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彼女の彼女  作者: あだぶ
1/1

プロローグ、#1~5

初めまして、あだぶと申します。暇で暇で仕方が無いため、小説を書こうと思い、このサイトに登録しました。

以前から、暇つぶしに短編小説を書いていたことはあったのですが、今回のような連載及び長編小説を書くことは初の試みですので、至らぬ部分があるとは思われますが、お手柔らかにお願いします。

それでは、物語をお楽しみください。

プロローグ

「今すぐに君が欲しい」

そう、確かに彼女はそう言った。鋭いにも関わらず柔らかく、真っ直ぐな瞳でそう言った。一片の迷いも感じられなかった。

俺は彼女と初対面な訳で、周囲の人間が驚くのは当然のことだ。そして何より、1番驚いたのは俺だ。アイドルじゃあるまいし、いきなり初対面の人間に「君が欲しい」なんて言われて驚かない人間はいないだろう。

少々長かった驚きは、疑問に変わった。何故こんなに頭と胃と心が痛くなる状況でそんなことを言ったんだ。さらに収集がつかなくなるだろう。

それに彼女は─────。


#1

桜の花びらよりスギ花粉の方が飛び回っている春、俺は可もなく不可もない日々を過ごした、古臭い高校を卒業した。腹八分の関係だったクラスメイトとももう会うことはないだろう。俺は田んぼとザリガニだらけの田舎から出ていく。顔も覚えていない家族に捨てられた俺を、大事に育ててくれた孤児院の神父であるキリシタンのじいさんには、感謝してもしきれない。だが、じいさんの孤児院を継げるほど田舎が好きではないので、俺は都会に行って大学生になる。

「じいさん、じゃあ俺、行ってくるよ」

「何かあったらすぐに連絡しなさい、力になろう。しっかりおやり」

じいさんと別れを交わした俺はトランクケースを抱えて、都心行きの大型バスに乗った。といっても、乗客は俺一人だったが。

そして1週間後の今、俺は正直ビビり倒している。え?カタカナ多くね?インフタグラムやらチックトックやら、訳が分からない。これが都会か…都会怖いな。とは言っても、大学に通うことを決めたのは俺だ。じいさんの為にも頑張らないと。ひとまず、都会になれるためにサークルにでも入ろう。そう考えていた時、1人の生徒に声をかけられた。

「ねえ君、うちのサークルに入らない?」

「あえ、俺ですか?」

「あ、突然ごめんね、私は菊池 実。君は?」

「!?な、な中島 春です、はい」

なんだこいつ、コミュ力兵器か。怖。

「今、うちのサークルに入ってくれる人探しててさ」

「は、はぁ。でもなんで俺を?」

「暇そうだったのと、芋顔だからかな」

ストレートな失礼が飛んできた。なんだこいつ。後者は関係ないだろう。

「まあそんなことはどうでも良いや。とにかくうちのサークルに入ってくれないかな?」

悪気が無い失礼野郎だな。面倒くさいパターンだ。

「ちょうどどっかのサークルに入ってみたかったんです助かりました。それで、どんなサークルなんですか?」

「んー、行ってみたらわかるよ!着いてきて!」

「なんかいやな予感しかしませんけど、まあ良いですよ」

こうして俺はストレート失礼野郎菊池という信用ならない奴に、ホイホイついて行ってしまった訳だ。思えば、この時に逃げていれば良かった。本当に。


#2

俺は今、非常に後悔している。都会怖い。

「えーっと、もう1回言って貰えますか?」

「だから、君も女の子になろう!これで12回目だよ?」

「…俺別に女になる気は」

「ワンピースにする?セーラー服にする?それとも…バニーガールとか?」

「話聞けよ!初対面にバニーガール勧めんな!」

端的に言うと、人に無理やり女装をさせるサークルだった。

「人聞きが悪いな中島きゅんは、性別の垣根を越えるサークルさ」

「心読むのやめて貰えますか?あとそのきゅんってなんすか」

「〇〇きゅんとは可愛らしい男子を呼ぶ時の接尾語さ!」

いやそんな笑顔で言われても。

「あの、俺女装興味無いんで帰りますね」

「お願い!女装して!1回だけだから!先っぽだけだから!」

「とんでもないこと言ってますね、詐欺ですか」

「むぅ」

「うわ」

「女の子のむぅだぞ!引くな!」

「とにかく、俺は女装する気は無いので、失礼します」

「待ってください、少年」

と、俺が連れ込まれた部屋のドアからまた1人、新手の変な奴…生徒が現れた。

「私の数少ない親友の頼みです、聞いてはいただせませんか?」

「あ、山口君!」

山口君と言われた男は、少しマッチョな、どこにでもいる男だった。メイド服を着ていること以外は。

「ひっ…」

「無理にとは言いません。あなたが女装していただければ、この街の事をお教えし、あなたが都会に馴染むお手伝いを致しましょう」

何故俺が田舎から来たことを知ってやがる。

「それはもちろん、芋顔ですから」

「だから心を読むな!あとお前もストレート失礼野郎かよ!」

「?」

頭が痛くなってきた。

「お願いです。対価は支払いますので、どうか女装をしていただけますか」

「はぁ…。分かりました、でももし過激なもんだったら問答無用で帰りますよ」

「ふふ、交渉成立ですね」

「やたー!」

自分でも押しに弱いことは分かる。だが都会になれるためだ。仕方ない。

「さあ中島きゅん!まずは採寸から始めるよ!」

菊池さんは小さな体を震わせて、心底楽しそうに笑った。不覚にも可愛く見え─────はせず、俺には悪魔の笑みに見えた。


#3

俺の目の前には、素朴な女の子がいた。いや待て、落ち着け、俺。これは俺だ。鏡に映る俺だ。俺か?

「やっぱり私の目に狂いは無かった!」

「ええ、流石です実さん。身長は160cm前後、肌は綺麗ですし、筋肉質ではなく痩せ型、芋臭いですが中性的な顔…磨けば光る、素晴らしい原石ですね」

俺なのか?俺だよな?私?いやいや俺だ。うん、私。

「中島きゅん?」

「うおっ!?あ、あぁ、大丈夫です」

「ふふ、そのチャイナ服、お気に召したようですね」

「い、いやいや、別に気に入ってなんか」

「無理しなくて良いんだよぉ、うひひ」

「それでは次は巫女服、いってみましょう」

「その次スク水ね!」

「や、やめろ!近づくな!うわあああ!」

と、その時だった。

「失礼する」

固くて柔らかい、よく通る声が、散らかった部屋に響いた。その声の主の顔を見た途端、メイドゴリラと変態チビは目を見開いた。「びっくり」の代表的な顔だ。

「あ、あなたは…!」

「ど、どどなたでしょうか?」

恐る恐る聞いてみる。

「この大学だとかなりの有名人だよ!北条 玲、その辺の男よりイケメンで、女の子を何十人も惚れさせてるっていう…」

菊池さんが小声で教えてくれた。なるほど、やべぇ奴か。

「菊池さん、だったか。紹介ありがとう」

彼女は菊池さんに会釈をして、俺の前に立った。身長170cmを優に超えるスレンダーお化けからは、田舎者の俺でもわかるレベルでモテモテオーラが感じられた。

「中島 春君」

「は、え、あ、はいっ?」

何故俺の名前を知ってるんだこの人は。

「今すぐに君が欲しい」


#4

……………ん?

「……………ん?んん?んんんんんん!?」

何故こんなに頭と胃と心が痛くなる状況でそんなことを言ったんだ。さらに収集がつかなくなるだろう。それに彼女は所謂「王子様」だぞ?

「あらあら」

いやあらあらじゃないぞメイドゴリラ。楽しむな。助けろ。

「行こうか」

そう言うや否や、彼女は俺を抱き抱えた。そう、お姫様抱っこだ。

「え!?ちょっ」

「安心して欲しい。悪いことはしない。」

何故か、彼女の声は安心成分がふんだんに含まれていた。妙に落ち着いてしまう。

菊池さんの制止の声も何処吹く風、俺は北条と呼ばれたやべぇ奴に連れられ、というか抱かれ、部屋を後にしてしまった。

気がつくと、俺は無人のロッカールームに来ていた。ベンチの上に座らされ、何が何だか分からない。何がしたいんだこの人は。

「あの、なんでこんなこと…」

「いきなり連れ出してしまい、申し訳ない」

「あ、い、いえ…」

そんなに深々と頭を下げられたら強く言えないだろ。

「君を連れ出した理由、か」

「どっかで会ったことありますっけ」

「無い」

「ええ!?」

ますます謎が深まるばかりだ。なんなんだ。

「さて」

冷静な声から一転、彼女はベンチに座っている俺を押し倒した。

「!?な、なにして」

「私の彼女になってくれないか」

「か、彼女!?いや、俺、男」

「分かっている。それでもだ。頼む」

「お、お断りします」

「何故だ?」

「だ、だって、俺たち初対面だし、俺はあなたの事を全く知らない。それに付き合う理由がないじゃないですか」

「なるほど」

彼女は、俺に覆いかぶさり、息がかかるほどの距離を保ったまま、少し考える素振りを見せた。そして、衝撃的な一言を放った。

「私は、君の育ての親を知っている」

「!!」

じいさんを、知ってる………?

「すまないが、今は詳しいことは言えない。しかし、君の『じいさん』から、君を守るように頼まれた。彼と私は…いや、その事は後々話すとしよう。とにかく、私は君を守る必要がある。そして、君の近くにいるためには、交際をしておくことが手っ取り早いだろう」

「で、でも、それって付き合う意味…」

「頼む、私と付き合ってくれ」

「…あっはい」

先述した通り、俺の押しに対する弱さは一級品だ。そんなに真剣な目で頼まれたら、断れない。

「ありがとう中島…春君」

その時、彼女は初めて笑った。綺麗だった。花の様だったとか、月の様だったとか、そんな例えが通じるものじゃない。いや、例えようがなかった。今まで、こんな綺麗なものを見たことがなかったから。彼女にも聞こえているのではないかと疑う程に、心臓が跳ね上がるのを感じた。そして彼女は─────。


#5

一体何が唇に触れたのか、理解するまでに数秒かかった。俺の唇に触れたそれは、彼女の…北条 玲の唇だった。

「んむっ!?んっ…」

「んっ……ん…………っ…」

長いような、短いような時間だった。少なくとも分かったのは、とんでもなくドキドキしたこと。それ以外に、何も考えられなかった。

「ぷはっ……。それじゃあ、また会おう、春」

直前までの情熱性から、初印象の冷静な真顔に戻った彼女は、そそくさとロッカールームから出ていった。ファーストキスを奪われ、呆然としていた俺は、忘れていたことを思い出した。

─────俺、チャイナ服のままだ。

「……どうやって戻ろう…………」

最後まで読んでいただき、誠にありがとうございます。後書きから読む派の方は、ぜひお楽しみください。

正直な話、私の妄想がふんだんに取り入れられています。女装したら可愛い主人公に、積極的な長身女子…素敵だとは思いませんか?デュフフ。

不定期での投稿にはなりますが、ご愛読いただけると幸いです。それでは次回の投稿でお会いしましょう。

2021/02/28 自動ドアが反応しないあだぶ

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