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Dark Side・Flowers   作者: 聖 雪奈
7/10

愛を忘れた大人と愛を育む子どもたち 前編

 鬱蒼とした森林の中を歩く一人の少女がいる。


 十代前半で身長も百五十前半。


 (あお)く腰まである長い髪、憂いを湛えた瑠璃色の瞳、端麗な顔立ち、たおやかな体。そして黒いローファー、黒いハイソックス、黒いセーラー服、黒いローブ、黒い三角帽子で雪のように白い肌を隠し黒く染め上げている。


 しばらく歩いていると木漏れ日が漏れる開けた場所に来ていた。


「碧い泉……」


 目の前に広がるのは、陽光を反射して煌めく碧い泉だった。


「少し……涼んでいこうかしら」


 くるり、と回転すると水色のキャミソールワンピースに裸足の姿になる。


 しゃがみ込んで座り込み、泉に素足を浸す。


 ひんやりとした冷たい水が心地良い。


 右足を上げると雫が零れ落ちる。


 水と戯れる少女。


 その光景を覗いている二人の幼女がいた。


「そこにいる貴女たちも一緒に泉に浸らない?」


 木陰から覗き込む幼い二つの影に声をかける。


 ひょっこりと姿を現す七歳ぐらい身長百二十前後の幼女が二人。


 一人は、ミディアムの藍白(あいじろ)の髪、萌黄色(もえぎいろ)の瞳、可愛らしいけど不機嫌な顔立ち、色白で幼い子どもの体型に白いサマードレスを着て、白いコンフォートサンダルを履いている。


 もう一人は、胸まである長い藍白の髪、薄萌黄色(うすもえぎいろ)の瞳、おっとりした小動物的な可愛い顔、色白でしなやかな幼い肢体に白いサマードレスを着ており、同じく白いコンフォートサンダルを履いている。


「……(しずか)お姉ちゃんバレちゃったよ」


「知ってるわよ! 逃げるわよ早乙女(さおとめ)!」


 ミディアムヘアーの静かは、ロングヘアーの早乙女に逃げるように促して走り出す。


 しかし、間髪入れずに木の根に足をとられ盛大にこける静。


「だ、大丈夫……お姉ちゃん?」


 心配げに近寄る早乙女。


 ぷるぷると震えながら立ち上がろうとする静。


「笑いなさいよ……どんくさい小娘だ、って笑いなさいよ!」


 自棄になりながら半泣きで叫ぶ静、額から血が流れている。


 私は泉から出て彼女たちの元へ歩いていく。


「ふっ、下着女に笑われるなんてアタシも落ちたものね……」


 いや笑ってないし、キャミソールワンピースとサマードレスってさほど布面積に違いはないんだけども。


 静の元まで着いて、彼女の肩にそっと触れようとすると、彼女はびくりと肩を震わせる。


 私は屈んで静を抱き上げて彼女の額に、ふぅー、と息をかける。


 彼女の額の出血は止まり傷が塞がる。


「もう痛くないでしょ?」


 私は柔らかな眼差しを向けて静に微笑む。


 すると静はみるみるうちに顔を、耳まで赤く染め上げる。


「だ、大丈夫よ! ……あ、ありがと」

 

 ぷい、っとそっぽを向いくが、ちゃんとお礼を言う静。


 私は、ふふ、と微笑んで静の頭を撫でる、柔らかな髪の感触が指に伝わる。


 照れながらもされるがままの静。それを羨ましそうに見つめる早乙女。


 私は、おいで、と早乙女に左手で手招きする。


 てとてと、と近寄って前かがみになり目を瞑る早乙女。その頭を撫でてあげる。


 私がこの世界に訪れて初めて出逢った彼女たちは、幼いけれども自分の妹たちと重なり懐かしむように瞳を細める。


 私は木漏れ日を浴びながら穏やかな時の流れを感じて瞼を閉じた。



 

 三人でうたた寝してしまったらしく、数刻してから起きた私は二人を起こす。


「起きて、静、早乙女」


「う~ん……はっ、下着女! が服を着てる魔女っぽい」


「お、おはようございます……魔女さん、静お姉ちゃん」


「おはよう。それと私は魔女だけど、セツナ、って名前なの」


 彼女たちが起きたので忘れていた自己紹介をする。


「下着女……セツナ。下着女の方が響きがいいよね?」


「ちょっと、静お姉ちゃん失礼だよ……ごめんなさい、セツナさん」


 尚も私のことを、下着女、呼ばわりする静。


 お仕置き、えいっ。


 私は静のサマードレスに触れる。ぽん、と音と白い煙を立てて静は下着姿になる。


「ちょぉっと、何するのよぉ……下着女ぁ!」


「今は貴女が下着女よ」


「くっ……ごめんなさい、セツナ。もう下着女って言わないからぁ……」


 悔しげに謝罪する静。


 ちゃんと謝れたので、碧い本の中に入れた彼女のサマードレスを返してあげる。


 本を開いてページに映るサマードレスを触れる。また、ぽぉん、と音が立ち静は下着女ではなくなった。


 安堵したように自分の両肩を抱く静。頬を赤く染めて私を睨む。


「あら……今度は全裸に引ん剥いてあげようかしら?」


 口元に右手を当てて不敵な笑みを浮かべる私。


「な、何でもないわよ! 変態女!」


 相変わらず強がる静。


 そんな私たちのやり取りを見るに見かねて早乙女がある提案をする。


「そうだ静お姉ちゃん、セツナさんを村まで案内しようよ!」


「ええぇぇ、何でぇ?」


 露骨に嫌そうに表情を歪める静。


 私はその静の表情を見てから早乙女の方をちらりと見る。


「早乙女、村までの案内お願いできるかしら?」


「は、はい、頑張りましゅ!」


 私は早乙女に穏やかに微笑み、早乙女は照れたように笑う。


 そして静の方を振り返る。


「あ、アタシだって村への案内ぐらいできるわよ! 華麗に案内してあげるから覚悟しなさい、セツナ!」


 華麗に案内する、と謎の宣言をする静。


 私は彼女に近寄って、妖艶な笑み浮かべて耳元で囁く。


「ありがとう。よろしくね、静」


「……ま、ま任せなさいよ」


 頬を紅潮させながら視線を逸らす静。


 こうして私は、静と早乙女と手を繋いで村まで歩き出した。




 森を抜けると穏やかな雰囲気の村に着く。


 けれど、どこか物悲しく感じる。


 農作業をしていた黒髪に黒い瞳の二十代後半の若い夫婦が私たちに気づく。


「お~い、みんなぁ、静ちゃんと早乙女ちゃんが帰ってきたぞぉー!」


「ねぇ、あの黒い服装の女の子は誰かしら?」


「え? そりゃあ、三角帽子にローブを着ているなんて魔女だろう……って魔女だぁ! 館の魔女が来たぞぉー!」 


 その夫婦たちは慌てて村の住人たちに伝えている。


 しばらく静と早乙女と手を繋いだまま待っていた。


 先程の夫婦、黒髪に虹色の瞳のシスターの女性、金髪碧眼の男性同士の恋人、桃色の髪青い瞳の女性同士の恋人の七人の大人が私の様子を伺っている。シスターは十代後半で、他の大人は全員二十代のようだ。


「静、早乙女、こちらへ来なさい! 魔女は危ない人なのよ!」


 シスターの女性は静と早乙女に声を荒げて呼び掛ける。


「危ない、ってセツナのどこが危ないのよ! ちょっと服を脱がされただけよ!」


 あっ、静が現状を悪化させることを言い放った。まぁ、脱がせたのは事実だから仕方ないか。


「服を脱がされた……そんな、あの魔女はロリータコンプレックスだというの!」


 両手で頬を抑えて驚愕するシスター。


「……でもあの魔女ちゃん可愛いし、脱がされたくもなるよね」


「そうよね、可愛い女の子に強引に脱がされるなんて興奮しちゃう」 


「貴女たちは黙っていてください!」


 シスターは二人組の女性たちに頬を真っ赤に染めながら怒鳴る。


「可愛い子だねぇ、けど惜しいね……」


「……そうだね、男の子だったら文句ないのにね」


 今度は二人組の男性たちを黙ったまま、きりっ、と睨むシスター。シスターに睨まれた男性たちはばつが悪そうに俯く。 


 何だか愉快な人たちだと思い、私は微笑みを浮かべた。


「ほら、見なさい魔女が不気味に笑ってるわ!」


 シスターが言うには、どうやら私は不気味な微笑んでいるようだ、大人と子どもに向ける笑みには違いがあるのかもしれない。


 ビシッ、と私に右人差し指を差すシスター。


「兎に角、その子たちを返しないさい魔女! さもなければ……ど、どうしましょう?」


「シスター何も考えてないんかい!」


「そこはふん縛って、抵抗できないようにすればええんちゃうんかいなぁ!」


 激しく夫と妻にツッコミを入れられるシスター。


「だってあんな可憐な少女をふん縛って乱暴するなんて……わたくしには出来ません!」


「いやぁ、取り敢えず動けなくすればいいのでは……?」


「あの魔女ちゃんはシスターのタイプなんやな」


 今度は冷静になる夫婦。


 シスターは耳まで紅潮させながら悶える、が開き直ったように意気揚々とする。


「よし、じゃあわたくしはロープを取ってきます! 決してあの魔女の少女を縛りたい、というやましい気持ちはありません!」


「……はいはい」


「……そうやね」


「あの子の肌を傷つけないように上質なロープを取ってきます!」


「……ほな、頑張ってな」


「……頑張りや」


 シスターは夫婦にあしらわれながら息を荒くして駆け出していく。


 私はシスターを追いかけていく、どうやらあのシスターは私に用があるようなのでついて行くことにした。


 大人たち通り過ぎる時にちらりと見つめる。


 夫婦は曖昧な笑みを浮かべており、男性二人組は白い歯を見せて親指を突き立てて、女性二人組は笑顔で手を振っている。


 私はぺこりとお辞儀してからシスターを追いかけて村で一番大きな建物に入っていく。


「シスターを攻略するのは簡単よ、アタシでも出来るもの!」


「ここは、学校といって子どもたちが勉強するところです。シスターはみんなの先生なんです」


 どうやら静と早乙女もついてきてるようだ。


「わかったわ、ありがとう」


 いや、早乙女の言ったことはわかったが、静の言ったことはわからない。シスターを攻略? 篭絡させればいいのだろうか?


 シスターが階段を駆け上がる姿が見える。


 どうやら勢いよく階段を駆け上がると靴音が響いてしまうようだ。


 私たちはゆっくりと階段を上がることにした。


 ある一室の戸を開けるシスター。


「あ、シスター戻ってきた」


「ねぇ、いつまで実習なのシスター」


 桃色の髪、青い瞳の双子の少女がシスターに声をかける。


「待ってなさいリーゼ、ローゼ、今危ない魔女が来てるからこの教室でじっとしてなさい」


「いや、どう見ても危ない人はシスターでしょ」


「美人な魔女だから、ロープで縛って好き放題したいんでしょ」


 金髪碧眼の双子の少年が呆れ顔になっている。


「マイ、メイ、そんなことはしません! その魔女はロリータコンプレックスなんです、危険なんです、わたくしが縛り上げないと……」


「……変態ロリコン」


「ロリコンシスター……」


 黒髪で黒い瞳の少年と少女は、ぼそっと呟いて、読書に戻る。


「もう……時雨(しぐれ)秋葉(あきは)、わたくしが変態ロリコンシスターだと言いたいんですか!」


「良かった、自覚アリなら大丈夫だね」

 

「いやぁ、もう色々手後れでしょ」


 やれやれと首を竦めるマイ、メイ。


 ぐぬぬ、と悔しがるシスター。


 そこに、こんこん、とノックの音が響き。


「失礼します」


 碧い髪の瑠璃色の瞳の黒セーラー服の少女が教室に入ってお辞儀をした。


 その少女は誰か、そう危険な魔女の私です。


「な、なぜ貴女がこ、ここに……?」


「うわぁ、綺麗なお姉さんだ」


「まったく、マブいねーちゃんだぜ」


 シスターは驚き。リーゼとローゼは目をキラキラさせて私を見る。


 私はリーゼとローゼに、ふふっ、と微笑む。すると、きゃーきゃー、と嬉しそうに抱き合って二人は飛び跳ねる。


「あ、お帰り。静、早乙女」


「自習だからって教室から出たらダメだろ」


「二人ともお帰り……」


「……お帰りなさい」


 マイ、メイ、時雨、秋葉は静と早乙女が戻ってきたのに気付く。


 静と早乙女はそれぞれの席に座る。


「みんな、ただいま。そうよ、あの美人な魔女はセツナ。アタシたちが連れて来たのよ!」


「みんな、ただいま。シスターがセツナさんを縛り上げる、とか言ってたから本人を連れ来てあげたの」


 静と早乙女は悪びれることなく堂々と答える。


「静、早乙女……貴女たちは、なんてことを……」


 ガタガタと震えだすシスター。


 私はシスターに向かってゆっくりと歩を進める。


「ねぇ、シスター。私は子どもたちにも貴女にも危害を加えるつもりはないのだけど?」


「いいえ、貴女はロリータコンプレックスよ! わたくしと同じ……って違う、わたくしはロリコンじゃない!」


「そうね、子どもが好きなのは否定しないわ。だって純粋で可愛いのですもの」


 私は口元に左手を与えて微笑む。


「くっ……シスターであるわたくしよりよっぽど上品で清楚じゃない!」


 何を言っているの、何を悔しがってるの、この人は?


 尚もじりじりと距離を詰めていく。


 そして、教壇を背にして逃げ場を失ったシスター。(逃げようと思えば横から逃げれる)


「わたくしの負けね……煮るなり焼くなり好きにしなさい」


「……あら、本当に何をしてもいいのかしら?」


「待って、今のなし、撤回、前言撤回!」


「……シスター、貴女も大人なのだから自分の言動には責任を持ってくださいね」


 私は妖艶な笑みで潤んだ瞳のシスターの背中に左手を回し、右手で顎を、くい、っと持ち上げた。


 羨ましそうに見つめる、静、早乙女、リーゼ、ローゼ。興味津々に見つめる、マイ、メイ、時雨、秋葉。


「ちょっと待って魔女さん……わたくし、心の準備が……」


「……セツナ」


「……えっ?」


「私の名前はセツナよ……クラリアさん」


「セツナさん……」


 瞼を閉じるクラリア。


 私はゆっくりと彼女に顔を近づける。


 そして、彼女の額にくちづけする。


 流石に初対面の人に唇と唇を合わせることはできない。


 すると教室の子どもたちから歓声が上がる。


「いい……額にくちづけする控えめなところが素敵」


「セツナは女を落とす魔性の女ね、魔女だけに」


 感心するリーゼとローゼ。


「女の人は恋愛対象にはならないけど……女の人同士を見るのは悪くないね、メイ」


「そうだね、マイ」


 うんうん、と頷き合うマイとメイ。


「シスター寝ちゃった……」


「……気絶しちゃった」


 時雨と秋葉は読書が続けれるので嬉しそうに本を読みながら、ちらちらとこちらを見てる。


「な、何やってるのよ、セツナ! アタシにもキスしないよ!」


 静は私に近寄って来て物申す、といった感じだ。


 私の腕の中で恍惚な表情で目を瞑り気絶したクラリアを一瞥してから静に向き直る。


「ダメよ」


「何でよ! アタシが子どもだから、なっ……」


 私は右人差し指で彼女の唇に触れて、その指を自分の唇に当ててウィンクする。


「そういう気持ちにさせてくれないと、ダメよ」


 静が頬を赤く染めたのは言うまでもない。


 そしてクラリアを保健室のベットで寝かしつけて。


 私は子どもたちと日が暮れるまでお話ししたり、外で遊んだりした。


 夜になり、静と早乙女の保護者であるクラリアの家に泊まらせてもらうことになった。


 こうして私のこの世界に来て一日目が幕を下ろした。


 初めてこの世界に来て出会った住人たちはとても明るく賑やかで、新鮮な気持ちになった。


 私の最愛の妹たちの不在に少し寂しさを感じたが、同じベットで寝る静と早乙女の温もりを感じて微笑み、まどろみに沈んだ。




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