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蒼き零の刻印  作者: 仲村リョウ
第一章:紫色の月
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第二話:新しい一日

「全く!あり得ないわ!」


「何がだよ・・・」


魔化を消滅させてから次の日の早朝の事だった。エルスノー市から見えていた雪が嘘のように無くなっていた。現在、周りには緑の木々で覆われ風が吹くたびに葉が揺れ、大自然の真ん中にいるんだと認識した。そして、その大自然の山を越え向かう目的地は第二の都市と呼ばれる"イージス"を目指して歩いていた・・・のだが。

彼女のストレスはいきなり爆発したのだ。


「やっぱり、一緒に行くって言わなきゃよかった・・・」


「はぁ・・・」


「何よ!?そのため息!!」


後ろで嫌々と怒鳴り散らしながら歩いてるのは"赤髪の魔法騎士"。

名前は"アリシア・スカーレット"。


「あのなぁ・・・俺達に構わず軍の人達に頼んで車で先に帰ったほうがいいって言っただろ?」


「仕方ないじゃない!軍に頼るのは嫌だったんだから!・・・それに、男女二人で山越えだなんて破廉恥にもほどがあるわよ。」


「はぁ?破廉恥?・・・何で?」


「わ、私の口から言わせる気?」


訳が分からないが、これ以上ヒートアップさせないためにも聞かない方が良さそうだ。

それに・・・予定より早く、雪山を越えれたのも彼女が記憶していた近道のおかげだ。あまり、ネガティブな発言は言わない方がいい。


「ユウト・・・外は寒くなかったですか?」


俺と歩調を合わせながら隣で歩いてるフェスは心配そうに俺の顔を伺いながら聞いてきた。


「ああ、寒かった。」


「寝てないのですか?」


「寝たよ。ほんの2〜3時間だけど・・・」


「に、2〜3時間でも極寒の中よく寝れたわね、あんた・・・」


「サバイバルには慣れてるからな。」


「サバイバル?どう慣れたら、マイナスの世界で寝れんのよ!?」


「秘密だ。」


これは、言葉にできない程の過酷な事だったので、俺はあまり話さないようにしている。・・・というより、話したら、絶対に引かれる自信はある。


「ふん・・・いいわよ。あんた、見た目のわりに拷問とかされても絶対に口を割らないタイプだろうし。」


「そう見えるか?」


「ええ・・・多分。」


多分かよ・・・

てか、言ったわりには自信なさすぎだろこのお嬢様は・・・


「まあ、また縁があれば問いただしてやるわよ。"蒼炎の魔法騎士"さん?」


「縁があれば・・・な。」


やはり、魔法の事は隠しておくべきだったか・・・

だけど・・・魔法を使ってなければ今後ろで騒いでいる"アリシア・スカーレット"はいなかったかもしれない・・・間違った選択ではないはずだ。


「・・・何で急に黙り込むのよ・そんなに、魔法の事隠しておきたかったの?」


「いや・・・そういうわけじゃないんだけど・・・」


「別に軍の連中の事は気にしなくていいのよ。あいつら、魔法使いの事を良く思っていない奴もいるみたいだから。」


「あの時は彼らが正しい選択だよ。帝国から来た奴がいきなり魔法を見せたんだからな。」


「ふ〜ん・・・そう。」


何故か彼女は呆れていた。恐らく俺の返答が原因なんだろうが。


「いいわよ。人それぞれだもの・・・」


「そこに関しては、聞かないでおくよ。」


「・・・・・・」


どうやら彼女自身は軍を良く思っていないらしい。


「さてと。このまま歩けば一時間で着くが・・・少し休むか?」


「休まないわ。早く寮に帰ってシャワー浴びたいし。」


「そうか。」


俺も都市に着いてゆっくり休む方が良かったのか、彼女の意見を尊重して歩いて行く。



「もう少しで見えるわよ。」


「おい!本当にこの道で合ってるのか?わぷっ!?」


しばらく、山道を歩いていたのだが、アリシアが突然『この茂みの先は近道だったはず。』と言い、何故か今は草が生い茂り木から垂れた蔓が目立ち、道とは呼べない場所を歩いていた。先頭にいるアリシアは剣を手に持ち、行く手の邪魔になる物を容赦無くたた斬っていく。まるで、ジャングルを探検しているみたいだ。


「ここを抜けると確か、3年前の"邪教徒制圧戦争"で使われていた廃砦があるのよ。」


「・・・"邪教徒制圧戦争"。」


彼女が言ったある一つの言葉に、俺は少し動揺する。

"邪教徒制圧戦争"とは3年前、フェイリール王国とグレアム帝国の国境付近で"ES'c教団"が起こした戦争だ。王国と帝国の技術発展を否定し、自らの理想郷を創ろうと目論んでいた、いわゆる選民思想の集まりの教団だ。戦争に至るまで、王国や帝国でテロを起こしその存在を知らしめた。中でも"グレアム帝国シャークフィールド海軍基地 巡洋艦爆破事件"が邪教徒制圧戦争の引き金とされ両国の記憶に深く刻み込まれているだろう。

結果、半年にかけて起こなわれた戦争は王国や帝国といった各国の連合軍の勝利に終わり、"ESc教団"は壊滅した。今でも、残党がいるらしく、各国でテロを起こしいる。


「ここよ。」


そんな事を思っていると、いつの間にか目的地に到着していたみたいだ。

そこは、石で出来た遺跡が一つそびえ立ち、周りには木で作られた高台や、柵がある。バラバラにあるが、錆が目立った対空砲台や迫撃砲が残されている。


「こんな所で戦争をやっていたなんて、想像がつかないわね・・・」


「そうだな・・・」


おそらくここは、連合軍を奇襲しようと急ぎで作られた砦だろう。


「まあ・・・そんな事よりあれを見て。」


アリシアが指を差した方向にはビル群が建ち並んだ街が見える。その中心には一つの城のような物が建っており不思議な光景だ。端には海が広がり、船が停まっていたり、行き来している船も見える。中には武装した船もある。


「あれがイージスか・・・もう、近いんだな。」


「ええ。あの石段を下って西へ向かうと街道に出られるわ。」


その石段はかなり昔に作られた物のようで、気をつけておりないと崩れそうな雰囲気だ。


「ユウト・・・早く行こ?・・・ここ・・・気持ち悪いです・・・」


顔色を悪くしたフェスは袖を引っ張りながらそう訴えた。


「その子の言う通りにね・・・私もあまりここにいたくないわ。早く行きましょ。」


心霊的な何かは分からないが、ここだけ空気が違うことを嫌気にさし、アリシアはやや速めな歩きで石段へと向かう。


「フェス。大丈夫か?」


「はい・・・」


やはり、気分が優れないのか、フェスの顔色は悪いままだ。アリシアの言ったとおり、早めにここから出た方が良さそうだ。

俺はフェスの手を握りしめアリシアがおりている石段へと向かい、俺達も続いておりていった。


〜フェイリール王国 イージス州 西イージス街道〜


石段を下りると、またしばらく森が続いたが、さっきみたいにそう長くはなかった。長く生えた草を掻き分け、強い光が差し込む先には、広く人が作った公道へと出た。


「はぁ・・・やっと、出たわね・・・ここが西イージス街道よ。」


「そうみたいだな。」


少ないが、一般車が公道を行き来し、人も端で歩いており、さっきの寂しい雰囲気が嘘のようにガラリと変わった。


「あともう少し歩いたら、イージスへ入れる門に着くわ。・・・まあ、もう見えてるんだどね。」


疲れきった表情でアリシアはある方向へと視界を向ける。俺もつられて、その先を見ると大きな壁に覆われ、一つ開いた巨大な城門があった。


「ユウト・・・お腹が空きました・・・」


と、フェスが唐突に俺の袖をツンツンと二回引っ張りながら、そう訴えかけてくる。フェスの表情を見ると、さっきとは違い、疲労的な様子だったので少し安心した。


「そうだな。早く街に入って、休憩できる場所を探すか。」


俺はフェスが背負っていたバッグを持ち、再び街へ向けて歩き出す。


「ユ、ユウト・・・悪いです・・・」


「気にするな。この方がフェスに負担もかからないし、早く街にも着くだろ?」


「う、うん・・・ありがとう、ユウト。」


フェスは頬を赤らめながら、お礼を言った。

すると、アリシアは俺の隣に来ると。


「失礼な質問かもしれないけど、あんた達の関係ってなんなの?兄妹にしてはあまり似てない気がするんだけど。」


いつかは聞かれると思ってた質問だ。


「相棒・・・って、言った方がいいかな。」


「相棒?」


「ああ。特に深い意味はないから、俺達のことは相棒って関係でとらえてくれたらいい。」


「ふ〜ん・・・」


何故か疑われの目つき・・・やはり、今の説明では納得できないか。


「・・・分かったわ。人の事情を追求しすぎるのも失礼だしね。」


・・・俺も失礼なことを思うが、難しそうに見えるが意外と人の事を思える優しい人なんじゃないか?アリシアって少女は。



西イージス街道を歩くこと約20分。やっとのことで、イージス市内に入れた俺達は謎の達成感と安堵な気分で心が満たされていた。


「やっと着いた・・・早く帰ってシャワー浴びたいわ・・・」


と、アリシアはかなりお疲れな様子でそう独り言がもれている。


「はは、お疲れ様。」


「全くよ・・・」


やれやれと言わんばかりに、アリシアは苦笑いでそう答えた。


「それじゃあ・・・街に着いたし、ここでお別れね。」


「ああ、そうだな。」


「まぁ・・・縁があればまた会うかもしれなわね。」


彼女は少し照れながらそう言った。


「それは、分からんが・・・ありがとうなアリシア。」


「・・・!?」


俺は笑顔でお礼をと言うと、何故か彼女はボッと赤面を浮かばせる。


「ふ、ふん!」


アリシアは俺たちとは反対の向きへと振り向きヅカヅカと歩いて行き、しばらくすると人混みの中へと消えていった。


(な、なんで不機嫌なんだ?)


やはり、まだアリシアと言われるのが馴れ馴れしかったのか・・・


「面白い人ですね。」


「あ、ああ・・・面白いといえば面白い・・・か。」


そう思うと、また会って話をしたくなる気持ちが湧き出ていた。


「ユウト。街に着いたのはいいですが・・・街の中の目的地は何処ですか?」


そうだ・・・目的地である"イージス"に着いたのはいいが、着いてからの目的地があったのだ。


「ん〜・・・」


俺はカバンの中をゴソゴソと探り、そこから一枚の封筒を取り出す。


「"イージス女子士官学院"か・・・」


「学院ですか?」


「そうみたいだな・・・」


"女子"というところに疑問を抱くが・・・


(何を考えてるんだ?あの人は・・・)


まだ、共学の士官学校ならいいものの何故"女子"だけが通う士官学院を選んだのだろうか・・・

噂によれば、貴族が大半を占めており俺のような一般の生徒があまりいないとか・・・


(まさか、編入しろとか言うんじゃないだろうな・・・)


まさか、彼女がそこまでするかは分からないが行ってみないと分からない。


「時間も少しあるし、ひとまず休憩してから、人に聞きながら学院を目指すか。」


「はい。」


〜フェイリール王国 イージス イージス女子士官学院前〜



「へぇ〜・・・立派なもんだな。」


大きなな正門の前に辿り着くこと15分。鉄製の看板には刻印で"イージス女子士官学院"と打たれていた。見た感じでは、かなりの敷地があるみたいだ。


「ユウト・・・どうしますか?」


「・・・どうしようっか・・・」


着いたのはいいのだが、いざ入るとなればかなりの勇気がいる。何故なら、正門より先へ入って行くのは全員女の子だからだ。


(知り合いが一人でもいたら苦労はしないかもなんだけどな・・・)


ふと溜息を吐き、髪の毛をくしゃくしゃとかいた。


「兄様ぁ〜・・・!」


「・・・ん?」



ふと女の子が"兄様"と呼ぶ声が聞こえ、辺りをキョロキョロと見回すが俺以外に男性は見当たらない。

しかし、この声は何処かで聞き覚えがあるような・・・


「兄様こっちです!」


俺は再び正門の方へと振り向くと。


「リディア?」


「お兄様!」


正門の前にいた一人の少女。すると、俺が気づいた事を確認したのかこちらへと黒くて長い髪を靡やかせなが走りだす。


「会いたかったです!兄様!」


「うわっ!?」


嬉しさのあまりか俺の身体へと抱きついてきた。


「リディア!?いきなり抱きつくなよ!」


「そんなわけにはいきません!私は三ヶ月間、兄様に会えなかった寂しさが残ってるんですから!」


「そんな大袈裟な・・・」


俺はふと苦笑いを浮かべながら、抱きついている小柄なリディアの方を見た。

リディア・アクセラレイン。過去にお世話になった家庭の娘で俺より一つ年下だ。しばらく、一緒に住んでたためか、いつからか俺を"兄"と認識するようになり、今現在こうして"兄様"と呼ばれている。


「落ち着いてくださいリディア。ユウト様が困っておりますよ?」


(・・・ん?)


ふと、リディアの後ろから女性の声が聞こえた。リディアも気づいたのか、一旦俺から離れ声がした方へと振り向く。


「カノンか?」


「はい。三ヶ月間ぶりでございますねユウト様。」


「ああ。久しぶりだな、カノン。」


リディアと同じ学院服を着ており、ショートにウェーブがかかっている金髪の女性が俺達の前に立っていた。

彼女はカノン・ウェンハースト。リディアと幼馴染で、俺がアクセラレイン家でお世話になってから面識があり、何故か俺の事はメイドのように"様"付けで呼んでいる。


「フェスもお久しぶりですね。元気にしてましたか?」


「はい。カノンこそ元気そうで何よりです。」


「ふふ。そう言ってもらえると嬉しいです。」


フェスとカノンはお互い微笑みあい、見てるだけでも和やかになる。まるで、本当の姉妹のように見えてしまった。


「そうだ、リディア。彼女から何か聞いてないか?例えば・・・」


「編入の事ですね♪」


「そうそう・・・・・・ん?」


聞き間違いか?今、リディアは俺にとって、聞き捨てなれない単語が出て来たような気がしたのだが・・・


「リディア。すまないけどもう一度・・・」


「編入の事ですね♪」


即答で答えるリディア。曇っている天気を一瞬で晴れにしてしまいそうな笑顔はかなりご機嫌なやつだ。だとすると、彼女は絶対に嘘はついていない。


「へ、編入・・・だと?」


「どうしましたか?ユウト。顔色悪いですよ?」


「・・・見事に嫌な予感が的中してしまったからな・・・」


深いため息を吐き、かなら鬱な気分になってしまう。


(どういう成り行きだ・・・全く・・・)


やはり、彼女の考えることはよく分からない。


「ユウト様。学園に着き次第、職員室に連れてくるようにと言われてますので案内させていただきますね。」


ニッコリと微笑みながらカノンはそう言う。


「わ、私もご案内します!」


何故かリディアも焦りながら、俺の手を握り学園の方へと引っ張り出す。


「そ、そんなに引っ張らなくても歩けるから・・・」


この後も、リディアは手を離してくれず職員室に着くまで周りの女子の鋭い目つきに刺されながら彼女の3ヶ月の出来事を話してくれたのだった。



イージス女子士官学院・・・創立500年を迎える歴史ある女性専門士官学院だ。丁度、大陸戦争の時に設立されており昔から変わらず、貴族と平民を取り得ている。士官学院とあり進路は軍隊へ配属され、配属先は本人の希望制にしてあるため"陸軍、海軍、空軍、沿岸警備隊、鉄道警備隊、警察"の中から選び卒業後にはそこへ配属されるシステムとなっている。軍ではないが"警察"も進路の候補にはいっている。王国内の軍や警察の女性はほぼイージスから出たものが多いらしい。


そんな、優秀な士官学院に何故俺は来たのかと言うと・・・それが"イージス女子士官学院へ招待します。"と今日の日にち時間が書いてあるだけで事情はあまり聞かされてないのだ。

・・・だが、その事情はあまりに唐突に知ることになる。


『編入のことですね♪』


リディアが嬉しそうにしながら言った言葉だ。

男性が女子学院に編入とは、今まで歴史の教科書でも書いていないだろう。もし、リディアが言っていたことが本当なら異例中の異例なことだ。


「おーい・・・聞いてる?」


もし・・・本当に編入することになれば俺はどうやって過ごしていけと言うんだ・・・


「人がせっかく、この学院のこと話してるって言うのに・・・ちゃんと人の話を聞きなさい。」


「あだっ!?」


頭部に痛みが走り、俺は思わずその部位を抑える。


「大丈夫ですか?ユウト。」


「ああ・・・少し目が覚めたよ・・・」


叩かれた場所を手でさすりながら、ふと前を見る。そこには、赤髪で長髪のポニーテールの女性が呆れた様子でジトッとこちらを見ていた。


「全く・・・美少女が集まる学院に呼んであげたんだから、少しは気分が高揚してる姿を見せなさいよ。」


「生憎だけど、そういう性格じゃないんだよ・・・」


「普通男性なら"イヤッホー!これから4年間、華々しい学院生活が待ってるぜ!"とか思うわよ?」


真似の部分だけ低い声を発し、今時の男性の感情について彼女は話していた。まあ、俺にはよく分からないことなんだが。


「全員がそうじゃないだろ・・・って、待てよ。"4年間"ってどういう意味だ?」


「どういう意味って・・・リディアから聞いてないの?」


「っ〜・・・」


やはり、リディアが言っていた事はあっていたのか・・・

信用していなかったわけではないのだが、出来ればそうであって欲しく無かったのだ・・・


「学院長に感謝しなさいよ?私が無理を言ってお願いしたんだから。」


「頼んでもないのに勝手にお願いするなよ・・・せめて、事前にそういう話を手紙に送るなりしてほしかったんだが・・・」


「じゃあ、事前に"女子学院に編入しない?"なんて言ってたら、あなたはここに来た?」


「来なかったな。」


「でしょ?」


片目をパチンとウィンクさせ、何故か勝ち誇り気だった。何故だか分からないが、不思議な敗北感に心が包み込まれる。


「それに、フェスちゃんだって青春はしたいものよね?」


「セイ・・・シュン?」


「皆で楽しく学院で過ごしたり、恋をしたりするのよ?」


「ん・・・」


あまり意味は分かってはないんだろうが、フェスはコクっと首を傾げた。


「フェスだけ招待すればよかったんじゃあ・・・」


「ユウト・・・女の子に帝国から王国まで一人で行けって言うの?」


「別にそういうつもりで言ったんじゃなかったんだが・・・」


「私は・・・ユウトが一緒でなければ意味がありません・・・」


「そ、そうか・・・」


突然のフェスの言葉に俺は少し戸惑った。


「ユウトは私とセイシュンするのは嫌ですか?」


「そ、それは・・・だな・・・」


男女共同学校なら普通に頷けたんだろうが・・・うん。


「フェスちゃんもそう言ってるわけだし・・・どう?青春しない?」


あんたは、卒業してるだろうが・・・と、言いたかったが早く話を終わらせたかったので、余計なツッコミは入れなかった。


「・・・はぁ・・・分かったよ。別に女子学院や青春はあまり気にしてないし・・・」


「そう♪話は早いわね。」


俺は半ば諦めてそう言うと彼女は嬉しそうに書類のような物に高価そうな万年筆で何か書いていく。


「あんたの事だ・・・どうせ、編入以外の理由があるんだろ?」


「あらら・・・よく分かるわね。」


「国家直属の軍人さんが何を今更・・・」


「あはは・・・ごめんごめん。別に話をはぐらかそうとしたわけじゃないのよ。」


「分かってる。」


あまり、信用されなさそうな言い方だが彼女・・・レベッカはこれでも皇女警備隊に選抜される程、王国からかなり信頼されている騎士だ。歳も、俺と2つ年上しか変わらないらしい。


「はい、この書類にサインしてちょうだい。」


彼女は俺とフェスにそれぞれ一枚ずつ、何か説明書きされた用紙を渡してきた。どうやら、これにサインすれば、この学院に編入が決定するというものなのだろう。

俺はテーブルの上に置いてあったペンを手にとり、用紙のサイン記入欄に自分の名前を書いていく。


「ほら。」


「どうも♪これで、正式に"イージス女子士官学院"の生徒よ。」


彼女は嬉しそうに用紙を手にしながらニコニコしていた。

これから、4年もここで生活を送ることになる事を考えると、少し憂鬱になる。


「そういえば、あなた達の制服の事なんだけど・・・明日届くから、また今日と同じ時間にこの部屋に来てちょうだい。」


ということは、今日だけ今着ている私服で過ごしてくれということか。

でも、待てよ・・・俺達の制服があるってことは、もう編入すること前提で注文したってことになるよな。


「さてと・・・もう、HR(ホームルーム)も始まる時間帯だし、そろそろあなた達が入る教室へ行きましょうか?」


彼女はそう言うと、立ち上がり、ドアの方へと歩いていく。

くどいようだが、俺達が入る教室があるということは、もう編入が決まってたということだったんだよな?


「着いて来て。この学院は広いから迷子になるわよ?」


俺は渋々と立ち上がり、彼女の後に着いて行くのだった。



彼女に着いて行くこと数分。そこは、かなり広い廊下で大聖堂のような高さのある天井。大きめなシャンデリアも吊るされ、なんとも歴史を感じさせる風景だ。そのため、廊下には俺達3人以外、誰もいないため足音が甲高く鳴り響く。


「アクセラレイン家の人達は元気にしてる?」


さりげない彼女の一言。


「元気にしてるよ。マリアさんは泣きながら見送られるし、クロード師匠は『さらに精進してこい。』って言われたし・・・」


「そう・・・イレーヌはいなかったの?」


「イレーヌ姉は・・・」


「ん?」


「わざわざ、帝都から戻ってきて、抱きしめられながら見送られた・・・」


「あはは・・・相変わらずの溺愛っぷりね・・・」


俺は帝国から出発する前の出来事を思い出し、少しブルーな気持ちになる。何と言うか・・・恥ずかしかった。


「まっ、それだけあなたの事を"家族"みたいに、思ってくれてるということね。」


「そうだな・・・って、あんたがそれを言うと似合わないな。」


「う、うるさいわね・・・」


彼女は珍しく赤面し、プイと俺達と違う方向へ顔を向ける。


「着いたわ。」


すると、彼女はある扉の前に立ち止まる。扉の横にある標識が壁に組み込まれており、刻印で"Ⅱ-Ⅳ"と打たれていた。


「Ⅱ-Ⅳ組。今日からあなた達が入るクラスよ。この場所はちゃんと覚えとくように。」


と、彼女はそう釘をさすと。


「さてと・・・私の案内はここまでね。最初は大変だと思うけど、そのうち慣れてくるわ。」


「慣れてくる・・・か。」


だといいんだが・・・


「ほら!グズグズしてないで、さっさと行ってきなさい!」


「ちょっ!?押すなって!」


俺だけほぼ強引に教室の入り口となるドアへ押し付けられる。その勢いか、ドアは簡単に開き、俺は倒れこむ形で教室の中へと入り込む。


「いつ・・・無茶苦茶、言いやがって・・・」


俺は廊下の方を見ると、彼女はもうその場にはいなかった。


(もう居ないし・・・)


はぁ・・・と、ため息を吐きたい所だが、今はそんな余裕がない。

その理由は、教室にいる生徒の全員がかなり驚いた様子で俺に注目しているからだ。


「大丈夫ですか?ユウト・・・」


「大丈夫・・・じゃない。」


もしかしてこの状況は、俺が入るタイミングがおかしいからか?


「え、え〜・・・こ、この人が今日からこのクラスに入ることになった編入生です・・・」


ほら、絶対に説明してる途中だ。そのため、女の編入生だと思っていた彼女達の驚きはついに。


「な、なんで男がここにいるのよ!」


その一言でヤジの嵐が起こる。予想はしていたが、ある意味ここまで怖いとは思わなかったな。


「へ、編入生くん!?入るのが早すぎますよ!まだ、異例の"男の子"も言ってないから・・・」


担任らしき女性は涙目になりながらそう言ってきた。


「言いたいことは分かりますけど、とりあえず彼女達を何とかしてください!」


「む、無理ですよ!」


あんた担任だろ・・・多分。


「ユウト・・・静かにさせますか?手加減は出来ませんが・・・」


フェスのとんでも発言に少し度肝を抜かれる。多分、本気で行ってるため。


「やめてくれ!ますます、状況がひどくなる!」


と、焦りながらツッコミを入れてしまう。


「来る所間違えてるのよ!」


「そーだ!そーだ!ここは、女子学院なんだから男は立ち入り禁止!」


「大人しく帰れ!」


やばい・・・これは、どうにかするどころか、学院の意向関係なしで追い出されるぞ、これ・・・


だが、その状況は一瞬で終わりを迎える。


「みんな、静かにして!!」


勢いよく机を叩きつける音と、大きな女の子の声が教室中に響き、騒がしい教室が一瞬で静かになり、生徒全員が声を発した者の方へと顔の向きを変えた。


「・・・なんで男がここにいるのかは置いといて、まず、話を聞くのが礼儀じゃないの?」


少しイライラ気に女の子は教室にいる生徒にそう言い放つ。

それに、このツンとした話し方に俺は聞き覚えがあった。俺も、彼女達につられるように、ゆっくり視線を声の主の元へと向ける。


その人物は、やはり思っていたとおり、彼女だった。


(アリシア・スカーレット・・・)


彼女は窓側の席に座っており、腕を組みながら不機嫌な表情をこちらへよこしていた。


「・・・何してんのよ。早く自己弁護でもしなさいよ。」


「あ、ああ・・・」


予想外の再会に、俺は動揺していたのか少しぼーっとしていたようだ。せっかく、アリシアが場を収めてくれたのだ。自己弁護でも何も、何か言わなくてはいけない。

一度咳払いをし、俺は彼女達を見つめ。


「俺の名前はユウト・アクセラレイン。帝国のフェリオン州から遥々ここへやってきた。」


と、軽く名前と出身を紹介する。すると、彼女達の方からは「アクセラレインって・・・」、「あの有名な・・・」などの、ヒソヒソ声が聞こえてくる。


「フ・・・フェスです・・・」


フェスも自己紹介をするが、名前しか名乗らなかった。多分、緊張して言葉が浮かばないのだろう。


「みんな誤解していると思うけど、俺はここに編入することになった者だ。」


「へ、編入生?あなたが?」


「編入生が男の筈がないじゃない。」


・・・どうやらここは、自己紹介だけではなく、彼女達を納得させる必要がありそうだ。


「確かに俺も女子学院に編入って聞いた時は驚いたよ。何せ、500年も歴史のある女子士官学院に男が編入してくるなんてこと、一度も前例がないもんな。」


というより、女子学院に男が来るっていうのが場違いだが。


「そうと分かってて、何しにここに来たのよ。」


一人の女子生徒が俺に質問を問いかける。


「正直、そこは分からない・・・。だけど、レベッカ教官からは、正式に招待状は届いてはいるぞ。」


その時、教室中はざわめき始める。


「嘘だと思うんだったら、見てみるか?」


俺は鞄を開け、例の招待状が入った封筒を探す。こういう困った時の為にすぐ取り出せるような場所にしまってあって良かった。

そして、俺は封筒の中からレベッカのサインが書いてある、学院への招待状を取り出し、皆へ見せる。


「本当だ・・・レベッカ教官の直筆だ・・・」


「彼が編入生っていうのは、本当なのね・・・」


「何であの男なんかに、レベッカ様のサインが・・・」


渋々ではあるが、レベッカのサインを見せると、一部を除いて大体の生徒は納得してくれた。有名人の力って凄いということを初めて実感した。


「そ、それでは、皆さんも納得してくれた事ですし、これからもユウトくんと仲良くしてくださいね・・・」


と、担任である教官が苦笑いを少し浮かべながら、この場をまとめる。出来たら、始めからアリシアのように一喝してもらえたら楽だったんだが。


「そ、それじゃあ、最後に質問のある方いらっしゃいますか?」


出来たら、早く席を教えてもらい、心を落ち着かせたかったが、初めが肝心とも言う事もあり仕方が無いか。


「はーい・・・」


すると、早くも挙手をする生徒がいた。その人は、立ち上がると。


「ユウトくんは彼女いますか?」


「・・・・・・え?」


"彼女いますか?"とかなりのどストレートな質問に俺は一瞬、思考がリセットされる。何と言うか、女の子らしい質問をすると言うか・・・

別に焦るほどではないが・・・


「いないけど・・・どうしてなんだ?」


「へぇ〜・・・いないんですかぁ・・・」


「な、なんだその目は・・・」


質問を問いかけた生徒は何故か、悲しい奴を見るような目をしていた。この国では男性の一人に彼女がいないとおかしいのだろうか?


「いえいえ・・・あまり気にしないでください・・・」


(変な人だな・・・)


意味深な質問で、クラス全体に少し変な空気が漂ってしまう。ただ、ミステリアスな雰囲気から、俺は少し印象に残る。

何と言うか、目を付けられたら怖そうな感じだ。


「そ、それじゃあ、質問も終わった事ですしユウトくんとフェスちゃんは席につきましょうか。えっと・・・窓側の一番後ろから2席空いてますので、そこに座ってくださいね。」


教官の言われた座席の方をみると、確かに縦へと2席空いている。今日から、あそこが俺達の座席になるのか。

まだ、フェスがそばにいてくれるから安心と言うか・・・


(その前には・・・)


今は窓の方へと顔を向け、つまらなさそうな表情をしたアリシアが座っている。側を通り過ぎても話しかけないくらいの感情がないというか・・・

早朝に俺達といた時とかなり違った。



この学校に来てまだ4時間程度しか経っていないが、かなり疲れた・・・

何故なら、自分が入る事になったⅡ-Ⅳ組の教室でフェスと共に自己紹介を終え休み時間になると、女子からは質問攻めにあってしまう。周りは女子だけとあり、初めて会う人と多く話すというのはかなり疲れるものだ。返答には困らなかったのだが、流石に気力が参ってしまう。だけど、クラスにも少し馴染めたため結果オーライだ。

フェスも俺と同じように質問攻めにあってはいたが疲れた様子を見せずただ「うん。」や「いいえ。」という返答を繰り返していた。俺以外にリディアとカノンとしかあまり話していなから、話しずらいというのもあるだろう。


そして、昼休憩に入り俺とフェスはクラスメイトから逃げるよう昼食を食べに行くのだったが・・・学院中歩いても、教室の騒ぎとはあまり変わらなかった。何せ比率が約0.5:9.5みたいなものだからな・・・

まあ・・・それよりも一つ問題があったのだ。それは・・・


「ひ、日替わり定食が6000リゼだと・・・」


金銭面の問題だ。


「見てくださいユウト。オムライスが一つ9000リゼです。」


流石、貴族達が通うだけのある学院だ。どれも星五つがつくほどの値段だ。

でも、平民もいるってことは普通の食堂もあるはずだよな・・・


「どうしたのよ・・・あんた達。料理のディスプレイなんて見つめて。」


ふと、隣から女の子の声が聞こえ俺はそっと、そちらの方に振り向く。


「アリシアか。」


そこには、少し不機嫌な様子で立っているアリシアの姿があった。


「いや。食事でもとろうかなと思って食堂に来てみたら、凄い値段でさ・・・」


「あ〜・・・あんた達、お金ないの?」


アリシアは少しいたずら気にニヤニヤしながら俺達の方を見つめる。教室にいる時の彼女と違う心情だったので、違和感はあったが・・・普通に接したほうがいいな。


「別に無一文ってわけじゃないけどな。」


「ふ〜ん・・・」


「・・・ところでアリシア。」


「奢らないわよ。」


キッパリとそう言い放ち、アリシアは猫のような目つきで睨みつけてくる。


「違うって・・・平民も通ってるから、そっち専用の食堂か購買があるはずだろ?」


「まぁ・・・あるわね。行ったことはないけど。」


「場所は知ってるのか?」


「ええ。知ってても、教えないけど。」


何でだよ・・・って、ツッコミたかったが、話が長引きそうだったのでやめた。ここに長居しても他の人の通行に邪魔なるだけだ。


「ユウト・・・」


袖を引っ張るフェス。何かに気づいたのか、フェスはアリシアがいる反対側の廊下に指を指した。俺はそれにつられて、フェスが指を指しいる方向を見ると、こちらに歩いてくる二人の少女が見える。


「あっ!いましたよカノン。」


「本当にいましたね。」


リディアとカノンだ。


「二人ともどうしたんだ?」


「いえ。兄様が見えましたから、つい。」


「もう、リディアってば・・・素直に"兄様の為に、お弁当を作って来ました♡"って言えばいいですのに・・・」


カノンは色気のある声で、リディアの声真似をする。

すると、リディアは顔がボッと赤くなり、カノンに向かって。


「もう、カノンったら!何で言っちゃうの!?それに、ハートはいらないよ!」


「え・・・?ユウト様と話してる時はいつもつけてますよ?」


「つけてないし、意外って顔しないでよ〜・・・」


リディアは少し泣き顔になりながら、カノンの胸をポカポカと軽く叩きだす。


「あんた・・・妹がいたのね。」


「ああ。」


二人の姿を見て、俺はこの学院に来て初めて心から安心できたような気がした。


「兄様も何で笑ってるんですか!」


「いや。相変わらず仲良しで何よりだなぁって・・・」


「はい。リディアとはいつも仲良しですよ?」


カノンはニッコリと微笑みながらそう言った。


「これが・・・セイシュンですか・・・私もリディアみたいな事してみたいです。」


フェスはカノンの胸辺りを見ながら、羨ましそうに見ていた。


「少し違うし、人前ではあまりしないようにな・・・」


あんまり気にしないようにしてはいたが、胸が・・・な。


「兄様?」


「は、はい?」


不機嫌な顔をしたリディアがずいっと寄ってきたので、俺は思っていたことを悟られたと少し焦ってしまう。しかし、彼女は頬を膨らませ、バスケットを俺の前へと差し出す。


「どうするんですか?た、食べてくれるんですか?」


ほぼ強引な気がするが、昼食に困ってたのは確かなので。


「ありがたく頂くよ。ありがとうなリディア。」


俺はバスケットを手に取ると、リディアの頭を優しく撫でた。


「えへへ♪」


ご機嫌を取り戻したリディアは少し照れながらも嬉しそうにしていた。


「フェスちゃんの分もあるから、一緒に食べましょう。」


「うん・・・リディアが作ってくれる料理は大好きです。」


「私もリディアが作ってくれます手料理は大好きですよ?」


「もう・・・そんなに褒められても困るよぉ・・・」


赤面を見せながら、恥ずかしがるリディア。恥ずかしがり屋なのも相変わらずだな。


「アリシアはどうする?」


「わ、私?私は、食堂で食べるからいいわ。」


「そうか。」


「そ、そうよ。」


「じゃあ、また後でな。」


「ふ、ふん!」


さっきよりも不機嫌な様子を見せたアリシアはズカズカと食堂の方へと入っていく。


「何か彼女に怒らせるような事でもしましたか?ユウト様。」


「覚えは・・・なくもないんだが・・・」


「あまり、女の子を怒らせるような事をしてはいけませんよ?」


「あ、ああ・・・」


イージスに着いた時まで普通に話せてはいたのだが・・・

・・・また、彼女と話せることを願っておこう。



(何やってるのよ私は・・・!)


早歩きで食堂のカウンターを目指し歩いていると、さっきの自分の態度を思い出しふと後悔してしまう。


(あいつ・・・怒ったかな・・・)


そんな事を思うと少し気持ちが沈んでしまい、歩くスピードが自然と下がる。


(本当はお礼を言いたかったんだけど・・・)


お礼というのは、昨日、魔化に殺されそうになったところを彼が助けてくれた事だ。

初対面の男の人と寒い山を越えて、イージスに戻ることになった事に動揺し、少しきつい話し方をしてしまった・・・それに、今日は最悪な別れた方もしてしまったためお礼を言う機会がさらに延長してしまう。


(なんで素直に言えないのかな・・・)


素直になれないのが今の私の問題点なのだ。これは、最近、姉に言われてから気になり出した事だ。


(・・・また、話せるといいんだけど・・・)


あいつ・・・"また、後で"って言ってたし・・・


(・・・また、話せるわよね。)


そう前向きに考えると、少し気持ちが晴れてきたような気がした。



「はい!と言うわけで屋上にやって来ました!」


成り行きで、四人で昼食をとることになり、リディアに案内された場所は屋上だ。空気が良く、学院全体を見回せる絶景な場所となっている。


「どうです?兄様。ここなら、騒ぎもなく、一緒に食べれます!」


「そうだな。」


どうやらリディアは、俺達の事を考えてここに連れてきたようだ。

それにしても、この静けさは少し異様だ。この様な、景色がいい場所には人がおりそうな雰囲気はあるが。

・・・あまり、考えなくても大丈夫か。


「でも、時間は大丈夫なのか?休み時間だって限りがあるだろ?」


「大丈夫ですよ。お昼休憩は一時間ほど余裕がありますから。」


カノンは微笑みを見せながらそう言った。


「じゃあ、早速・・・」


「ユウト・・・」


すると、フェスは突然俺の右袖を引っ張る。フェスが俺の袖を引っ張る大抵の動作は、何かを見つけたか感じとったかの二種類だ。


「あそこに人の気配を感じます・・・」


フェスが指を指した方向は、先ほど俺達が出てきたドアの裏だ。

俺はそっと近づき、隠れている人物の正体を確認しようとする。


「気をつけてください兄様。もしかしたら、兄様をストーカーしている人かもしれませんよ?」


「されてたら、とっくに俺が気づいて知らせてるよ・・・」


とりあえず、リディアの忠告を無視しドアの裏手側に声をかけてみる。


「誰かいるのか?」


・・・返事がない・・・と思ったが、耳を澄ませると何かヒソヒソと声が聞こえてくる。


「ど、どうしよう・・・見つかっちゃったよフイちゃん・・・」


「キュイ・・・」


一人と・・・一匹なのか?


「こ、このまま出ていっても大丈夫かな?」


「キュイ!」


どうやら、動物かもしれない何かは"大丈夫!"って言ってるのだろうか?いや、そう言っている感じがしてならない。


「じゃ、じゃあ行くね!フイちゃんは先に帰って待っててね。」


「キュッ!」


すると、ゆっくりと恐る恐る姿を現したのは、背中まで届いた長髪にウェーブがかかっており紫色の綺麗な色の髪型をした少女だ。俺達を怖がっているのか、ビクビクとしており小動物のような目で俺の方を見つめていた。


「君は・・・」


「セ、セリア・ベルトワーズ・・・です・・・」


「セリア・ベルトワーズ・・・あっ!?同じクラスの人じゃないか!」


「えっ・・・?」


何故か驚いた様子を見せるセリアはしばらくすると。


「わ、私の名前、知ってるの?」


と、不思議そうに問いかけてきた。


「ああ。一応、クラス名簿は確認してるからな。」


担任のヴェラ教官から『い、一応、仲間なんですから覚えておいてくださいね』と言われ、授業中に隠れて目を通していた。まあ、顔を確認していないので全員覚えているとまではいかないが。


「そ、そんな!恐れ多いですよ!き、貴族の方に名前を覚えていただくなんて!」


すると、何故かセリアは赤面になり慌てながらそう言った。


「な、何か都合が悪かったか・・・?」


「いえ・・・そうではないんですけど・・・」


セリアは表情を見られたくないのか頭を下げ、小さな声でこう語った。


「その・・・わ、私のような駄目な平民に貴方のような貴族様に覚えていただく資格なんて・・・ありませんよ・・・」


薄っすらだが少し涙目なのが確認できた。

なるほど・・・まだ、貴族と平民の差がここまであるのか。そりゃあ、貴族が集まるような学院に平民がいれば、下に見られるのも当然の事だ。恐らく、セリアは貴族に対して何か複雑な物を抱いているんだろう。

・・・軍や警察に行けば、そう言った身分制度は少ないんだろうが、ここではそうもいかないようだ。


「だ、だから・・・私の事は・・・」


「じゃあ、セリア。」


「えっ・・・」


セリアは何か言おうとしたが、俺は切り裂くかのように彼女の名前を呼ぶ。


「とりあえず、だな。友達になってくれ。」


「ふぇ?」


セリアは瞼をパチクリとさせ、かなり驚いている様子だった。


「見てのとおり、俺は今日編入したばかりで友達があまりいなくてな。」


異例な男という理由もあるだろうが、それはあえて伏せておこう。


「そ、そんな・・・私は貴方の友達になれるような人では・・・」


「別にそうは見えないよ。」


「ですけど・・・」


「なっ?リディア。」


「わ、私ですか!?」


ここは、話が合いそうなリディアに会話を任せようとしたが、何故か彼女は少し慌てていた。


「そ、そうですよ!私と兄様も貴族ですが同じ人間というのは変わりはないんですから!」


「でも・・・私、帝国人で・・・」


「心配いりません!ここにいる人は全員、帝国人ですから!」


・・・リディアの言葉で初めて気付いたが、言われてみれば一応ここにいるのは帝国人だけだ。


「そ、そうなんですか?」


と、セリアは俺を見つめると、問いかけてくる。


「ああ。そうだ。」


士官学院に留学生だなんて珍しい話とは思うが、意外とそうでもない。王国と帝国は冷戦終結後、同盟関係を結び、今は鉄道線がお互い繋がっていたり、飛空挺が国境を越えて行き来したりと友好関係が築かれている。お陰で士官学院にも他国の戦闘技術を学ぼうと留学生が来たりするのだ。


「だから、セリアさん。私達と友達になりましょう!」


リディアはセリアの両手を握り、笑顔でそう言った。


「ふぇぇぇ・・・ど、どうしよう・・・き、貴族の方と友達だなんて・・・」


すると、セリアは再び涙目で俺の方へ振り向くと・・・


「ゆ、夢ですか?」


「・・・俺に聞くなよ。」


なんとも、面白い人だ。



「そ、それじゃあ・・・改めてセリア・ベルトワーズです。よ、よろしくお願いします・・・」


「私はカノン・ウェンハーストです。以後、お見知り置きをお願いしますね。」


カノンはにっこりと微笑みなが、気軽な自己紹介を行う。


「フェス・・・です。よろしく・・・」


続いてフェスも自己紹介を行うが、人見知りのため、かなりの手短さで終わらせてしまう。


「そして、リディア・アクセラレインと・・・」


「ユウト・アクセラレイン・・・て、バラエティみたいなことやらすな。」


「えー・・・だって面白く自己紹介をした方が盛り上がりますし・・・」


「余計テンパってるぞ・・・」


セリアの方を見ると顔を赤くしながら、少し落ち着きがない様子だ。


「あわわわ・・・す、すみませんセリアさん。兄様が面白くないせいで・・・」


「おい。」


ひどい言われようだが・・・面白くないのは充分自覚しているため、これ以上なにも言い返せない。


「ち、違います!別にユウトくんが面白くないからテンパってるわけでは・・・」


(面白くないと思ってたんだ・・・)


はっきり言われたら、不思議と心に結構くるな・・・これ。


そして、セリアは少し落ち着きを取り戻すと。


「す、すごい名前の方が勢揃いしてますから・・・」


「名前ですか?そんなに凄いんでしょうか?ユウト様。」


「凄いって、まぁ・・・カノンが一番凄いな。」


「あら?私ですか?」


「ウェンハースト家ってあの"帝国鉄甲獅子団"の生みの親ですよね?」


セリアが語った"帝国鉄甲獅子団"とは、いわゆる帝国の特殊部隊の事だ。300年前に結成され、今では陸、海、空の全てを制するエリート中のエリート部隊・・・

いずれ、授業の中で習うだろうが、カノンの家系。ウェンハースト家は帝国領"ウェンハースト州"と名前があるほど凄い存在であると知っとおいた方がいいだろう。


「凄いです・・・」


「凄いって言われましても、私はまだ未熟です。」


「す、すみません・・・迷惑でしたよね・・・」


「迷惑?・・・いえいえ、そうではありません。」


カノンは首を横に振るうと。


「未熟な分、セリアさんや皆さんとで協力したり切磋琢磨して頑張りましょうと言いたかったんでした。」


片手をグッと握りしめ、目を輝かせながらカノンはそう言った。

・・・そう言えば、カノンは見た目によらず熱血心旺盛な奴だったのを思い出す。


「ユウト様?暇な時さえあれば、剣のお相手をよろしくお願いしますよ?」


何故か密かに闘気を燃やしながら俺の方へニコニコしながら敵意を向けるカノン。理由は分かっているため、慌てる必要はないが、少し怖い。

アクセラレイン家にいた時。カノンとは昔から、剣の特訓相手として手合わせを数え切れないくらいしてきた。だが、勝率はほぼ俺が上回っているため、カノンは積極的に俺へと勝負を挑んでくるのだ。まして、ここ3ヶ月くらい勝負をしていないため、彼女はリベンジに滾っているのだろう。


「時間があれば、いつでも受けるからさっさと弁当食べろ。」


「はい・・・ユウト様、楽しみにしてますよ?」


にっこりと微笑みを浮かべるカノンに俺は再び恐怖を思い出し、額から冷や汗が出てくる。


(た、大変ですね・・・ユウトくん。)


(分かってくれるか、セリア。)


多分、カノンは勝つまで俺に挑み続けてくるだろうな・・・とは言え、俺も負ける気は無い。以外と俺も、負けず嫌いなのかもな。


「それで・・・ユウトくんとリディアさんは・・・あの、有名な"アクセラレイン流派"の・・・」


「そうです♪」


俺は正式にアクセラレインという名は継いでいない為、あまり家系の深い所まで話せないが・・・流派として一言で表すと"帝国最強"と呼ばれている。

剣、槍、弓、銃、拳、と言った全般の武器を臨機応変に扱えるように編み出したのが、この流派らしい。


「お二人は兄妹なんですね。」


「はい♪自慢のお兄様です♪」


と、リディアは満面な笑顔でそう言いきる。隣にいて、直球でそう言われると中々恥ずかしいものだ。


「お兄様大好きですから♪」


すると、カノンの言葉の横槍がリディアに突き刺した。


「そ、それ以上は言わなくていいの!」


「え〜・・・本当の事じゃないですか〜・・・」


「いいのったらいいの!」


リディアは顔を赤らめかせ、半泣きになりながら、カノンの胸をポカポカと叩く。


「ユウト・・・私もあれやりたいです。」


フェスは無表情で俺を見つめながら、カノンの胸を指差す。


「や、やらなくていい。」


「ユウト様もやります?」


「やらないから!」


「うふふ」と言わんばかりの笑み。 ・・・全く。カノンの冗談は分かってても、冷やっとする・・・何気にSっ気があるのが怖いというか。


(ほ、本当に大変ですね・・・)


苦笑を浮かべながらセリアは俺達のコント風景を見ていた。

その中、フェスはセリアをジッと見つめ、何か言いた気な様子だ。


「ど、どうかしましたか?」


「・・・・・・カノンより少し大きい・・・」


「お、大きい・・・?」


セリアはフェスの言ってる事がよく分からなかったのか、キョロキョロと自分の身体を見回す。ある意味、彼女の性格上よかったかもしれない。


フェスの言ってる意味は大体理解した・・・・・・

だが俺は、聞かなかったことにしておこう。リディアからトバッチリをくらうのはごめんだ。


「と、とりあえずさっさと食べて、ゆっくり話そうか。休憩時間は限られてるからな。」


「そ、そうですね!私もユウトくんといろいろお話をしてみたいですから・・・」


セリアは頬を赤く染め、焦りながらそう言った。少し打ち解けた表れだろう。


(むぅ・・・何で"兄様"だけ何ですか・・・)


(ゆっくりしていたら、盗られちゃうかもですね♪)


(も、もう!カノンったら知らない!)


「お前達もさっさと、食べろよ・・・」


何を言い争ってるのか分からないが、聞かないでおくのがいいか。


それにしても、セリア以外に何がいたんだろうか・・・

俺はその事を微かに思いながら昼食を食べるのだった。



昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響き、Ⅳ組は運動場へと集められる。その場で近接系や遠距離系といった各ポジションの者が分けられ、女性の教官の話が始まる。


「今日は皆が待ちに待った小テストの日だ。分かってるな?」


教官の言葉に俺以外のクラスメイトが少しだけざわつき始める。僅かだが、恐怖を感じとれる者もいる。


「編入生は初めての事となるが、大目には見ないからそのつもりでな。」


教官はきつめな目つきで俺の方を見つめそう言った。

確かにクラスメイトが恐怖を感じるのも分かる気がするな。


「まず、近接系の者からだ。男の編入生!」


「はい!」


この流れは前の者からという感じだったが、何故か俺が指名され、教官の前へと走る。


「お前の獲物は?」


「これです。」


俺は左腰に装着していた刀を教官の前へと差し出す。すると、教官は俺の刀を手に持ち珍しそうに見つめだした。


「ほう・・・和の刀か。珍しいな。」


教官はそれだけ言うと、手に持っていた刀を俺の方へヒョイっと投げ返した。


「さてと・・・大目には見ないとは言ったが、説明はしといてやろう。」


教官は後ろにある細長く地面に突き刺さっている棒へと目をやると、軍人らしい口調で説明し始めた。


「この棒はただの棒ではない。魔鉱石で出来た物だ。」


「魔鉱石・・・」


魔鉱石とは魔素が結晶化し鉱石なった物だ。普通の鉄鉱石とかに比べて硬さは怠るが、他の鉱石にはない一つの特徴がある。それは、"魔法"に反応することだ。

例えば、この素材はよく遠隔支援用ロッドなどに組み込まれており詠唱力や黒魔法の威力強化などの補助を補ってくれている。そのため、支援系の魔法使いにとって、なくてはならない存在だ。


「斬ろうと思えば簡単に斬れると思うだろうが・・・」


教官は右腰に装着している剣を抜き、魔鉱石の棒へと力強く振った。

だが・・・


「・・・!?」


教官が振るった見事に剣は跳ね返されてしまう。


「何故か跳ね返されてしまう・・・理由が分かるか?」


「・・・MDO(Mobile Defense Operation)コード。」


「ふむ、よく分かったな。まさか、このクラスでアリシア以外にも答えれる奴がいるとはな。」


密かな笑みを浮かべながら教官はそう言い、俺はひっそりと彼女がいる方にを見た。・・・やはり、何故か不機嫌な様子だ。


「これは軍が生んだ技術で、司令戦艦の装甲や王や姫が住まわれている、城の防壁にも使われている。意外にも魔鉱石と電子プログラムは相性が良くてな、いくら他の鉱石と比べて硬さが怠るといっても、このMDOコードを使えば最強の盾となる訳だ。」


何故かさっきよりも教官の機嫌が良くなっているのが分かる。恐らく、こういう話題に持ち込まれたことが嬉しかったのか、誇らしかったのか・・・あまり、考えない方がいいようだ。

待機しているクラスメイトの方を見ると、"よくやった。編入生くん!"と言わんばかりの様子でこちらを見ていた。

・・・そんなに、この教官が怖いのか?


「話がそれたな。確かにお前が言った通りMDOコードが使われいるがこれは・・・"0.1秒"の速さで、一つだけ斬れる隙間が複雑に移動しているのだ。」


・・・なるほど。今の教官の言葉で、この小テストの課題が分かったような気がする。


「私が振るった剣の動き・・・いわゆる、外部からの脅威を感じ取り演算され防御されたわけではない・・・"たまたま、当たらなかっただけだ。"」


確かに、この人ほどの腕ならさっきの剣で一刀両断出来ているはずだ。だが、教官はわざと適当に剣を振るったのだ。


「コードは魔鉱石の細かな部分まで適応され、移動している・・・意味が分かるな?」


「はい。」


要するに・・・"見えないものに一撃で決めろ"と言うことだ。


「ふふ・・・ならいい。・・・では、始めるぞ。」


教官は俺から距離を取る。集中させるためだろう。周りからはどよめきが上がり「初めてなのに大丈夫かな?」や「私なんて、かすり傷を入れたのが精一杯なのに・・・」と言う囁き声が聞こえてくる。

だが、しばらくすると教官から。


「静かにしろ。小テスト関係なしに10km走らされたいか?」


と言った瞬間、一瞬でその場は沈黙へと変わる。


(チャンスは自分の真っ正面で一瞬だ。)


刃を振った時に細かなブレも許されないだろう。

俺はあえて刃を抜かずに半腰になりいつでも抜ける体勢に入る。


(ふむ・・・これは・・・)


恐らく、何人かは俺の方に訳が分からないような様子で見ているだろう。

それも、そのはずだ。王国や帝国にとってもかなり珍しい剣術と言えるのだから。


(確かに、移動が複雑で速いな・・・だけど、これくらいなら・・・)


俺はゆっくりと目を閉じ、全神経を魔鉱石の棒に流れるコードの移動パターンを感じ取り、約五秒・・・


「はぁっ!!」


目を見開き、瞬時に鞘にしまっていた刃を横向きに斬る・・・


「・・・」


「・・・」


しばらくの沈黙・・・

すると。


「・・・見事だな。」


教官から口を開いた。それも、感服した様子だ。

魔鉱石の棒は見事に真っ二つに切断されスーッと地面へと落ちていく。


「すごい・・・」


「何?あの編入生・・・」


「やっぱり、男の子は違うね・・・」


クラスメイトからの歓声が湧き、短い緊張感から解放され、ふと溜息を吐き、刃を鞘へと戻した。


「さすが、アクセラレイン家の者だな。見事な抜刀術だ。」


「はぁ・・・教官。俺を試しましたね?」


「ははっ!まあ、試したといえばそうなるな。何せレベッカの弟子だったからつい・・・なあ!?」


悪戯気な顔をしながら向けた視線の先にはあの赤髪の人物が困りながらこちらへ歩いてきていた。


「もう・・・あまり、意地悪な事しないでくれるかしら?」


「な〜に。お前の弟子なんだからこれくらい出来て当然だろ?」


「私は魔法を教えただけで、流派はアクセラレイン家のものよ?私の弟子ってわけじゃないわ。」


「似たようなもんだろ。」


「全く・・・」


やれやれと言わんばかりに片手で頭を抱えるレベッカ・・・教官。


「そんな事より、腕を上げたわねユウト。これも、アクセラレイン家の鍛錬のおかげかしら?」


苦笑混じた笑みで俺の方を見ながら、お褒め?の言葉を頂く。


「まあ・・・3年も寒山で剣術を叩き込まれたり、館で毎日のように吹っ飛ばされ続けたらこうなるさ・・・」


「男の子だもんね♪」


楽しげに笑う彼女を見て、俺は少しだけイラっとした。なんて言うか・・・絶対裏から見てたよこの人。


「弟子同士の昔話は終わりか?えっと・・・」


「ユウト・アクセラレインです。」


「ふふっ、そうか。アクセラレインは合格として、次行くぞ!マーキュリー!」


「は、はい!」


どうやら俺は合格・・・というより、認められたようだ。俺は少しだけホッとし、胸を撫で下ろした。


「なに?あの熱血教官にビビったの?」


「いや・・・まだ、優しい方だよ。」


俺は苦笑いを浮かべながら、他のクラスメイトのテストの様子を見物した。


「そう思えるなら、この学園でやっていけそうね。」


「それは、どうか分からないけどな。」


何せ女性だらけの学院だ。アリシアの様に、俺を嫌に思う者が大半もいるだろうし・・・


「で?私の妹とは仲直り出来たの?」


「妹って・・・ん、妹?」


待て待て・・・今、この人妹って言わなかったか?


「あんたに妹っていたか?」


「失礼ね!可愛くてたまらない妹くらいるわよ!」


そんな、家庭に一人くらい居ますってオーラださんでも、気持ちは伝わってくるよ。


「結構、愚痴ってたわよ?"命知らずのバカ"とか"わけのわからない唐変木"とか。」


結構、言われてるな俺。確かにそう言われてもおかしくない人物は一人心当たりはあるが。


「なあ・・・今更すぎると思うけど・・・あんたのフルネームって・・・」


「今更もいいところね・・・」


かなりの呆れ顔で俺の方を見つめている・・・こればかりは、俺のせいだな。


「レベッカ・スカーレット・・・何かピンとこない?」


(確かスカーレットって・・・)


「そう。あなたとエルスノー市で一緒に行動を共にしたのと、同じクラスメイトであるアリシア・スカーレット・・・私の妹よ?」


・・・確かに言われてみれば、髪の色と目の色も同じで、顔も似てると言えば似てる。


「私の気楽的な性格は父親似で、アリシアの素直じゃない性格は母親似ね。」


「・・・自分が気楽な性格なのは自覚してるんだな。」


「そうよ♪」


笑顔で言うことじゃないだろ・・・と言っても、仕方がない。これが彼女の個性だからな。


「・・・あの娘とは仲良くしてあげてね。」


「ん?」


だが、気楽と自覚していたレベッカだったが、いきなりで優しい口調が俺の耳へ入る。


「アリシア・・・クラスにはあまり馴染めてないみたいだから・・・」


「そうなのか?」


「ええ・・・最近、まともに話したのはあなたくらいかしらね。」


驚きだ。

あんなに、強気ではっきりと物を言う少女なのに・・・


「・・・私語はこのくらいにしときましょうか?あの、怖い教官に怒られたら面倒くさいからね。」


さっきの曇った表情とは正反対に、再び明るさのこもった陽気なレベッカに戻る。

この人の場合、あまり話せないことがあると、すぐに話題を切り替える癖があるのだ。朝でのレベッカとの話でもそうだった。俺は「編入以外の理由があるんだろ?」と、問いかけたら彼女は笑って誤魔化し、すぐさま書類を渡してきた。

簡単に言えば、彼女は嘘をつくのと誤魔化し方が下手と言うことだ。


(まあ、あまり人の事情に深く聞くのもあまり良くないか・・・)


俺はそう思いながら、クラスメイトの小テストを行っている姿を見守る。コードの隙間に当たらず、剣を跳ね返される者もいれば、擦り傷を入れれる者もいた。

・・・だけど、俺より驚かされる人物がいたのを忘れていた・・・

それは・・・


(・・・フェスに手加減をするよう伝えるのを忘れた。)


古代的なデザインがされた大剣を両手で握り無表情のまま棒状の魔鉱石を見つめる女の子・・・フェスだ。

あの、小さな体格で大剣を握る姿は何かとインパクトがある。その姿を見て、ほぼ全員のクラスメイトが動揺している。


「お前・・・大丈夫なのか?」


流石に厳しい教官でもフェスの姿に心配しているのか、彼女にそう問いかけた。

しかし、フェスは表情を変えずに。


「大丈夫です・・・」


と、一言返した。


「ユウト・・・フェスちゃんに手加減するように言った?」


「悪い・・・言ってない。」


俺は苦笑しながらレベッカの質問に問い返した。


「では・・・はじめ!」


教官が合図を出した瞬間だ。

かなりの強風が吹き荒れ、鉄がぶつかり合い甲高い音が鳴り響いた。

見てみれば、棒状の魔鉱石は真っ二つに斬られ、教官の後ろ方向へ約300メートルだろうか?

それくらいの距離の地面へと突き刺さっていた。


(あらら・・・)


クラスメイトのほぼ全員がかなりの驚いた表情が目に入る。俺はそうだが、レベッカも恐らく驚くと言うより、焦りに近い感情を抱いている。

何故なら、彼女の正体は少し俺達とはかなり違うのだ・・・


「今・・・MODコードと関係なしに斬ったな・・・」


生徒達は気付いていないだろうが、教官のあの表情は見逃さなかったようだ。俺もその一人だ・・・

フェスはMODコードの箇所斬ったのではない・・・単純に棒状の魔鉱石そのままを斬ったのだ。綺麗に・・・


「お前・・・何者なんだ?」


「私は・・・ユウトのパートナーです・・・」


「・・・只者じゃないってことか・・・ふふっ、面白い。」


意味深に笑いを見せる教官。


「いいだろう。理由はともかく、斬ったんだからアクセラレインと同じく満点だ。次、セリカ!」


「はいっ!」


教官は抱いている疑問を押し殺し、フェスに結果を言い渡すと、テンポ良く次の人へ小テストを行わせる。

フェスはホッとした様子も見せず、俺の方へと歩いてきた。


「どうでしたか?ユウト・・・」


「あ、ああ・・・凄かったぞ。」


それだけを言うと、俺はフェスの頭をそっと撫でた。


「えへへ・・・」


フェスは嬉しそうに微笑む。まあ・・・後で、手加減のコツを教えてあげないといけないな・・・


こうして、学院始めての実技小テストが終わり、午後の授業も全て終え、俺の学院生活初日を終えたのだった。

ちなみにだが、小テストで合格ラインに辿り着かなかった人は10kmのフルマラソンをやらされたらしい・・・女性にとったら、かなりしんどいな・・・


第二話:新しい一日の始まりEND

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