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幻想水月物語  作者: 安良木 響花
【藍の章】
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第106話 幕間の交錯

 試合を終えた白いローブの人物――アシュアが控え席へ向けて歩いてくる。試合前に去っていった姿のまま、何事もなかったかのようにその気配は静かだった。


「ルィン」

「うん」


 席の入り口ですれ違う。フードがふわりとなびき、一瞬だけその横顔が浮かんだ。絹のような肌、整った口元――見えたのはそれだけだったが、その一目だけで大地の国の“王女”――ミルグレイア姫の美しさを彷彿とさせるものだった。


「……」


 先ほどのガノフを吹き飛ばした一撃、あれは間違いなく“魔法”だった。だが、傍を通り過ぎる時もやはり魔力の気配は感じられない。ファガーのマントのようにローブが気配を遮断しているのか、自身の魔力を隠蔽する技術があるのか、あるいは、魔力そのものを持たないのか――


「何者なんだろう」

「わからないわ。でもあの魔法、只者じゃないことは確かね」


 ルィンたちの話し声を気に留める様子もなく、アシュアは奥の席に戻ると、先ほどと変わらず綺麗な姿勢のまま腰を下ろした。


「ここで一時間ほど休憩を取ります! この後の試合に向けて、選手の方々も観客席の皆様も一度、心と体をリラックスなさってください!!」


「ふう、ちょっと暇な時間ができたな」

「おうユーステス! ちょっくら前へ出て組み手しようぜ! お前とならまだ普通に戦えると思うんだよな!」

「リラックスはどこへいったんだ……まぁ、ただ待ってるよりはいいか」

「へへっ!」


 ライリーとユーステスは会場の中へと歩いて行った。観客席から「なんだなんだ?」とざわめきが起こる。


「いくぜ! 手加減は――なしだ、ぞッ!!」

「――お前相手に、手加減なんか――できるかよッ!!」


 始まる二人の戦い。エキシビションとも言えるその様子に、観客も段々と盛り上がっていく。


「はぁ、元気ね、あの二人」

「ゼルくんっ! あたしたちもやるっ!?」

「……ははっ、僕はちょっと“リラックス”しようかな……」

「そ、そう?」


 ゼルの返答に、ナヴィはたかぶる気持ちを抑え込む。

 そのとき、街の衛兵が一人廊下の奥から入ってきた。


「んっ? なんだろう」

「ルィン・アイルレーヴィ様、少しお時間よろしいでしょうか」

「僕? あ――」


 ルィンが歩いていくと、衛兵は軽くお辞儀をした。

 

「お願いしていた『結晶』のことですか?」

「はい、ご依頼の通り指定された場所へ兵を派遣したところ、アイルレーヴィ様のおっしゃっていた『結晶』と思しき物が落ちていました」

「そっか、やっぱりあったんだ――」


 衛兵は小さく頷くと続けた。


「つきましては、預かりました言伝ことづてとともに、『結晶』を王都ハイルグントのファグラー・グランレーヴィ王のもとへ届けてあります」

「わかりました。ありがとうございます」


 一礼をして去っていく兵を見送った後、フェルナリーザが疑問を浮かべた顔をした。


「ルィン、なんの話? ファグラーに言伝って?」

「うん、この前サヴィスナージャと戦ったあとに結晶を拾ったでしょ? あれと同じものがジークヴェルグのもとにもあったんじゃないかって思って、タグラーに頼んで探してもらったんだ」


 あの時は野盗のこともあり、あまり周りを気にする余裕もなかったため、その場に残されているのではとルィンは考えていた。


「なるほど、でもなんでファグラー王のもとへ?」

「僕のお父さんが最近『次元の奔流』に歪みが出てきたって話してたのは覚えてる? 里の宝石を僕が持ち出したことが関係しているかもしれないって。それで、サヴィスナージャの結晶があれば封印を敷き直せるかもしれないとも言ってたから、王城の奔流も同じかもしれないと思ってファグラー王に届けてもらったんだ」


 フェルナリーザは顎に手を触れながら神妙な顔つきをする。


「確かにルィンのお父様はそんなこと言ってたわね。……そうすると、もしかしたら闇の国も――」

「闇の国の宝石はまだ貰ってないけど、やっぱり心配?」

「そうね――でも父や里の皆なら大丈夫だと思うわ」

「そっか、頼もしい人たちなんだね」


 ルィンは言いながら、大地の国以外の各里の長の顔が浮かんだ。ルィンが宝石を預かったことで、当時は存在を知り得なかった、彼らが守っている「次元の奔流」にも亀裂が走っているかもしれない。

 けれど、余計な心配はせずとも彼らならきっと大丈夫だと、ルィンは信じていた。


「そういえば、あれからサヴィスナージャはやっぱり起きてこないの?」

「ええ、ほとんど力を失っていたみたいだから、意識が戻るまではまだかかりそうね」


 フェルナリーザは胸に手を当て、その存在を確かめようとする。


「それよりルィン――」


 フェルナリーザはルィンを見ると、めずらしく表情に高揚を含ませた笑みを浮かべた。


「ふふっ、そうだね、フェリも楽しみ?」

「そうね。今のあなたに私の力がどれほど通用するかはわからないけれど、久々に“ワクワク”という感情を思い出したわ」


 二人の視線が熱く火花を散らすかのように交差する。

 第五回戦はルィンとフェルナリーザの試合だった。


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