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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

カサブランカの花束を

作者: 九条 春秋

振られた後に恋に落ちるとかバカかよって自分でも思った。                       

でも、好きになった。些細なことで落ちやすいぐらいその言葉だけで舞い上がってしまう。

最初は同じ大学だとも知らなかった。(彼女は私を知っていたらしい)   

大学じゃ、私は…影薄いからあまり認識されないことをいいことにぼっちライフを送っていた。

かといって、全く知り合いがいないわけではないんだ。必要最低限の付き合いしかしてないだけ。

だからなのかな、少し物足りないなって思った。でも、彼女のいるところに行きたいとは言ってない!

…彼女に見つかって呼ばれたときは驚いたよ。周りに、私とは正反対な女の子達がいた。

きっと彼もいかにも女の子!って感じの子と付き合いたかったんだろうなと今では納得してる。

気まずいなぁと思いながら彼女のもとへ近づいていく。


「はーちゃん、昨日は大丈夫だった?」

                      

「大丈夫だよ、おかげさまで風邪は引かずに済んだよ。」

                           

「良かったぁ。あ!連絡先とか教えてもらってもいいかな?」

                                   

「構わないよ、LINEでいいかな?」

                                   

「うん!」


最近は便利なものだ。QRコードを読み取れば連絡先は伝わる。そこから始まる恋愛も少なくもないのだろう。

                     

「はーちゃん、またあとでね~。」

                              

「ああ、また。」

                          

いつの間にか、はーちゃんと呼ばれていた…。昨日、お詫びとお礼もかねてお菓子を渡しそれで終わりだと思っていた。

でも、終わらなかった。ということはもう少し私は彼女に踏み込んでいいのだろうか。そんなことを考えてしまう。

…その前に私は“女”であることを忘れてはならない。つけあがるな、彼女は普通の人なんだ。

わかっていても、胸の高鳴りは静まってはくれない。好きなんだと、その高鳴りがそういっているような気がした。




あれから、私は彼女によく付き合わされるようになった。それは何を意味するだろうか。

                                  

「はーちゃん?」  

                                 

「佐藤さん、私そろそろ元の場所に帰るね」

                                 

「なんで?ここに居ればいいじゃない?」

                                 

私もいたくないわけではないんだけどね…あぁ、来たよ。

                                

「愛璃さん!今度ココに行きませんか!?」

                               

「ココ、有名なところじゃない!いいね~」 

                             

彼女が囲まれ始めたところで私は帰ろう。そう思っていた。

                              

「愛璃さんに近づいて何が目的なのかしら…」

                               

またこれか…こんなことを言わなければかわいいのに。

そんなことを思いながら私は講座を受けるため外に出た。

                             


講座が終わり、教授にレポートを提出しに行こうと講座場所を出た。

迂闊だった、まさか彼女の周りにいる子たちが待ち伏せされてるんなんて思ってなかった。

                           

「用件はわかっていますよね?」

                           

「私、教授に用が…」

                           

「愛璃さんに近づかないでもらえませんか?」

                           

「(うーん、近づいているわけではないんだけどなぁ…)」

                           

「忠告はしました。」

                           

「わかった。私からは関わらないよ。」

                           

「その言葉忘れないでくださいね。」

                           

「でも、彼女から関わってきた場合は別だからね。それじゃ。」

                            


そう言って、私はあの場所から去った。

一刻もあそこから去りたいのとレポートを出したいからだ。

締め切りを一日過ぎてしまった分待ってもらっているのだから。

                           

「失礼しました。」

                           

無事に出せてよかった。少し、説教をされてしまったが。今日は少し奮発して外で食べようかな。

家に帰るだけにしてしまえば少しは楽になるだろうか。

「彼女の周りにいる子達、私の事男だと思っていたりして…なんて。」

                         



 

彼女が一人になっていた。その状況に私は呑み込めなかった。

                          

「はーちゃん」

                          

「佐藤さん、おはよう。」

                          

「おはよう、あっちで話したいことがあるの。」

                          

「ん?わかった。」

  

わかったと言ったけど、実はよくわかってない。

とりあえず、彼女に言われたままに後ろについていく。

サラサラな髪、ふわっと桜の香りがする。すれ違う、男子たちは彼女が通るたびに後ろを振り返る。

わかるよ、その気持ち。と思いながら彼女の専攻している研究室の前で止まった。

                         

「教授に少しの時間使わせてもらえないか話してくるね」

                          

その問いに答えようと思ったらもういなかった。

今日の彼女は心なしか元気がないように思えた。

                          

「はーちゃん、入って。」

                          

「失礼します…」

                          

「はーちゃん、ごめんなさい!」

                          

「へ…?」

                          

「昨日のこと聞いたの。愛璃さんに近づいてくる男はいないですよって一人の女の子が言ってたから。」

                          

「男ね…」

 

「それで、はーちゃんは女の子だっって言っても聞かなくて、それで喧嘩になっちゃたんだ。」

                          

「こちらこそ、ごめんね。そんなことになっているとは知らなかったよ。」

                          

「でも、もういいの。あの子たちはあの子たちで。私は私だから。はーちゃんと友達になりたいの。」

                          

正直、驚いた。                          

人に囲まれている彼女とはまた違った一面だったから。                          

高嶺の花だと思っていた彼女は可愛らしさもあり、凛々しい。

私とは本当に正反対なのだと知らされる。

                          

「こんな私でよければ、いいよ。」

                          

そう言ったとき彼女はあの時のように静かに微笑んでくれた。

でも、あの時とは少し違う、きっと彼女の事を少し知ったからだろうか。

                        



朝、起きてすること。いつもだったら、顔洗ったりとかだ。

その前に、彼女にモーニングコールをすることだ。

少し、違う日常。嬉しくなってにやけそうになってしまう。

                          

「おおっと、そろそろ電話しなきゃ…」

 

スマホを取り、彼女のトークルームを開いて深呼吸。

受話器のマークをしたものをタッチした。

プルル…と鳴る。家族のほかに電話をかけることは中々ないので緊張してしまう。

                          

「…んぁ、はーちゃん…?こんな朝に何か用でも…」

                          

「おっ、おはよう。昨日佐藤さんに起こしてって頼まれたんだけど…覚えてる?」

                          

「……!?今何時!?早く準備しなくちゃ、電話ありがとう!また大学で会おうね。」

                          

嵐のように起きて、言うだけ言って切られてしまった。

そんなところも可愛いと思えてしまう。彼女のことを一つ知るたびに私の中の何かが満たされていく。

こんな幸せな気持ちになれたのは彼女のおかげなんだろう。

そんなことを考えつつ私も大学の準備をした。

私しかいない部屋に「行ってきます」と言ってドアを開け空気を吸う。

恋をすると、世界が綺麗に見える。それは本当なのかもしれない。

けれど、これ以上の幸せを望んではいけない。でも、欲しくなってしまう。

これは私の我儘だ。

                        

                         

「はーちゃん!」

                         

「佐藤さん、間に合ってよかったよ。」

                         

「えへへ、ありがとね。」

                         

「どういたしまして…あ、佐藤さん少し動かないでもらえるかな。」

                         

「ん?うん、動かない。」

                         

彼女の髪にそっと触れる。柔らかくサラサラしている…っとホコリをとるんだろ自分!

                         

「もう、動いて大丈夫だよ。」

                         

「何かついてた?」

                         

「少しね。慌てて家から出てきたからかな?」

                         

「その節はありがとうございました!」

                         

そう言いながら、いたずらっ子にように彼女は笑った。

                         

「ほら、行っておいで。」

                         

「お昼一緒に食べようね!はーちゃん」

                         

「はいはい。」

                         

講座の時はいつも静かだったから気にしなかった。

でも、考えてしまう。今の関係を。

友達として、今、彼女は私の傍にいてくれているのだろう。

私が恋愛感情を持っていることはわからないだろう。

この関係を続けるか、告白して振られて壊してしまうか。

怖い、人に拒絶されるのは。ましてや、同性ともなると…。

彼女はどんな反応をするのかが想像つかない…。

                       

                        

うやむやに考えていたら寝ていたようだ。

スマホに電源を入れたら、彼女からのLINEで埋め尽くされていた。

                        

「佐藤さん、ごめん!」

                        

「はーちゃん、遅い。」

                        

「考え事をしていたら、いつの間にか寝てて…。」

                        

「もう、いいよ。ほら、あーんして?」

                        

「えっ…それは…」

                        

「口開けてくれなきゃ許さないよ?」

                        

「あ、あーん」

                        

「えらいえらい♪」

                        

「あまい…」

                        

「はーちゃん、甘いの苦手?」

                        

「いや、久しぶりに食べたから。」

                        

「そっか、今度パンケーキ食べに行こう!」

                        

「また唐突に…」

                        

「はーちゃん、好きなものとか教えてよ~。いつも私に付き合わせてばかりじゃ申し訳ないよ。」

                        

「…私はいいよ。佐藤さんと一緒ならどこへでも。」

                        

本当にそうなんだ。彼女とならどこでもいい。

あと少し、私に勇気があれば。

だから、もう少しだけこの時間を噛み締めさせてほしい。

今日、君と別れる前に言うよ。

 愛璃さんの事が好きですって。

もう、これ以上を私は求めてしまいそうだから。

                       

「はーちゃん、これで今日は終わり?」

                       

「そうだよ?佐藤さんは?」

                       

「まだ、あるかな~。」

                       

「じゃ、待ってるよ。」

                       

「ほんと!今度何かおごるね。」

                       

「調べ物のついでだから、いいよ。」

                       

「行ってきまーす!」

                      

これが男女の恋人だったらどんなに良かったことか。

そんなことを考えてしまう私が醜くて嫌いになりそうだ。

恋心とはこんなにも醜いものだっただろうか。

少女漫画のように、好きな人を想い、恋焦がれて…そして結ばれていく。

愛しい人を想っているのに、辛い。

その日は、結局帰ってしまった。

彼女には申し訳ないと一言LINEを入れて。

家に帰り、ベッドに飛び込んだ。

                      

「誰とも話したくない…な。」


ひとりごちる。泣きそうになってしまう。

自分が彼女の笑顔を壊してしまうことに。

さっき、決めたのに。


……プルル。電話が鳴る。

話したくないといいながら私は電話に出てしまった。

                      

「はーちゃん!!!」

                      

「どうしたの?」

                      

「それはこっちのセリフ!!」

                      

「……あのさ」

                      

「なんかあったの?」

                      

「私ね、佐藤さんのことが好きなんだ。突然でごめんね。」

                      

「……」

    

「ここ最近、佐藤さんといて楽しかったよ。でもその前から好きだった。」

「気持ち悪いよね。ごめんね。」

「ありがとう、佐藤さんに救われたんだ。」

                      

彼女から応答も返事もなかった。

ただ、聞いてくれているのだろうか。

もしかしたら、聞いていないのかもしれない。

 一つ、言えるのなら…今この時間は私たちは繋がっている。

                      

「…ごめんなさい」


それは唐突に終わった。

                 

    

今、はーちゃんから告白をされた。

心臓がうるさい。あの子の時を思い出してしまう。

私が初めて好きになった子。

あの頃は幸せだった。なのにあの子は私の前から消えてしまった。

ただ、好きだよと言って私を置いていった。

あの子のいない日々が最初は受け入れられなかった。

でも、雨の中濡れながら歩いている人がいた。

もしかしたらあの子かもしれないと思ったら走っていた。

違う人だった、その人は私を見て驚いてた。そのあと、笑った。

その笑った顔があの子に似ていた。

                  

「…ちゃんと私も向き合わなきゃいけないよね。」


そう、彼女は決意した。

                



振られた、そりゃそうだよね。

心が締め付けられて痛い。

すごく好きだった。

                

「あー…大学行きたくないなぁ…」

                

ドンドンッ

                

「…なに?怖いんだけど…」

                

「はーちゃん開けて!」

                

「なっ、なんで佐藤さんが家を知ってるの!?」

                

「いいから、開けて!!」

                

圧にやられて開けてしまった…情けない。

                

「はーちゃん、お話しがあります。それを聞いてください。」

                

「うん…」

                

私は彼女の話を聞いた。

好きな子がいなくなってしまったこと。その子が私と似ていること。

好きな子には二度と会えないという事。

そして、彼女は言った。

                

「私を好きになってくれてありがとう。私でよければはーちゃんと付き合いたい。」

               

その瞬間、私は泣いた。糸が切れたように声を抑えずに泣いてしまった。

彼女も少し泣いていた。

振られたんだと思っていた。

ごめんなさいの意味は違っていた。

彼女も彼女で乗り越えたいものがあった。

人間らしさがようやく感じられた気がした。

いつも笑っている彼女。でも時々この世界の人ではないような感じがしていたのがようやくわかった気がした。

               

「はーちゃんの事ちゃんと若島 春海として見る。だからはーちゃんの事これから教えて。」

               

「可愛いものが好きだって言っても引かない…?」

               「

引かない。むしろはーちゃんは可愛い女の子なんだから…」

               

そう言いながら照れる彼女。


私の中に刺さっていた言葉が溶けたような気がした。

誰かに認めてほしかった。

誰かと可愛いものを共有したかった。

あの恋人の時もそう、頑張った。

かわいい子が好きなんだよねと言ってたから…それなのに認めてはくれなかった。

彼女は男みたいな格好してる私を受け入れてくれた。

その上に可愛い女の子と言ってくれた。

また、泣きそうだ。

               

「はーちゃん、泣きそうだったりする?」


なんで、彼女にはわかってしまうのだろうか。           

ふいに彼女に引っ張れられて態勢を崩してしまう。

彼女に膝枕のような態勢になってしまい、戻ろうとすると。

私の視界は真っ白になった。

               

「…ぐるぐる考えてるかもしれないけど。今は恋人が傍にいるんだから…ね?」

               

「…はい」


私は彼女には敵わないようだ。でも仕返しぐらいはいいよね?


「ぐるぐる考えたのは佐藤さんのことなんだけどね…」   

               

「佐藤さんじゃなくて愛璃でいいよ」

               

「あっ…愛璃…さん」

              

「んー、これからに期待だね。」


倍返されてしまった気がするのは私だけだろうか。

                 

END

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