16.思わぬ再会
俺も山下も、
周りの野次馬達も、
その大きな声にビックリして、
声のする方へ振り向いた。
目に映ったのは、
俺が気になっていた女だった。
彼女は人ごみを分け入って、
一歩前に出た。
そして、山下の前で立ち止まった。
「私、一部始終を見てました。この人は犯人じゃありません。」
俺も山下も驚いた。
モチロン俺とヤツの驚いた理由は、
全く違うかったけど。
山下は、焦りながら、
彼女に言った。
「でもなぁ・・・。コイツは現に財布を持ってるんですよ?お嬢さん。これが何よりの証拠ですよ。」
「でも、被害者の方は顔を見てないんでしょ?そしたら、財布を持ってるってだけで、証拠にはならないですよね?たぶん、この人が犯人じゃないってコトは、ワタシもこの周りの人達も、街にいたみんなが証明できると思うんですけど。」
彼女の言葉がスイッチになったのか、
周りから山下へ野次が飛んだ。
「そうだ!そうだ!俺見たぞ!」
「そいつは犯人じゃねぇよ!!」
その声は、ウェーブの様に辺りに広まっていく。
みんなが俺に味方してくれていた。
その光景に圧倒された山下は、
さっきまでの横暴な態度から一変、
タジタジモードになっていた。
「お・・・お前ら、警察をなめると、逮捕・・・。」
「どうぞ、公務執行妨害で逮捕してください。その代わり、冤罪で刑事さんの方が不利になると思うんですけど。」
彼女は警察を前にしても、
凛とした姿勢だった。
誰に対しても物怖じしない態度。
俺に初めて会った時と、同じだ。
「チッ!命拾いだったな、トシ!」
形勢が悪くなった山下は、
開き直りの捨て台詞を吐いて、
あわててその場を去った。
その瞬間、
ギャラリーが俺の周りに集まってくる。
「よかったねぇ!トシちゃん!!」
「やったな〜!見たか?あの刑事の顔。めちゃめちゃ気分よかったぜぇ〜。」
みんなが口々に言う。
でも、俺はみんなのことより、
彼女を探すことに必死だった。
とりあえず、俺の周りのギャラリーの中にはいねぇ。
どこだ?どこだ?
キョロキョロ辺りを見回していくと、
人ごみと人ごみの間に、
微かに彼女の姿が見えた。
俺が向かっていた道の方向へと歩いていってる。
「チョットどいてくれ。」
大波のような人ごみを掻き分け、
俺は彼女を追いかけた。
でも人と人との摩擦で、
なかなか前へ進めない。
彼女が行っちまう。
気持ちだけが逸らせた。
そして、
やっとギャラリーの波を抜けると、
彼女の背中を、
一目散に追いかけた。
彼女との距離が1メートルほどになった時、
自然に声が出た。
「待て!!」