1話 帰路
みんなはギャルといえばどういうイメージを思い浮かべるだろうか。言葉を略し、上下関係を意識した言葉遣いはせず、人付き合いは上っ面だけ。
もちろんこれらは全てが偏見だ、だがそれに対して非難する気は一切ない。現に自分も今の彼女と付き合うまではそう思っていたから。
ギャルは思っているほど悪くはない。むしろいい、ギャルだからこそいい。
ただギャル好きの人は一つ気をつけてほしい。ギャルは軽いふりしてめっちゃくちゃ重い。それはもう重い、冗談抜きで。
「泰佑ー、まだギャル友紹介してくれないのかよー」
今日も俺の警告もつゆ知らず、ギャルというだけで付き合おうとしているバカが話しかけてくる。1週間前までの自分を見ているようだ。
お前、いざ付き合ってみたらイメージと違いますーとか言って別れるんじゃねーぞ。
「いや俺だって教えてもらおうとしたよ……そしたら浮気しようとしてるって思われてめっちゃ詰められたわ……」
「うげー!ギャルってコエー!」
練習後の部室はいつも雑談が飛び交う。プライベートな話題だろうが誰も抵抗はない。着替えながら中井と小園はいつも俺に女をせびりにくる。
二人とも顔は悪くないがこういうところで評価を落としているのだろう。クラスの女子の恋バナでコイツラの名前が出てこない理由はおそらくコレだ。
野球の実力はあるが公式戦まであと4ヶ月、残念ながらそれまではコイツらにモテ期が訪れることはない。
「部活あっても毎日一緒に帰りたいってめちゃくちゃお前のこと好きじゃん!」
「カップルなら普通のことだろ、そんな言うほどじゃない」
「毎日弁当作ってくるんだろ、羨ましーなオイ!」
「栄養とか考えてるらしいからホントに助かってるよ」
それを聞いた二人は羨ましそうに目を輝かせている。これは素直に嬉しい、こっちから自慢するのは抵抗があるのでこうやってあっちから褒めてくれるとやりやすい。
こういうのって彼女のいいところを再確認できてめちゃくちゃいい時間だよなー。
「んじゃ行くわ、みんなおつかれ」
「おう、今度伊川ちゃん紹介しろよー!」
「俺は西岳さんな!」
「まぁ……考えといてやるよ」
「オッカーサマース!!!」
二人は頼むぞといった表情で軽く手を振り、一部の後輩は解読不能な別れの言葉を一斉に言う。それを尻目に俺は部室を飛び出し、急いで下駄箱まで走り出した。
学校のグラウンドは走り慣れている。下駄箱への道も野球部一の俊足の手にかかれば一瞬だ。
途中でアクシデントがない限りは。それこそ曲がり角で美女とぶつかる、だとか。
「きゃっ!」
「あっ、ゴメン!」
見慣れない女子と軽く肩同士がぶつかる。激しい衝突ではなかったが心配なので、急いで彼女の方を振り返り駆け寄る。幸い本当に肩がぶつかっただけなので彼女がコケたとかそういうのはない。
「悪い悪い、急いでて……あっ大丈夫か、怪我してない!?」
「あっ……大丈夫、です。肩がぶつかっただけなので……」
彼女はばつがわるそうに目を合わそうともせず下を向いている。垂れ下がった前髪が目を隠していた。睨みつけられてたとしても文句は言えない……いや、勝手にこんなコトを想像するのってすげぇ失礼だな。
彼女は軽く会釈し、足早に立ち去っていく。背筋がとても曲がっているのでその後ろ姿を見るだけ何か不安になった。
それにしてもグラウンドに用事があるような人には見えないけど誰か野球部に知り合いでもいるのだろうか。
「ねぇ」
「ひゃひっ!」
自分でも驚くぐらい情けない声が勝手に出た。でも本当に驚いた……昇降口で待ってるはずの彼女が物陰から現れたから。
梵未那、彼女を一発で言い表すならめっちゃかわいいギャル。髪は黒だし、ネイルはしてないし、メイクもしていないが、たしかにギャルだ。
見た目ではない、喋り方と振る舞いが間違いなくギャルなのだ。
そんな彼女はかなりお怒りなようで腕を組みながら隠しきれない殺気を放っていた。
「カノジョ置いといて他のオンナとおしゃべりって、フツーありえんくね?」
「ぶつかったから謝ってただけだって、それに長話もしてなかったでしょ?」
「ふーん、最近ミャーコと会いたいとか言ってきたり、知らん女子と話してたりさー……しょーみメンブレしても許される説ある?」
「だからそれは……俺が悪かったよ」
「ふーん、本当に悪いって思ってんならさー……」
ギュッ!
いきなり彼女が腕にしがみついてきた。体幹はある方なのでバランスを崩したりはしないが、それでも少し動揺する。
筋肉質な自分の腕とは対称的な、細く柔らかい腕が触れ柑橘系の匂いが鼻腔をくすぐる。気恥ずかしさと謎の多幸感が混ざり、なんといったらいいかわからない。
「じゅーでんさせろし」
にこっと笑う顔はとても可愛い。けれどその笑顔が束縛は彼女なりの愛情表現で、疎ましく思うべきではないという事を暗に伝えているような気がして……いたたまれない気分になった。
「そういえば今日まだ名前で呼んでなくねー」
「あぁ、うん。たしかに」
「じゃ、タイスケ」
「……ミナ」
「あっ……ヤバ、キャパいわコレ」
喋るのと同時進行でみるみるうちに赤くなっていく。余計に暑くなるだろうに、さらに密着してきた。名前呼んだだけで照れるの可愛いがすぎる。
「……タイスケ、一つだけ聞いときたいんだけどさ」
「何」
「胸って大きいほうが好き?」
「別に、小さいほうがいい」
こっちは胸の大小を気にしていないが、あっちは周りにいるのが全員巨乳なので不安らしい。だからいつもどこかのタイミングでこうやって聞いてくる。周りに人がいようと関係なく聞いてくる。
俺が浮気をしないか心配なのだろうが、そんな勇気が俺にはない事を彼女はわかっていないらしい。
「ん~~タイスケ大好き〜!」
「俺もめっちゃラビュい」
すぐに終わる恒例行事。だが間違っても興味本位で巨乳が好きなんて言ったらただじゃすまないんだろうな。
こっちも理由もなく彼女を悲しませたくないし、そんな事は起こり得ないだろうが。
「駅まで送んなくていーのに。タイスケ寮っしょ?」
「彼女を一人で帰らせるわけにもいかないだろ」
「そか、めちゃ愛しみ感じる」
いや俺は未だにお前ほどの愛を持てていない……本当ならお前に釣り合うぐらい俺も思わなきゃいけないはずなのに。
頑張るからさ、時間はかかると思うけど待ってて欲しい。絶対に追いついてやる、そしてお前に釣り合う男にもなる。
だから本当に待っていてくれ。頑張るから。
「んでさ、婚約っていつする?」
「……卒業してから、かな」
……うん、頑張る。頑張ります。




