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2.ここからの話

「遅くなってごめん」

 綺麗な男の人に見つめられている。

 何が起きていて、この人は誰なのか。

 男の人の服は見たこともない形をしている。さっき同じだと思った布も気のせいかも知れない。何が起きていてこの人は誰なのか。私の頭はますます混乱を極めた。


 彼は私の腕の痕を見て、私の頬に手を当てると切なそうな顔をする。初めて頬に寄せられた他人の体温は温かかった。

「あぁやはり、何も知らないのだね。説明は後だ。先にこの騒ぎを片付けよう」

王に向き直ると凛とした声で話を始める。

「さて愚かな王よ。貴方がこの国に彼女を幽閉していたことはすでに我が国も承知している」

王の顔が歪む。

「あなたに攫われた精霊の国の宝、妖精姫を殺しただけでなく、実りの象徴である彼女を虐げ、そこの愚息のおもちゃとして監禁しようなど言語道断。地獄の神もお怒りになるだろう」

王の顔がどんどん歪んでいく。

――妖精姫? 殺した? どういう事だろう。

「この国に許しはない。慈悲もない。姫が世を去った時から既に見放されていたと思え」

「黙れ! 王妃は病死したのだ! そこの女は捨て子だ! 拾った我が国の所有物である! 無能をその歳まで育てたのは我らだ!」

王は怒鳴り散らす。

 妖精姫とは正妃様のことか。

王が正妃様を殺した……。震える私の肩をその人が抱いてくれる。

「捨て子? 妖精姫の魔力を利用し盗み取った輩が何をいう。見失って落とした赤子のこの子を救った騎士まで殺し、私たちに見つけられないように魔力を奪う腕輪を付け隠していたお前が、一体何を」

 あの腕輪は魔力を抑えるためのもの? 私に魔力は――……ハッとして崩れた城壁を見て私は息をのんだ。

「この腕輪を外すことは叶わなかったが、妖精姫はあなたの目を盗んで細工をしてくれた。それによって私はここに現れることが出来た」

正妃様の優しさを思い出して悔しさが胸からせりあがってくる。視界がぼやける。抱かれた肩の体温が私を涙もろくさせているかもしれない。

「神の慈悲はないが妖精姫の最後の慈悲だ、二度と彼女に近寄らないと誓うならこの国を許そう」


 歯ぎしりの音が聞こえそうな程に顔を歪ませた顔の王の後ろにいる人物が動いた。

「待て!」

それまで黙っていた王子だ。

「それは私の側妃に収まる予定の罪人だ。我が国での事件は我が国の法で裁く。連れて行くなど許さん」

「罪人?」

怪訝そうに美しい顔の眉が上がる。

「仮に彼女が罪人だとして、罪人を王族の妻に迎えると? どれだけ愚かだ。彼女は何も罪を犯していない。監視用の腕輪はそこの男に奪われた。死ぬ気はあっても逃げる気はなかった。壁を壊したのは腕輪をはぎ取られたことによる余波だ。この国では強盗を許し、殴るものには頬を差し出す法があるのか?」

これまで一切の感情を含まなかった声の雰囲気が変わる。徐々に冷たくなる声音に静かに怒りが含まれていく。

「側妃だなどと誰の許しを得た。不愉快だ。見た目が変わって惜しくなったか? 汚いその手で彼女に触れる事は許さない。彼女は生まれる前から王妃となることが定められている。私の婚約者を返してもらおう」

私の腰を抱いて彼は言い放った。

――見た目が変わる? どういう事だろうか。この人が婚約者? わからないことだらけだ。

混乱している私の耳に優しい声が届く。彼は真っ直ぐ前を向いたままだ。

「安心しておいで」

 胸に温かく広がるその声に、私はぎゅっと口を結ぶ。初対面なのにこんなに安心をするのはなぜだろうか。誰かに優しくしてもらうことなどないに等しい人生で、辛かったその瞬間に助けに来てくれた人だからだろうか。自分にも誰かにも期待などしないと思っていたのに。

 この人なら助けてくれる、そう信じられる気がした。


 黙ってこちらを睨んでいた王が突然笑った。いつもと同じ、狂ったような自信に満ちた笑い方。

「婚約者だ? 笑わせるな! 結局貴様らもそいつの魔力がほしいだけだろう? 戦の道具を欲しがるだけなのに随分な言い方だ。過程はどうあれ、我が国の所有物を今持ち出すというなら貴様が盗人だ!」

「……姫よ、あなたをここからお救いできなかったことを今ほど悔やむこともないだろう」

苦しそうな表情で男性が首を横に振った。

「決まりだな、お前は今全ての竜と精霊を敵に回したのだ。この国は許されない。彼女は返してもらうぞ、人間よ」

「竜……」

誰かが息を引きながら呟いた言葉が波のように静寂と絶望を広げていく。王の顔もひきつった。王妃が後ずさりを始める。


「お待ちください!」

叫ぶように声を挙げたのは今日王子と結婚した少女だ。

「宜しければ私をお連れ下さいませ! 魔力と言うのならその娘より私の方が余程お役に立てると思いますの! 私はこの魔力の量故に王子の婚約者を務めておりますだけ。どうか私をお連れ下さい!」

私の腰を抱き直す見目麗しい男性に向けられているその目は、美しいはずの顔を台無しにする獣のように異様にギラギラ輝く。ふわりと揺れる豪華なウエディングドレスが不釣り合いに穏やかだ。

「……先程式を挙げて結婚したはずなのに、その男を前にして自らを婚約者だというその浅ましさ。国が滅ぶと知っての命乞いにしても王妃の言葉に目が眩んだにしても余りある低能。……それでいて魔力の量で婚約者を選ぶような男だと私を侮辱するのか。お断りだ、醜い女よ」

腰を抱く手に力が入る。

「わが国では重婚は犯罪。私の妻はただ一人だ」


 おもむろに腕輪を取り上げられる。金属がどろりと形を失い、宝石だけが手元に残る。王が後ずさりをしながら大声を出し、兵を差し向けようとする。

 だが兵は全員真っ青な顔で誰一人、動かずにいた。動けなかった。もう誰もがこの場の空気に圧されて息をするのが精一杯だった。


「この石が妖精姫の細工だ。君の腕輪は君自身か、魔力を持たないものにしか外せないように。腕輪が外れた時は、対になる宝石を持った私を召還できるように魔法をかけてくれていた」

「――だから、あの手紙を……」

「君が見るのがつらいというなら、ここにこの石を捨てて行こう。どうする」

「……大切にします」

男の人は微笑むと、厳しい表情で王に冷たい視線を送った。

「追って沙汰があると思え。言っただろう、姫が世を去った時から見放されていると。この壁の外は全て敵だ。どこへ逃げようと無駄だ」

 王の反応を待たず、私を抱きかかえるとその人は何事か小さく呟いた。

 喚き散らす王族が薄くなっていき真っ白になったと思ったら、私は冷たい大理石の床の上に立っていた。

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