18.素直な気持ち
少しの間、
俺らの間に沈黙が続く。
・・・何を話したらいいんだ・・・。
ガラにもなく、
そんなことを考えていると、
彼女から声をかけた。
それも少し低い声で。
「じゃぁ、あたしはこれで。」
俺が聞いた声とは、
あまりにも違う低い声に、
一瞬怒ってるのかと思い、
うつむき姿勢から、
勢いよく顔を上げた。
すると彼女は真顔で俺を見ていた。
やっぱり怒ってんのか?
俺はガラにもなくビビってしまう。
こんなこと、
警察にもヤクザにもなかったのに。
それがただの冴えない一人の女に、
この俺様がビビらされている。
俺は何だかそれがビミョーにショックだった。
でも彼女は少しの間俺を見つめた後、
ニコッと笑った。
「やっと、目を合わせてくれましたね。」
その顔は笑っている。
むしろ、楽しんだってカンジの笑顔だ。
もしかして、カマかけられたのか?
いつもなら怒るトコだけど、
ちょっとボー然としてしまう。
「人と話をする時は、ちゃんと目を見て話せって、おばぁちゃんによく言われてたんです。でないと、その人の本当の気持ちがわからないからって・・・。」
それで、俺と目を見て話すために、
わざと怒ったフリを?
俺はちょっと納得してしまった。
同時に嬉しくもあった。
俺と目を合わせてくれる人がいることに。
なぜか彼女にだけは、
素直にコトバを聞き入れることができた。
俺は返事の代わりに、
彼女の瞳をじっと見つめていた。