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邪眼の力でS級ハンターに  作者: 他力本願
第一章:邪眼を継ぐ者
13/31

13話「初戦闘」

分かれ道を進み、狭い通路を抜けると、開けた空間に出た。


「……広間か。何か出そうだな」


天川さんがつぶやいた瞬間、奥の影がぐにゃりと動いた。


「──ッ! 構えて!」


崩れた柱の隙間から、灰色の毛皮に覆われた四足の獣が姿を現す。


牙を剥き、背を丸め、喉の奥から低く唸り声を上げている。


「獣系か……たぶん【クラッドウルフ】だな」


僕の視界には、すでに情報が浮かんでいた。


──対象:クラッドウルフ

──分類:獣型/群れ行動型

──脅威等級:C−

──特性:跳躍、牙による魔力感染、個体連携


「一ノ瀬さん、何体いますか?」


「……全部で三体。中サイズ、牙は毒性あり、感染の可能性があります」


「了解。じゃあ、展開するよ!」


天川さんが前へ出ると、背中の腰帯から“銀糸のような光の刃”を抜いた。

それは細く鋭利な双剣で、彼の周囲に薄く魔力が広がっていく。


「俺が引きつける! カズキ、補助結界!」


「任せてください!」


カズキ──黒髪で細身の青年が、すぐに手を組んだ。

彼のスキルは《結界制御》。空間に小型の防御陣を張ることで、攻撃を逸らす。


「防御結界、配置完了──発動!」


光の壁が天川さんの周囲に展開された。


「アラタ、火力頼む!」


「了解──ぶっ飛ばしてやるぜ!」


前へ出たのは、筋肉質で坊主頭の青年。

腕に装着した装置が魔力を吸い上げ、拳に炎を纏わせる。


スキル名は《魔焔拳(ほむらけん)》。

魔力を肉体に付加することで、破壊力を高めるタイプ。


「くらえぇっ!!」


アラタの拳がクラッドウルフの顔面に炸裂、火花と獣の咆哮が空間に響く。


「ユウト、サポート忘れるなよ!」


「言われなくても!」


ユウトは小柄な体格で、素早く動きながら魔力弾を撃ち込んでいく。

彼のスキルは《魔力導弾》──目標に自動で誘導する中距離射撃魔法。


(すごい……みんなC級なのに、連携が綺麗だ)


僕は後方から、常に周囲の構造と魔力の流れを視続けていた。


「右のクラッドウルフ、回り込んでます!」


「ナイス、一ノ瀬さん!」


「後ろ結界! カズキ、もう一枚!」


「了解っ!」


結界が展開され、跳びかかった獣が弾かれる。


天川の双剣が獣の首筋を切り裂き、アラタの拳がトドメを刺した。


「──制圧、完了!」


息を吐き、全員が警戒を解く。


「……これが、実戦か」


僕は手のひらを見つめながら、少しだけ震えた指を握った。


戦闘が終わり、空間の魔力が落ち着いたのを確認したあと、天川さんが時計を確認して口を開いた。


「ここで一旦、休憩しましょう。時間的にも中間地点ですし、魔力回復も兼ねて」


メンバーがそれぞれ腰を下ろし、携帯食や軽食を取り出し始めた。


「アラタ、今日もまた肉系ばっかじゃん。胃もたれするぞ」


「うっせ!これが一番体力戻るんだよ」


「そりゃ俺だって胃もたれしなければ肉食いてぇよ!」


「はは、ここで肉が食えるのも、俺らが稼いでる証拠だな。」


笑いながら、各自が慣れた手つきで準備を始める。


僕もリュックのサイドポケットから、保冷パックに入れたタッパーを取り出した。


フタを開けると、独特の香りが立ち上がる。

オクラ、とろろ、なめこ、きゅうり、醤油、酢、そして少しのワサビ──

まさに“自分専用の滋養強壮食”。


スプーンで混ぜながら、そっと一口。


「……んーっ…やっぱり、お酢が効いてる。疲れが取れるな」


その瞬間──空気がピタリと止まった。


「……なにそれ?」


ユウトが一番最初に声を上げた。

その表情は、まるで異星人を見るような顔。


「なんか……光ってね?いや、ヌルヌル……?」


「オクラと、とろろと、なめこ……?お前マジか」


アラタは少し引いて、カズキは顔をしかめる。


「匂い、強くない? 食事というより……処置食?」


「一ノ瀬さん、それ……いつも食べてるんですか?」


天川さんの問いに、僕はコクンと頷いた。


「はい。これがないと落ち着かなくて。脳が酸っぱさを求めるっていうか……」


「……いや、食生活に関しては自由だけどさぁ……」


「……ちょっと、尊敬するわ逆に」


メンバーたちは半分呆れ、半分本気で引いている様子だった。


でも、不思議と──誰もバカにはしなかった。


むしろ、“変わってるけど真面目なやつ”としての空気が、少しずつ場に溶け出していた。


(……変じゃない。これが僕の、いつもの朝ごはんなんだ)


僕はもう一口ネバネバをすくって、もぐもぐと食べた。


「そういえば、一ノ瀬さんって……おいくつなんですか?」


休憩中、ユウトがふと口にした。


「え?」


「いや、なんか……落ち着いてるっていうか、

 スキルを使ってるのもあるかもしれないですけど、

 さっきの罠の誘導とか、指示が的確だったんで。

 俺たちも動きやすくて助かったんですよね」


アラタとカズキもうなずいていた。


「確かに。あれで実は経験者です、って言われたら納得しちゃうかも」


僕は一瞬だけ、口の中に残ったネバネバを飲み込んで、言葉を選ぶように返した。


「……17ですけど」


──数秒の沈黙。


「……えっ?」


「じゅうなな……?」


「え、マジで? 高校生ってこと? 今年……?」


「えっ、マジで……今この場で最年少なの……?」


天川さんでさえ、少しだけ驚いたように眉を上げていた。


「そうは見えませんでした。一ノ瀬さん、かなり落ち着いてらっしゃるので」


「しかも指示、全部冷静だったし……17って、俺らより年下……!」


「……くっそ……年下に完全に仕切られたわ俺……」


「いや、それはいいんだけど……ギャップすごすぎだろ……」


僕は少しだけ肩をすくめて、小さな声で付け加えた。


「……スキルを使うと、情報が自然に入ってくるんです。

 それを伝えただけで……僕自身は、正直、まだ分からないことばかりで……」


素直な言葉だった。

でもその控えめな言葉に、天川は微かに目を細めた。


「でも、ちゃんと“伝え方”を分かってましたよ、一ノ瀬さん。

 年齢は関係ありません。実際、かなり助かってますから」


「……ありがとうございます」


なんだか初めて言われた言葉で胸が熱くなった。

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