練習あるのみ!
「さて、じゃぁとりあえずはこの村にでも行こうか?」
今、私と拓磨はバックの中に入っていた地図を見ながら話し合っている。
場所は変わらずに、私が目覚めた所だ。
拓磨が指差したのはここから一番近いところにある村。
地図にはご丁寧に赤丸で“スタート地点”と書かれた場所があって、私と拓磨ではその位置が違っていた。
おそらくこれはそれぞれが目覚めた場所だろう、ということで意見が一致している。
拓磨が指差した村は、地図に寄れば“レーナ”という村らしい。
別に反対する理由もなかったのでそこを目的地とした。
「さて、じゃあ早速戦闘といきますか」
『へ?』
出していた地図をしまいながら、あまりにも唐突に拓磨は言う。
いや、意味がわかんないんだけど。
思わず聞き返せば「間抜け面」と笑われた。
彼には遠慮とかないんだろうか。
『いきなり何を言い出すのさ?』
とりあえず拓磨に尋ねる。
彼は、どこから出したのか、右手でくるくると器用にナイフを弄んでいた。
っていうか危ないな。下手したら指切れるよ?
そんな私の視線に気付いたのか、拓磨は楽しそうに笑みを深めて。
「大丈夫だよ、菜月。これは俺の【武器】だから。君の銃と一緒」
そう言って一際高くナイフを放り投げると、あろうことか落ちてくるそれの“刃の部分”を素手でキャッチした。
にも関わらず、その手から紅い液体が流れ出る気配は一向になくて。
『うわー、人間じゃないね…』
素直な感想を伝えたら、可笑しそうに笑われた。
「違うって。言ったでしょ?これは菜月の銃と一緒だって。
このナイフはね、決して俺を傷つけないんだよ」
どんな仕組みかは知らないけどね、と笑いながら付け足して、拓磨はまたナイフをくるくると回しはじめる。
『便利だねぇ…』
しみじみと私が呟けば、拓磨は少しだけ真剣な眼をした。
「ん。そうだね。
だけどね、菜月。【武器】が傷つけないのは本人だけだから、このナイフで菜月を斬ることも、菜月の銃で俺を撃つこともできるんだよ?」
確認するように問われて、私は思わず眉をひそめた。
『…じゃあ例えば、私が撃つのを失敗したとして、私は傷つかないけど、拓磨は当たったら、その、死んじゃうって、こと…?』
死ぬ。
その単語を言うのに、何故か酷く躊躇いがあって。
口にしてから、やっぱり顔をしかめる。
そんな私とは対照的に、拓磨はあっけらかんと笑って。
「ま、そーゆうことだね。
尤も、急所にでも当たるか、それなりの数を撃たれない限り死にはしないと思うけどさ」
今の状況じゃあシャレにならないようなことを、平然と言う。
『笑ってる場合?』
思わずむっとして拓磨を睨めば、「わるい、わるい」とまた笑われた。
「そうだね。確かに笑い事じゃない。
だから、闘うんだよ。君が俺を殺してしまわないように。俺が君を殺してしまわないように。練習しなきゃ」
あぁ、そういうことか、と。私は納得する。
彼は彼なりに色々と考えていた訳だ。
確かに、これから二人で行動するというなら、最低限相手を傷つけない程度には、戦闘になれなきゃいけない。
戦闘は、きっと免れないだろうから。
『了解。
まぁ、拓磨が闘うって言った意味は分かったけどさ。でも私、銃なんて扱える自信皆無なんだけど』
例え撃てたとしても、狙えないならそれに意味はない。と思う。
「そこはもう、感覚で覚えるしかないっしょ。
幸い、弾に限りはないんだしね」
練習あるのみ!と、拓磨は笑った。
その笑顔がどこか楽しそうだと思ったのは、きっと気のせいなんかじゃないと思う。