「今日限りで君を解雇する」――20年仕えた地味なメイドですが、料理も手紙も暗殺者対策も私がやっていました
「エナメル。今日限りで君を解雇する」
「まあ」
20年仕えた旦那様から、突然そう告げられました。
旦那様の隣では、メイド長が薄く笑っています。
どうやら私は、仕事をせず若いメイドへ押しつけているそうです。
……おかしいですね。
昨日の晩餐会の料理も。
応接間の準備も。
侯爵様への手紙も。
それから、屋敷へ忍び込んできた暗殺者五人を片づけたのも。
私なのですが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
少し前。
「これでよし、と」
キュッ、キュッ。
布で椅子の肘掛けを磨く。
最後に角度を変えて確認。
うん。
きれい。
今日は旦那様にとって大切な方がいらっしゃる日。
寄親である侯爵様を招いての晩餐会だ。
少しの粗相もあってはいけない。
私はもう一度、応接間を見回した。
調度品。
問題なし。
花瓶。
問題なし。
カーテン。
問題なし。
絨毯。
問題なし。
テーブルの位置も、今日のお客様に合わせて少しだけ変えてある。
侯爵様は右足を以前の戦で痛めている。
立ち上がる際、右側に余裕があった方が楽なのだ。
「エナメル!!」
大きな声が響いた。
「何をぼさっとしているの!」
「あら」
振り返る。
そこには、この屋敷のメイド長が立っていた。
「応接間の掃除が終わったなら次は台所でしょう!今日は大切なお客様が来るのよ!」
「はい。ただいま参ります」
私は素直に頭を下げた。
メイド長は、
「まったく」
と鼻を鳴らして去っていった。
その背中を見ながら。
少しだけ昔を思い出す。
早いものね。
私がこの家に雇われてから。
もう20年になる。
そして、今のメイド長がこの屋敷へやってきたのは10年前。
まだ幼さの残る少女だった。
事情があって、親から売られるような形でこの屋敷へ奉公に出された子だった。
右も左も分からず。
いつも私の後ろをついて回っていた。
『エナメルお姉様』
『これはどうやるんですか?』
『お姉様みたいなメイドになりたいです!』
懐かしいわね。
ずいぶん可愛らしかった。
仕事も熱心だった。
だから。
私もできるだけ丁寧に教えた。
掃除。
洗濯。
料理。
食器の扱い。
来客への礼儀。
貴族家で働くメイドとして必要なことは、一通り教えたつもりだ。
けれど。
新しい奥様に気に入られ。
メイド長へ引き立てられたころから。
少しずつ。
変わっていった。
「立場を手に入れると、自分まで偉くなったような気持ちになるのかしらね」
まあ。
人にはいろいろある。
私は気にしないことにしている。
それより。
料理だ。
侯爵様は薄味がお好み。
旦那様は濃い味がお好み。
同じ料理でも盛り付ける直前に少しだけ調整しなければ。
私は台所へ向かった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「素晴らしい!」
晩餐会。
侯爵様が満足そうに笑った。
「この煮込み料理は絶品だ。以前こちらで食べたものも美味かったが、今日はさらに良い」
「まあ。ありがとうございます」
奥様が微笑む。
私たちメイドは壁際に並び。
静かに控えていた。
「この家は料理人にも恵まれているのだな」
侯爵様がそう言うと。
奥様は誇らしげに答えた。
「いえ。うちではメイド長が自ら料理を仕上げているんですよ」
「ほう!」
私は瞬きをした。
あら。
「それは素晴らしい。ぜひ挨拶をさせてくれ」
「もちろんです」
奥様に促され。
メイド長が前へ出た。
スカートをつまみ。
優雅に一礼する。
「お褒めにあずかり、光栄でございます」
「見事な腕だ」
「ありがとうございます」
メイド長が嬉しそうに笑った。
私は後ろから眺める。
あらあら。
今日の料理。
全部、私が作ったのだけれど。
まあ。
いいわ。
別に減るものではないし。
メイド長が褒められて嬉しいなら。
それで。
…………。
私は窓へ視線を向けた。
何かいる。
一人。
二人。
三人。
四人。
五人。
屋敷の外。
暗がりの中。
不自然な魔力の流れが五つ。
警護の騎士とは違う。
私は隣のメイドへ小声で言った。
「少し席を外しますね」
「え?どこ行くの?」
「ちょっと外へ」
「メイド長に怒られるわよ」
「すぐ戻りますから」
私は静かに廊下へ出た。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
屋敷の裏手。
月明かりの下に。
黒装束の男たちが五人いました。
それぞれ武器を持っている。
剣。
短剣。
弓。
あまり晩餐会に似つかわしい格好ではない。
「まあまあ」
私は声をかけた。
五人が一斉に振り返った。
「どなたでしょう?」
「何者だ!」
「あの……確認ですが、侯爵様の警護の方、ではございませんよね?」
「ではなく……旦那様のお命を狙っていらっしゃる?」
男たちは顔を見合わせた。
一人が舌打ちする。
「見られたか」
「メイド一人だ」
「不運だったな」
剣を持った男が前へ出た。
「我らを見た以上、死んでもらう」
「あら」
困りました。
晩餐会の最中なのに。
「できましたら、明日にしていただけませんか?」
「何?」
「本日は大切なお客様がいらっしゃっていますので」
「ふざけているのか!」
「いえ。本当に困っているんです」
男が剣を振り上げた。
「やれ!」
踏み込んでくる。
速い。
普通の方なら。
避けるのも難しいでしょう。
私は。
ほんの少しだけ。
身体を横へずらした。
刃が横を通り過ぎる。
「なっ!?」
男の身体には。
当然、魔力が流れている。
足へ。
腰へ。
肩へ。
腕へ。
剣を振るため。
一つの動きとして魔力が流れていく。
私は。
その腕へ触れた。
そして。
ほんの少しだけ。
流れを横へずらす。
「あ?」
男の身体が傾いた。
自分の勢いを。
自分で支えられなくなる。
くるり。
一回転。
ゴン。
「あら」
男は地面へ頭をぶつけ。
動かなくなった。
ふう、武器を使われたほうが、動作が固定されて動きが読みやすいんですけどね。
「……」
残った四人が固まった。
大丈夫。
息はある。
少し強く打っただけだ。
「何をしている!」
一人が叫ぶ。
「やれ!」
今度は短剣を持った男が飛び込んできた。
私は一歩。
前へ出た。
短剣を持つ腕に触れる。
肩へ向かう魔力をずらす。
足の魔力をほんの少し抜く。
「え?」
ふわり。
くるり。
ゴン。
二人目も地面へ転がった。
「……」
三人が黙る。
「どうされますか?」
私が尋ねると。
「ば、馬鹿な……」
男の一人が呟いた。
「こいつ……何をした?」
失礼な。
こいつとは。
「同時に行くぞ!」
三人が一斉に飛びかかってきた。
まあ。
仕方ありませんね。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ごめんください。騎士様はいらっしゃいますか?」
私は街の騎士詰め所へやってきた。
「はい。いつものエナメルです」
足元には。
黒装束の男が五人。
仲良く転がっている。
「申し訳ありません。また旦那様を狙った方々がいらっしゃいましたので」
騎士の一人が、呆れたような声を漏らした。
「またですか」
「はい」
「今月何回目です?」
「三回目ですね」
「我々の警備が甘くて申し訳ありません」
「いえいえ、そのようなことは。プロの暗殺者さんなんでしょうし」
「そのプロを5人も軽々と仕留めるなんて」
新人らしき騎士のつぶやく声が聞こえてくる。
やれやれ。
旦那様も大変ね。
今月に入って三回。
そのたびに。
私が静かに処理をしている。
どうやら、最近、寄親の侯爵様が屋敷へよく来るようになった。
事業の話だろう。
それだけ信頼が上がったと言える。
貴族社会ではそれも嫉妬の対象になる。
足を引っ張ろうという者が現れる。
現に、今月に入って旦那様を害そうという者の襲撃が増えた。
でも。
旦那様はお忙しいし。
余計な心配をかけるのも良くない。
騎士の方々に引き渡しておけば。
問題ないでしょう。
私はエプロンについた土を払った。
「急がないと」
デザートを出す時間だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
翌朝。
私は旦那様の執務室へ呼び出された。
「エナメル」
「はい」
旦那様は難しい顔をしていた。
隣には奥様。
そして。
メイド長もいる。
メイド長は。
なぜか私を見て薄く笑っていた。
「お前には長く仕えてもらった」
「はい」
「20年だったな。私が幼いころから、この屋敷にいてくれた」
「そうですね」
「当主教育がいやで逃げ出したとき、よく匿ってくれた」
「そうですね」
「遊び相手がいなくて寂しかった時、よく遊んでくれた」
「そうですね」
「だからこそ、今まで我慢してきた」
……はい?
旦那様は机を叩いた。
「だが、もう限界だ!」
私は瞬きをした。
「君を今日限りで解雇する!」
「まあ」
「まあ、ではない」
旦那様は怒りを抑えた声だ。
「昨日も大切な侯爵様を迎えた晩餐会だというのに、ろくに仕事をしなかったと聞いている」
「……」
「料理の手伝いもせず!」
あら。
「応接間の支度も途中で放り出し!」
あらあら。
「晩餐会の最中には勝手に持ち場を離れた!」
それは。
暗殺者がいたからです。
「それだけではない」
旦那様が書類を持ち上げる。
「このところ、手紙の作成や調度品の手配まで、自分では何もせず、若いメイドたちにやらせていると聞いている!」
実際には、若いメイドたちが運んできた内容を私が確認し、最後の調整をしていたのだけれど。
私はちらりとメイド長を見た。
メイド長は微笑んでいる。
なるほど。
そういうこと。
全部。
自分の仕事にしていたのね。
昨日の料理。
応接間の準備。
調度品の手配。
来客への書簡。
旦那様がお出しになる手紙の文面。
それから。
誰にも言っていないけれど。
暗殺者の処理。
ほとんど。
私がしていた。
「エナメル」
奥様が冷たい声で言った。
「この屋敷に最も長くいるからといって、若いメイドに仕事を押し付けてはいけませんよ」
「この屋敷には、幼いころからあなたに世話になってきたメイドも多いでしょう。あなたから頼まれれば断りづらい」
「その立場を利用して仕事を押しつけるなど、許されることではありません」
「はい」
「メイド長から聞きました。最近は仕事もろくにせず、若い子たちに押しつけているそうですね」
「……」
私は。
もう一度。
メイド長を見る。
目が合った。
メイド長が。
薄く笑った。
私は。
小さく息を吐いた。
潮時。
なのかもしれない。
私はエルフだ。
人族より。
ずっと長く生きる。
そして。
歳を取る速度も違う。
20年。
人族にとっては。
長い。
幼かった子供が大人になるほどの年月。
でも。
私にとってほんのひと時だ。
そして見た目も地味だ。
地味で主張もしなければ軽く扱われやすい。
まあ。
目立たない方がメイドとしては動きやすいので、私は嫌いではないのだけれど。
そろそろ。
この屋敷にいるのも潮時なのだろう。
「承知いたしました」
私は頭を下げた。
旦那様が少し驚いた顔をした。
「……それだけか?」
「はい。長い間、お世話になりました」
「ま、待て」
「何でしょう?」
「言い訳はないのか?」
「旦那様は、もうお決めになられたのでしょう?」
「それは……」
「でしたら」
私は微笑んだ。
「メイドとして、主人の決定に従います」
20年。
長いようで短い。
楽しいこともありました。
旦那様がまだ幼かった時代。
奥様を迎えられた日。
お坊ちゃまが生まれた日。
熱を出した坊ちゃまを一晩中看病したこともありました。
いろいろありましたね。
私は。
最後に深く一礼しました。
「本当に、お世話になりました」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
荷物は。
それほど多くありませんでした。
着替え。
裁縫道具。
調理道具を少し。
それから。
長年愛用している掃除道具。
屋敷の外へ出ると。
若いメイドたちが数人いました。
そのうちの一人が言いました。
「エナメルさん」
「はい?」
「10年前は、メイド長もお世話になったらしいですけど」
「そうですね」
「今じゃ何の仕事もできない役立たずだったんですね」
「まあ」
「その地味な顔じゃ、次に雇ってくれる家もないんじゃないですか?」
「そうでしょうか」
私は自分の頬へ触れた。
地味。
確かに。
何百年経っても。
この顔は地味なままだ。
「ご心配ありがとうございます」
「べ、別に心配なんて!」
「皆さんも、お元気で」
私は屋敷へ頭を下げた。
そして。
歩き出した。
さて。
次は。
どこで雇っていただきましょう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
三日後。
「味が違う」
旦那様は眉をひそめた。
「何がでしょう?」
メイド長が尋ねた。
「このスープだ」
「いつもと同じものですが?」
「そうか?」
旦那様は首をかしげた。
少し味が濃い。
肉の臭みも残っている。
だが。
食べられないほどではない。
「まあ、いい」
その日は。
それで終わった。
一週間後。
一通の手紙が戻ってきた。
「何だこれは!」
旦那様が怒鳴った。
「取引先から、今後の取引を見直したいと返事が来たぞ!」
「そ、そんな!」
メイド長が青ざめる。
旦那様が出した手紙。
内容自体は間違っていなかった。
だが。
相手の家の格式。
過去の関係。
好む言い回し。
避けるべき表現。
それらが。
何も考慮されていなかった。
「以前はこんなこと、一度もなかったぞ!」
「申し訳ありません!」
二週間後。
屋敷へ納品された調度品に問題が起きた。
「これは違う!」
奥様が叫ぶ。
「私が頼んだものと色が違うじゃない!」
「ですが、注文書には――」
「こんな色、頼んでいません!」
以前なら。
注文前に。
エナメルが確認していた。
奥様は青みがかった緑を好む。
だが。
本人はそれをいつも「緑」としか言わない。
エナメルだけが。
それを知っていた。
三週間後。
夜。
屋敷へ賊が入った。
「きゃああああ!!」
悲鳴。
騎士たちが走り回る。
幸い。
大きな被害は出なかった。
だが。
旦那様は青い顔をしていた。
「こんなことは今まで一度もなかったぞ!」
騎士団の警備隊長が首をかしげた。
「……いえ」
「何だ?」
「実は、以前から何度か不審者は来ていたようです」
「何!?」
「騎士詰所の記録を確認したところ、何者かが毎回捕縛し、我々へ引き渡していました」
「誰だ!」
「それが……」
騎士は記録を見る。
「エナメルというメイドがいつも引き渡しの名義になっています」
「……」
旦那様が固まった。
奥様も。
メイド長も。
固まった。
「……エナメル?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一か月後。
再び。
侯爵様が屋敷を訪れた。
晩餐会。
以前と同じ料理が並んだ。
少なくとも。
レシピ上は。
同じ料理だった。
侯爵様が一口食べる。
そして。
止まった。
「……どうした?」
「はい?」
「これは、何だ?」
旦那様が青ざめる。
「な、何か問題がございましたでしょうか」
侯爵様は困った顔をした。
「いや」
フォークを置く。
「味が、違う。不味いとまでは言わん」
メイド長の顔が強張った。
「だが、以前とはまるで違う」
「そ、そのようなはずは!」
メイド長が思わず声を上げた。
「以前とまったく同じレシピでございます!」
侯爵様の眉が動いた。
「私は料理の味ごときで怒るつもりはない」
「……」
「だからこそ、そのような冗談は笑えんぞ」
「冗談では……」
「以前とはまるで違うではないか」
メイド長の顔から。
血の気が引いた。
そんな。
レシピはある。
材料も同じ。
分量も同じ。
火にかける時間も。
書かれている通り。
なのに。
違う。
どうして。
10年前。
まだ何もできなかったころ。
エナメルに料理を教わった。
その後。
エナメルが作る料理のレシピを。
少しずつ書き写した。
だから。
エナメルさえいなくなっても。
自分がすべて再現できると思っていた。
でも。
知らなかった。
同じ肉でも。
脂の量が違う。
野菜も。
季節によって水分が違う。
火の強さも。
鍋の状態も。
食べる人間の体調も。
何もかも違う。
エナメルは。
毎日。
その違いを見て。
匂いを嗅ぎ。
触れて。
ほんの少しずつ。
変えていた。
レシピには。
書いていない。
「……申し訳ございません」
メイド長は。
震えながら頭を下げた。
侯爵様は。
深いため息をついた。
「料理だけではない」
「え?」
旦那様を見る。
「先日届いた手紙もひどかった」
旦那様の顔色が変わった。
「も、申し訳ございません」
「以前の手紙は、実に気が利いていた」
「……」
「私の立場も、こちらの事情も理解した文章だった」
侯爵様は。
静かに尋ねた。
「以前は誰が書いていた?」
誰も。
答えられなかった。
やがて。
旦那様が。
小さく呟いた。
「……エナメルだ」
料理。
手紙。
調度品。
警備。
屋敷の中の。
あちらこちら。
今まで。
当たり前に動いていたもの。
その隙間に。
エナメルがいた。
誰にも褒められず。
誰にも気づかれず。
20年間。
ずっと。
「……なぜ」
旦那様がメイド長を見た。
「なぜ私は、あいつが何もしていないなどと聞かされた?」
メイド長の身体が震えた。
「それは……」
「答えろ」
「……」
答えられなかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
それから。
屋敷は。
少しずつ傾いていったという。
もちろん。
エナメル一人がいなくなっただけで。
すぐにすべてが崩壊したわけではない。
だが。
小さな失敗が増えた。
取引先が減った。
使用人同士の揉め事が増えた。
警備の費用が増えた。
奥様の失言を止める者も。
旦那様の手紙を整える者も。
料理を相手に合わせて調整する者も。
いなくなった。
そして。
長い年月をかけて築いてきた人間関係は。
少しずつ。
崩れていった。
寄親であった侯爵も。
やがて。
その家から距離を置くようになった。
数年後。
かつて栄えていたその家は。
見る影もなくなったという。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
そのころ。
エナメルは。
そんなことを。
何も知らなかった。
「ありがとうございました」
私は新しい屋敷から出て。
深く頭を下げました。
「助かったよ、エナメルさん」
「いえいえ」
一週間だけの臨時雇い。
出産を控えた奥様のいる家で。
人手が足りないというので。
少しだけお手伝いをした。
掃除。
料理。
洗濯。
赤ちゃん用品の準備。
奥様の体調管理。
それくらいだ。
「本当に、このままうちで働かないか?」
「ありがたいお話ですが」
私は笑った。
「長くお仕えできるお屋敷を探しておりますので」
「そうか。残念だ」
「ありがとうございました」
さて。
次はどこへ行きましょう。
私は。
求人の書かれた紙を広げた。
ひとつ。
気になるものがある。
住み込みメイド募集。
経験不問。
長期勤務歓迎。
まあ。
私にぴったり。
私は荷物を持ち上げた。
どんな旦那様でしょう。
どんな奥様でしょう。
良い方だと嬉しいですね。
私は今日も。
新しい主人を探して歩き出します。
だって。
私は。
メイドですから。




