4話 帰省
夏の大会が近づき、いよいよ実家に帰るタイミングもなくなってくるので今日は帰省することにした。念願であった恋人を連れての帰省、凱旋と言ってもいいだろう。
「付き合って2週間で実家に来てよかったんかな、大丈夫かな!?」
「大丈夫だって! ていうか梵と付き合った日から俺はずっと家族に紹介したいって思ってたし」
「うぇっ!? そ、それはマジらびゅいけど……でもー……!」
いつもとは違って臆病というかなんというか。玄関前まで来てるんだからそろそろ腹はくくっても良い頃合いだろうに。
だけどこういうところも愛おしいんだよなー。めちゃくちゃかわいいんだよなー。
「ただいまー! おーい鍵開けてくれー!」
「ちょっ、ピンポンせんの!?」
「実家でピンポンは鳴らさんだろ」
「でも心臓めっちゃバクバクいってんけど!?」
自身の胸を勢いよく指差す梵。今すぐにでも抱きしめて落ち着かせてやりたいところだが、その光景を扉を開けた家族に見られるのも恥ずかしいので出来なかった。
慌ただしく動く恋人をよそに扉がひとりでに開く。
「おかえりなさい、兄さん」
「よーっす、ただいまー彩雪」
誰が来るかと思ったが妹が出迎えてくれた。昔から変わらないツインテール、でも身長はかなり伸びている。数ヶ月で結構成長するものなんだな。
「……そちらの方は」
「俺の彼女ー。梵未那、めっちゃかわいいだろ」
「……はい」
相変わらず人見知りなやつだ。もうちょっと愛想よく振る舞ってもいいんじゃないか。そう文句を言おうとしたが、梵の方も軽く礼をしただけだったので言うのはやめた。
「オヤジらは?」
「二人とも外でお食事です」
娘放ったらかして外食とか、俺のいた頃と一切変わってねえ。彩雪も別に気にする性格じゃないってのは十分わかってるがそれでもモヤモヤする。
まぁ久しぶりに帰ってきたと思えば恋人を連れて来た兄がそれを言えたクチかどうかはわからないが。
「兄さんがいた時と変わらず、昼ご飯のお金はいただいていますのでご心配は必要ありません」
「いやお前コンビニでゼリーしか買わねーじゃん。ちゃんと食わねぇと死ぬぞ?」
「あの頃とは違います。しっかりとサラダチキンも食べています」
内面はまったく小学4年生から成長していない。いやまぁ、4年から6年になったところで劇的な成長をするかと聞かれたらしないだろうが。
「……あっ」
「ど、どうした?」
「そこの方は恋人なんですよね?」
「そうだけど……っていうか最初に言っただろ」
「そうですよね、だとしたら言いたいことが一つあるのですが……」
未那の方を向き、神妙な顔つきで確認してきた。もしや何か気に食わないところでもあったのだろうか。だとしたらそこはさすがに肉親とは言え譲れないが。
「その、お昼ごはんつくっていただけませんか? 冷蔵庫の中の物は自由に使っていいですので」
「……はぁ〜」
しかし予想と大きく違う、平和的な要望だった。安堵で息を吐いただけだったのだが、彩雪は呆れてため息をついたと勘違いしたのか弁明を始めた。
「……さすがに2年もゼリーとサラダチキンだけでは苦しいんです!」
いやそれ以外も買えよ、1日1万円なんだからだいたいのモノは買えるだろ。そうツッコもうとしたがなぜか梵の方は目を輝かせていた。
そしてさっきまで俺の背中に隠れていたのに、勢いよく飛び出し彩雪の手を握るとぶんぶんと振った。
「おけまるー! メチャウマメシつくったるから期待ハチャデカでおなしゃーす!」
「めちゃ美味飯……!」
彩雪はメチャウマメシに食いついていた。ていうかヨダレ出てるし、クールに振る舞ってるけどまだ全然子どもだな。
でも改めて考えると兄としてするべきこと、高校に上がってから全然してやれてなかったんだな。薄々思っていたがその事をはっきり自覚すると、なんとなく来るモノはある。
「もう今日は泊まっていってください! お布団は用意しますので!」
「ふぇっ!? そ、それは……」
梵はこちらに助けを求めるような顔で見てくる。
俺は即答した。
「未那、今日は泊まってけ」
梵は一瞬驚いた顔になり、すぐに顔を真っ赤にした。彩雪はそれを不思議そうに眺めていた。
俺は何も言わず、梵の頭を撫でた。
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