第103話 第二回戦
ルィンとユーステスが控え席へ戻ると、ルナとライリーが寄ってきた。
「やったったわ! ルゥ!!」
「おう、ユーステス! ルィン相手によく善戦したな! 普通に見応えあったぞ!」
「……ははっ、そう見えたのなら何よりだよ」
ユーステスは椅子に座ると、背もたれに寄りかかって大きく息を吐いた。
「ライリー、お前の試合も“見応え”があることを期待してるよ」
「任せとけ! 一発かましてやらァ!」
ライリーは肩に手を置き、腕を持ち上げて見せる。
すると、奥の部屋からフェルナリーザが音も無く現れた。
「誰に何をかますって?」
「ンッ――!?」
木製の武器を手にしたフェルナリーザはじっとライリーを見つめる。
「あ、あれだ、ようはお互い全力をぶつけ合おうって話だ……!」
「そう、楽しみね」
フェルナリーザは控え席を離れ会場の中心へと歩き出した。
「お、おい、あいつ気が早くねえか……!?」
「ライリー、フェリ姉ちゃんにガツンとぶつけてきてよ、僕までこんなところに連れてきてさ……ふぁあ――」
「お前はどっちの味方なんだ……」
ライリーはそれだけ言うと、フェルナリーザの後を追うようにその場を離れた。
控えの席にいるのは出て行った二人含め、八人。第二回戦はフェルナリーザとライリーの試合だった。
「……」
ルィンは席の片隅に座る、白いローブを顔を隠すようにして着ている人物をちらと見た。体格からして女性だろうか。魔力などの気配は感じられないが、その佇まいからは隠せていない“品”が滲み出ていた。
「ルゥ、どうしたの? 試合始まるよっ?」
「あ、うん――」
ルィンは振り返って会場に目を向けた。
――その時、ローブの人物もまた、ルィンを観察するようにじっと見返していたことに、ルィンは気付かなかった。
「っさあ!! 続いては第二回戦!! 私から選手たちを紹介いたしましょう! まず一人目は『燃える武闘家ライリー』! この大陸武闘会の常連選手でございます! 過去には優勝の経験もあり、今大会でもその活躍が期待できます!!」
「ライリーー!」
「がんばれーーっ!」
「ひっこめーーーッ!!」
「やれやれ、今回はそう甘くはないんだよなぁ」
ライリーは赤い羽のついたグローブを締め直し、小さく息を吐いた。その体には同じく赤羽があしらわれたスカーフと靴を身につけている。ルィンはそれらがベルナークから譲り受けた品だということを思い出した。
「対するのは『漆黒の剣客フェルナリーザ』! 今年は初出場の選手が多いですが、彼女もその一人! この辺りではめずらしい“刀”を用いた剣術を見せてくれそうです!!」
「ウォオオオオ――――!!」
「カワイイ――ッ!!」
「デートしてくれーーッ!」
「ルゥ、あの呼び方って誰が決めてるの?」
「うーん、登録は使う武器と名前だけだったから、あとは大会の人が決めてるんじゃない?」
「ふーん、あたしはなんだろうなっ」
「僕はなんでもいいや」
控え席の前壁に並んで寄りかかり、顔を覗かせるルィン、ナヴィ、ゼルの三人。会場が盛り上がりを見せる中、三人もまたその空気を楽しむようにして会話を交わしていた。ルナもルィンの頭の上で楽しそうに羽を揺らしている。
「さて、ライリーもこれでおしまいだな」
ユーステスも立ち上がり、試合を見届けようとそばに寄ってくる。
振り返り、控え席の奥を確認すると、先ほどのローブの人物と、もう一人、ルィンたちのグループではない大柄な男性が腕を組んで会場を見据えていた。体格や佇まいから名人とも言える気迫が伝わってくるが、彼からも魔力の類は感じられなかった。
ルィンが視線を戻すと、大きく鐘の音が響いた。
「試合開始です! ――おっと、早速フェルナリーザ選手が動きました!!」
「ちょ、ちょっ! いきなりかよっ!?」
フェルナリーザは素早く接近すると大きく踏み込み、居合の構えを取った。黒のスカートが遅れてふわっとなびく。
「はぁっ!!」
「うぉっとッ!」
ライリーは跳躍して距離を取る。
「俺に何か恨みでもあるのか!?」
「恨みはないわ、私はいつだって“全力”なだけ」
フェルナリーザは耳に髪をかけると、体の前ですっと武器を構えた。
「ははッ、そりゃあ楽しくなるな!」
今度はライリーが全身に天道の力を込めて走り出す。グローブと靴が赤く輝き、淡く熱を帯びているように見えた。
「あの装備、なんだか熱くなってるように見える……?」
「ああ、『赤炎装備』は天道の力に反応して熱を発すると言われてる。武闘家にはもってこいの武具だな」
「へぇ――」
ルィンの呟きにユーステスが返した直後、ライリーは拳に力を集中させ力強く飛び込んだ。
「熱烈拳ッ!! オラァッ!」
フェルナリーザはライリーの正拳突きを刀身で正面から受け止めた。木刀の刃の部分が当たるも、ライリーは気にせず力を緩めない。
「ウラァッ! ドラァッ――!!」
そのまま熱を込めた蹴りや拳で攻め立てるも、フェルナリーザは刀を器用に使い、涼しい顔でいなしていく。
「ゼル、フェリって天道使えないよね?」
「そうだね、闇の国は天道の修得には向いてないから」
「そうなんだ。じゃあフェリはあの赤い装備と天道を使うライリー相手に、木刀だけで戦わなくちゃいけないってことだね。ゼルはどっちが勝つと思う?」
「……まぁ十中八九フェリ姉ちゃんだろうね。だってライリーって丸腰の僕相手でも歯が立たなかったじゃん」
言いながらゼルは二人の戦いをむにゃむにゃと眠そうな目で眺める。
「確かに……?」
「フェルナリーザ選手、なんとライリー選手のあの猛攻を全て木刀で受けています!! 私でもわかります! あの武器さばき、これはとんでもない使い手だーーッ!!」
「あのねーちゃん、ライリーの攻撃が全然通用してねーぞ……!?」
「今年はどうなってんだ……?」
「カッコイイーーッ!!」
その最中、フェルナリーザの持つ木刀に小さなヒビが入ったのをルィンは見逃さなかった。
「――!」
フェルナリーザは距離を取り、手に持つ木刀に視線を落とす。その直後、それがパキッと音を立てて真っ二つに折れてしまった。
「あーっと!! なんとここでフェルナリーザ選手の武器が折れてしまったーー!! ライリー選手の熱を纏った攻撃が大きかったのでしょうか!! フェルナリーザ選手、万事休すですッ!!」
「――万事休す、ねぇ……」
ユーステスが苦笑しながら成り行きを眺める。
「ハッ! フェルナリーザ! もう武器はないぞ!! こっからは俺のターンだぜ!」
ライリーは腰に手を当て、フェルナリーザに指を向ける。
「そうかし、ら――ッ」
フェルナリーザは折れた武器を脇に捨てると、全速力でライリーに向かっていく。
「おっ!?」
フェルナリーザは即座に間合いに入ると、低い姿勢から鋭い拳を繰り出した。ライリーはそれを腕を出して受ける。続けて放たれた足払いを跳んで避けるが、そこへ跳躍の勢いを乗せた拳の突き上げが迫る。
「いっ!?」
ライリーはすんでのところで顎を引いて躱すが、フェルナリーザはそのまま空中でライリーの肩口を掴むと、宙返りをしながらライリーを投げ飛ばした。
「うわわッ――」
「な、な、なんとーーッ!! フェルナリーザ選手! 武器を失って怯むどころか、逆にライリー選手を攻め立てます!! あの刀さばきに、この華麗な体術、これはファンが増えそうだーーッ!!」
フェルナリーザは追撃の手を緩めず、着地もままならないライリーに向けて跳んでいく。
「くっ……! さすがはチビゼルの主だけあるな……!」
「……」
ルィンは隣りで空気がチリッとするのを感じたが、何も言わずに試合を眺める。
フェルナリーザの攻めは止まらない。手刀、強打、上段蹴り、足払い――全ての攻撃が的確かつ高速で、ルィンでもその勢いに息を呑むほどだった。
「おわわっ!! ちょ……っ!? うわァっ!?」
「フェルナリーザ選手の猛攻は止まりません!! ライリー選手、防戦一方です!! どんどん壁際まで押し込まれていきます!! これはもはや剣士とは思えない動きだーーッ!!」
「おわっ――!!」
ライリーが壁に背をつき、視線を前方に戻した時には、フェルナリーザの拳が顔面に迫っていた。
「――ッ!?」
ライリーはぎりぎりで体を傾ける。拳は壁にぶつかり、鈍い衝撃音とともにくぼみができ、破片が飛び散った。
ライリーは急いでその場を離れ距離を取る。
「おいおいおい……! 生身であれか!? 木刀より素手の方が強くねえか!? 殺す気なのか……!?」
「どこへ行くのかしら、“燃える武闘家ライリー”さん」
「…………!!」
フェルナリーザはすたすたと近づいていく。
控え席からでも、ライリーのゴクリと息を呑む音が聞こえてくるようだった。
「フェルナリーザ選手の恐ろしい気迫に、あのライリー選手もたじろいでおります!! 美しいが、怖い!! 目が笑っておりません!! 私も実況室で震えておりますーーッ!!」
観客席もざわつきだす。
「パンチでああなるか……? あれも“妖術”か何かか?」
「なんかライリーがかわいそう……」
「嬢ちゃんヤれーーッ!!」
「くっ……俺の天道と赤炎の攻撃は受けずに流されるし、戦い方が上手いとしか言えねえ……っ!!」
ライリーが必死に出方を探る中、フェルナリーザが再び駆け出した。
「無言で接近してくるのも怖え……っ!!」
ライリーはフェルナリーザの無言の圧に震えながらも必死に応戦する。
だがすぐに、形勢はフェルナリーザへと傾く。
「くそっ、魔法使いってのはみんなこうなのかよっ!?」
「……単にフェリがめちゃくちゃ強いだけだよね、魔法関係ないし……」
ライリーの心の叫びに、ルィンが控え席で呟き返す。
その刹那、フェルナリーザの視線が一瞬脇へ向いた――
「――なんだっ? ――うぐぁッ!!」
ライリーがつられて視線を逸らしたその刹那、隙だらけのみぞおちに鋭い蹴りが突き刺さった。体勢が揺らいだライリーの懐に潜り込むと、フェルナリーザは固く握りしめた拳を突き上げた。腹部に渾身の一撃を受けたライリーは大きく吹き飛ばされ宙を舞う。
控え席からは「あちゃあ……」という声が漏れた。
「――ぐぇっ」
そのまま背中から落下し、ピクピクと震え動かなくなった。
「いい一撃が入ったーーッ!! これは勝負アリーーッ!! 審判も判定していますが、誰が見ても決着がついたと言えるでしょうッ!! 勝者は漆黒の剣客、フェルナリーザ選手!! その華麗な体さばきはもはや“剣客”という言葉では表現できません!! なんと優勝候補だったライリー選手が手も足も出ませんでした!! 私震えておりますーーッ!!」
「ワァアア――――ッ!!」
会場がかつてない熱気に包まれる中、フェルナリーザは表情も変えず、すっと耳に髪をかけた。
「フっ、一発かませたかしら」




