第100話 二つの気配
下に降り、旅人たちが待つ場所まで行くと、ルィンは結界を解除した。
中にいた人々の間にどよめきが走った。
「お前ら! 無事だったか!」
「ライリー、こっちもみんな無事……みたいだね。よかった」
あたりを見回すと、人々は落ち着いて待機していたようだった。
「ああ、あれ以降影獣の襲撃もなかったよ。だが、そっちで何があったんだ? ここからでもお前らの向かった上空から、空気が震えるほどの凄まじい気配を感じたぞ。最後にバカでかい爆発もあったし、大丈夫だったのか?」
「うん、上にまた“竜”がいたんだ」
その言葉にライリーは体をのけぞらせた。周囲の人々からも驚きと戸惑いの声が上がる。
「竜!? さっき言ってた強大な魔力ってのは、竜だったのか……」
「うん、でも僕たちでなんとか解決したから安心して」
「お、おう、さすがだな……」
そこへタグラーが近づき、ルィンの肩に大きな手を乗せた。
「ガッハッハ! この坊主はとんでもない実力者だ! あの凶悪な化け物をたった一人で――」
そこまで言うと、タグラーはオーグのそばに横たわるシャルに気づき、真面目な表情に戻った。
「怪我人がいたか、これは早急に街へ戻る必要があるな。諸君、出発の準備をしてくれ、整い次第すぐに街へ向かう」
準備を整え、一行がその場を離れようとした刹那――
「む!」
「ルゥ、また何かくる……! でもこの感じ……」
タグラーとナヴィの反応の後、ルィンも大きな二つの気配が近づいてくるのを感じた。
そちらに目をやると、ルィンの心臓がドクンと跳ねた。近づいてくるのは見知った顔と、知っている魔力の気配――
彼らが傍までやって来ると、ルィンは目を見開いた。
「……お父さんと、ルルア――!?」
「なっ――まさかルィンか!?」
「お兄ちゃん!?」
三人は驚きの表情で顔を見合わせた。やって来たのは、以前「青の里」で再会を果たしたルィンの家族、父ダンルークと、妹のルルアだった。
「ルルアじゃない! どうしたのよ、こんなところに」
ルナがひらひらとルルアの頭の上に乗る。
「ルナも! 二人とも元気そう、だけどなんでこんなところに……?」
フェルナリーザたちは状況を呑み込めず、混乱したような表情を浮かべた。
「ルィンの……お父様と、妹さん?」
「うん、僕が青の里を訪ねてからそれ以来なんだけど、四年くらい前かな……?」
ルィンが思い出そうとするが、ルィンの父――ダンルークが一歩前へ出て真剣な表情を向けた。
「――それよりルィン、まずは状況を説明してくれ、ここにいたはずの『魔神竜』はどうした? ある時からぴたりと魔力を感じられなくなったが――」
「あ、サヴィスナージャは――」
ルィンが言いかけると、タグラーが手を挙げた。
「坊主、怪我人もいる、ワシらは先に行くぞ。あの化け物がいなくなってから影獣の気配が収まった。帰りはワシらだけで大丈夫だろう」
「うん、わかった。みんなを、シャルをお願いします」
「ああ、任せておけ」
タグラーは深く頷くと、人々を連れ、来た道を戻っていった。
ルィンは皆の背を見送ると、再びダンルークとルルアの方へ向き直った。
「お父さん、あの高台にいた魔神竜の『サヴィスナージャ』は僕たちが討伐したよ。今はここのフェルナリーザの眷属になったんだ」
それを聞き、ダンルークは驚愕に満ちた顔をした。
「それは本当か――!? ルィン、お前の成長ぶりには驚かされたが……奴を世界に解き放つ前に解決することができて、本当によかった――」
ダンルークはほっと息を吐いた。
「二人はサヴィスナージャのことは知っていたの?」
「いや……ルィン、お前が“魔界”のことをどれだけ知っているか私には分からないが――」
ダンルークはそこで言葉を区切ると、近くの水辺に視線を向けた。
「この話は少し長くなる。戦闘の直後なんだろう、あそこの木陰で休みながらにしよう」




