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3話 褒美


 今日もまた、放課後の教室で梵と席に座りながら向き合っている。今日は一緒に勉強するために残ったわけではない。ていうかテストは既に終わったし返却もされた。


 なら何故ここにいるのかというと、実は彼女の点がいかようなものなのかまだ判明していない。もし彼女が補習ともなれば2人でいる時間が減る、端的に言えば地獄だ。

 しかし梵はいかにも自信たっぷりという様子で裏返しにしたテスト用紙を携えている。これなら心配はない、たぶん。


「じゃーん、ぜんぶよんじゅー!」


 普通なら40点のテストを自信満々に見せられたら誰だって一瞬は戸惑う。この学校の最低ラインが35点なことを知っていてもそれに変わりはないだろう。

 だが梵は俺の恋人。つまり一般論より俺の考え方に基づくのが自然、それすなわち最低ラインを超えた彼女は優秀ということ。

 したらば彼女に贈られるべきなのは賛辞以外ない。


「おー、いいじゃん!」

「すごくない?ウチやっぱ地頭いんだよねー!」

「これでまだ一緒に帰れるな」

「まだってなにさー!」


 俺の肩を叩きツッコむ、元気そうでなによりだ。今日はいつもの病みモードには突入しないだろう、俺が変なことしない限り。

 なんかフラグみたいになってきたのでこれ以上はやめておこう。


「そんでミッションクリアしたからごほーびくれし」


 フラグを回収するのが早すぎる。たぶん彼女の思う恋人へのご褒美以外のものを送ったら絶対闇堕ちするだろうな。

 いやしかし、梵もよく頑張ったし褒美の要求自体は妥当この上ない。ここは恋人として、しっかり考えるのが道理というものだろう。


「ご褒美……いや、こっちが考えるから待て」


 唇を指差そうとしたので急いで止める。そっちはまだ心の準備が出来ていない。甲子園優勝とかそういうときに取っておきたい。


 だが今のでわかった、彼女が求めているのは物ではなく行為。

 それならたぶんこれが一番いい。


 手を彼女の頭にゆっくりと伸ばす。梵は不思議そうにしながらも待ち遠しいような表情でじっと俺の何かを待つ。


 ポン。


 伸ばした手は彼女の頭の上にふんわりと着地した。そして左右にゆっくり動く。彼女のセットした髪はそれといっしょに乱れていった。


「頭撫でられてもー……」

「嬉しくない?」

「めちゃ嬉しいけど。こら、やめんなし」


 だいたいの人は髪が乱れるから嫌らしいが、梵はそうじゃないらしい。嬉しそうな彼女の顔を見るとこっちも自然と頬が緩んでいく。


 それにしてもさわり心地がとてもいい、サラサラでなんだか落ち着く。コレはこっちにとってもご褒美というかなんというか……いやめちゃくちゃ気持ち悪いな俺。


「んー……もういい。これいじょーはキャパいわ、さすがに」


 彼女はニコっと笑い、伸ばしていた俺の手を優しく撫でた。途端に照れくさくなって手を引っ込めると、梵は少し名残惜しそうな表情になって……なんだか抱きしめたくなった。


「んじゃ、こっちもお礼したげるー」

「いや別にいいって、だいじょ……」


 そう制止したのもつかの間、頬に柔らかい感触。そして目の前には梵の顔しか見えなくなる。急いで引き剥がそうとした瞬間、すぐに彼女から離れていった。


「ちょっ、なに……」

「んふふー……びっくりした?」


 動揺する俺とはウラハラに、彼女はいたずらっぽくほほえんで……真っ赤になった。それこそ湯気が出てもおかしくないぐらいには。


「嬉しいっしょタイスケ?」

「……顔まっかにしながら言うセリフじゃないだろ」

「えっマジ!?ちょっ、見んなし!」

「いやだよ。おいちゃんとこっち向けって!」


 梵は顔を赤く染めながら、その顔を必死に手で隠す。だけど指の隙間からずっと俺の目を見ていた。おそらく俺が顔を見ようとしているのをやめていないか確認するために。

 相変わらず重いけど、相変わらずめっちゃかわいい。


「こんな顔、泰佑にしか見せんから。勘違いすんなよー……」

「いや、絶対に俺以外に見せんなよ。絶対に」


 なんか俺も梵につられて重くなっている気がして止まない。俺まで病んだらもうそれは……。


「わかってるし……だいすき、泰佑」


 なんかこの笑顔を見続けれるならそれはそれで悪くない気がしてきた。そうなるのも仕方がないぐらい、今の梵はらびゅい、らびゅすぎた。

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