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1章

 「ナァ、全く。この部屋が取れてよかった。全く、絶好のスポットだ。ナァ。」

 ねっとりとした鼻につく声で男は呟いた。金髪のパーマにスーツを纏ったその男。名前はソドレーと言う。

 ソドレーはそう言いつつ鞄の中から何かを取り出した。黒い、何かの部品である。

 カチャカチャカチャ

 「ナァ、完成だ。ゥン、全く問題ない。ナァ。」

 彼の手には組み立てられた部品があった。

 狙撃用ライフル。

 そう言えば部品と彼の正体が解るだろう。

 「ナァ全く、この距離を狙い撃ちするのは骨が折れる。面倒だ。ナァ。」

そう言ってライフルを構える。スコープから覗くのはアルバート議員。無論、向こうからはこちらに気付きはしない。

「ナァ、流石に1000mは面倒だ。が、外しはしない。」

その口調とは逆に、非常に冷酷で冷静に、何故か首筋に照準をあわせる。

「good-byeアルバート。悪くおもうなよ。ナァ。」

ソドレーはそう言って引き金を引いた。





 「面倒だな。」

 学生服の青年はぼやいていた。変わった依頼をまぁいいかのノリで引き受けたことを後悔していた。

彼の名前はアーベツェー。学生服を着ているので学生の様には見える。が、「その服が硝煙の香り付きでなければ。」という条件付きでのみ、学生に見える。

 「前金が爆炎銃制作で文字通り吹っ飛んだ。全く、割に合わない。」

 そう言いつつ四角い箱にパソコンを繋げた。

 奇妙な箱だった。立方体の金属性の箱に幾つかの接続端子が付いていて、立方体の一面からは銃口のようなものが延びていた。

「風向き、風速、気温、弾丸の火薬重量、種類、アルバート=ハートの頭蓋骨の厚さ、SPの位置、後は演説の声量とスピーカーの角度。オーダー通りの吹き飛び方をさせるための着弾箇所。やれやれ、入力が面倒だ。」

ぼやきながら彼はパソコンを操作する。幾つものモニターと数字が並び、機械に強くてもそれが一体何なのかに気付くには時間がかかるだろう。そして、モニターの1つには銃口の向く先の映像もあった。

銃口の向く先にはアルバート議員が居た。しかし、彼は普通の人間には肉眼でとらえられないような先に居た。

彼の居るビルは演説が行われている場所から直線距離で3.36㎞。人間は豆粒どころか識別さえも出来ない距離だ。

「OK。入力完了。後は頭を文字通り吹き飛ばさせて貰おう。」

 カチッ!

 エンターキーが押され、銃口から何かが発射された。

 驚くほど静かであった。


















 「アタシもアイツは気に入らなかったから丁度良かった。さぁて、私怨たっぷりにプロとして殺らせてもらおうかしら。」

そう言って女はライフルを構える。

歳は20歳くらいだろうか?長い黒髪が目を惹く、ジーパンにYシャツという出で立ちの可愛らしい女性であった。

しかし、彼女をナンパしようとするのは命懸けである。理由は簡単。彼女が丸腰であるという事は無く、持っているエモノを確実に使いこなす技量も持ち合わせているからだ。

「ったく、この距離なら外しやしないけど、逃げるのが面倒ね。」

距離は300m。真正面から狙う。狙いは勿論アルバート議員。眉間を狙う。

「さぁて、アンタには悪いけど、文字通り顔を潰させて貰うわ。」

引き金を引く。

「死にな!」









「昨今、犯罪は巧妙化、狂暴化の一途を辿り、市民生活が脅かされるに至っております。しかし!ご安心ください!このアルバート。決して犯罪には屈しません。悪党共が全員捕まり、夜歩くことに怯えない安心安全な国にすることを約束いたします。私が皆様を守るナイトと成って御覧に入れましょう!!」

アルバートの演説が響き、それに呼応するように拍手が何処からともなく聞こえ、それに触発された人々が釣られて拍手をする。


『フン、ンな訳無いだろうが。』

この男、美辞麗句を並べる事とそれを信用させることに関しては一級品である。が、政治家としての手腕はそんなことは無く、しかも、人気を博しているからと言ってホワイトである訳でもなく、黒い噂が様々言われ、裏社会でも中々の非道を働いて来た男であった。

正直、この男が今からされることが成功すれば、何人の人間が喜び、救われるかは数え切れたものではない。

『全く、この程度で騙されるなんてちょろいもんだ。ま、適当に警察の尻を叩いてポーズだけ取っておくか。』

アルバートはそんなことを思いながら演説を続けていた。次の瞬間。




 バーン!

彼の目の前で閃光と爆音が炸裂し、何かが頬を掠めた。

「ヒッ」

頬から血が流れ、腰を抜かす。群衆は騒ぎ出し、パニック状態だ。

近くのSPが走って駆け寄ってくる。

 「ヒ、ナ、ナ、何してる!サッサとワシを助けて、助けないか!」

 腰を抜かしながらもSPに不遜な態度で怒鳴り散らす。

 マイクがオンになっているのにもかかわらず、不遜な態度で怒鳴り散らした。

 ギャー、ザワザワ、ガタン、ドン、キャー、バタン、ドカン、ドカドカ………群衆の騒ぎに紛れそうではあったが、マイクに増幅されたその音声は中継TVにバッチリ捕らえられていた。











 「何だ?何が起こった?…ナァ?」

 ソドレーは驚いていた。

 彼は自身の絶対的狙撃が外れたのなら未だ納得していただろう。

 しかし、彼の殺し屋人生の中で考えた事も無く、そして、未だに頭で答えに辿り着いていても、信じられない事が起こっていた。

 だから、納得もせずに、驚きも隠せずにいた。

 「ナァ、んで…、有り得ない…ナァ。弾丸(・・)が(・)ぶつかる(・・・・)なんて(・・・)。」

 彼はスコープから見えた爆発に予想が付いていた。

 弾丸の衝突。同じ標的を別の地点から狙い、同じタイミングで狙撃をしたが為に起こった現象だ。が、

 「ナァ、全く、この土壇場修羅場にこんなことが又起こるなんて思わなんだ。ナァ。」

 アンニュイにぼやきながら銃をバラし始めていた。

 狙撃は失敗。SPが警護対象をみすみす殺させる訳は無く、警察も出張って来るだろう。彼は狙撃を外した時点でもう既に逃げるルートを頭に浮かべていた。

 「ナァ、まあ良い。次の機会に確実に殺ろう。」

 そう言ってその場を後にした。





 「調整をミスした?予想外の風?違う、誰かが僕の弾丸に弾を当てたんだ。」

 予想外の出来事にアベツェーは動揺していた。彼は確実に殺せるように準備に準備を重ねて来た。最新技術を用いて3㎞先の的に誤差0.01㎜以内で当てることの出来る銃を開発した。

弾丸内に爆薬を仕込み、着弾直後に頭蓋の内側で爆裂し、文字通り頭を派手に吹っ飛ばすようにもした。

 計算を何度もした。最大4㎞先であっても成功できるようにもしていた。しかし、彼の暗殺は失敗した。

 「なんで上手くいかないんだ!クソが!」

 立方体に蹴りを入れつつ癇癪を起す。

 「ツッ!仕方ない。撤収だ。クソが!次は殺す。ゼッテー殺す!」

 そう言ってイラつきを隠すことなく配線を片付け始めた。









 「外した?違う。何か爆ぜた?」

 一二三は狙撃の失敗を悟った瞬間、銃を片付けると用意しておいた車に飛び乗り拠点に戻っていた。

 「アタシの弾丸は普通の鉛玉。あんな閃光、雷でも当たらない限り起きる訳が無い。そしてアルバートは傷一つ負ってなかった。つまり、アタシは失敗した。でも、原因は多分アタシの狙撃が未熟だったわけじゃない。………、有り得ないだろうけど、同業者の弾丸と衝突した?」

 彼女も何が起こったか理解した。弾丸がぶつかり合う現象など起こるのは稀。しかし、それ以外に考えられなかった。

 「同じ奴を狙うのは解る。あのタイミングで狙うのも解る。でも……、フツーほぼ同時に狙って弾丸がぶつかり合うなんて無いでしょ!」

 非常に珍しい現象に驚きつつ、それがこのタイミングで起こったことに呆れていた。









その日の夕刊の見出しは各社以下のようなものだった。


『アルバート氏 狙撃される!!』


『アルバート氏 暗殺未遂』


『『暴力に屈しない男』が狙撃に屈する』


『『市民を守る!!』不安の声』









 その日のSNSにて


 「暴力に屈してんじゃん。あの政治家。」

「市民を守らず自分を守っとるww」

「市民を守るのはSPにお願いします。」

 「ナイトはSPww」

アルバート議員の不祥事はネットの力で瞬く間に広がっていき、炎上。人気がガタ落ちしたのは言うまでもない。

 尚、警察の発表によると、現場から発見された狙撃に使われたと思われる弾丸は3つあり、3つが衝突してあの閃光が起きた。とのことだった。

 しかも、弾丸がぶつかり合って原型をとどめていない為にライフルマークも不明。容疑者も見つかっておらず、捜査は難航しているとのことだった。


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