プロローグ
綺麗な声だと思った。
第一印象はそれだけだった。
「翔駒、何ボーっとしてんの?」
「ああ、考え事してた。」
「本番、もうすぐだよ。」
モデルみたいに整った顔。
艶やかな黒髪のショートカット。
女子にしては少し高い身長。
本来ならどストライクなはずのそれらは、全く気にならなかった。
それくらい、彼女の声が好きだと思ったんだ。
「なあ、いろいろあったよな。俺たち。」
「ホント、ドラマみたいだよ。」
彼女は、むちゃくちゃな奴だった。
何人もの人と付き合って、
ヘビーなオタクで、
音楽バカで、
自信過剰で、怖いもんなしで、熱血で。
人の話を聞かず突っ走って、痛い目にあうのは日常茶飯事だった。
いろんなことで振り回された記憶しかないし、なんなら理不尽なとばっちりを受けることも多かった。
だけど、彼女はいつも楽しそうだった。
彼女と見た景色はいつだって最高にクールでイカしてた。
今だって、ステージの前には数え切れないくらいの人数が押しかけている。
彼らが掲げるサイリウムの光も、ステージを照らすショッキングな色合いのライトも、ヤバイくらいに俺たちを引き立てている。
「そろそろ時間だろ?」
「さっきから言ってるでしょ。」
これは、俺が過ごした高校三年間の物語。
劇的ではないし、かといって普通なわけでもない。
それでも、俺たちにとってはかけがえのない物語だ。
彼女が俺の手を引いてステージまで引っ張って行く。
そこにはすでに二人、俺たちの仲間が立っている。
「遅い!二人とも!」
「そう怒るな、スターは遅れるものさ」
「あんたは黙ってて!」
こんな時でも全く変わらない彼らに苦笑してしまう。
彼らもこの三年間、一緒に駆け抜けた仲間だった。
「始めるよ。」
彼女がマイクの前に立った。
無数の照明が彼女達を照らし、後ろに座る俺からは黒いシルエットしか見えなくなる。
何回も見て来た光景。騒がしかったギャラリーが静まり返り、俺たちには緊張が走る。
ーー彼女が、振り返った気がした。
それも一瞬で、彼女がいつもの文句を言い放つ。
「刻みつけよう!」
「痛いくらいに、鮮やかに!」