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ビッチと作る青春物語  作者: 白詰草
2/6

スタート



俺が家から出た時、外には冷たい空気が満ちていた。

空は雲ひとつなく晴れているが、寒いと肌寒いのちょうど中間くらいの冷気が俺を襲う。


だが、一昨日まで住んでいた長崎と比べると、ここは天と地の差があった。どこからともなく聞こえる騒音も、排気ガスの匂いも、今まで感じたことがないものだった。




俺、深海 翔駒しんかい しょうまはこの春から福岡の高校に進学することになった。

理由はまぁ、親の転勤。福岡の地方店を任されることになった父に、家族が付いて行く形で引っ越しが始まった。

幸いにも俺が行くことになる高校はだいぶ大きいらしく、市内でも有数の高校らしい。それ故にさまざまな学校から人が来るらしく、勿論同じ中学の奴が一人もいない俺としては有難かった。



俺は今、その学校へ向かっている途中である。

といってもまだ世間は春休みムード一色であり、今回学校に行くのは単純に通学路の確認したかっただけなのだが。


ここから電車に乗って20分、最寄駅から歩いて10分のところにある、私立滝布たきふ学園。

そこが、俺が春から行くことになる学園の名前である。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



そうして、電車に乗ってから20分後。

電車から降りると、俺は目の前の光景に圧倒されていた。


俺の人生では、テレビの中でしか見たことのないような人数が駅の中でひしめき合っている。


長崎の片田舎で生まれた俺にとって、こんなに人がいるのは信じられないくらいだ。


だが、いつまでもボーッとしてはいけないと思い、

俺が歩き出そうとした瞬間、左から一気に人が来た。


(うおっ、あぶねえ!)


まさか向かってくる人を押し返す訳にもいかず、俺は二つある出口のうちの左側の方から駅を出ることとなった。



駅から出て、隣接している公園を見つけ、ようやく一息つく。


妹から、都会の駅は全然違うと聞かされていたが、

まさかここまでとは思わなかった。

これから毎日あの修羅場をくぐり抜けなければいけないと思うと憂鬱な気分にさせらせる。



「よしっ」


10分ほど休んだだろうか、俺はスマホを取り出して地図アプリを起動させようとした。


(あれ、電池が切れてる?)


なんと、俺のスマホは充電が切れていたのである。

一応道順は覚えて来たといえ、アプリがなければ不安だったのだが…。


(まぁ、大丈夫だろう。)


そうして俺は歩き出した。



この判断が、これからの学園生活に大きな影響を及ぼすとは、この時の俺は全く想像できなかったのだ。



ー10分後。


完全に迷ってしまった。

最初は良かった。記憶にあるのと同じような街並みだったのだ。しかし調子に乗ってずんずん進むうちにまるで住宅街のようなところに来てしまったのだ。


とりあえず、元の道に戻ろうしたところで、どんな道順でここまで来たか忘れてしまったのだ。


そうやって途方に暮れていた時だった。


Twinkle twinkle little star♪


どこか遠くの方から、微かな歌が聞こえて来たのである。

最初は、全く意に介していなかった、だが進むにつれ歌声は近くなっていき、その歌の上手さがはっきりして聞こえて来た。


How I wonder what you aer ! ♪


気がつけば俺は、その歌が聞こえる方へ足を向け、足早にそこを目指して歩いていた。


Up above the world so high ♪


歌声はどんどん大きくなって行く。

歌っているのは《きらきら星・英語版》、女の人の声だった。

その声は澄んでいて、のびのびと響く、とても、とても鮮やかな声だった。


Like a diamond in the sky! ♪


歌声はもうすぐ近くまで来ている。

いったいどんな人が歌っているのだろう。

そう思って曲がり角を曲がった時。


Twinkle twinkle little star♪

How I wonder what you aer ! ♪


ーーそこに、彼女はいた。


彼女は保育園の中で、小さな子供達に囲まれながら歌を歌っていた。


遠目から見ても輝いて見える、肩口までの黒髪も、

今まで見た中で1番綺麗な顔も、

そして、その歌声も。

夢でも見ているんじゃないかってくらい綺麗だった。


それが、彼女との出会いだったのだ。


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