3分間の激闘・3
カップ麺類であり得るバッドエンドを、面白おかしく書いてみようシリーズ。
今回は袋麺の焼きそばを作ってみる。
袋麺の焼きそばと言っても、生麺タイプではないのが特徴。
「アラビ→ン焼きそば……この強烈なパッケージを見てすぐポチってみたけど、どうなんだろうな?」
前述の“袋麺”を観察しながら呟く地味な男は、カップ麺で指定された時間をつい忘れて伸ばしてしまう、残念な奴。
「住んでいる所では売ってない地域限定品みたいだけど、これで焼きそばって……」
ターバンを巻いた謎の男性が描かれている袋を裏返すと、そこには作り方が載っている。
ざっくり言えば、フライパンで沸かした熱湯に商品である乾麺をぶちこみ、水分が蒸発しきるまで茹で続けて、最後に付属の粉末ソースを絡めて出来上がり。
なんてお手軽なのでしょう。
対して○ちゃんをはじめとした生麺タイプ袋焼きそばの基本調理法は、以下の通り。
具を入れるなら先に具に火をある程度通して、それから麺をフライパンへ投入。
水を少し入れて蓋して蒸したら、気が済むまで焼いてから付属の粉末ソースで味付け。
うん。 文字数が違う。 やはりアラビ→ン焼きそばの方がお手軽だ。
裏面を確認していた男も、思わず呟いた。
「調理中はずっと見ているし、これならカップ麺みたいに時間のミスは起きないだろう。 麺はベタなカップの麺に見えるし、リベンジ気分が味わえそうだ」
………………これがカップ麺でよく失敗をする者の言葉か。
「よし! 早速作ってみよう!」
男はそう気合いを入れて、コップに水を汲み始めた。
~~~~~~
「~~~~♪」
俺の軽快な鼻歌にあわせて、沸騰した湯を張ったフライパンへ、麺を早速投入。
これでまずは1分。 湯に沈んでる片面を柔らかくする……か。
片面……まずは硬麺の片面を煮るのか。
カタメンだけに! ドヤ!
…………つまらねぇし訳も分からねぇダジャレだ。 つまらな過ぎて誰にも披露しちゃいけない奴だな。 記憶のゴミ箱に投げとこ。
って、そうじゃない。
問題はあの袋の作り方に、茹でる時間が書いてなかった事だよ。
1分づつ熱湯に浸して柔らかくなったら、水気が無くなるまで火にかけ続けるってだけで、時間が指定されてないんだよ。
それをどうするかって話。
まあひとまず即席麺のお約束として3分位を見てるけど、出たとこ勝負になりそうだ。
おっと、そろそろ1分。
麺をひっくり返して……よし、また1分待つっと。
でもそれまで暇だから、さっきまで浸していて柔らかくなった部分だけでも、ぐるぐるして解したくなるよな~。
こうぐるぐる~ってさ。
ああそうそう。 ぐるぐるするって言うと、夏の素麺だよ。
どこに需要があるのか分からない、電動流しそうめん機。
水流を作って、ずっとぐるぐるさせる狂気の品。
確かに1度はやってみたくなるけど、その1度が済んだらもういいや……となるのが目に見えるアレ。
なんとなく“流しそうめん機”で検索したら、最近の流しそうめん機はより狂気に染まっててビビった。
どっかのミニカーで遊ぶオモチャみたいなのも有って、流れるプール的なのとはまた違う狂気を感じたね。
箸で掴み損ねた素麺が、タワーで上げられて再び流れる様は、まるで無限地獄。
(箸で)すくえなかった亡者を見送ったと思ったら、不屈の闘志で自力により立ち上がり、再び「すくってくれ~」と流れてくる。
その様子はまさにゾンビ! パニックアクション映画の超大作!!
食事で席についたみんなのお腹が一杯になったにも関わらず、まだ流れ続ける姿は見るものの涙を誘う。
全食卓が泣いた!
……うん。 食べ物で遊ぶな。
それと食事だってのに、なぜゾンビになった。
今食事を用意している所だってのに、食欲が失せる妄想なんて最悪じゃねーか。
……おっとと。 2分はまだだけど、この菜箸で麺が解れるようになってきた。
ぐるぐるする作業に入らないと。
これからは、水気が無くなるまでエンドレスだぜ。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる。
あーーー、懐かしいネタを思い出すなぁ。
粉に水を入れて、ねりねりねりねりやって…………ひぇっひぇっひぇ。
それから、なんか味がつく物にねりねりした奴を付けるんだよな。
そしてそれを……。
固いっ!!
てーれってれー♪
てーれってれー♪ じゃねーよ!!!
当時を思い出して食べる真似して、使ってる菜箸を咥えてゴリっとしちまったよ!!
歯が痛てぇよ! 折れてないか心配だよ!
おー痛て。
歯、大丈夫?
あー……うん。 多分大丈夫。
あっちゃー、やらかしたー。 あ痛ててて。
あの魔女おばあちゃんを気取ったら、痛い目に遭ったぁ。
でもあの知育菓子は強烈だったよなぁ。
いきなり怖い雰囲気のCMが始まった! って構えてたら、変なのをこねこねし始めて、次の瞬間には「美味いっ!」って画面が明るくなって、優しそうな魔女風おばあちゃんで〆。
あんなのを初めて見た時は、引き込まれるに決まってるだろ!
そして本当に美味いのか、試してやろうじゃないか! って思うに決まってるだろ!!
……結果? 「美味い!」と言うよりは「これがお菓子!」なんだよなぁ。
小さな子供向けだから単純な味付けだったし。
甘ければ「美味い!」の時代だったし。
週に1回位のペースで親にねだったのは良い記憶。
他に当時の知育菓子で覚えてるのは、ブドウみたいな見た目のグミ?ゼリー?っぽいのをコロコロ転がして育ててから、食べるやつだけだな。
なんて考えてる内に、もう3分か。 早いな。
~~~~~~
およそ3分間、熱湯が全部蒸発しきるんじゃないかと予想していた時間、男の頭の中を覗いてみた。
その内容はとてもつまらなかった。
まあ日常的に面白い考えばかりしてる奴なんて知らないから、期待するなと言われるものなのだろうが。
それで男も残った湯の加減を調べているが、とても微妙な顔をしていた。
「お湯……残っているような、残っていないような」
菜箸を噛んでしまった過去はどこ吹く風。
麺を少し持ち上げてフライパンを確認するが、どうにも判別がつかない様だ。
「念のため、もう少し焼いてみるか」
そう言い切って、麺焼きの続行を決める。
「ん?」
フライパンで麺をかきまぜる男の手が、少しの間止まった。
どうやら違和感を覚えたようで、さっきまでと箸使いが違う。
今までしていたぐるぐる回すのが主でなく、焼いている物を中心へ集めるような動きへ。
「……やっぱりだ! クソッ!」
何かを確認し、すぐさま怒り出す。
「まだ水気が残ってる感じがするのに、フライパンに麺が張り付き出した!!」
どうやら大惨事が発生している模様。
「もう皿へ盛るか? でも水気が……ああぁ、どうしよう」
悩む男の目の前で、フライパンに続々と張り付いて行く麺達。
早く調理終了の決断を下さないと、フライパンから麺をはがす際にボロボロ千切れる量が増えてしまうだろう。
「ああ、マジでどうすっか?」
悩む時間は、無い。
「……あっ! 皿を用意してなかった!!」
フライパンからの直食いか、皿へ盛るべくフライパンの底に好き放題貼り付いた麺を強引に剥がして、よりボロボロにするか。
そこで悩んで、もっと悪い状況へ。 さあ決断はいかに。
~~~~~~
言われるまで知らなかったんですよ。
アラビ→ン焼きそば。
他にも、落書きみたいなイラストが描かれたホ○コ○焼きそばとか。
と言うか、そういった袋即席麺型の焼きそば。
普通の袋麺型焼きそばと言えば、中華麺の生麺型ばかりで。
実際に買ってやってみようかと思ったら、近所のスーパーには置いてないみたいで(苦笑)
本当にやってみるなら、離れたスーパーへ苦労して出向いたり、作中の男みたいに通販しないとダメかもしれない。