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ななえ

紫苑が案内されたのは、第二学年上位者のみが使える会議室のような場所だった。

各学年の成績上位者は、学内で様々な特権が手に入る。

御影は、自分達が所属するグループの会議や集会所としてこの部屋を手に入れたらしい。

御影は、部屋の中に紫苑を招き入れる。


「ソファにでも座っててよ。紅茶を淹れるよ」

「あ、私が入れるわよ」


魔夜が挙手をすると、御影は紫苑の意志を確認するように見てくる。


「やらしてやってくれ。姉に仕込まれて、よくやってるから腕は保証する」

「それは、楽しみだ。僕も美少女の淹れる紅茶は、好きだからお願いしていいかな?」


ティーセットを渡し、魔夜に給湯器や茶葉の位置を教える御影。

紫苑に腕を褒められ、上機嫌の魔夜は軽い足取りで準備を始める。

御影は、魔夜を見ながら軽く笑みを浮かべると、紫苑の向かい側のソファに腰を下ろす。


「まずは、来てくれてありがとう。来てくれたってことは、話に乗ってくれたという理解でいいかな?」

「条件次第だが、少なくとも現時点で興味はある。不知火に在籍してる間に成績上位者にどうしてもなりたいのでな」

「つまり、僕の作戦勝ちだね。わざわざ、色々な生徒に情報を聞いた甲斐があったってもんだよ」


冗談めかした笑みを浮かべる御影。イヤミの感じられない爽やかな笑顔は、紫苑を内心げんなりさせる。


(イケメン様の笑顔をこうも常に見せつけられるとな…)


やりづらさを感じながらも、紫苑は話の続きを促す。


「で、どうやって順位を上げさせてくれるんだ?まさか、あんたが負けてくれるのか?」

「今回の問題が解決するなら、安い買い物だよ―――」


桜の花びらが待ったと錯覚させるような笑顔を見せる御影。

だが、その直後まやかしの花びら達は消え、肩をすくめる。


「―――と、言えるほど僕は出来た男じゃないよ。成績上位者のまま焔光の宴に参加する権利は手離したくない。君に負けたら、僕の今まで積み上げてきたキャリアが全部パーだよ」

「こうも直接言われると複雑な気分だが、その言葉を聞いて安心した。人間らしい部分が見えてホッとしたぜ」

「成績上位者になる為の色々な作業は、僕から提供するよ。こう見えて、僕は真面目なんだ。成績上位者の僕から言えば、高校側も順位を一度見直さないといけなくなる。教員陣にこういう時に顔が利くのは、成績上位者ならではだね。…と言っても僕からの推薦が無くても、この件が片付ける事に君が関与していれば、高校側も無視できなくなってるだろうけどね」


まるで、預言者のような台詞である。

それ程面倒くさい事なのか、と紫苑は考える。現時点では、胡散臭さがある一方で、かなりの興味をそそられているのも事実である。

紫苑は、何をすればいいのか尋ねる。


「俺は何を差し出せばいい?」

「学内のとある魔術師か異能者の討伐」

「はぁ?」


拍子抜けして変な声が出る紫苑。正確には、拍子抜けというより、御影の正気を疑ったの方が近いだろうか。

学内の魔術師や異能者を倒す。それは、既に紫苑と魔夜の中で確定済みだ。

成績が良くないと焔光の宴に参加出来ない以上、手っ取り早く成績上位者に名前を並べるには実力行使で選考を改めさせる他無かったからである。

そして、他学年とはいえ成績上位者である御影が、標的を指定するだろうとはいえ、他学年の生徒である紫苑と共謀して順位を上げるのは校則では禁止されていないが、かなり禁止よりのグレーだ。

紫苑が、様々な事を考えていると魔夜が二人分の紅茶と自分用と思われるお茶をトレーに載せて帰ってくる。

苦笑しながらも笑みを絶やさない御影と、真剣な表情で黙り込む紫苑を見て怪訝そうに思いながらも、魔夜はテーブルの上に紫苑達のティーカップを置く。

御影は、魔夜に一言感謝の言葉を告げると優雅な所作でティーカップを手に取り口を付ける。


「……それで、誰をやればいい?」

「『能力強奪者』」


記憶を掘り返しても、紫苑の記憶の中には魔術師や異能者の生徒に、そのような識別名や呼ばれ方をする生徒はいなかった。

御影は、ティーカップをテーブルの上に置くと、嬉しそうに言う。


「本当だ。彼女の淹れた紅茶は香りが飛んでいない。きっと教えてくれたお姉さんも相当腕が良さそうだね」

「……『能力強奪者』と言うのは誰なんだ?」

「この高校ではね……毎年この時期になると魔術師や異能者が行方不明になるんだ。居なくなる生徒の大半は自主退学。この高校は実力主義をモットーにしているからね。講義についていけない生徒達は、遅かれ早かれ去る運命になる。たまにある課外授業なんかは、危険性が高いし、君みたいに決闘をした過程で命を落としてしまうケースだってある。それに、授業料も安くないからね」

「分からないな。行方不明になって姿をくらませるくらいなら退学届けくらい出せば―――――」


紫苑は、途中で口をつぐむ。退学届けを出さない理由が分かったからだ。


「そういう事。理由があって退学届けを出せない生徒達だよ」


紫苑達が通う不知火高等学校は、日本で唯一の魔術師や異能者を専門に取り扱う学校だ。海外には不知火のような教育機関が無い国や見聞を深める為に海外から留学してくる生徒達だっている。

授業料の資金調達を個人でできる者はいいが、出来ない者には資金を援助する後ろ盾が必要である。

各国の軍部や財閥、企業などが資金を援助する事が多い。紫苑と魔夜も氷華のサポートで通わせてもらっている。

資金を援助する者達からすれば、退学届けを出そうとする生徒は裏切りに映るだろう。

裏切られた支援者はどうするかと言えば、基本的には代わりに出していた費用を取り立てる。それでも、支払えければ最悪の場合、命を狙われる可能性すらある。


「そういう生徒は、裏社会の住人達と繋がるしかない。魔術や異能を使って犯罪に手を染める事だって過去に起きてる。皮肉な事に、成績上位者以外は大抵そういう人達からの甘言に乗せられやすい。裏社会で優秀な働きアリが欲しい新たな支援者、自分を守る後ろ楯が新たに欲しい生徒達。お互いのニーズがマッチしているんだよ」

「だろうな…」


かく言う紫苑も、氷華の仕事を手伝う過程で過去に何度か汚れ仕事をしている。


「でも、今年はおかしいんだよね」


御影の声の調子が変わる。御影にしては珍しくシリアスな口調で、続きを言う。


「今まで1年単位の平均で20~30人はそういった理由で行方不明だった。でも、今年度はまだ数日しか経っていないのに50人を越えた。そして、その中に行方不明になった翌日に死亡した生徒が36人発見されてる」

「……死亡した生徒?」

「そう。単なる夜逃げにしては、あまりにも人数が多いんだよ。それに、」

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