5.偽善者
年老いたジジィのように、
フラついた足取りで
その場を離れた。
俺が歩くたび
俺のことを知ってるやつらが
俺を取り囲んでいく。
「トシだ。」
「大丈夫か?」
「あつ、トシちゃんよ。」
「大丈夫?あたしがついていってあげよっか?」
色んなヤツらが
ここぞとばかりに話しかけてくる。
たまに俺の体に触れようと、
手が伸びてくるが、
無言で、
それをはらいながら、
人ごみを、
かいくぐりながら、
一目散に歩き続けた。
しばらくすると、
相手にされないことを、
つまらなく思った連中は、
一人、また一人と、
俺から離れていく。
「つまんねーの。」
「せっかく話しかけてやってんのによぉ。」
「超つまんないですけど。」
「いつものトシちゃんじゃないよね〜。ほっといて行こっ。」
そんなコトバを残しながら。
やっとの思いで
八重門町から這い出たときには、
俺を取り囲むギャラリーは、
いなくなっていた。
な?
やっぱり人間ってのは、
偽善者なんだよ。
こっちが反応をしめさなかったら、
何にもしねぇ。
それって損得勘定だろうが。
本当に俺が大事だったら、
誰か一人でも、
俺についてきたはずなんだ。
そんな事を考えながら、
俺は一息ついた。
町の入り口にある、
『八重門町』という、
大きな看板を見上げて。
そして、俺は
人目を避けるように、
静まり返った、
住宅街に向かってまた歩き出した。