分からないこと
『それにしても、この【ゲーム】を創った【神様】とやらは一体何がしたいんだろうね』
あのあと、拓磨の意外な熱血ぷりが発揮され、どうにか狙いを定めて撃てるようになりましたよ、私。
すごくない?
何が?って、拓磨のあの指導(もしくは虐待、いじめという)に耐えたことが!!
あれで私の中の拓磨のイメージが一変したよ。
だって、ほんとに容赦ないんだもん、あいつ。
しかも始終笑ってるからね?
あんなに人の笑顔に殺意がわいたのは初めてだよ。
まぁ、そんな過去の忌まわしき記憶は置いといて、今は当初の目的通り“レーナ”という村を目指して森を進んでる。
私もそこそこ自分の【武器】を扱えるようになった訳だしね。
で、道中暇なんで少し雑談を。
「さぁ?俺に聞かれてもなぁ」
あっさりと打ち切られちゃいましたけど。
『なんかさぁ、もう少し話に乗ろうよ』
暇なんだよ。退屈なんだよ。
そう零せば、拓磨は困ったように笑う。
「君はそうかもしんないけどね。俺はさっきから戦闘続きで疲れてるんだよ。
君と違って俺はほら、すごい動くからさ」
『まぁナイフだしね』
私は銃だから、あんまり動かないけど、拓磨はナイフだからすごい動くし、まだ慣れてない私のために大体の敵は倒してくれるから。
彼自身だって【武器】を手に入れてからまだそんなに経ってないはずなのに。
『拓磨ってさ、お人好しだよね。それもかなりの』
しみじみと呟けば、彼は苦笑する。
「よく言われるよ」
本当に、拓磨はお人好しだと思う。
いきなり、目が覚めたら知らない所に居て、“あなたは死にました”だなんて告げられて。
なんにも分からないで独りで、一歩外に出たら【魔物】がうようよしてて、襲われて。
私なら、もういっぱいいっぱいっだ。
他人のことになんて気が回らないし、そもそも正気を保っていられる自信もない。
きっとパニックになって、死んでいた。
私が平気だったのは、今こうして森の中を歩けているのは、拓磨が居たから。
目が覚めて、見知らぬ場所で、そこで人の声が聞こえたことが、私にも理解できるものがあったことが、どれだけ安心感を与えたか。
そして彼は名前を名乗り、足元のバックを見ろと言う。手紙を読めと言う。
訳が分からない中で私はそれらに従って、徐々にこの世界のことを理解した。
そして彼は、共に行動しようと言い、そのために戦闘の練習をしようと言い、私のサポートをしながら私の手を引いていく。
そんな義理なんて、どこにもありはしないというのに。
私を助ける理由なんて、どこにも。
なのに彼はこの手を、なんの躊躇いもなく引いていく。
それが私には、不思議だった。