7.静寂の中で
俺は
住宅街を少し奥に入り、
目の前に見えた家の、
塀にもたれかかった。
どこかの知らない家。
冬の風に冷やされた塀は、
酒で温まった俺の体を冷やすのに、
ちょうどいい温度だった。
体の熱という熱が、
その塀の中に吸い込まれていくようだった。
「あ〜気持ちいい・・・。」
風呂に浸かったオッサンのような言葉。
でも、今の俺には、
そんな言葉しか出てこなかった。
深夜の住宅街は、
静かなようで、
少し賑やかでもある。
隣に八重門町という、
大きなネオン街があるせいで、
その街の音が、
ここまで響いてるってこった。
しかし、
八重門町というところは、
いつでも、どこまでも煩い世界だ。
そんなことを思いながら、
俺は静かに眼を閉じた。
しばらくすると、
俺の耳に、
『静寂』という名の音が、
聞こえてくる。
隣のネオン街の音も、
人々のざわめく声も、
何も聞こえない。
本当の『無』の音。
俺は、
この音が大嫌いだ。
言い知れようのない、
孤独感に襲われる。
この音から逃げたくなる。
だから、
この音が聞こえたときは、
俺がこの静寂の世界から、
また、
ネオン瞬くエデンへの、
ご帰還の合図にしてる。
あそこなら煩すぎて、
何もかも忘れられるからだ。
俺は重い体を起こし、
ゆっくり立ち上がろうとした。
その時だった。
俺に向かってくる、
足早な足音と、
やわらかい女の声を聞いた。
「大丈夫ですか!?」
その声に驚いて、
顔を上げた。
俺の左前方には、
人が立っている。
俺は目を細めた。
光々としていて眩しい。
道の向こう側にある、
街頭が、
ちょうどその人物の真後ろにあって、
その光が逆光になっていて、
顔は全く見えなかった。
でも、さっき聞いた声と、
シルエットで、
女だということはわかった。
俺は、光が当たらないところまで、
自分で体を動かし、
女の顔を見ようとした。