明滅する悲哀
銀糸に捧ぐ
明滅する悲哀の中に僕はいる。それはときおり衝動となり襲いくる。夜半に脳髄から骸が現れて、悲哀の火を灯すのだ。
骸は墓から呻きをあげ、生前の失意を訴える。しかし失意を除いても骸は救われない。心の奥は悲哀に満ちている。
骸は言う。真に悲哀すべきは生死の秤に乗らぬ強者である。聖域に篭り暴虐を尽くす英雄である。心を失くし骸にすらなれぬ人形である。
狼虎は残忍だ。だが狩りでは己の全てを秤に捧ぐ。絶対の勝利など存在しない。それが獣の掟である。骸の勇士はみな掟に習い、秤の上で散り果てた。
己の全てを秤にかける者の傍らで、絶対の力をもって蹂躙する様は、狼虎の精神にも及ばない。例え相手が罪人であろうとも、その所業は悲哀に値する。失くした心で正義を謳う彼らは、幾度憐憫を込めても救われない。
秤に乗った骸の言葉は衝動となり襲いくる。その真意はまだ分からない。
しかし滅びた勇士は救われるべき存在だ。傷はもう癒えず、骸は二度と還らない。だから明滅する悲哀は僕自身の筆で闇に帰して償おう。幸いなことに覆すことはできる。そうでなければ明滅とは言えない。
もうこれ以上、心の無い者を生まなければいい。
少なくとも、僕の世界では守られる。