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邪眼の力でS級ハンターに  作者: 他力本願
第一章:邪眼を継ぐ者
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2話「未解析ダンジョン」

「こっちだ」


翌日。

僕は大地たちの言葉に乗せられるようにして、《未解析ダンジョン》へと向かっていた。


大地は、自身のB級パーティを率いて先頭を歩く。

「スキルもアイテムもないから不安かもしれないが、俺たちがついてる。戦闘は任せろ。

お前は資源の回収とか、採取系のサポートに回ってくれればいい」


人生で初めて踏み入れる“ダンジョン”。

にもかかわらず、僕は武器一つ持っていなかった。


本当にこんな状態で、大丈夫なのだろうか。


……けれど、不安を打ち消すように、ある感情が胸を満たしていた。

(僕も……このダンジョンで能力を得られるかもしれない)


淡い希望。それだけが、今の僕を支えていた。


「でも、もしそのダンジョンが“上級”だったら……?」


ポツリと漏らした僕の疑問に、大地はピクリと眉を動かした。

一瞬だけ、いつものような不機嫌そうな顔になったが──すぐに振り返り、冷静に答える。


「上級ダンジョンなら、もっと強力な魔力波──電磁反応を発する。

協会の探知網に引っかからない時点で、せいぜいE級。運が良くてC級ってとこだろ」


“そんなことも知らないのか”と言いたげな顔。

けれど、不思議と今日は手は出さなかった。


そのまま僕たちは森の奥へと分け入り、やがて──それは現れた。


赤紫の光を淡く脈動させる歪んだ空間。

そこだけ、世界から切り取られたような圧倒的な異質感。


(これが……ダンジョンの入口……)


息を飲んだ。

ただ“入口”を目にしただけなのに、全身が威圧感で包まれる。


(他の人たちは……平気なのかな。

それとも……これが、“能力を持つ者”と“持たざる者”の差……?)


気づけば視線は足元へと落ちていた。

思考に沈みかけたそのとき──


「ぼさっとすんな。行くぞ」


背後から、大地が僕の背中をぐいと押した。


(えっ、まだ……心の準備が──)


そのまま、僕は──

5人のB級パーティと共に、《未解析ダンジョン》へと足を踏み入れた。



ダンジョンゲートを通過した瞬間、全身がぐにゃりと歪むような目眩が走った。


──次の瞬間、視界が安定し、意識がはっきりと戻る。


(ここが……)


初めて足を踏み入れたダンジョン。

湧き上がってくる感情は、言葉にならなかった。


先ほどまでの緑深い森の風景はすっかり消え去り、辺りは灰色の石壁が続く“遺跡”のような構造物に変わっていた。

まるで古代文明の墓所にでも紛れ込んだようだ。


「遺跡型ダンジョンか。

このタイプなら魔石や鉱石が豊富だから、お前にはうってつけだな」


大地が軽く顎をしゃくって、奥へとパーティを誘導していく。


僕は言われるがまま、床の割れ目に生えている植物や、壁から剥き出しになった鉱石を採取していた。


(……これは、ポーションの原料にもなる“エリクサー草”。本物……初めて見た)


能力は持っていなくても、僕にはハンターへの強い憧れがあった。

そのぶん協会が公開している研究資料や、魔物・植物のデータベースは何度も何度も読み込んでいた。


だから──見分ける目は、少しだけ自信がある。


「……? あの奥……影になってる場所に、何か……」


ふと、岩陰に目がとまった。

僕は静かに、そっと近づく。


──そこにあったのは、人間の亡骸だった。


「っ……!!」


思わず息を飲み込む。

その体は半ば腐食し、朽ち果てていた。


「あー、誰か先に入ってたんだな。運がなかったんだろ」


大地は気にした様子もなく呟いたが、僕の中には拭えない違和感があった。


(おかしい……この腐敗具合。どう考えても“数日”じゃない)


大地たちはこのダンジョンを「一昨日」発見したと言っていた。

そして、協会の探知に引っかかっていない未解析ダンジョンなら、発現からそれほど時間は経っていないはず。


──だとすれば、あの亡骸は一体、いつこの中に……?


ガシャッ。


「っ……!」


突然、奥の通路から不気味な金属音が響いた。


そこに現れたのは、5体の骸骨兵。

錆びた剣と盾を持ち、空洞の眼窩に紫の炎を灯してこちらを睨みつけている。


「くっ、あれは──《ガルグ・ボーン》……!」


《ガルグ・ボーン》:遺跡型ダンジョンに出現する下級の不死系魔物。

骸骨ながらも連携と戦術を理解しており、まとまって出現した場合、B級以下では危険とされている。


ガルグ・ボーンたちの剣が、迫りくる。


「いくぞ!」


先陣を切って大地が炎を纏った拳を振るい、次々と骸骨を砕いていく。

他のメンバーも慣れた手つきで武器を振るい、瞬く間に骸骨たちは骨の山と化した。


「ふん、ザコかよ。拍子抜けだぜ」


大地が呟いたそのときだった。


──カチ、カチ、カチ……。


不穏な音を立てて、砕けた骨が動き始める。


「なっ……?」


バラバラになったガルグ・ボーンたちの骨が、淡い紫の光に包まれながら、空中で再び組み上がっていく。

瞬きする間に、元の姿へと“復活”した。


「なんだと……!?」


「ガルグ・ボーンに自己再生の能力なんて……」


困惑と緊張が広がるなか、奥の闇の中に“それ”は立っていた。


──漆黒のローブを纏い、宝石のように光る紫の魔眼を眼窩に宿した、一体の骸骨。


「お、おい……あれ……まさか……」


大地が顔を引きつらせながら声を絞り出す。


「《ネクロ・リッチ》……!」


《ネクロ・リッチ》

階級:A級以上の中位ボス魔物。

古代魔導王の魂が不死の儀式により骸骨へと堕ちた姿。

高等魔術と霊術に通じ、死者を操る支配者。討伐報告例は少なく、ギルドでも極秘指定されている存在。

通常はガルグ・ボーンを通して戦闘に介入し、自身は背後から魔力の供給を行う。全滅しても復活を繰り返し続ける。


「無理だ……ッ、あれはもうB級パーティで相手にできる存在じゃねぇ!」


「協会に連絡を──っ、通じない!?電波が……っ!」


「こんな未鑑定ダンジョンがA級以上だなんてありえねぇ!」


パーティに混乱が広がり、誰かが逃げ出した。


詩遠はその場に震えながら立ちすくむしかできない。


それでも──

(逃げなきゃ……!このままじゃ、俺も──)

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