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邪眼の力でS級ハンターに  作者: 他力本願
第一章:邪眼を継ぐ者
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8話「瀬早さん」

瀬早(せはや)さんがボタンを押すと、中央のガラス区画に、透明な立方体の装置がせり上がってきた。


「これは、“マナ立体変換装置”。中に流れている魔力の動きや、構造の繋がり方を正しく解析できれば、スキルの精度が確認できるんだ」


立方体の中には、微かに輝く魔力の筋がいくつも走っていた。

線は複雑に入り組み、立体の内部で螺旋や枝のように交差している。


「今から5分間、君のスキルを使って装置を“視て”もらう。

 制限時間内に、“この装置の魔力の起点”と、“流れの死点(途切れる箇所)”を記入して提出してくれればいい」


(起点と……死点……)


僕は無言で頷き、用紙とペンを受け取った。

そして、装置の前へと足を進める。


深呼吸を一つ。

僕は、視線を装置へと向けた。


──邪眼を開く。


世界が、一変した。


立方体の装置の中。

見えていたはずの淡い魔力の筋は、僕の目にはさらに細かな層に分解されて視えた。

表層の魔力回路、その裏に走る補助回線、中央にある収束点。

そして──魔力の“揺らぎ”。


(……よく視える……)


脳に直接情報が流れ込んでくるような感覚。

構造が“読める”のではなく、“理解できる”。


僕は視線を辿りながら、魔力の“始まり”──装置の底部に埋め込まれた球体に気づく。


そこが、起点。


そして、上部の接合点──一見、繋がっているように見えていた部分の回路は、

実は“模倣回路”。途中で途切れていて、出力を分散して誤魔化すための構造だった。


(ここが、死点……)


手が自然と動き、図面に印をつけていく。


書き終えると同時に、瀬早さんが声をかけてきた。


「時間終了。提出してもらえるかな?」


僕は用紙を渡す。


瀬早さんは、それを受け取って一瞥すると──


「……ほう。なるほど」


淡い笑みのまま、頷いた。


「君、スキルの使用歴は?」


「……まだ二、三回程度です…」


瀬早さんの眼鏡の奥の目が、ほんのわずかに細められた。

何かを測るように、僕をじっと見ている。


でも、それ以上は何も言わず、彼はまた端末に視線を戻した。


「では次。第二段階の試験に進もう。今度は、スキルの“情報読解力”を見せてもらうよ」


──次は、例の“模擬スキル映像”の解析試験。


瀬早さんは手元の端末を操作し、空間にホログラムのような魔力映像を浮かび上がらせた。

それは、あるハンターが一瞬の動作でスキルを発動する、30秒ほどの短い戦闘映像だった。


映像内の男が、地面に手をつける。

その瞬間、足元を中心に広がる影──そして、刹那のタイムラグを経て、

地面から鋭い氷柱が爆発的に噴き出した。


「──では、確認してもらうよ」


瀬早さんの声が響く。


「このスキルの“属性・発動条件・効果範囲”、可能な限り詳細に読み取って記述してほしい。

 さて、君の目にはどう映るかな?」


(……氷系の希少スキルに見えるけど…)


僕はもう一度映像を再生させ、邪眼を開いた。


「……ん?」


動作の微細な“前”──男が踏み出した足。

その靴底の内側に、極小の魔力導線が走るのが見えた。

靴が、地表の微細な魔力を吸い上げている。


(引っ掛けか…!シンプルなスキルに見せ掛けてるけど、この氷を生み出してるのはハンターが履いてる靴から)


そして、氷柱の起点。

発生位置は“地面”ではない。

明らかに──男の足元の“影”を基準に展開している。


(もしかして、……この人のスキルは、氷じゃない?)


僕は無意識に、指先で条件を整理していた。

提出の時間になり、僕は記入用紙を瀬早さんへ差し出す。


彼は受け取ると、ぱらりと目を通し──


「……っ!……ふむ」


声が、一拍遅れた。

瀬早さんの表情は変わらない。けれど、その目の奥が──明らかに“揺れた”。


「君は、“このスキルは氷属性ではない”と記載してる。理由は?」


僕は息を整えてから、素直に答えた。


「映像では地面に氷柱が出ていましたけど、

 スキルの起点は“影”です。範囲も“術者の足元の影”を中心に広がっていました」


「……なるほど」


「あと、発動の瞬間、靴底から魔力を吸い上げる導線が視えました。

 たぶん、あれは希少級の導魔装置か何か……氷属性は、スキルじゃなくてアイテムの効果だと思います」


静かな時間が流れた。


──その瞬間。


カツ、という小さな音と共に、瀬早さんの指先が机を叩いた。


「…………君、非常に興味深いね」


さっきまでとは違う。

彼の声のトーンに、うっすらと熱が滲む。


「その導魔装置、“氷擬態仕様”は現在三例しか確認されていない……にも関わらず、映像一度きりで視抜いた。

 影を範囲基準と判断できたのも、相当正確な視線追跡がなければ無理だ。

 それを……」


彼はふっと眼鏡を押し上げ、僕の目をまっすぐに見つめてきた。


「まだスキルを二、三回しか使用してないって事はかなり上級なスキルを持っているのかな?」


僕は、瀬早さんの圧に驚き1歩後ずさりした。


(……なんだかこの人怖いっ!!!)


「ふふ……なるほど……面白い、面白いよ、詩遠くん。

 これはもう……うん、予想の枠を軽く超えてきたね……!」


──瀬早さんの微笑みは、知的なまま、どこか危うい。


ほんの一瞬、ゾクリとした。


けれど彼はすぐに表情を戻し、軽く手を叩いた。


「では、最終試験へ進もう。第三段階──未知物対応テストだ」

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