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邪眼の力でS級ハンターに  作者: 他力本願
第一章:邪眼を継ぐ者
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3話「邪神と邪眼」

「退けッ!炎槍・獄火(えんそう・ごくか)──ッ!!」


大地の放った炎の槍が、ガルグ・ボーン数体を貫き、辺りを爆ぜさせた。

だが、骨はまたしても淡く光り始め、再び立ち上がる。


「くそっ……なんでだよ、なんで何度倒しても復活するッ!?」


背後では、一人、また一人と仲間が倒れていく。


「リーダー!もう持ちません!!」


「俺のスキルが効かねぇ……!」


「畜生……俺たち、死ぬのかよ……!」


──その時、大地の顔に浮かぶのは絶望ではなかった。


「……はは、そうかよ」


彼はニヤリと笑った。


「なぁ、詩遠。お前、覚醒したいんだよな?」


「──えっ?」


振り返った大地の瞳は、もはや味方に向けるものではなかった。


「“お前がここで死ねば”、あいつらの興味はそっちに向くだろ。俺がその間に逃げられる」


「……え?」


「悪いな。せいぜい、スキルでも覚醒してくれよ、死ぬ間際にさ!!」


──ドンッ!!


大地が詩遠の胸を思い切り殴り飛ばす。

瞬間、後方から放たれたネクロ・リッチの闇の槍が、詩遠の腹部をかすめるように貫いた。


「──ぐっ、あああああッッ!!」


詩遠の身体は吹き飛ばされ、石壁を破り、奥の通路へと転がり落ちていった。


──ズシャッ!


転がるように吹き飛ばされた詩遠は、荒い息を繰り返しながら石畳の上で体を起こす。

腹部の傷からじわじわと血が滲み出ている。


「っ……くそ……」


這いながら振り返った先で、彼は“それ”を見た。


大地が、逃げていた。


仲間を全て見捨てて、己の命だけを守るように走っていた。


「待て……来るな、来るなあああッ!」


だが──


──カチャカチャ、カチャ……


逃げる彼を追って、後方から無数のガルグ・ボーンが歩いてくる。


その中心に立つ《ネクロ・リッチ》の紫の魔眼が、じっと大地を見据えていた。


「──やめ、やめろッ!!」


大地の叫びは、冷たく無機質な骨の剣に遮られた。


ガルグ・ボーンたちの武器が、大地の体を容赦なく斬り裂く。

火花を散らして炎のスキルが暴発するが、それすらも次の瞬間には骨に呑まれる。


「──ッ!!」


詩遠は声も出せず、ただ呆然と見つめる。


その時、ネクロ・リッチの眼窩が“カチリ”と詩遠の方へと向いた。


(──見られた)


背筋が氷のように冷たくなる。


(次は──僕だ)


この思考が、全てを支配した。


「やだ……やだやだやだやだ……!」


詩遠は震える足で立ち上がり、傷だらけの身体を引きずりながら、反対側の暗い通路へと走り出す。


「まだ死にたくない……!」


後ろで何かが蠢く気配がする。魔力の波が、追いかけてくる。


奥へ、さらに奥へ──

その先にある何かを信じて、詩遠は闇の中へと飛び込んだ。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……っ!」


詩遠は、荒く息をつきながら通路の先へと駆け抜けていた。

背後から迫る不気味な足音と、時折響く不協和な金属音──追手がまだいることを否応なしに思い知らされる。


(どこかに……どこかに逃げ場は……!)


通路はやがて開けた空間へと繋がった。


詩遠の視界に、異様な「扉」が現れる。


石造りの空間の中で、明らかにそこだけが“浮いて”いるかのような異質な存在。


まるで彫刻のように滑らかな黒曜の材質で構成され、表面には金と紫の文様が絡み合い、脈動していた。

目のような模様が無数に浮かび上がり、見つめるたびに配列が変わっていく錯覚に陥る。


扉の中央──そこには、一つの巨大な“目”が埋め込まれていた。


虚無を見つめるような、全てを見透かすような──

“神の目”とも、“悪魔の目”とも形容できない、螺旋を描く瞳。


(これ……は……?)


恐怖と魅了が入り混じる。


詩遠の足が、自然と扉へと近づいていた。


その瞬間──


ギィ……


扉の“目”が詩遠を見返すように、ゆっくりと動いた。


脳の奥に直接語りかけてくるような、低く重い声が響く。


──「見よ。選ばれし眼、開かれん」─


扉の向こうには、深い“闇”が広がっていた。


まるで光すら拒むような、どこまでも重く、底の知れない空間。


僕は、腹を押さえながらゆっくりと一歩ずつ進む。

出血は止まっていない。視界がぼやける。


(怪我のせい……? それとも、この空間のせいか……)


そのとき、空間を満たすように“声”が響いた。


「ふむ……異界の子が、この場所に辿り着くとはな」


ゾクリ、と背筋が凍る。

ダンジョンの入口で感じた威圧とは比べものにならない。

ただ声を聞いただけなのに、僕の存在そのものが揺さぶられる。


顔を上げると、闇の奥に──巨大な“何か”がいるのが分かった。


その輪郭は曖昧で、ただ“存在している”だけなのに、認識するだけで意識が削られる。


(……言葉が……通じる?)


震える声で問いかける。


「……誰、だ……」


「私は全知全能の邪神──

クトゥル・イグルアス」


邪神。

その言葉に、僕の喉がかすかに震えた。


「……神……?」


やっとの思いで言葉を返す。


「神といっても、お前たちの世界の神とは違う。

 我は、"こちらの世界"の神である」


(……こちらの世界?)


僕たちの理解とは別の次元に、“それ”は存在している。


「お前たちの世界と我らの世界は、本来交わることのないものだった。

 だが──ある日、裂け目が開いた」


「“ダンジョン”とは、その裂け目。

 そちらの世界と、こちらの世界が偶発的に繋がった“歪み”だ」


「我らは、ただの傍観者だった。

 だが、門が開いた以上──無視するわけにはいかなくなった」


邪神の声には、感情はない。

だが、その“在り方”にはどこか、興味と愉しみが混じっているように感じた。


「私は、自らが直接そちらに干渉することはできぬ。

 代わりに、ダンジョンを通じて“スキル”や“アイテム”を送り込んだ」


「それらは、我が力の断片。

 干渉の“手段”である」


スキルやアイテム──

ダンジョンで得られる“異常な力”たち。


それらは、まさか異世界からの──


「そう。お前たちが手にする力は、“こちら”と“そちら”をつなぐ唯一の道標。

 私の干渉が届く、唯一の痕跡だ」


「だがまさか、私の居場所にまでゲートが開かれるとは思わなかった。お陰で直接向こうに干渉する手段を得た」


邪神はそう説明してくれた。

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