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「今日限りで君を解雇する」――20年仕えた地味なメイドですが、料理も手紙も暗殺者対策も私がやっていました

掲載日:2026/08/18


「エナメル。今日限りで君を解雇する」


「まあ」


20年仕えた旦那様から、突然そう告げられました。


旦那様の隣では、メイド長が薄く笑っています。


どうやら私は、仕事をせず若いメイドへ押しつけているそうです。


……おかしいですね。


昨日の晩餐会の料理も。


応接間の準備も。


侯爵様への手紙も。


それから、屋敷へ忍び込んできた暗殺者五人を片づけたのも。


私なのですが。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


少し前。


「これでよし、と」


キュッ、キュッ。


布で椅子の肘掛けを磨く。


最後に角度を変えて確認。


うん。


きれい。


今日は旦那様にとって大切な方がいらっしゃる日。


寄親である侯爵様を招いての晩餐会だ。


少しの粗相もあってはいけない。


私はもう一度、応接間を見回した。


調度品。


問題なし。


花瓶。


問題なし。


カーテン。


問題なし。


絨毯。


問題なし。


テーブルの位置も、今日のお客様に合わせて少しだけ変えてある。


侯爵様は右足を以前の戦で痛めている。


立ち上がる際、右側に余裕があった方が楽なのだ。


「エナメル!!」


大きな声が響いた。


「何をぼさっとしているの!」


「あら」


振り返る。


そこには、この屋敷のメイド長が立っていた。


「応接間の掃除が終わったなら次は台所でしょう!今日は大切なお客様が来るのよ!」


「はい。ただいま参ります」


私は素直に頭を下げた。


メイド長は、


「まったく」


と鼻を鳴らして去っていった。


その背中を見ながら。


少しだけ昔を思い出す。


早いものね。


私がこの家に雇われてから。


もう20年になる。


そして、今のメイド長がこの屋敷へやってきたのは10年前。


まだ幼さの残る少女だった。


事情があって、親から売られるような形でこの屋敷へ奉公に出された子だった。


右も左も分からず。


いつも私の後ろをついて回っていた。


『エナメルお姉様』


『これはどうやるんですか?』


『お姉様みたいなメイドになりたいです!』


懐かしいわね。


ずいぶん可愛らしかった。


仕事も熱心だった。


だから。


私もできるだけ丁寧に教えた。


掃除。


洗濯。


料理。


食器の扱い。


来客への礼儀。


貴族家で働くメイドとして必要なことは、一通り教えたつもりだ。


けれど。


新しい奥様に気に入られ。


メイド長へ引き立てられたころから。


少しずつ。


変わっていった。


「立場を手に入れると、自分まで偉くなったような気持ちになるのかしらね」


まあ。


人にはいろいろある。


私は気にしないことにしている。


それより。


料理だ。


侯爵様は薄味がお好み。


旦那様は濃い味がお好み。


同じ料理でも盛り付ける直前に少しだけ調整しなければ。


私は台所へ向かった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「素晴らしい!」


晩餐会。


侯爵様が満足そうに笑った。


「この煮込み料理は絶品だ。以前こちらで食べたものも美味かったが、今日はさらに良い」


「まあ。ありがとうございます」


奥様が微笑む。


私たちメイドは壁際に並び。


静かに控えていた。


「この家は料理人にも恵まれているのだな」


侯爵様がそう言うと。


奥様は誇らしげに答えた。


「いえ。うちではメイド長が自ら料理を仕上げているんですよ」


「ほう!」


私は瞬きをした。


あら。


「それは素晴らしい。ぜひ挨拶をさせてくれ」


「もちろんです」


奥様に促され。


メイド長が前へ出た。


スカートをつまみ。


優雅に一礼する。


「お褒めにあずかり、光栄でございます」


「見事な腕だ」


「ありがとうございます」


メイド長が嬉しそうに笑った。


私は後ろから眺める。


あらあら。


今日の料理。


全部、私が作ったのだけれど。


まあ。


いいわ。


別に減るものではないし。


メイド長が褒められて嬉しいなら。


それで。


…………。


私は窓へ視線を向けた。


何かいる。


一人。


二人。


三人。


四人。


五人。


屋敷の外。


暗がりの中。


不自然な魔力の流れが五つ。


警護の騎士とは違う。


私は隣のメイドへ小声で言った。


「少し席を外しますね」


「え?どこ行くの?」


「ちょっと外へ」


「メイド長に怒られるわよ」


「すぐ戻りますから」


私は静かに廊下へ出た。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


屋敷の裏手。


月明かりの下に。


黒装束の男たちが五人いました。


それぞれ武器を持っている。


剣。


短剣。


弓。


あまり晩餐会に似つかわしい格好ではない。


「まあまあ」


私は声をかけた。


五人が一斉に振り返った。


「どなたでしょう?」


「何者だ!」


「あの……確認ですが、侯爵様の警護の方、ではございませんよね?」


「ではなく……旦那様のお命を狙っていらっしゃる?」


男たちは顔を見合わせた。


一人が舌打ちする。


「見られたか」


「メイド一人だ」


「不運だったな」


剣を持った男が前へ出た。


「我らを見た以上、死んでもらう」


「あら」


困りました。


晩餐会の最中なのに。


「できましたら、明日にしていただけませんか?」


「何?」


「本日は大切なお客様がいらっしゃっていますので」


「ふざけているのか!」


「いえ。本当に困っているんです」


男が剣を振り上げた。


「やれ!」


踏み込んでくる。


速い。


普通の方なら。


避けるのも難しいでしょう。


私は。


ほんの少しだけ。


身体を横へずらした。


刃が横を通り過ぎる。


「なっ!?」


男の身体には。


当然、魔力が流れている。


足へ。


腰へ。


肩へ。


腕へ。


剣を振るため。


一つの動きとして魔力が流れていく。


私は。


その腕へ触れた。


そして。


ほんの少しだけ。


流れを横へずらす。


「あ?」


男の身体が傾いた。


自分の勢いを。


自分で支えられなくなる。


くるり。


一回転。


ゴン。


「あら」


男は地面へ頭をぶつけ。


動かなくなった。


ふう、武器を使われたほうが、動作が固定されて動きが読みやすいんですけどね。


「……」


残った四人が固まった。


大丈夫。


息はある。


少し強く打っただけだ。


「何をしている!」


一人が叫ぶ。


「やれ!」


今度は短剣を持った男が飛び込んできた。


私は一歩。


前へ出た。


短剣を持つ腕に触れる。


肩へ向かう魔力をずらす。


足の魔力をほんの少し抜く。


「え?」


ふわり。


くるり。


ゴン。


二人目も地面へ転がった。


「……」


三人が黙る。


「どうされますか?」


私が尋ねると。


「ば、馬鹿な……」


男の一人が呟いた。


「こいつ……何をした?」


失礼な。


こいつとは。


「同時に行くぞ!」


三人が一斉に飛びかかってきた。


まあ。


仕方ありませんね。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ごめんください。騎士様はいらっしゃいますか?」


私は街の騎士詰め所へやってきた。


「はい。いつものエナメルです」


足元には。


黒装束の男が五人。


仲良く転がっている。


「申し訳ありません。また旦那様を狙った方々がいらっしゃいましたので」


騎士の一人が、呆れたような声を漏らした。


「またですか」


「はい」


「今月何回目です?」


「三回目ですね」


「我々の警備が甘くて申し訳ありません」


「いえいえ、そのようなことは。プロの暗殺者さんなんでしょうし」


「そのプロを5人も軽々と仕留めるなんて」


新人らしき騎士のつぶやく声が聞こえてくる。


やれやれ。


旦那様も大変ね。


今月に入って三回。


そのたびに。


私が静かに処理をしている。


どうやら、最近、寄親の侯爵様が屋敷へよく来るようになった。


事業の話だろう。


それだけ信頼が上がったと言える。


貴族社会ではそれも嫉妬の対象になる。


足を引っ張ろうという者が現れる。


現に、今月に入って旦那様を害そうという者の襲撃が増えた。


でも。


旦那様はお忙しいし。


余計な心配をかけるのも良くない。


騎士の方々に引き渡しておけば。


問題ないでしょう。


私はエプロンについた土を払った。


「急がないと」


デザートを出す時間だ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


翌朝。


私は旦那様の執務室へ呼び出された。


「エナメル」


「はい」


旦那様は難しい顔をしていた。


隣には奥様。


そして。


メイド長もいる。


メイド長は。


なぜか私を見て薄く笑っていた。


「お前には長く仕えてもらった」


「はい」


「20年だったな。私が幼いころから、この屋敷にいてくれた」


「そうですね」


「当主教育がいやで逃げ出したとき、よく匿ってくれた」


「そうですね」


「遊び相手がいなくて寂しかった時、よく遊んでくれた」


「そうですね」


「だからこそ、今まで我慢してきた」


……はい?


旦那様は机を叩いた。


「だが、もう限界だ!」


私は瞬きをした。


「君を今日限りで解雇する!」


「まあ」


「まあ、ではない」


旦那様は怒りを抑えた声だ。


「昨日も大切な侯爵様を迎えた晩餐会だというのに、ろくに仕事をしなかったと聞いている」


「……」


「料理の手伝いもせず!」


あら。


「応接間の支度も途中で放り出し!」


あらあら。


「晩餐会の最中には勝手に持ち場を離れた!」


それは。


暗殺者がいたからです。


「それだけではない」


旦那様が書類を持ち上げる。


「このところ、手紙の作成や調度品の手配まで、自分では何もせず、若いメイドたちにやらせていると聞いている!」


実際には、若いメイドたちが運んできた内容を私が確認し、最後の調整をしていたのだけれど。


私はちらりとメイド長を見た。


メイド長は微笑んでいる。


なるほど。


そういうこと。


全部。


自分の仕事にしていたのね。


昨日の料理。


応接間の準備。


調度品の手配。


来客への書簡。


旦那様がお出しになる手紙の文面。


それから。


誰にも言っていないけれど。


暗殺者の処理。


ほとんど。


私がしていた。


「エナメル」


奥様が冷たい声で言った。


「この屋敷に最も長くいるからといって、若いメイドに仕事を押し付けてはいけませんよ」


「この屋敷には、幼いころからあなたに世話になってきたメイドも多いでしょう。あなたから頼まれれば断りづらい」


「その立場を利用して仕事を押しつけるなど、許されることではありません」


「はい」


「メイド長から聞きました。最近は仕事もろくにせず、若い子たちに押しつけているそうですね」


「……」


私は。


もう一度。


メイド長を見る。


目が合った。


メイド長が。


薄く笑った。


私は。


小さく息を吐いた。


潮時。


なのかもしれない。


私はエルフだ。


人族より。


ずっと長く生きる。


そして。


歳を取る速度も違う。


20年。


人族にとっては。


長い。


幼かった子供が大人になるほどの年月。


でも。


私にとってほんのひと時だ。


そして見た目も地味だ。


地味で主張もしなければ軽く扱われやすい。


まあ。

目立たない方がメイドとしては動きやすいので、私は嫌いではないのだけれど。


そろそろ。


この屋敷にいるのも潮時なのだろう。


「承知いたしました」


私は頭を下げた。


旦那様が少し驚いた顔をした。


「……それだけか?」


「はい。長い間、お世話になりました」


「ま、待て」


「何でしょう?」


「言い訳はないのか?」


「旦那様は、もうお決めになられたのでしょう?」


「それは……」


「でしたら」


私は微笑んだ。


「メイドとして、主人の決定に従います」


20年。


長いようで短い。


楽しいこともありました。


旦那様がまだ幼かった時代。


奥様を迎えられた日。


お坊ちゃまが生まれた日。


熱を出した坊ちゃまを一晩中看病したこともありました。


いろいろありましたね。


私は。


最後に深く一礼しました。


「本当に、お世話になりました」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


荷物は。


それほど多くありませんでした。


着替え。


裁縫道具。


調理道具を少し。


それから。


長年愛用している掃除道具。


屋敷の外へ出ると。


若いメイドたちが数人いました。


そのうちの一人が言いました。


「エナメルさん」


「はい?」


「10年前は、メイド長もお世話になったらしいですけど」


「そうですね」


「今じゃ何の仕事もできない役立たずだったんですね」


「まあ」


「その地味な顔じゃ、次に雇ってくれる家もないんじゃないですか?」


「そうでしょうか」


私は自分の頬へ触れた。


地味。


確かに。


何百年経っても。


この顔は地味なままだ。


「ご心配ありがとうございます」


「べ、別に心配なんて!」


「皆さんも、お元気で」


私は屋敷へ頭を下げた。


そして。


歩き出した。


さて。


次は。


どこで雇っていただきましょう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


三日後。


「味が違う」


旦那様は眉をひそめた。


「何がでしょう?」


メイド長が尋ねた。


「このスープだ」


「いつもと同じものですが?」


「そうか?」


旦那様は首をかしげた。


少し味が濃い。


肉の臭みも残っている。


だが。


食べられないほどではない。


「まあ、いい」


その日は。


それで終わった。


一週間後。


一通の手紙が戻ってきた。


「何だこれは!」


旦那様が怒鳴った。


「取引先から、今後の取引を見直したいと返事が来たぞ!」


「そ、そんな!」


メイド長が青ざめる。


旦那様が出した手紙。


内容自体は間違っていなかった。


だが。


相手の家の格式。


過去の関係。


好む言い回し。


避けるべき表現。


それらが。


何も考慮されていなかった。


「以前はこんなこと、一度もなかったぞ!」


「申し訳ありません!」


二週間後。


屋敷へ納品された調度品に問題が起きた。


「これは違う!」


奥様が叫ぶ。


「私が頼んだものと色が違うじゃない!」


「ですが、注文書には――」


「こんな色、頼んでいません!」


以前なら。


注文前に。


エナメルが確認していた。


奥様は青みがかった緑を好む。


だが。


本人はそれをいつも「緑」としか言わない。


エナメルだけが。


それを知っていた。


三週間後。


夜。


屋敷へ賊が入った。


「きゃああああ!!」


悲鳴。


騎士たちが走り回る。


幸い。


大きな被害は出なかった。


だが。


旦那様は青い顔をしていた。


「こんなことは今まで一度もなかったぞ!」


騎士団の警備隊長が首をかしげた。


「……いえ」


「何だ?」


「実は、以前から何度か不審者は来ていたようです」


「何!?」


「騎士詰所の記録を確認したところ、何者かが毎回捕縛し、我々へ引き渡していました」


「誰だ!」


「それが……」


騎士は記録を見る。


「エナメルというメイドがいつも引き渡しの名義になっています」


「……」


旦那様が固まった。


奥様も。


メイド長も。


固まった。


「……エナメル?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


一か月後。


再び。


侯爵様が屋敷を訪れた。


晩餐会。


以前と同じ料理が並んだ。


少なくとも。


レシピ上は。


同じ料理だった。


侯爵様が一口食べる。


そして。


止まった。


「……どうした?」


「はい?」


「これは、何だ?」


旦那様が青ざめる。


「な、何か問題がございましたでしょうか」


侯爵様は困った顔をした。


「いや」


フォークを置く。


「味が、違う。不味いとまでは言わん」


メイド長の顔が強張った。


「だが、以前とはまるで違う」


「そ、そのようなはずは!」


メイド長が思わず声を上げた。


「以前とまったく同じレシピでございます!」


侯爵様の眉が動いた。


「私は料理の味ごときで怒るつもりはない」


「……」


「だからこそ、そのような冗談は笑えんぞ」


「冗談では……」


「以前とはまるで違うではないか」


メイド長の顔から。


血の気が引いた。


そんな。


レシピはある。


材料も同じ。


分量も同じ。


火にかける時間も。


書かれている通り。


なのに。


違う。


どうして。


10年前。


まだ何もできなかったころ。


エナメルに料理を教わった。


その後。


エナメルが作る料理のレシピを。


少しずつ書き写した。


だから。


エナメルさえいなくなっても。


自分がすべて再現できると思っていた。


でも。


知らなかった。


同じ肉でも。


脂の量が違う。


野菜も。


季節によって水分が違う。


火の強さも。


鍋の状態も。


食べる人間の体調も。


何もかも違う。


エナメルは。


毎日。


その違いを見て。


匂いを嗅ぎ。


触れて。


ほんの少しずつ。


変えていた。


レシピには。


書いていない。


「……申し訳ございません」


メイド長は。


震えながら頭を下げた。


侯爵様は。


深いため息をついた。


「料理だけではない」


「え?」


旦那様を見る。


「先日届いた手紙もひどかった」


旦那様の顔色が変わった。


「も、申し訳ございません」


「以前の手紙は、実に気が利いていた」


「……」


「私の立場も、こちらの事情も理解した文章だった」


侯爵様は。


静かに尋ねた。


「以前は誰が書いていた?」


誰も。


答えられなかった。


やがて。


旦那様が。


小さく呟いた。


「……エナメルだ」


料理。


手紙。


調度品。


警備。


屋敷の中の。


あちらこちら。


今まで。


当たり前に動いていたもの。


その隙間に。


エナメルがいた。


誰にも褒められず。


誰にも気づかれず。


20年間。


ずっと。


「……なぜ」


旦那様がメイド長を見た。


「なぜ私は、あいつが何もしていないなどと聞かされた?」


メイド長の身体が震えた。


「それは……」


「答えろ」


「……」


答えられなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


それから。


屋敷は。


少しずつ傾いていったという。


もちろん。


エナメル一人がいなくなっただけで。


すぐにすべてが崩壊したわけではない。


だが。


小さな失敗が増えた。


取引先が減った。


使用人同士の揉め事が増えた。


警備の費用が増えた。


奥様の失言を止める者も。


旦那様の手紙を整える者も。


料理を相手に合わせて調整する者も。


いなくなった。


そして。


長い年月をかけて築いてきた人間関係は。


少しずつ。


崩れていった。


寄親であった侯爵も。


やがて。


その家から距離を置くようになった。


数年後。

かつて栄えていたその家は。


見る影もなくなったという。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


そのころ。


エナメルは。


そんなことを。


何も知らなかった。


「ありがとうございました」


私は新しい屋敷から出て。


深く頭を下げました。


「助かったよ、エナメルさん」


「いえいえ」


一週間だけの臨時雇い。


出産を控えた奥様のいる家で。


人手が足りないというので。


少しだけお手伝いをした。


掃除。


料理。


洗濯。


赤ちゃん用品の準備。


奥様の体調管理。


それくらいだ。


「本当に、このままうちで働かないか?」


「ありがたいお話ですが」


私は笑った。


「長くお仕えできるお屋敷を探しておりますので」


「そうか。残念だ」


「ありがとうございました」


さて。


次はどこへ行きましょう。


私は。


求人の書かれた紙を広げた。


ひとつ。


気になるものがある。


住み込みメイド募集。


経験不問。


長期勤務歓迎。


まあ。


私にぴったり。


私は荷物を持ち上げた。


どんな旦那様でしょう。


どんな奥様でしょう。


良い方だと嬉しいですね。


私は今日も。


新しい主人を探して歩き出します。


だって。


私は。


メイドですから。




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