古の吸血鬼とほっこり魔王軍~古の吸血鬼は魔王城に向かったようです~
古い、とても古い時代。世界が生まれるもっと前に、1人の吸血鬼が混沌の中にポツンと現ました。
やがて時間は過ぎ去っていき、本人曰く、『気が付いたら出来ていた』宇宙で彼は生きていくこととなります。
……ところ変わり過ぎて魔王城前。例の吸血鬼は、その歩みを止めていました。
「……入れん」
むしろ巨大な門に止めさせられています。
その門が、ガラガラと大きな音を響かせながら開いていきます。千の死者を召喚し、万の死を生み出す地獄の門がゆっくりとその深淵を人の世に撒き散らしています。
頬をかすめる冷気、どこからか聞こえてくる悲鳴。その全てをまるで春風の吹く草原に立っているかのような顔で受け流す彼は、真性の化け物と言っていいでしょう。
……3時間後。1人の首なし騎士デュラハンが門から現れました。
「おい。門を開いているのに入ってこないとは……一体どういう了見だ。貴様!我々を舐めているのか!」
激昂するデュラハンさん。しかし一方で吸血鬼の方はウンともスンとも言いません。
そしてやっぱり3時間後、怒り疲れたデュラハンさん。むしろ城に入ってくれと頼み込んでいました。やれ、部下が必死になって開けたからだの。やれ、入ってくれないと給料に響いて嫁に冷や飯食わされるだの。グダグダ言いよります。
「ふぇ……?あ、門開いたの?」
それに対する吸血鬼の反応はもう鬼畜としか言いようがありません。
「寝てたのかよ!」
思わず平手打ちをしてしまうデュラハンさん。
鬼です。悪魔です。いや、吸血鬼です。もう人外の化け物野郎……は言うまでもないですね。とにかく吸血鬼が酷いし悪い。
「いや、寝起きの人を叩くなよ」
しかも、正論を振りかざして来るから余計に酷い。
「こ、これは……」
さあ、デュラハンさんが反撃に出ます。
「めざましビンタだ!」
「……なら仕方ないな」
寝起きの吸血鬼をさっさと連れて行って、家に帰ろう。そう決めたデュラハンさんは吸血鬼の手を引き魔王城に向かっていきます。
ただ、門をくぐろうとした時、吸血鬼が付いてきていないことに気が付きました。
後ろを振り向くと、吸血鬼が見えない壁に阻まれています。
「うわ、こいつマジでめんどくせぇ」
これが、口と腹が繋がっていないはずのデュラハンの、腹の底から出てきた本心でした。
◇◇◇
魔王さまは、わざわざ城から向かいに出てきてくれました。
「吸血鬼」
でも、家の主に招かれないと家、または城に入れない吸血鬼は出てくるまでの間、ずっと待っていました。
また、3時間ぐらい。
「一体どうしてくれる!腹心のデュラハンが一年分の有給全部使って家族旅行に行っちゃったじゃないか!
『いやぁ、冷や飯が怖くて。テヘペロ(ノ≧ڡ≦)☆』
とか申請書に書かれたんだぞ!絵文字付きで!お前は魔王軍の内部工作でも工作しに来たのか?あいつはまじめで優しい上司だってみんなから慕われてるのに!」
これが理由でした。
「部下もデュラハン以外の四天王も全員、『あのデュラハンさんをこんなにも豹変させるなんて……信じられない。逃げましょう魔王様』とか言い出すんだぞ!内部破壊成功だよ!こんちくしょう!」
「意外とホワイトなんだな」
有給が取れる魔王軍の優しさにほっこりとする吸血鬼。
「この業界、真っ白か真っ黒じゃないとやっていけないんだよ!頑張って真っ白にしてるのに、お前が来たからボロボロだよ!」
魔王様涙目。これには流石の吸血鬼も悪いと思ったのか、吸血鬼は頭をポンポンと叩いて慰めようとします。
魔王は手を打ち払い言い返しますが……
「馬鹿にするにゃ!」
「あ、噛んだ」
魔王は自分の失態に、顔をトマトみたいに真っ赤に染め上げます。
「……」
「……」
「……滅びろ……永久監獄」
魔王の放った魔法が吸血鬼に迫ります。
「永久監獄はボクの使える最強魔法。大体のものは滅びる。だから、死んじゃえバカ ァ ァ ァ ァ ァ ァ 」
ぺシッ.....叩き落されました。
「もっと死んじゃえバカ ァ ァ ァ ァ ァ ァ 」
再びの最強魔法。ぺシッ.....勿論、叩き落されます。
「うわぁぁぁぁん」
魔王様大号泣。
「うわぁぁぁぁん」
泣き続ける魔王に、もうどうしたらいいのか分からない吸血鬼。まるで弱いものいじめのようになってしまって嫌な気分になってしまいます。
「仕方がないか……」
そっと近づいて魔王を抱き抱える吸血鬼。
「止めろ、降ろせこの変態!」
魔王がなにかを叫んでいますが、吸血鬼は完全無視。
「やめろぉぉぉ」
吸血鬼は魔王をお姫様抱っこしながら門をくぐっていきます。
魔王城に入ったあと、周りの部下たちに『ま、魔王様が、あのいい人だけどお転婆な魔王様が、お姫様抱っこされながら帰ってきたぞぉぉぉ』と城内に言いふらされたのは言うまでもありません。
死にたくなるような思いをしながら、玉座の間にちょこんと座らされた魔王が迷惑料に魔法防御のやり方を教わったことも言うまでもないでしょう。
その後、お転婆魔王様を大人しくさせることの出来る彼が魔王軍の中で重宝されることになったのも、また、言うまでもないでしょう。
ただ、吸血鬼は道に迷ったから、聞きに来たことは決して言わなかったそうです。
「だって怒らせると怖そうだし」
それが、魔王の最強魔法をたたき落とせる吸血鬼さんの言葉でした。
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