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暫く不毛な問答を繰り返した。そこへナジさんと、のっぽのおじさんがやってくる。ダストくんがマオが大人だと云い張ってると大笑いし、ふたりもにやにやした。
いやいや。おとなですよ?
こちらが引き下がらないので面倒になったのか、年齢の話は終わった。ダストくんの言うとおり、ご飯の時間だ。男の子達が火を焚いて、鍋にお湯を沸かしている。「ダスト!」
「はいよー」
ダストくんが走っていった。収納空間から粟か稗みたいなのを鍋へと注ぐ。男の子たちは食事当番なのか、手分けして食卓を整えていた。
案内されて火から少し離れたところへ座る。隣はナジさん、その隣にのっぽのおじさん。シアナンさんだって。
ナジさん達は、荒れ地で色んなものを集めていたそう。荒れ地では、農耕は無理だけれど、虫やトゥアフェーノは居る。本当はトゥアフェーノ目当てだったけど(「売れるからね」)、肥料に出来るやすでで充分だとか。
「肥料って……」
「還元する」
「かんげん?」
……あ、還元士ってあったなあ。あれのことか。
ナジさんとシアナンさんが顔を見合せた。ナジさんが困ったみたいに笑う。「いったろ」
「ああ……マオ、還元というのは、モノをこの世へ還すことだよ」
「かえす」
「ああ。還元士が還元をしてくれるから、この世は成り立っている」
ほう。
なんでも、還元士というのは、凄く優秀なごみ処理屋さんのよう。ものを「そ」(多分「素」)に出来る。「そ」を集める? なにかする? と、いろいろつくれる。
ごみとか、動物の死骸とか、食べ残しとか、なんでも還元できる。還元士と云ってもピンキリだから、たいした還元が出来ないひとも居るが、でも尊敬される。
あのやすでを殺して還元すれば、いい肥料になるのだそう。
「あれは、その。大丈夫なんですか? 危険は、ない?」
「魔につかれていないから、可愛いものだよ」
魔、というのが、魔物にさせるってことかなあ。
雑穀が蒸しあがった。ダストくんが平たいお皿にたっぷり盛り付けて持ってくる。雑穀は油でてかてかしていた。それに、赤茶色のどろっとしたものがかかっている。
ありがとうと受け取る。ダストくんと男の子達は、お皿を配ってまわった。いつの間にか大人が増えている。全員にいきわたるとナジさんが手を合わせた。いただきますかと思ったら、お祈りらしい。みんなも似たようなポーズで固まる。よく解らんが、真似してみた。ご飯を食べれそうで嬉しいです、ありがたくいただきます、と誰へともなく念じてみる。
「では戴こう」
ナジさんの宣言で、食事開始だ。男の子達ががっついている。お皿には匙ものっていて、どうぞとすすめられたから食べた。お肉とトマトの煮込みだ。塩気が強くて、甘酸っぱい。ほくほくしてるのはピーナツっぽいな。唐辛子が効いていて辛い。
「口に合うかい?」
「……からいです」
辛くなければとてもおいしい。雑穀ご飯のほうは文句なしにうまかった。バターをまぶしているよう。辛いし、お皿に砂がはいってくるが、食べても死にやしないだろう。
あ、煮ものじゃなくて煮込みだった、とどうでもいいことを考えた。