。もし購入されるのでないなら、その本を見せてもらえませんか?」
「……あ、はい」
差し出す。男の子はありがとうございますと云って受け取った。
顔が綺麗だなあ。本をめくるのもさまになっている。控え目に云って美人。ほっぺがふくふく。
男の子は本を閉じて、苦笑した。「目当てのものではなかったようです。歴史書かと……」
「ああ、題名が紛らわしいですよね」
背表紙には「悪の歴史」とあるのだ。中身はどろどろの恋愛小説っぽかった。
男の子はくすくすっと笑って、本を棚へ戻す。美人さんだなあ。もとの世界なら、女子が遠巻きにしてこそこそ話していることだろう。
「裾野のかたですか?」
「え?」
「お顔立ちは、帝国のかたのようにも見えますけど。服装が」
「あー、えっと」
なんと答えたらいいのか解らない。
首を傾げるとあちらも同じようにした。
「サキさま」
心配げな声とともに、中年女性がさーっと走ってきた。くるぶし丈の簡素なドレスに、柔らかそうな薄手の肩掛けをまきつけている。灰茶の髪は、みつあみをお団子にしていた。
こちらを見て不審そうにする。
男の子=サキくんが、にこっとした。「ごめん、退屈だったものだから、本を買おうかと」
「おひとりでうろうろされないで下さい。紙とインクは無事に手にはいりましたよ」
サキくんは、中年女性に腕を掴まれ、引き摺られていった。こちらへ目礼したあと姿が見えなくなる。
……他国のひとか。入山を目指している、良家の子女、というやつ。
本を眺める。
立ち読みは怒られないらしい。でも、値段が値段なので、手ずれがこわくてもう触れない。
背表紙のタイトルで判断するしかないな。魔王に関する本、神話の本、南の「邪教」に関する本……なにかないかな……。
「……」
……あれ? 手が勝手に。「帝国宮廷料理大全」、「ディファーズの食卓ー祈りとともに作る料理」、「ロア 地方家庭料理」、「シアイルを食べ歩く」、「井で戴く。ありがたいおいしさ」「雨林の食生活」……。
材料表見てるだけでおいしそうだなこれ。やっぱり本で一番はレシピ集とグルメ紀行。
あ、全部ほしい、これつくって食べたいし、えっと……銀貨4枚の棚だからいけるいける。




