〜チャームポイント〜
空き地に着いた。ここは、一羽が海を拾った場所だ。
「あっ言うの忘れてたけど、一羽が猫になれるのは1週間。その間人間たちの時間は止まっているんだ。だから、家には帰れない。」
「わかった。とりあえず、その手ほどきを1週間以内で覚えて、猫ライフをエンジョイする分にはいいんだよね?」こんなこと絶対今回限りだもん。楽しまなきゃね!
「そゆこと!では、さっそく手ほどき1。自分のチャームポイントを掴むべし!」
「…え!?そんなのないよー。」
「一ヶ所くらいあるでしょ?自分が自信持ってるとこだよ?」海の無邪気さが、今だけ少し憎い。
「…。私…全然ダメで…。」なんだか自分が惨めで凹む。
「自分を否定するのは良くないな。うーん…今回は急だし、オレ直々のやり方を伝授しよう!」また先生の様な威張ったしゃべり方で海が言う。
「いーい?特に野良だと、食べ物は死活問題に関わってくるから、真剣に取り組むんだ。あっ丁度良いところに、ターゲット発見!」海はタッと道の方へ走っていく。その先には、猫好きで有名なおばあちゃんがいた。海は甘えた声を出し、おばあちゃんの足にスリスリしたり、自分のお腹を出して身体をなぜてもらっている。そして最後に煮干しををもらった。すごい…本気で感心した。
「どう?オレのお手本!良かったでしょ?」自慢気に話す海。
「それと今まで何も食べてないでしょ?煮干し食べて?」おばあちゃんからもらった煮干しを持ってきてくれた。
「…あっありがと。」海の気遣いが嬉しかった。煮干しも猫になってるせいか、なんだかとてもおいしかった。
「でもさ、猫嫌いの人とかだったらどうするの?ごはんもらうどころか、いじめられるかも…。」好きな人がいれば、嫌いな人がいる。それは仕方ないことだけど、やっぱり寂しい気がする。
「ハハッそれはもう勘だね!第6感で感じるんだ。…まぁそれは冗談にしても、人間だって敵意を感じると、なんとなく近寄らないでしょ?それと一緒さ。」
「あっあとね?気になったんだけど、猫にも好みってあるの?」本当は海の好みが知りたいが、遠回しに聞くことしかできない。
「猫も外見重視のやつとか、性格重視のやつ、雌なら強さ重視のやつとか人間同様様々だね。」海は苦笑しながら言う。
「ちなみに、オレは性格重視…かな。あったかいヒトがいい…。」海が少し照れながら言う。
「そっ…か。」なんだかショックを受けている自分に気づく。
なんでこんな気持ちになるんだろ…自分の感情がなんだかわからない。
何人かの通行人を相手に練習を終えた時には、日が沈んでいた。
「よぉし!いっちゃん、だいぶ上達したね。もう寝よっか。」海はそそくさと土管の中に入る。
「…ね?このまま?」土管の中は薄暗くて(と言っても猫の目なので関係ないが)、狭くて、海の顔が間近にある。
「あたり前じゃん。」他にどうするの?とでも言いたげな海。
「あっもしかして、緊張とかしちゃってる?」ニヤニヤと笑う。
「……っ!」図星を突かれて何も言えない一羽。
「え、図星!?…でも、大丈夫だよ。だってあり得ないでしょ?オレ猫で、一羽は人間だし。」諭すように海が言う。なんとなく哀しそうなのは気のせいだろうか。
「そ…そうよね。元々こんな風に猫になっている時点であり得ないんだからっ…。」わかってる。わかってるけど、なんかやりきれない感じ。
「とりあえずさ、明日また次の手ほどきやらなきゃだから、早く寝よ。」伸びをして、海が言う。
「そうよね、おやすみ!」一羽は、今日1日驚きの連続で疲れていてすぐ眠ってしまった。
海は、そんな一羽を愛しそうに見つめて、土管から出て空を見上げる。新月なのか月は見えないが、星はたくさん輝いていた。