3.酒に弱い
「トシちゃん?大丈夫?」
俺の横では『スイーパー』のNo.3ホステス、
源氏名『ミナミ」』が、
俺の背中をさすってる。
その手は優しいと言った方がいいのか。
まるで小さな犬でも触るように、
背中を上から下へと、
何回もさすってる。
普通の男なら、
ここでかなり喜ぶんだろうが、
俺は違った。
そんなんで気分がよくなるわけでもなく、
さらに気持ち悪さが増していった。
「俺に…触るな…!」
嘔吐物が出ないようにガマンして、
一生懸命、声を出した。
でも、それも蚊の鳴くような声だけど。
そして、背中に感じてたミナミの手を、
強引にはらった。
その瞬間、
手を振り払われたことで、
ミナミが泣きそうな顔になった。
でもミナミが悲しそうな顔をしても、
俺にはそのカオが
うっとおしくてたまらない。
そんなカオをするぐらいなら、
優しくするんじゃねぇ。
この偽善者!
俺は人の親切を
こんな風に思う。
自分でも最低な男だと思うが、
それを治す気なんてねぇ。
気付くと俺の周りに人が
どんどん集まってる。
顔を上げると
まるで物珍しそうな物を見るような、
視線の集まりだ。
この界隈では俺のカオは割れてるからな。
俺様がこんな無様な格好をしているのが、
物珍しくてみんな見にきたんだろう。
野次馬根性丸出しなやつらだ。
でも何せ、この八重門町では
俺はちょっと名の知れた存在だからな。
それが俺には気持ちよくてたまらない。
人々から尊敬の眼差しを、
受けていると思うからだ。
でも、この状況では、
さすがにウザいな。
俺の横では、まだミナミがついている。
俺に言われたとおり、
俺には触れず、
ずっと心配そうな目で俺を見つめてる。
るで『待て』をされてる犬みてぇだ。
俺はミナミに言った。
「ミナミ…、水…くれ・・・。」