赤羅と千乃と美紀
ーーキーンコーンカーンコーン
ーーキーンコーンコーンカーン
どこか外れた調子のチャイムが響く…
◇◇◇
僕は、帰宅部。入りたい部活はあった。だが入らなかった。家で勉強をする訳でもなく、誰かと遊ぶ訳でもない。
勉強なんて要らねぇよ!という反抗期でもない。実際に勉強は必要だと思う。とても大事なことなんだ。
ではなぜ帰宅部かというと、僕はとあるサークルを立ち上げ、そちらの活動を主に行っているからだった。サークルなんてたまの活動でいいと思うのだが、僕のサークルは一味違い、少しでも目を離すと……
「きゃぁぁああぁあっっ!?」
…ほら、これだ。
サークル活動の拠点となる、建築したのはいいものの、買手が見つからなかった、という訳ありの真新しいビル。そこから響いた女の子の悲鳴…。
僕はさして慌てずにゆっくりと階段を登り、悲鳴が聞こえた部屋の扉を開ける。この部屋こそ僕たちのサークルの部屋。
「おー、どうした?」
「ぁっ、会長!待ってましたよぅ!会長がいないと、美紀は寂しくて寂しくて…」
「そのわりには楽しんでたみたいだけどな?僕の妹を使って」
「あは、あはははは~…。な、なんのことでしょうかぁ?みみみ、美紀にはなんのことか分かりませんわ~…」
「えぐっ、おっ、お兄ちゃぁん!このクソババアがウチのこと虐めてくる!ウチ、もう、も……。ふぇえぇええん!」
僕の妹の、千乃が大声で泣く。千乃はまだ小学生だ。それに対し、美紀はもう高校生。弱いもの虐めとは見逃せない。ましてや僕の妹となると…。こう見えて僕は正義感の強い男なんだ!自分で言うのもなんだけど。
「おい、美紀。お前さ、また千乃にコスプレさせてたのか?」
「そそそ、そんなわけないじゃないですかぁ~」
「いや、でも、千乃が自分からこんなセーラー服なんか着たがらねえだろ?コイツはフリフリのドレスしか着ようとしないんだから」
「うっ!?そそそ、そうですよ!美紀がやりました!!!べべべ別にいいじゃないですかっ!会長のその女の子みたいな顔と、千乃ちゃんの顔はそっくりで…。そう、会長に女装をさせてるような気分に!!!」
「……………」
そう、僕は顔立ちにコンプレックスがある。それは、僕の顔は女の子みたいなこと。男としてこれは随分と辛いことで、身長も低くて、こえも高い僕は、男の子っぽい女の子な見た目なのだ!街中を千乃と歩いていると、「あの姉妹よく似ていて可愛いわねぇ」という奥様方の会話や、「ねぇねぇ、そこの彼女!俺らと一緒に遊ばねぇ?」などとナンパされる始末である。
名前だけでは男か女かが分からないのも原因の一つかもしれない。
ーー僕の名前は、沙神 赤羅。男にも女にもいそうな名前。
「…う、会長!……反応しませんね、こうなったら今が女装をさせるチャンス!?」
「んなことしようとするんじゃねえ!」
美紀を小突く。
「ああ、そんな意地悪な会長もす、て、き♥でも、年上のお姉さんには敬語を使わなきゃダメですよ~??」
「は!?僕とお前は同い年だろうが!」
「あら、そうでしたっけ?だって会長ちっちゃいから…ぁぁあ!会長かわゆす!萌えぇぇえぇえ!!!多分、会長の通ってる学校で、“沙神赤羅ファンクラブ”とか作ったらきっと皆入りますよぅ…ぇへへへへ」
「美紀、なんかキモイ。いつものことだけど」
「ふふ、褒め言葉と受け取っておきますわ♥だって美紀…マゾですもの!」
「とにかくなんか美紀がキモイから僕と千乃はもう帰るからな!他のやつらも来てないみたいだし」
「ぇえ!?帰ってしまうのですか!!!?」
「ぷっ、美紀ざまあ!!独りでのたうちまわってろ!!!お兄ちゃんは渡さないからよぉ!」
「な、なんて恐ろしい娘なの…!?」
「ん?どうかしたか、二人とも」
千乃が何か言ったようだが、僕には聞こえなかった。礼儀正しい千乃のことだ。きっと挨拶でもしたんだろう。千乃は本当に良い子に育ったなぁ。
「じゃあ、クソバ…美紀お姉ちゃん!また明日!ばいばーい!」
千乃は大きく手を振ったあと、僕の腕に抱きついてきた。
美紀は硬直しているようだが大丈夫だろうか。まあ丈夫なアイツのことだ。きっと千乃に可愛い服を着せて、「僕だ!」と書いたメールを送れば明日にはまた元気にサークルへやってくるだろう。
「家に帰ったら勉強な」
「ぇー、お兄ちゃん、遊ぼうよぅ!ウチ、小学校の宿題でてないよー」
「いや、家庭学習ほど大事なものはないぞ?家に帰る前に洋服買ってってやるからさ」
「………ん」
こうして僕の一日は、特に大きな出来事もなく終わるのだった。
「ねぇねぇ、彼女!俺らと出掛けね?」
「またナンパかよ!!」
◇◇◇
一方の美紀はというと。
「ああん、会長の女装姿だわ!!可愛い、ウルトラ可愛い!!!…ってよく見たら、千乃ちゃんじゃないの!!期待させやがって!」