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蒼き零の刻印  作者: 仲村リョウ
第一章:紫色の月
1/4

第一話:赤髪の魔法騎士と蒼炎の魔法騎士

「雪・・・」


虚ろな暗闇から光が差し込み、目の前にはある女の子が窓の外を覗いていた。そこは、軽い揺れを起こしては自分の体を揺さぶる。そして、自分達がいる個室にはレトロな木のいい匂いが残っており、人を落ち着かせる空間で満たされていた。


(鉄道車か・・・)


確か鉄道車が生産されたのは、200年前くらいで今や何処にでもお目にかかれる便利な交通機関だ。

・・・そんなことは、どうでもいいか。


「ご主人様。夜に雪です。」


「ああ・・・雪だな。」


「驚かないのですか?」


「何回も見てるし・・・」


「・・・・・・」


ピシッ!


「あいてっ!」


目の前の座席に座っている女の子は何故か唐突に俺の頭へとチョップをくらわす。女の子とはいえ、かなり痛い。


「いてて・・・何するんだよ。」


「眠そうだから。」


「だから、叩くのかよ・・・」


確かに、コーヒーを飲んでのんびり覚醒するよりはいい目覚ましになったのは違いない。


「ご主人様・・・」


「ん?」


「雪です。」


「二回言うのかよ・・・」


「フェスにとっては大事な事です。」


彼女は名前はフェス。下の名前はなく、理由あって俺と同行している女の子だ。見た目は青白色の綺麗な長髪をした女の子で表情をあまり表に出さないのが特徴・・・と言ったら彼女は怒るだろう。

先ほど"見た目は"と言っただろうが彼女には俺を含め極少人数しか知らない秘密がある。それは後に、分かるかもしれない。


「フェスは雪を見るのは初めてだったか?」


「うん。気分が高揚してる。」


まるで、子供のようだ。


「外は寒いですか?」


「まあ・・・雪が降ってるからな。」


「そうですか。」


すると、フェスは窓の横に着いているカギらしきものを解き、窓を開放してしまう。さっきまでの暖か空間が一瞬にして北の大地並の寒さへと変えてしまう。


「これが寒さですか・・・」


「寒いから、早く閉めてくれ!」


「雪は冷たいんですね・・・」


「人の話を聞いて!」


吹雪は吹いてないが、鉄道車の速度があるため冷気が一気に俺達がいる部屋へ入ってくる。


「ご主人様はワガママです・・・」


「これだけ凍えればワガママも言いたくなるよ。」


フェスは渋々と窓を閉めた。


「うう・・・寒い。」


閉めてもなお、冷気漂うこの部屋は白い息が出るほど寒くなっていた。車内暖房が効くまでしばらく時間がかかるだろう。


「抱きましょうか?」


「遠慮するし、狙ってやったろ?」


「えっへん。」


棒読みで威張る彼女には恥じらいとかはなかった。


「まったく・・・」


他の人がいたら大惨事になっていたところだ。


『間も無く、"エルスノー市"でございます。尚、同車両は".エルスノー市"にご到着後、30分の休憩に入ります・・・』


車内アナウンスが入り、次の駅の到着予告が入る。どうやら、駅に停まるとしばらく休憩が入るようだ。


「そうだ。街に入って、何か食べるか?」


すると、フェスはセンサーのように反応し目をキラキラとさせ。


「はい。私はオムライスをオススメします。」


「はは・・・あったらな。」


いきなり、難しい注文が入ってしまった。



鉄道車は間も無く"エルスノー市"へ入り駅に着くなり停車した。駅内には僅かながらも人で賑わっていた。ベンチに座っては雑談をする友人同士や露店を開けては食べ物を商売をする人もいた。


「大分賑わってるな・・・」


雪が年中降ってる場所にしてはかなりの明るさだ。柄じゃないが、想像では何かロマンチックな静かさで溢れていると思っていたのだ。


「早く行きましよう、ご主人様。」


フェスは早く街へ行こうと、俺の袖を引っ張る。


「焦るなって。」


俺は慌てて、フェスの歩幅を合わせる。


「そうだフェス。この際だから、俺のことは"ご主人様"じゃなくて名前で呼んでくれないか?」


「えっ・・・ご主人様ではダメなのですか?」


何故かフェスは嫌と言わんばかりに、残念そうな表情を浮かべそう言ってきた。予想外な反応だ。


「まあ、何て言うか・・・ちょっと、勘違いされるっていうか・・・」


「勘違いされると何か困ることがあるのですか?」


「いろいろな・・・」


俺は周りへ目を配り人の目がこちらを見ている事に気まずさを感じていた。


「名前で呼ぶってのは別に悪いことじゃないぞ。」


「はい?」


「名前で呼びあえるのはお互い信頼している証拠なんだ。」


「なるほど。そう意味があったのですか・・・」


フェスは手をポンっと叩き納得したようだ。


「分かりました。では次から"ユウト・アクセラレイン"と呼びます。」


ユウト・アクセラレイン・・・それが俺の名前だ。アクセラレインなんてこの国じゃ滅多に聴かないものだ。


「早く行きましよう。ユウト・アクセラレイン。」


「できれば、上の名前だけで呼んでくれ・・・」


何とか、フェスにいろいろ説明し、オムライスがありそうなレストランへと向かうのだった。



「お待たせしました。当店オリジナルのオムライスでございます。」


「・・・光ってる。」


「光ってるな・・・」


選ぶ店を間違えたのかと思ってしまうくらいこのレストランのオムライスは輝いて見える。


「こ、高級な何か使ってますか?」


俺は恐る恐る店員に聞いてみる。


「いえ。メニューの通り850リゼでございます。」


「そ、そうですか・・・」


俺はホッと胸を撫で下ろした。財布の中には1000リゼ札が三枚入ってる程度だったからだ。


「では、ごゆっくりお過ごしください。」


店員は丁寧なお辞儀をするとその場を去って行く。


「さて、食べるか。」


「うん。ありがとう、ユウト。」


フェスは笑顔を見せると手を合わせ「いただきます。」と一言を言いスプーンを左手に取りオムライスを掬って口の中へと運んで行く。


(さて、俺も食べますか。)


俺も手を合わせ「いただきます。」と言おうとした時だ。


「おい小僧。」


人相が悪そうな男が俺の横に立ち絡んできていた。酒の匂いからにして恐らく酔っぱらっているのだろう。


「見ねぇ顔だなぁ・・・」


「ええ。帝国の方からやってきたもんですから・・・」


「帝国人が何しに王国へ来たんだぁ?」


「まあ・・・いろいろと複雑なものでして。」


何とか騒ぎを起こさないよう俺は男性の問いを慎重に返していく。


「複雑って・・・兄妹そろって家出したってか。ん?」


「・・・・・・」


「シカトしてるんじゃねぇぞ坊主。」


すると、男性は俺の胸ぐらを掴み無理やり立ち上がらせ面と面を向かう大勢になる。


「ユウト!」


「待て、フェス!」


俺はつかさず、こちらに向かおうとして来たフェスを手で合図を送り止める。


「お客様!あまり騒ぎは・・・」


「うるっせーな!こっちは取り込み中なんだよ!」


男性はもう一つの手で持っている酒の瓶を店員に向かって振りかざす。


(こいつ・・・!?)


俺は止めようと男の手を振りほどき振りかざした手を受け止める。男が動揺した瞬間を見抜き素早く足捌きをし彼は宙を一回転し俺達が座っていた机と落下し破壊。


(・・・やっちまった)


俺の額から冷や汗が流れ落ち、店内には気まずい空気が流れる。


「この野郎!」


男は起き上がり、俺の方へと突つかかろうとする。


「ユウト!危険です!」


「っ・・・!」


俺は振り向き、男の突進に対して防御体勢に入るが・・・


「この店内全体ですが・・・」


「はっ・・・?」


フェスの言葉に俺は一瞬、呆然としてしまうがそれも一瞬の出来事だった。

ズガンッと大きな何かが気の壁を突き破る音が鳴り響く。


「なっ!?」


店内は瞬時にしてパニックに陥り走り逃げる人が出ていた。

そして、壁を突き破り現れたその物の正体は・・・


「魔化・・・」


そいつは球体の形をしており、不気味な目が無数にまとわりついておりキョロキョロと蠢いている。そして、球体は横へと割れてゆき大きな顎が表れる。


「何でこんなデカ物が街ん中に・・・」


さっき絡んできた男性は腰が抜けたのか震えながら、球体の魔化を見つめていた。


「は、早く逃げ・・・」


すると、魔化の蠢いていた無数の目が一斉にギョロッと男性の方へと見つめる。これは獲物を決めたと言わんばかりの行動だ。


「逃げろ!!」


球体の魔化は浮遊している体を男性の方へと走らせ捕食体勢へと入る。


「ひぃぃぃっ!!?」


「くそっ!」


俺は男性を突き飛ばそうと走り出すが・・・間に合わない。


「させないわ!!」


突然の事だ。少女の叫ぶ声が聞こえ俺はそっちの方向へと振り向く。


『ライトニングソーン!!』


「うわっ!?」


すると、また壁が突き破られると、赤い稲妻のような物が魔化へと直撃した。魔化は低い雄叫びを上げ壁の橋の方へ吹き飛ばされていく。


(魔法・・・)


それも、かなり強力なものだ。


「ユウト。」


「フェス!怪我はないか!?」


「うん・・・私は平気です。」


「そうか・・・あの男性は・・・」


男性がいる方には軍服を来た兵隊が来ており、すでに確保され移動してるところだ。


「魔化B-α級とコンタクト!再度排除を開始する!」


ライフルやロケットランチャーを持った兵士が隊列を作り攻撃体勢にはいっている。


「そこの二人!早く避難しろ!」


兵隊にそう怒鳴れた瞬間だ。魔化が吹き飛ばされた方から何か黒く細長い鋭利な物がフェスへ向かって伸びていくのが見えた。


「フェス!!」


俺は咄嗟にフェスの前へと身を乗り出す。そして次の瞬間、左肩から激痛が走り思わず苦痛の声が漏れてしまう。


「ぐっ・・・!?」


俺は激痛が感じる左肩を見て見ると、先ほど見えた黒く細長い物に血がこびりつき貫通していた。


「ユウト・・・!」


「はは・・・少し格好つけすぎたな・・・」


「っ・・・許さない・・・」


殺気立ったフェスが何かしようと立ち上がり魔化の方へと向かおうとするが。


「待てフェス・・・」


「止めないでください、ユウト。」


(今はまだ魔法(ちから)を使ったらダメだ。)


(ですが・・・)


(頼む、フェス・・・)


(・・・)


フェスは了承してくれたのか、大人しく殺気をしまう。


「君、大丈夫か!?」


左肩を刺されてることに気がついた軍人が俺のそばへと駆け寄り声をかける。


「ええ・・・何とか。」


俺は左肩に刺さっている棘のような物に掴みグッと引っ張る。


「おい、無茶はするな!」


「大丈夫ですよ。慣れてますから・・・」


そして、力を入れて棘のような物を抜き取る。血が一瞬吹き出すがそれもすぐ収まる。


「なっ・・・君・・・」


「特別、守護陣が強いだけですよ。」


守護陣とは、この世界で生きる人れぞれが持っている治癒魔法の一種だ。人によっては個人差があるため平等とは言い難いが・・・この世界の人間は一応、全員が魔法が使えると言うことだ。言い伝えはそれぞれだが、人は産まれた時に精霊が舞い降り守護陣と魔力を与えてくれるというものだ。

言い伝えはともかく、俺は守護陣の中では異常な方だ。


「ふ〜ん・・・運がいいのね・・・」


女の子の声・・・確かこの声はさっき魔法を唱えた人と一緒の声だ。


「だけど、下がってなさい。あなたみたいな一般人がいては邪魔よ。」


赤い長髪を靡かせながら俺の横を通り過ぎる一人の少女。俺より小柄で弱々しく見えるが、何処か頼れる雰囲気を漂わせている。


(魔法使いか・・・いや・・・)


右手をよく見ると赤い電流が小刻みに流れている剣を持っている。それに、何処かの学校に所属しているのか、冬服型の征服を着ていた。


(魔法騎士・・・)


実際見たのは初めてではないが、女性のイメージがないため意外と驚いてしまう。


「貴方達は魔化が逃げないようにちゃんと見張ってなさい!」


「了解!」


「そこの一般人を早く退避させなさい!」


「了解です!」


どうやら、ただの魔法騎士ではないらしい。


「さてと・・・狩の時間よ・・・」


少女の剣から走っている電流が一斉に強くなる。そして、彼女の周りから出てくる闘志だろうか・・・少し魅了されてしまう。そして、魔化が姿を現し"赤髪の魔法騎士"の少女へと遅いかかる。少女は戦い慣れてるのか回避をしては剣から放たれる魔法を魔化に当て徐々にダメージを与えていく。しかし、それとは裏に俺は何か違和感を感じていた。


(ユウト・・・)


頭の中に不安な声をしたフェスの言葉が響き、俺は意識を彼女方へ集中させる。


(何か・・・変です・・・)


どうやら、フェスも感じ取っているようだ。


(あの魔化・・・極僅かですが"人間"の気配が混じっています・・・)


魔化に"人間"の気配が混じっている・・・それは、かなり不気味で異例な事だ。いや、当たり前になりかけているのかもしれない。

魔化とは文字通り"魔物"に"化ける"と書き、呼びやすいよう略して"魔化"と呼んでいる。通常、魔化とは動物やモンスターが死んだ時に霊魂が集まって生まれるのが"魔法文明時代"を生きてきた人には知られている。しかし、"新文明時代"になってからは科学が進歩したことで魔化が生まれる真実を発見したのだ。

その、"魔化"が生まれる要素は膨大な"魔素"と呼ばれる物質を一気に取り込むこと・・・これは、生き物全体に値することだ。

俺とフェスが魔化から感じ取った"人間"の気配はもしかしたら・・・


(魔素に取り囲まれたか・・・捕食されたかの二つだな。)


(可能性はあります。)


だとすれば、あの魔化はもう消滅させるしかない。それを承知で軍隊と魔法使いが出動してるわけだ。


「はあぁぁぁぁ!!!」


空中へと舞い上がった少女は剣と共に赤い稲妻を走らせ魔化に切り裂こうとする。


『グワァァァァ・・・』


不気味な鳴き声と共に球体の魔化は身体中から紫色の霧を吹き出す。


「何っ!?」


これは、毒ではない。いや、魔法を使わない人にとっては、毒のようなものだろう。


「魔素だ!!全員、外に出ろ!!」


掛け声と共にその場にいた大勢の兵隊は急いで外へ避難を開始する。


「君も早くしろ!」


一人の兵士に引っ張られるも俺は、決して動こうとはしなかった。


「ゲホッゲホッ!」


"赤髪の魔法騎士"の少女は咳き込み、空中から地面へと落ち倒れこんでしまう。

いくら、ベテランの魔法使いでも高濃度な魔素には、身体が耐えられないのだ。


そして、球体の魔化は少女が倒れこんでいる隙に大きな顎を広げ捕食しようとしていた。


「くっ!!」


「おい!?」


「ユウト!」


俺は兵士の手を振り払い、少女の方へと走り出す。


(少し騒ぎになるかもしれないが・・・いや、今はそんな事関係ない。)


俺はただ彼女を助ける事だけを考え、左手には何処からともなく刀が現れ、手に取る。そして、鞘から刃を抜き出し。


「蒼炎翔!!」


刃を横に振るい青い炎が纏った高速の剣圧が魔化へと走る。

魔法は見事に魔化へと直撃し身体の一部が青い炎で燃え上がる。


「あんた・・・!」


「っ・・・」


少女の前へ踏み出すと、魔化へ刃を振り上げる。嫌な感触が伝わり、魔化の触手が不気味に蠢きながら切断される。そして、切り後から吹き出るのは黒い血・・・ではない。液体のように見えるが、あれは液体が混じった霧状の魔素だ。そりゃあ、魔素の塊を斬ったようなものだから、魔素が出ても不思議ではないが・・・そろそろ、この建物も限界だろう。


(魔素濃度がやばいな・・・)


このまま魔法を使えば、魔力の制御が効かなくなるため建物自体吹っ飛ぶ事になる。だが・・・魔力が上がることについては、俺達、"魔法使い"にとってはメリットだ。


「このまま・・・!」


「待ちなさいよ、あんた!」


「うっ!?」


魔化にとどめをさそうと詰め寄ろうとするが、何故か首元が急に苦しくなった。首に巻いていたマフラーを誰かに掴まれたのだ。


「わ、私の獲物を横取りする気なの!?」


「横取りって・・・そんな気は無いんだが・・・」


「じゃあ、何でいきなり割り入ってくるのよ!」


赤髪の少女は助太刀されたのが気に入らなかったのか、次は小さな身体で俺の襟を掴みかかる。こういう正規の魔法使いというのはプライドが高いものなのか・・・言葉次第では根に持ちそうな少女だがここははっきり言っとかないと駄目だな。


「言っとくけど、俺が割り入ってなかったらお前はとっくに死んでたぞ。」


「っ・・・!?」


動揺した。

当たり前だ。"死"という言葉をはっきり突き付けられると人は誰だって動揺するものだ。


「うるさいわよ・・・そんなの分かって・・・!」


すると、彼女は何か言おうとしたが


「ちょっと、ごめんよ!」


「きゃっ!?」


俺は彼女の背中と足を抱え、後ろへ大きくジャンプした。理由はというと、体制を立て直した魔化が鋭利のかかった触手で俺達、二人を串刺しにしようとしたからだ。触手は地面に突き刺さり、床は板張りにしているため木材の破片や瓦礫などが飛び散る。


「っ・・・」


銃弾並のスピードで飛んできた瓦礫の破片が頬を擦り、軽い切り傷ができる。


「あいつ、俺達に相当怒ってるみたいだな。」


と、苦笑いをしながらそう言うと。


「な、なに呑気なこと言ってんのよ!早く私を下ろしなさいよ!」


少し怒り気味になり、ジタバタしながら俺に訴えかける。


「分かったから、暴れるな。」


俺は少女をゆっくりと地面へ下ろす。


「大丈夫か?」


「大丈夫に決まってるじゃない!別にあんたに抱えられなくても、避けられたわよ!」


どうやら、いらないお世話だったようだ。


「あんたが何者かは知らないけど、あいつは私の獲物よ!邪魔しないで!」


「邪魔するつもりはないけど、協力して戦った方がいいと思うぞ。」


「何であんたみたいな唐変木と協力しなきゃいけないのよ。」


彼女はジトッとした目つきで俺を見てくる。あまり、信用されていない証拠だな。

だが、彼女は何か考えていたのか一瞬、沈黙すると。


「・・・いいわよ。軍の連中も、全員外に退避したようだし。」


予想外にも共闘を許してくれた。


「今の私だと力不足だから・・・」


渋々と小声で何か言っているが今は目の前の事に集中しないといけないので、気にしないでおこう。


「だけど・・・とどめは私がもらうわよ。」


「了解。」


彼女と俺は剣を構え、再び魔化との戦闘に備える。


「プランはあるのか?」


「ええ、あるわよ。あんたは、奴の気をそらして逸らして、私が詠唱魔法で一瞬で終わらせるってのがあるわ。」


「・・・分かった。大体、何分もたせればいい?」


「3分よ。」


3分か・・・今の状況だと短いようで長い時間だな。だが、一気に勝負をつけるならそれくらいの詠唱時間は必要か。 それに詠唱中、彼女は無防備になるため魔化の意識を俺の方へ釘付けにさせないといけない。そうなれば、3分のエスコートは長い時間だ。


「いい?いくわよ。」


彼女はそう言うと目を閉じ何か呟き始める。地面には魔法陣が現れ彼女の周りに魔力が集まっているのが分かった。詠唱を始めたのだ。


(さて・・・俺も仕事を始めるか。)


俺は魔化へ向かって走りだす。


「ほら、こっちだ!」


刃を振るい、加減した遠距離魔法攻撃を走りながらくらわせ、奴の意識を俺へと集中させる。

すると、魔化は見事に俺の方へと喰いつき、鋭利な触手で攻撃を開始する。


「っ!?」


弓矢並みの速さだ。

切断して攻撃を防ごうと思ったが、俺はあえて右へステップをして避ける。触手は床へと突き刺さり、かなりの威力だと見分ける。

何故、切断しなかったのか・・・理由は単純だ。魔化は魔素の塊のようなもの。まだ、小さなサイズなら斬っても、少し霧状の魔素が吹き出るだけで多少問題はないのだが、人間より大きなサイズとなるとそうもいかない。

魔化は大きくなるにつれ、持久戦に持ち込まれるため、さっきのように魔化の身体の一部を斬ってるだけだと、魔素濃度が上がる一方で、状況を悪くさせる。まして、今は室内だ。これ以上、魔素を増やすと彼女の魔法でこの建物ごと吹っ飛ぶことになる。簡単に例えたら、かなりの火薬が舞っている場所に火をつけるようなものだ。

・・・と言うことは、奴に攻撃を与えず凌ぎをするしかないって事だ。


(エスコートがさらに難しくなったか・・・)


俺は抜いていた刃を鞘におさめる。


(非刃剣術は苦手なんだよな・・・)


人が相手なら対人格闘術で対処出来たが、今の相手は化け物。

俺は専門の"グラップラー(格闘家)"ではないので対攻獣格闘は無理だが、一応、剣はある。


魔化はさらに攻撃の手を強める。無数の鋭利な触手が矢のように次々とこちらに目掛けて突き刺し俺は横へ回転するように、奴の攻撃を回避した。

正直、このまま後2分耐え切るのは難しい。魔化はいつ俺に飽きて、彼女を狙うか行動が読めないのだ。理由はただ一つで、魔化には思考といったものが無く、捕食、破壊といった本能で動いている。


「はぁっ!」


鈍い音。触手を鞘で弾き、嫌な振動感が腕全体に伝わる。もう少し、鞘で充分戦える方法を学べばよかったかと後悔するも、そんな事を思っている暇はない。

戦いは常に、臨機応変・・・マニュアル通りなものなんてない。相手がどう動き、どう仕掛けてくるかの読み合いで、それは、思考がない化け物も一緒のはずだ。


・・・だが。


"ギョロッ"


(・・・!?)


突如、身体全体に不気味な寒気が走る。これは・・・嫌な予感というものだ。

魔化の無数の目・・・それは、全て、彼女の方へと向けられていた。


(まずい・・・!)


目の方向が示す意味。

俺への意識を解き、彼女へ意識を向けたのだ。


俺としたことが迂闊だった。魔化の攻撃を回避しすぎたせいか、俺と彼女がいるのは真反対の方向に来ている。


(まさか・・・)


触手の攻撃で誘われていたのは俺の方だ。彼女に対する意識の変え方・・・

奴は、最初から脅威対象を彼女と見ていたのか・・・それに、あの無数の目があれば、いつでも彼女を見ていてもおかしくはない。

これは、魔化に思考がないと思っていた俺のミスだ。


「逃げろ!!」


俺は彼女へと叫んだ瞬間、魔化は全身ごと彼女の方へと体当たりを仕掛ける。顎が裂け、それは、捕食する体制のようだ。


(どうする・・・!)


俺が全力で行っても、恐らく間に合わない。もう一度叫んでみるか?・・・いや。彼女は詠唱に集中しすぎて耳に入らないだろうし、もし気付いたところで避けれる時間がないだろう。


(助けれないのか・・・?)


どんな行動を起こそうが、彼女が助かる方法がない・・・

そう、諦めかけたが無理だ。いや、一つだけあると言った方がいい。

俺は迷わずある一人の名前を叫んだ。


「フェス!!」


軍と一緒に外へ退避したフェス。もしかしたら、届いていないかもしれない・・・って、そんなはずはないか・・・


すると、詠唱中である彼女の後ろの壁が何かに叩きつけられたかのように、破壊され瓦礫が吹っ飛ぶ。それも、彼女へ当たらないように考慮されてだ。


「フェス!そのまま、魔化をこっちに吹っ飛ばせ!」


「了解。」


俺はフェスにそう指示を出すと魔化に向かって走りだす。そしてフェスは、詠唱中の彼女の前へと立ち右手拳を握る。

魔化が彼女達に近づいた刹那。


迅吼(シュンホ)!」


魔化の身体を通り越して風圧が伝わり、フェスの強力な突き技が直撃した。

魔化にはそれを防ぐ術は無く、へこんだ身体と共に俺の方へと飛ばされる。


(ちょっと、痛いけど我慢するしかないか。)


俺は突き飛ばされた魔化を飛び越した瞬時に。


「そらっ!!」


力一杯のかかと落とし。

命中はしたが、鉄そのものを蹴った感じで普通のブーツだとかなり痛い。


「今だ!思いっきりぶつけろ!」


丁度、3分。

詠唱中だった彼女は目を見開き、こう唱えた。


「サントトラーヴォ!」


魔化が叩きつけられた地面から、複雑な魔法陣が放たれ、そこから無数の紅い雷が突き刺さる。魔素濃度も高めだったのか、詠唱魔法は容赦なく、次々と雷を繰り出し、魔化はチリも残さず消滅したのだ。



事態の収束からすぐの事だ。魔化が消滅してから建物へと入ってきた軍に拘束された俺とフェスは事情聴取を長々くやられ、しまいにはエルスノー警察署の留置所に入れられていた。しっかりとした鉄格子の鍵穴近くには刻印で"Erusuno Police Department"と 、打ってある。こうも、気にしても仕方がないことに目をやるのは暇で疲れている証拠だ。

まあ・・・どこの誰か分からない奴がいきなり、魔法を使って魔化と戦うとなれば、怪しまれて当然だ。


「悪い、フェス。お前まで巻き込んでしまって・・・」


「気にしないで・・・ユウトがそばにいればそれでいいの。」


フェスの言葉に俺は少し安心した。こればかりは、巻き込んでしまった俺に怒ったのではないかと思っていたからだ。


「でも、ユウトらしくない・・・ユウトなら、あんなミスはしない・・・」


「・・・なんでだろうな。」


そこも、俺は気にしていたところだ。冷静に考えれば、気付く事でありフェスの力に頼らずも事態は治まっていたはずだ。・・・いや、冷静に慣れてなかったからあのミスが起きたのか。


(・・・理由は分かっても、俺はまだまだだな。)


こんな調子で俺は本当に・・・


「・・・おじさんに怒られる?」


「知られたら、相当な・・・」


ガチャン!


すると、何処からか重いドアの開く音がなり、誰かがこちらへ近づく足音が鳴り響く。


「軍・・・の人じゃない。」


フェスの言うとおり、この足音は軍人ではない。結構、軽い感じがする。


足音は止まり、こちらを見つめる一人の少女。


「良かったわね、あんた達。釈放よ?」


指でクルクルと鍵を回し自慢気に話す赤髪の少女。


「ははっ・・・親切にどうも・・・」



「荷物はそれで全部よね?」


「ああ。」


俺とフェスには、それぞれリュックが一つずつ持ってある。


「感謝してよね。私が直接話したら、あっさりと釈放を認めたんだから。」


「そうだな。ありがとう・・・ええと・・・」


お礼を言いたかったが、一つ忘れていることがあった。


「・・・アリシア・スカーレット。」


彼女・・・アリシアは少し恥ずかしながら、そう名乗った。


「それじゃあ、改めてありがとうなアリシア。」


「・・・ふん。」


不機嫌ながらにプイッと顔を横に向けるアリシア。


「俺も名乗っとかないと失礼だよな・・・俺はユウトで彼女は・・・」


「フェス・・・です。」


「・・・覚える気もないけど。」


何故か、怒っていらっしゃる・・・


「照れてるんです・・・きっと。」


「て、照れてないわよ!こんな、唐変木みたいな奴に誰が照れてたまるか!」


あれ?俺、限定なのか?


「そ、それより、あんた達はこれからどうするのよ。エルスノー市に用事があるようには見えないんだけど。」


「そうだな・・・」


アリシアの言うとおり、エルスノー市には休憩で下りたため特に用といったものはない。


「"イージス"に用があるんだ。」


「"イージス"?」


イージスとは、フェイリール王国第二の都市と言われるほどの巨大な街だ。王や王女の館があり、首都に続いて経済が発展している。


「奇遇ね。私も、これからイージスに戻るのよ。」


「そうなのか?」


「ええ。良かったら、親切にイージスまで案内してあげましょうか?」


「ありがたい事なんだけど・・・問題が一つあるな。」


「何よ?」


俺はチョイっと指をある方向に差し示した。そこは、エルスノー駅で、入口手前には"封鎖中"と書かれたバリケードが立てられており軍が警備にあたっている。


「イージスに行く鉄道が動かない事だ。」


「そんな・・・」


アリシアはショックのあまりに、呆然としている。

まあ・・・ゆういつ、山を越える手段としては鉄道車が一番都合がいいため、彼女の気持ちもよく分かる。そのためか、バリケードの前には、不満を積もらした人だかりができており軍の人達も、その対応に忙しい様子だ。


「軍の人達に頼んで車で送ってもらったらどうだ?」


「送ってもらったらって・・・あんた達はどうするのよ?」


「何って・・・」


俺はフェスとお互い顔を見合わせ。


「徒歩で山を越える。」

「徒歩で山を越えます・・・」


「・・・・・・はぁ?」


衝撃的な発言だったのか、アリシアはしばらく沈黙すると、かなりの呆れ顔で俺達を見つめた。


「あんた達、正気なの!?今からあの山を越えるって言っても、イージスに着くのに何時間かかると思ってるの!?夜になるとマイナスを下回るのよ!?死ぬわよ!?」


「お、落ち着けつけって・・・」


「逆になんであんた達は落ち着いてられるのよ!」


「寒いの・・・知らないですから・・・」


「・・・・・・」


さっきの言葉より衝撃的だったのか、アリシアは口をパクパクさせながら呆然とした。正直、俺も驚いていた。


「〜・・・!あ、あんた達も軍に頼んで軍で送ってもらえばいいじゃない。」


「拘束されてたのにか?」


「そ、そうだったわね・・・」


さっきまで拘束された奴が、のこのこと"イージスまで送ってください"なんて言ったら、無言で却下されるだろうな。今や、この市の軍や警察はさっきの騒動の処理で忙しいだろうし・・・


「アリシアだけなら、何とか送ってもらえるんじゃないか?そっちは、仕事で来たんだろ?」


「そ、そうだけど・・・」


アリシアは目を瞑ると、何か悩んでるのかブツブツと小声で何か言っている。

しばらくすると・・・


「分かった・・・あんた達に着いて行くわ。」


「・・・・・・えっ?」


次は俺が衝撃を受けた。


「どうしてそうなったんだ?」


「さっき言ったでしょ?"イージスまで案内する"って。」


確かに言ってたが・・・それで、俺達に着いて行く決心に繋がったのか?


「どうせ、帝国から来たあんた達はこっちの地理なんてないだろうし。」


「うっ・・・」


確かにそれはごもっともな事だ。山を越えるくらいの道具は何とかなっていたが、地理がないとイージスに辿り着くまで何日かかることか・・・


「図星なようね。」


アリシアは勝ち誇った顔で俺達を見つめる。


「安心して。近道なら、全部頭の中に入ってるわよ?」


「すごいな・・・」


「これで、納得したかしら?」


「ああ・・・参ったよ。」


彼女の絶対的な自信を見て、俺は納得するしかなかった。


「それじゃあ・・・早速、イージスに行きましょうか。」


この時はまだ思わなかっただろう・・・


彼女との出会いが、俺の自分の運命(みち)を大きく変えるなんて・・・


「"蒼炎の魔法騎士"さん?」


第一話:赤髪の魔法騎士と蒼炎の魔法騎士END

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