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3章

 「ナァ、全く、偶然もここまでくれば呪いみたいだ。ナァ。殺した奴らに呪われたか?ナァ、それは無いな。」

 そんな風に呟きながらソドレーは銃を構える。目の前に広がるのは幹線道路。夜のこの道路は非常に人が少ない。しかし、今日は違う。かのアルバート議員が秘書に運転させた車でここを走っていた。なんでも『不正断固不許断罪の会』なる会合の帰りらしい。

 「全く、狙撃されたばかりだって言うのに、護衛無しでこんな幹線道路を通るってのは…ナァ、余程死にたいらしい。ナァ。」

 ソドレーの言う事は全くその通りなのだ。目の前の道路は直線。しかも遮蔽物が無く、周囲の建物から走行する車が丸見えなのだ。つまり、狙撃をする上で『静止していない標的を撃つ』という一点を除き、ここ以上に相手を撃ちやすい場所は無い。故に、裏社会の人間は基本的にこの道路を使う事は無い。

 「釣り。って事は無いか。腕の良い用心棒ならもっとマシな釣りをする。ナァ。」

 迷いを払拭するように狙いを定める。次こそ頭を狙う。外しはしない。








 「全く、セキュリティ甘すぎ。こんな所爆破し放題じゃん。」

 アベツェーは双眼鏡でアルバート議員の乗った車を見ていた。今回は狙撃に使った銃を持っていない。代わりに、手には配線が幾つか着いたラジコンのリモコンのようなものが握られていた。

 「死体は残んないだろうけど、派手に死ぬんだ。依頼に反することは無いでしょ。」

 彼はメカニックやハッカーとして有能であった。しかし、それ以上に爆弾製造が得意であった。

 今回彼は爆弾を製造した。しかし、只の爆弾ではない。ドローンに爆弾を内蔵したドローン爆撃機である。

 「最高時速100㎞。ホバリング可。黒く塗装して夜の闇に紛れやすくしてある。おまけに僕のフルハンドメイドで静音飛行が可能。メカと爆弾の両方に精通した僕だから出来る暗殺だ。」

 彼は今回、いつになく張り切っていた。自分の技術を十二分に使える暗殺という事もあり、採算度外視でドローン製作を行っていた。

 「念のために『不正断固不許断罪の会』にカメラを仕掛けておいた。議員はあの車にちゃんと乗ってる。完璧。」

 そう言って目の前にあるモニターに目をやる。

 『私アルバートは貧乏ではありますが、清貧な政治家であります!不正や汚職などもってのほか。断じて許しは致しません!!』

 少し前の映像。胸を張って堂々と演説する姿があった。この後、席を立って会合の会場から出たのをハッキングしたカメラで確認した。

 「この前あんだけヘマやってここまで堂々とできるとか…ハッ。」

 殺し屋以前に若者。大人のこういう態度が許せないのか演説の様子を見て鼻で笑う。

 「ま、いいよ。直ぐに吹っ飛ぶんだから。最期に堂々として死ねたんだ。有難く思え。」

 そう言ってモニターをドローンに内蔵したカメラのチャンネルに切り替える。映し出されたのはアルバート議員の乗っている車だ。ドローンはすでに車の上空に張り付けていた。

 「じゃ、吹っ飛ばすとしますか。」

 レバーを一気に前に倒してドローンを車に衝突させに行った。













 「ったく、アタシは修理工じゃないっての。」

 一二三は顔に着いた黒い機械油の汚れをぬぐって望遠鏡で車を眺めていた。

 見えるのはアルバート議員の車。手にはアベツェーのものより単純そうなリモコンがある。

 「全く、何がそんなに可笑しいんだか?ニヤニヤニヤニヤして…不正を正す正義の味方ごっこが楽しいタマかしら?」

 双眼鏡から見える議員の顔を見てそんなことを言いながら、彼女は車がリモコンの射程に入るタイミングを待っていた。

 彼女が今回行うのは事故に見せかけた暗殺。彼女は今朝、車の修理に見せかけてアクセルとブレーキに細工をした。前日の夜に自分で車を故障させ、親切な修理工のフリして今朝不調をあっという間に直し、おまけとしてスイッチ一つでブレーキが壊れ、アクセルが強く踏まれる細工を施した。

 「一度やってみたかったのよね。急に車が加速してブレーキを踏んでも効かない。そんな車に乗ったまま壁に激突して殺すって殺り方。」

 口角が上がる。黒髪の美しい東洋美人が笑っている。しかし、それが人の命の消える様を想像して笑っているのだと思うと恐ろしいものがある。

 リモコンのランプが光る。

 「射程圏内に入った。じゃぁね、議員様。最期のドライブに逝ってらっしゃい。」

 そう言ってリモコンのボタンを押した。


 車が急加速する。

 「おい、飛ばし過ぎだ。スピード違反をしたらワシの問題になるんだぞ!それに今日はトランクに大事な金を……」

 アルバートはドライバーに怒りつつ、ドライバー席に蹴りを入れる。

  次の瞬間



 パキュン

ドカーン!



 蹴りと同時に何かが後方で跳ねた音がしたかと思うと、轟音と閃光が後ろから襲い、身体が浮き上がった。

 ガッシャーン!!

 加速した勢いそのままに、車が横転した。
















 「オイオイナァ、オイ。俺は一体何を撃ったんだ?ミサイルか?爆弾か?はたまたサイコガンか?」

 目の前で起こったアクション映画真っ青の爆炎と自分の所まで届く熱気にソドレーは困惑していた。

 弾丸を発射した次の瞬間、少し車が加速したと思ったら爆発が起きた。

 「車の後方?イヤ、アレは車自体の爆破。というより車の後ろから何かが飛んできて破裂した。という感じかな?ナァ。」

 困惑しながらも分析は冷静だった。狙撃は失敗。この段階でもう彼は撤収を決めていた。車は横転しているため、這い出てきた議員を狙撃する。という選択肢もあった。しかし、その頃には野次馬が集まって狙撃の現場を見られる可能性がある。と考えたのだ。

 狙撃しやすい道路。というのはつまり、こちらが良く見える。という事なのだ。

 「にしても、ナァ。アレは…金か?」

 去り際に見た事故(事件)現場は炎に照らされ、オレンジ色の紙吹雪が舞っていた。








 「気付かれた?イヤ、それは無い。」

 アベツェーは困惑していた。

 ドローンを急降下させる際、ギリギリのところで車が加速し、直撃を免れたのだ。

 「しかし、アレは何だったんだ?急降下前に見えた後方トランクの火花。アレは……狙撃?」

 彼はドローンを突っ込ませる前、ドローンに内蔵したカメラ映像で急加速する車と、後方のトランクで弾ける火花が映ったのを見た。

 「何だ?しかもアレ。金かよ!不正許さないとか、清貧とか言っておいて、コレか!」

 炎上する道路。爆風に舞う札束に彼は怒っていた。が、

 「爆弾が破裂した以上。長居は無用だ。帰ろう。」

 前回以上に彼は冷静だった。この前より対象と自分との距離は近く、視界が開けて目撃される恐れがあった。

 「ドローンは跡形も無くバラバラになるように設計したし、証拠は心配しなくていいや。」

 そう言って彼は去って行った。

 自信作のドローンは壊れた。が、しかし、彼はそこまで怒っていなかった。なぜなら、彼のドローンの最も優れた点は飛行性能やステルス性では無く、爆破時に証拠とならないような壊れ方をする点にあるからだ。

 「明日の新聞が楽しみだ。鑑識は破裂したのがドローンだって気付けるかな?」

 その足取りは少しスキップ気味だった。


 「何が、起こったってのさ?」

 車がリモコンの射程に入った瞬間、アクセルをフルスロットルにした。しかし、次の瞬間に起こった閃光と爆炎は一二三には一切身に覚えが無い。

 「アクセルとブレーキしかアタシは弄っていない。ていうか、アレ何?後ろから飛んできたラジコン?アレが爆発したの?」

 身に覚えのない、思わぬアクシデントに狼狽えてしまう。

 「しかも、爆発の前にトランクが勝手に開いてたし、いったい何だっていうの?」

 予測不可能過ぎて最早何が何だか分からない。

 「何か舞ってるし、あれ札?何よ!また失敗!もぅ!」

 少し癇癪を起しつつ、一二三はもう殺しの手札が無い事を残念に思いながら撤収したのだった。










その日の夕刊の見出しは各社以下のようなものだった。

『アルバート氏 再び暗殺未遂!!』

『深夜の幹線道路に現金が舞う』

『夜の道路に不審な爆破』

『アルバート氏 爆弾に暴露される』

『アルバート氏 献金を受け取っていた』









 その日のSNSにて


「清貧?何処が?金の亡者じゃん」

「これ何の金?寄付金?」

「断固断罪されるべきはお前w」

「暗殺者ナイスww」


 その後、アルバート氏は爆発の被害者として警察からの聴取を受けた後、謎の現金の持ち主として、不正の容疑者として聴取されたらしい。


 警察の発表によると何者かの仕掛けた爆弾により車が爆破されたことは解った。が、それ以上の事は解らず仕舞い。細工された車については現金と爆弾の事件のインパクトがあまりに大きく、気付かれなかったようだ。


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