あなたでよかった
現在、無事に森を抜け、平野のようなところを歩いてる。
魔物の数は森を出てからは一気に減った。
ちなみに拓磨がこの世界に来てからあがった能力が“攻撃力”なのに対し、私はどうやら“回避能力”だったようで、一番危険ではない空間が瞬時に分かった。
その能力に気付いてからは、専らそこに逃げ込んでは銃で拓磨の後方支援をしている。
拓磨に「だいぶ楽になったよ」と笑われて、満更でもないあたり私も子供だと思う。
まぁ、誰だって、褒められて悪い気は、しないよね…。
とにかく、私の能力には遠距離攻撃の銃は相性がいいのかも知れない。
腕前はともかくとして。
なんにしても、私が戦い慣れてきたことと、平野に入って敵が減ったことからそこそこ余裕が出来てきた私たちは、歩きながら暇つぶしにと雑談を交わす。
『でもさ、【神様】って変なところ公平っていうか…』
それぞれちゃんと、必要最低限の道具や能力は与えてくれてるみたいだし、今のところ私たちのレベルで倒せないような理不尽な敵も出てきてないし。
首を傾げる私に、拓磨は可笑しそうに笑う。
「純粋に【ゲームマスター】やってるみたいだよね」
『…ゲームマスター?』
耳慣れない言葉に更に首を傾げれば、「こけるなよ?」なんてからかわれた。
そこまで子供じゃないよ。
っていうか首を傾げすぎて転ぶとか小学生でもやんないって。
拓磨を軽く睨めば、またいつも通りの軽い謝罪が返ってくる。
それから、彼はほんの少しだけまじめな顔をして。
「RPGってのは元々、【ゲームマスター】って人が設定やストーリーを考えて、【プレイヤー】の人が謎解きなんかをしていく、テーブルゲームだったんだよ。
【ゲームマスター】は質問されたことに“はい”か“いいえ”、もしくは“答えられない”で答えて、嘘や偽りを言ちゃいけないんだ。
まぁ最近のゲームでいうコンピューター。この【ゲーム】では調整役とかそこら辺じゃないかな?」
『へー』
今まで話してきて分かったこと。
拓磨ってすっごい物知りだ。
って言っても変な知識、要するに雑学とか呼ばれるやつがほとんどなんだけど、だからこそ話してて飽きないし、楽しい。
「でも、なんの裏もなくこんな大掛かりなことするとは考え難いよなぁ」
拓磨はやれやれとでも言いたげに肩を竦める。
『同感』
私もまぁ、それについては同じ考えなので素直に頷く。
拓磨について分かったことは、もうひとつある。
「ま、とりあえずは村行って、しばらくは仲間探しでもするか」
拓磨は、ただ能天気に笑ってる訳じゃなくて、心配したって怯えたって、不安がったって何にも変わらないことを知っているから、だから笑ってるだけだって。
『仲間…って、私たち以外の参加者のこと?』
ほんとは、色々と考えてるんだ。
それも、関係のない他人のことまで。
「あぁ。あのメモによればあと28人いるんでしょ?」
私は思う。
『まぁそうだね』
この世界で最初に出会えたのが
「こんな訳のわかんないところじゃ、協力し合うほうがいいでしょ」
彼でよかった、と。
『それはそうだけど…。みんながみんな善い人とは限らないんじゃない?』
同時にもうひとつ。
「かもね。けど、そんなことは会ってみなきゃ分かんない」
この先何があるか分からないけれど、
『確かにね…』
出来ることなら、
最後まで、彼と共にがいい、と。