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第014話 ひとときの並び道(3/4)

 翌日、半日ほど歩いた頃には日差しがじりじりと肌を焼くようになっていた。

 二人は道端の芝生に腰を下ろし、軽く休憩をとることにした。そよ風が吹き抜けるたび、揺れる草木の合間から爽やかな緑の香りが広がっていく。


「ふぅ。天気が良くて気持ちいいね」


 額の汗を拭いながらルィンが空を見上げると、ユーステスが少し声を落として言う。


「ああ。でも炎の国ではこうはいかないだろうな」

「どういうこと?」


 ルィンが首をかしげる。


「知らないのか? あそこは空気が乾燥していて陽射しが容赦ないんだ。もっとも、俺も街で耳にした程度なんだが」

「そうなんだ、知らなかった……」

「ま、知らないことも少しずつ覚えていけばいいさ」


 ユーステスが手を伸ばしルィンの頭を軽くぽんと叩く。ルィンは「うん!」と明るく返し、ふたりは芝生から立ち上がった。


 ――そのとき、風にまぎれてどこか遠くから誰かの叫び声が響いた。


「なんだ……!?」

「ユース、あれ!」


 ルィンが指差した先で荷馬車が何かに襲われているようだった。人の気配と黒い何かが交錯している。


「――ッ! ルィンはここで待ってろ!」

「僕も行く!」

「……わかった! 御者を頼む!」


 ユーステスは背中の槍を引き抜くと地を蹴って駆け出す。ルィンも遅れまいとその背を追った。


 荷馬車に近づくと巨大な黒い鳥が鋭い嘴でほろを突き破ろうとしていた。暴れるたびに羽ばたきが風を巻き起こし、砂埃が宙を舞う。


「うぁああ! 誰か助けてくれぇ!」

「鳥の影……!? おいッ! 鳥野郎、こっちだ!」

「大丈夫!? 助けに来たよ!」


 ルィンは御者に駆け寄り、離れたところまで連れて行く。その間ユーステスが槍を振り上げ、鳥を挑発するように立ちはだかった。

 甲高い鳴き声をあげて鳥がユーステスに襲いかかる。ユーステスは上空からの攻撃を軽やかに躱し、慎重に槍を繰り出す。

 だが、空を縦横無尽に飛び回る相手になかなか有効打が入らない。


「くそ……ちょこまかと……!」


 徐々に動きに疲れが見え始め、ユーステスの呼吸が荒くなっていく。


「ルゥ! ユースが……!」


 ルナが叫んだ瞬間――鳥の鋭い翼がユーステスの腕をかすめ深く裂いた。

 痛みに顔をしかめながらユーステスはポーチから薬瓶を取り出し、素早く傷口にふりかける。

 その隙を狙ったかのように、鳥は高く舞い上がり、そこから急降下してきた。

 風圧が襲いかかる中、ユーステスはなんとか槍を掲げて防ごうとするが、その一撃で武器ごと吹き飛ばされてしまった。体勢を立て直す間もなく、鳥は翼を広げて旋回し、再び嘴を尖らせて急襲してくる。


「危ない!」


 ルィンが叫ぶのと、ユーステスが目を閉じて身構えるのはほぼ同時だった。


 ――だが、激突の衝撃は来なかった。


 ユーステスが目を開けると、そこには水色の光を纏ったルィンの姿があった。腕から放たれた水の刃が鳥の嘴を弾き返し、斜めに裂いていた。黒い血がぽたぽたと地面に落ちていく。


「――ルィン!? お前……魔法使いだったのか……!?」


 息を呑むユーステスにルィンは短く返す。


「ユース! まずはこの鳥を倒そう!」

「ああ、そうだな……!」

「僕が引きつける! ユースは隙を見て攻撃して!」

「わかった!」


 怒り狂った鳥が羽ばたきと共に突進してくる。

 ルィンは水を纏った腕でその攻撃を受け止めながら、何とかかわしていく。滝のときのように力を溜める余裕はなく、大きな魔法を放つことはできない。だがそのぶん鳥の動きに集中して動けた。


「ルナ、お願い!」

「ええ、任せて! 月の加護(マイス・ルーナ)!」


 ルナの魔法によりルィンの体が淡い光に包まれる。関節が滑らかに動き、攻撃が一段と鋭くなった。

 嘴、鉤爪、巨大な翼。次々に繰り出される攻撃を水の刃で受け流し、反撃の隙を突く。

 やがて鳥の動きが少しずつ鈍り始めた。鳥の意識は完全にルィンに向いていた。その間にユーステスが槍を拾い、気配を殺して距離を詰めていく。

 ルィンが翼を大きく弾き飛ばした瞬間――


「今だッ! うぉぉおお!」


 ユーステスの叫びと共に鋭く放たれた槍が鳥の首元を貫いた。陽の光を受けて輝いた刃は、鳥を一気に貫通し、黒い体を引き裂いた。

 断末魔のような鳴き声を上げて、影は黒い煙となって空へと溶け、消えていった。


「よしっ!」


 ルィンはすぐさまユーステスのもとへ駆け寄り、傷の具合を確認する。


「ユース! 怪我は大丈夫!?」

「ああ大丈夫だ、大した怪我じゃない。」


 ユーステスは笑って答える。動きの端々に疲れの色が滲んでいたが、それでも気丈なその姿にルィンは安心し、胸を撫で下ろした。


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