表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビッチと作る青春物語  作者: 白詰草
6/6

スポーツテスト



高校に入学してから、一週間ほどが経った。


その間、友達もできたし、新しい環境にも慣れてきた。

さらに授業についても、今までは中学の復習だったり集団行動ばかりをやっていたが、いよいよ本格的に高校生の内容になっていく。

最初は、高校も中学校とあまり変らないもんだなと思っていたが、だんだんと俺は高校生になったという実感が湧いてきた。


「翔駒、早いとこ着替えて行こうぜ」

「おけ、次の体育ってグラウンドだったっけ?」

「多分そう、スポーツテストとかほんとだるいわ」


今日は高校に入ってからはじめてのスポーツテストがある日だ。そのため周防だけでなく、自信のある人以外とてもめんどくさそうだった。


だけど、俺は中学校時代に、部活やと・あ・る・趣・味・のためにかなり鍛えていた。自分で言うのもなんだが、俺はかなりの身体能力を持っていると思う。

スポーツテストはむしろ、今の自分のポテンシャルが分かる行事であり、決して悪感情はなかった。


「俺は楽しみだぜ、スポーツテスト。結構楽しいし、自信だってあるからな。」

「マジか〜、じゃあなんで部活に入んねぇんだよ?」

「あー、中学の時はバスケ部だったけど、新しいこと始めようか迷ってるんだよ。この高校はたくさん部活があるからな。」

「へえ、翔駒ってすごい身長高いから、バレーとかハンドとかいけるんじゃねえの?」


俺の身長は今176センチで、クラスで一番高かった。親は平均身長だが、バスケをしているうちににょきにょきと伸び始めたのだ。


「身長高いのは嬉しいけど、体育で基準をやらされんのはかなり嫌だぞ。でかい声出さないといけないし。」

「体育の石田は熱血だもんな。お前初日めっちゃ怒られてたし。」

「スポーツテストはいいけど、体育は嫌だわ。」


それから俺達は、部活の話をしながら、着替えを済ませてグラウンドへ向かった。どうやら周防は小学校高学年からバドミントンをやっていて、中学校でもキャプテンだったらしい。バドミントン部に入るのは決定なのだそうだ。




グラウンドにつくと、しばらくしてから体育科の先生が現れ、今日の日程について簡単な説明をしてくれた。今日は午前中の四校時をまるまるテストに使い、今日中に全ての種目を記録するそうだ。



その他の諸注意も終わり、いよいよテストが始まる。

最初の種目は50メートル走だ。

この種目で俺が出した記録は6.4秒だった。クラスで一番と言うわけではないが、上位三人には入るだろう。走り終わると周防が声をかけてきた。


「お前マジで速いじゃん!びっくりしたわ!」

「今日は調子が良かったんだよ、それに陸上やってた奴なんかには勝ててねぇし。」


そう言うと周防は呆れたような顔をしながら、「いや陸上部には勝てねぇだろ。」と言ってきた。だが、その後すぐに思い直したように言う。



「でも、お前すげえわ、なんでもできんだな。」




「……器用貧乏なだけだよ。」



少しだけ、声が硬くなったのが分かる。どうやら、思った以上に動揺してしまったようだ。


昔から、何かがあるわけでもないのに、『なんでもできる』と言う言葉に過敏に反応してしまう。

俺の悪い癖だった。


だが、周防はそれに気づかなかったらしく、そのまま話し続け、俺も何事もなかったかのように相槌を打ち続けた。



そして、男子の番が終わり女子が走る段になっていきなり歓声が聞こえてきた。

思わず俺と周防がそこを見ると、男子達が一点を見つめて声を上げている。


「やっば。紙霧さんめっちゃ胸でかいじゃん!」

「いやいや綾川の足だってすげえ綺麗な形してんぞ。」

「おい堀江、うるさいぞ。聞こえるだろうが。」


彼らは上から掘江、武藤、橘と言って、いわばクラスのお調子者と言った立ち位置にいる三人だ。基本的にはいい奴らだが、特に堀なんかは声がでかいのでよく注意されていた。


どうやら、彼らの視線は綾川と紙霧に向けられているようだった。


彼女たちはクラスで一二を争うくらい可愛く、初めての体操服姿に男子がざわつくのもある意味当然と言えた。かく言う俺もその一人であり、ついつい凝視してしまう。


紙霧はいつも制服を規則通りに着てるから、体操服を着ている姿にすごくギャップを感じる。

それに今まで気づかなかったが、だいぶ巨大なものを持っていた。流石に声に出すのはどうかと思ったが、堀江が騒ぐのも分かる気がする。


綾川は、普段、可憐で儚げな印象だったが、体操服を着ることでだいぶ活発な印象を受けるようになっている。

それに、スカートより足の露出が増え、美しい脚線美が丸見えになっていた。



彼女達の番になり、それぞれがコースの中に入っていく。

そこで、俺は思わず見とれてしまった。


綾川がとるクラウチングスタートの体勢は、あまりにも綺麗だった。


彼女はピストルが鳴ると同時に弾丸のように走り出し、瞬く間にゴールまで走り抜けていた。体感で7秒後半ほどだろうか、女子にしてはとても速い走りだった。


「驚いたか?」

「ああ、綾川って中学校の頃陸上部だったのか?」

「その通り、うちの学校では一番速い選手だったよ。」


そうか、周防と綾川は同じ中学出身だったな。開口一番に俺に驚いたか聞いてくるあたり、俺のようなリアクションをする人間は多いのかもしれない。


いや、本当に驚いた。

陸上部であることはスタートの体勢が整っていたので予感はしていたが、まさか綾川があんな走りを見せるとは思わなかった。体を思い切り前に倒して、少しでも加速しようと手足を動かすワイルドな走り。それは、普段の綾川からは想像がつかないものだったからだ。


「全然そうは見えなかったよ。なんて言うか、可憐!って感じでしか見てなかった。」

「…(そういうキャラだからな)」

「え?」

「いや、なんでもない。みんなそういうよ。」


周防声が小さく聞こえないとこもあったが、驚くのは俺だけではないらしい。まあ、普段の綾川は運動があまり得意そうな感じでもなかったからな。




そうして少しの驚きを感じながらも、俺達は次の種目に移って言ったのだった。


それからのテスト自体は順調に進んでいき、なんの波乱もなく終わっていった。


しかし波乱が起きたのは、三時間目の休み時間、周防と堀江、武藤、橘の三人衆、委員長の相生と喋っている時だった。


それは、武藤が女子の中でだれか一番好みか聞いたことが原因だったように思う。

堀江のやつがいきなり、綾川に告白すると言い出したのだ。


「いや、ワンチャンあるって。彼氏募集中とかいってたし、俺よく喋ってるもん。」

「はやまんなって、綾川は誰とでもよく喋っているだろ。」

「それに、お前さっき紙霧の胸が〜とか言ってただろうが。」


俺と相生が一緒になって止めようとするが、堀のやつは聞く耳を持たない。反対に武藤と橘は面白がっているようで、完全に堀江を煽っていた。


堀江は小太りで少しオタクっぽい感じの奴だ。

中学の時はサッカー部に入っていたらしいが、スポーツテストでは今のとこいいとか無しだった。

綾川に懸命に話しかけているのを何度も見たが、要領を得ていなかったり、何の脈絡もない自慢話だったりの気がする。

ブサイクではないが、少なくともイケメンというわけではない。


どう考えても無理である。


意見の分かれる俺たちに業を煮やしたのか、今度は堀は周防に話しかけた。


「なぁ、周防、俺が綾川に告ったら付き合えると思うか?」

「思う。」


即答だった。


あまりにも即答すぎて堀以外の全員が固まったくらいだ。静まった空気の中で堀の喜ぶ声だけが聞こえる。


「おい、本当に大丈夫か周防。お前だって堀のアピールの仕方知っているだろ?」

「必ず成功するって、賭けたっていい。」

「やっぱりな、お前らは女心がわかってないんだよ。」


堀が優越感の混じった表情で俺たちに話しかける。まだ告白もしていないのにすでに付き合った気でいるようだった。本当に大丈夫か周防を見るが、やはりやつはこちらを見てしっかりと頷いた。




それからしばらく話していると、先生の集合の声が聞こえた。もう休み時間が終わったようだ。


またテストが始まっていく。だが俺はそれどころではなかった。必ず成功するという周防の言葉が頭から離れない。

俺は頭をよぎる不安をかき消すように、思いっきり握力計を握ったのだった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ