交差点
青信号に変わったスクランブル交差点に喧騒が行き交う。その中でもすぐに目につくような少女がいた。
膝下まで伸びたブーツ、膝から上は上半身までをすっかり包む革のコート、背中側から見える、腰までまっすぐに伸びた髪。逆三角形をした隈取りの上には、そんなに良くない目付き。
その全てが、つややかに黒い。真っ白な肌が、更にそれを目立たせている。
色とりどり、老若男女が入り交じる交差点の中でさえ、その姿は目立った。並の男性すらも上回る背丈が、わらわら動く頭達の中からその鋭い目付きを飛び出させる。しかし、少々突飛な格好をした所で、誰も少女を注目しない。ちら、と一瞬見られる事が時たまある程度だ。
交差点を渡りきった少女。その後ろからふかふかした青い耳当てと手袋を付けた子どもが、人混みをかき分けて少女の背中を追いかける。その体躯は長身の少女のせいでなお小さく見えた。
「待ってよこころー」
「置いてくぞ」
こころ、と呼ばれた少女は、振り返る事もせずにこつこつ歩き続ける。
「僕さらわれちゃうよー、知らないよー?」
「ったくよー……」
訳の分からない引き留め方に悪態をつきながらくるりと振り返ったこころの身体に、その子どもは飛び込むように抱き付いてきた。
「うぎゅー」
「……何してんだ、叶人」
腰に抱き付くそれを見下ろしながら冷たく返すこころを気にも留めずに、叶人と呼ばれた子どもは楽しそうに喋る。
「いいでしょたまにはー」
「その“たまには”が何で今なんだよ……周りにも迷惑だろうが」
「だって今、したくなったんだもーん」
こころは溜め息をつきながら、顔を見上げ抱き付く叶人を無理やり手で引き離して、そして代わりに手を繋いだ。
「今はこれで我慢しろよ」
そうして叶人はにこにこと、こころは無表情のまま、人波の中で再び歩き始めた。