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Dark Side・Flowers   作者: 聖 雪奈
10/10

私の在り処 

*注意事項*


今回は、前編、中編、後編と分けづに一つにしました


また様子を見て今後どのように投稿していくか検討いたします


そして、誤字脱字のご報告をお待ちしております

 朝の日差し、小鳥の(さえず)り、上機嫌な少女の鼻歌。


 目が覚めたのに、また眠りにつきたくなる程に心地良い。


 しかし、少女の鼻歌が聴こえなくなる。そしてスリッパを、ぱたぱた、と音を立てて誰かが近づいてくる。


「起きて杏捺(あんな)、朝だよ」


 水のように透き通った声で穏やかに私を起こす。


 瞼を開けると、白いセーラー服と水色のエプロンを着たユキナが微笑んでいた。


「おはよう……ユキナ」


「おはよう、杏捺」


 いつも上機嫌なユキナだが、いつもより三割増しで上機嫌だ。


「ふっふっふっ、今日の朝ごはんは杏捺の好きなフルーツサンドです!」


「わーい」


「……あんまり、嬉しそうじゃないね」


「朝からそんなにテンションが高いのはユキナぐらいですよ……」


 ベットから起き上がり白いキャミソールランジェリーを脱ごうとする。するとユキナは急いで目線を逸らす。


「ちょ、ちょっと杏捺! わたしの目の前で着替えないでよ」


「何で着替えたらダメなんですか?」


「……だってそのまま着替えたら、杏捺の裸体、見えちゃうもん」


 そう言ってユキナは赤く染めた頬を隠すように両手で覆う。


「えっ、優れた美貌をお持ちの女神さまが、人間の女の裸ごときで欲情するんですか?」


「あっ、んっ、なっ! わたしは、欲情なんかしてないから! 人の裸どころか家族である妹たちの裸も見たことないから恥ずかしいだけ!」


「へぇ~、妹さんいるんですね」


 ユキナはくるりと踵を返してドアに向かっていきます。


「うん、一人はわたしにツンデレで可愛い妹なの!」


「人と話す時は、相手の眼を見ましょう」


「もぅ! いいから早く着替えて顔洗って出直しなさい! バカ杏捺!」


 そう言って勢いよくドアを開けて、ちらりとこちらを見て赤面して、ドアを勢いよく閉める……と見せかけて丁寧にパタンと閉めるユキナ。


 ユキナをからかうのはやっぱり楽しいですね!


 私は向こうの世界にいた頃のブレザーに着替える、一応もう学生じゃないからコスプレになるかもしれないけど……まぁ、丈夫でまともな服装だから戦闘服と思えばいいか、と割り切ります。


 洗面所に行って顔を洗ってリビングへ向かう。


 ユキナと暮らし始めてから一週間……まだ一度も再戦してくれてません!


 ユキナは世界の管理のお仕事があって、分身しながら仕事をしてるらしい。


 分身をしてると魔力が弱まるらしいので、私とは、戦えないらしいです。


 この世界には自然の力を利用しておりライフラインがしっかりしており、電気、水道、ガスなどが完備されている。


 ネット環境も整っており、ユキナは私と一緒にゲームをしてくれます。


 ユキナは、プロゲーマー並の私ぐらいゲームが得意で、戦うと互角で楽しいし、共闘すると頼りになります……けど彼女は疲れたら意図的にサボったり手を抜きます。


 ゲームも楽しいけど、やっぱり生身で戦いたいですね!


 あぁ、それとユキナの妹さんとも会ってみたいですね。


 食卓に着くとユキナがじぃ~と私の顔を見ています。


「杏捺……また、戦いたい、って顔してる」


「やっぱりわかっちゃうんですね」


「わたしもたまには戦ってもいいけど、杏捺相手だと疲れ……今は分身たちが世界の管理の仕事してるから、余裕で杏捺に負けちゃうもん」


「……やっぱり疲れるんですね、まぁ、それはいいとして。私がいる世界に来た時はどうしていたんですか?」


 私に質問されたユキナは、あぁ、と思い出したように苦笑いします。


「あの日は、妹の魔女のセツナに仕事押し付けて来たんだよね……凄い嫌そうな顔されて、職務放棄女神、とか言われたなぁ、あはは」


「なるほど、妹のセツナさん……会ってみたいですね」


「そう、じゃあ会ってみる? あっ、でもセツナは戦うのが嫌いだか――」


「――戦うのが嫌い? そんな魔女いませんよ! じゃあユキナ、ご馳走です、行ってきます!」


「おっお粗末さまです、い、いってらっしゃい杏捺。……どうしよ、後で絶対セツナに怒られる」


 ユキナは小声で何か呟いていたけど聞こえなかったことにします!


 ユキナの美味しいフルーツサンドを食べ終えて、コーヒーを飲み終えて、ユキナの家から飛び出します。


 穏やかな日差しに照らされた、草木が青々と生い茂り、色とりどりの花々が咲き乱れている。


 水色の小鳥が飛び交い、瑠璃色の蝶が舞い、白色の猫が寝転んでいて、黒色の魚が空中を泳いでいる。


 ユキナの創り出した神秘的な空間。


 森に入っていくと、藍色の泉が見えてくる。


 初めてこの世界に来た時はこの泉から出てきてユキナに出迎えられました。


「じゃあ、セツナさんが住んでる所までお願いします」


 そう言って私は泉に勢いよく飛び込みます。


 肌や服が濡れることはなく、眩い光に包まれていきます。


 光が集束すると、知らない森に来ていました。


 後ろを振り返ると、藍色に輝いていた泉が(あお)くなっていました。


「さぁて、セツナさんに会いに……セツナさんと戦いに行きますか!」


「セツナ、ですって……貴女はセツナと、どうのようなご関係なのですか?」


 泉から少し離れた所にシスター服の黒髪で虹色の瞳の少女がいました。


 その後ろには黒いカッターシャツを着て、黒いスラックス履いた黒髪で黒い瞳の少年と少女、白いキャミソールワンピース姿の桃色の少女が二人います。


「あら? クラリアにライバル出現ね!」


「そうそう、セツナは競争率高いもんね!」


「リーゼ、ローゼ! 余計なことを言わないでください!」


 そんなやり取りを見て私は少し困惑します。


「えっ、と……あぁ、私は、猩々 杏捺(しょうじょう あんな)です、ユキナのお友だち? です!」


時雨(しぐれ)です、あのユキナさんの……」


秋葉(あきは)です、女神さまの友だちなんだ……」


 大人しそうでいい子たちみたいなので頭を撫でます、無表情だった時雨と秋葉は少し嬉しそうに微笑みます。


「ずるい、リーゼも撫でて!」


「ローゼも綺麗なお姉さんに色々撫でられたい!」


「……バカ言わないで」


「色恋沙汰なんて疲れるだけ……」

 

「時雨と秋葉とは気が合いそうですね」


 二人は十歳に満たない容姿でどんな人生経験をしているのか少し心配になります。


 時雨と秋葉はしばらく撫でてあげると、ぺこりとお辞儀して離れます。


 二人には恋愛感情というものがなく、双子である自分の分身のような存在がいれば生きていける、けれど美形な人を見たりするのは好き、といった雰囲気です。


 拗ねたようにするリーゼとローゼを手招きします。


 二人は、ぱぁ、と笑顔になって駆け寄って来ます。


 頭だけ、撫でてあげます。


 この二人は言うまでもなく女好きでしょうね。


「えっと……杏捺さんはセツナに何の用でしょうか?」


 クラリアはじろじろと私を見ながら警戒心を露わにしてます。


 クラリアは十歳の外見だけれどかなり大人びている。


「ありがと、杏捺さん」


「ありがとう、杏捺さん」


「どういたしまして」


 リーゼとローゼはくるりと回ってお辞儀をする。


 そして二人はクラリアの方を見て口を開きます。


「違うでしょ、クラリア!」


「わたくしのセツナに何の用ですか? でしょ!」


「そんなこと言うわけないじゃないですか! 思ってもいません!」


 激しく動揺するクラリア。


 クラリアさん、全然大人びてないですね!


 この子どもたちは普通の子どもたちと違ってとても強い力を感じる、特にクラリア。


 ……けれど女神であるユキナ程ではないですね。 


「えっと、セツナなら隣町にお薬を届けに行って、そろそろ帰って来る筈ですけど……」


 呟いて、しまった、という表情になるクラリア。


「そっか、どうもですクラリアさん! 皆またね!」


「ちょっ、まっ……って、速過ぎ!」


 見通しの良い森なのに杏捺の姿が数秒も経たずに見えなくなっている。


「だ、大丈夫でしょうかセツナは……杏捺さんに襲われるかもしれません」


 不安な表情で呟くクラリア。


「杏捺さん、凄く……強い」


「でも、根は優しい人、だと思う」


 秋葉と時雨は小さな声で呟く。


「大丈夫でしょ、セツナだって強いんだから」


「確かに邪悪な感じはしなかったね、割と純粋なのかも」


 ローゼとリーゼも口々に呟く。


 そしてリーゼとローゼは意地悪な目つきでクラリアを見つめる。


「でも、でも、クラリア」


「な、何ですか?」


「もし、セツナが杏捺さんに襲われて押し倒されたら……どうするの?」


「セツナを押し倒す!? 羨ま……そんなことわたくしが許しません!」


 顔を真っ赤にして憤慨するクラリア。


「杏捺さんは……純粋に戦いを楽しみたいだけ」  


「セツナとは……楽しい戦いが出来るから」


「いいえ、杏捺さんは戦った後に勝ったらセツナを自分の思い通りにするに違いありません!」


 時雨と秋葉の言葉を聞き入れず、ジタバタ暴れるクラリアをリーゼとローゼが引っ張って行く。


「泉の調査は終わったから、帰ろう」


「うん、みんな教室で待ってるだろうからね」


「放しなさい、リーゼ、ローゼ! セツナの貞操はわたくしが守ります!」


「はいはい」


「はい、はい」


 リーゼとローゼにあしらわれるクラリア。


 こうして五人は村へと帰って行きました。


 

 森を抜けると広い草原の遊歩道を歩く黒セーラー服の上に黒いローブ、黒い三角帽子を被った碧い髪の少女が歩いてました。


「あっ、やっぱり、ユキナに似て美人さんですね」


 ユキナは明るい少女という雰囲気で。セツナは十代前半の外見で憂いに満ちた大人の女性、という雰囲気でした。


「よし、じゃあ早速!」


 私は緋色の本から杏捺さんブレイド(刀身が緋色の刀)を取り出して、柄を握り締め、振り上げて刀身に炎を纏わせて、一気に振り下ろす。


 炎を纏った神速の斬撃が一直線にセツナへと迫る。


「きゃっ」


 斬撃が目前に迫ったセツナは驚いた表情で可愛らしい悲鳴を上げます。


 しかし、一瞬で真剣な表情になり、氷で薙刀を作り出し、横薙ぎに一閃。


 そして、斬撃は打ち消される。


 セツナは、ふぅ、と胸を撫で下ろします。


「意外と可愛い悲鳴なんですね、セツナさん」


 そう言うと少し頬を赤く染めるセツナ、こほん、と咳払いをします。


「貴女……誰ですか?」


 露骨に警戒してるセツナさん。


 こちらが三歩近づくと、セツナも三歩後退します。


「えっと、ユキナの友だちの杏捺です!」


「成程、どおりでその刀から姉さんの魔力を感じるのね……それで、杏捺さん。私に何か用ですか?」


 尚も警戒したままのセツナ。


 このままでは戦ってくれそうにないです!


 それならこっちにも考えがあります。


「貴女と戦いに来たんですけど……戦ってくれないなら、クラリアさんにお相手してもらいましょ――」


「――いいわ、相手になってあげる」


 計画通りです。かなり優しそうなセツナさんは、私がクラリアさん戦うぐらいなら自分が戦うと思いましたからね。


 穏やかな午前の草原が、白と黒の草原に変り果てる。


 ダークサイド・ガーデン。


 この中でどれだけ暴れても、元の世界にまったく影響がないので、暴れ放題な便利な結界です。


 薙刀を下段に構えたまま動かずに私の様子を伺うセツナ。


「セツナさん相手してくれるんですよね、さぁ、どうぞ!」


「えっと……杏捺さん。無抵抗の相手を攻撃出来ないわ……」


「じゃあ、私から行きますね!」


 一瞬でセツナの懐に潜り込む、その勢いのまま刀で刺突。


 薙刀の柄を抱しめるようにして、バレエのピルエットでくるりと回り優雅に躱すセツナ。


 私は刺突の構えから左に躱したセツナに、刀を振り上げて迫る。


 セツナは背を向けたまま前方に進み、振り下ろした刀を避ける、更に刀の峰を薙刀の柄の先端で叩く。


「ちょっ」


 勢い良く刀を地面に叩きつけられ声を上げてしまいます、追撃とばかりにセツナの左手から冷気が放たれて地面と刀ごと氷漬けにされました、酷い。


 今度はセツナが薙刀を下段に構えて迫り来る。


 刀身が凍ってるだけなので刀から手を離せば逃げられる……でも逃げる気はないので!


 氷を右足で思いっ切り蹴ります、けれど氷にはヒビが入る程度です、硬い。


 ならば、刀の柄を握り締めて刀身に炎を宿します。


 燃え盛る炎が氷を溶かしていく、その炎に怯むことなくセツナは薙刀を横振り。


「あっ」


「あっ……」


 セツナさんにスカートを切られました、やりやがりました。


 さっきまで凛々しかったセツナさんは、少し頬を赤く染めておろおろとしてます。


「ご、ごめんなさい……貴女のスカートを切るつもりはなかったの」


「別にいいですよ、それより戦いを続けましょう!」


「無理よ……集中して戦えない。直すわね」


 右手を差し出して、小さな光がスカートに触れて元通りになりました。


 こほん、と咳払いをして真剣な表情になるセツナさん。


「さぁ、戦いを続けましょう」


「下着見たぐらいで照れるなんて可愛いですね、セツナさん」


「茶化さないで……今度はこっちから行くわ」


 ユキナと違ってからかい耐性ありですか……つまんない。


 でも、セツナさんとの戦いはとても楽しいです!


 セツナは氷の薙刀を消して、碧い本を出現させる。


「……お願い私に力を貸して、ポセリア、冴花(さえか)


 水が渦巻き、水色の髪に瑠璃色の瞳のセツナが二十代前半になったような白いやたら布面積の広い水着姿の凛とした表情の女性が現れ。


 吹雪が辺りを包み込み、白髪の髪に碧い瞳の十代後半ぐらいの姿の涼しげな柄の浴衣を着たおっとりとした少女が現れた。


 おっ、分身みたいなものでしょうか、これは楽しくなってきましたね!


 セツナは本をふよふよと空中に浮かせて、ポセリアと冴花に微笑みながら近寄って視線を私に向ける。

 

「ポセリア、冴花……あの人、強くてとても怖いの」


 コワクナイデスヨ。


「だから……お願い、私を助けて、ね?」


 そう言ってセツナはポセリアを見ながらウィンクをして右手をそっと掴んで手の甲にそっとくちづけする。ポセリアは頬を赤く染めてとても恥ずかしそうに、けれど嬉しそうにしてる。


 今度は冴花の左手をゆっくり掴んで手の甲に、ちゅっ、と、くちづけする。冴花は右手を頬に添えて嬉しそうに微笑んでいる。


 これは……罪な女です、セツナさん。


 ポセリアは三叉の矛を出現させて構え、冴花は薙刀を現出させて構える、そしてセツナを背にして前に歩みでる。

 

 私も刀を中段に構え直します。


 刀を構え直した瞬間に地を蹴り矛を構えたポセリアが仕掛けてきます。


 刀の間合いに入る前に地に足を付け、疾走の勢いそのままに矛で鋭い突きを放つ。


 私の左胸を狙った突きを屈んで避ける、そのまま刀の柄でポセリアの腹部を殴る。


「……うっ」


 小さく呻き声を上げるポセリア、よろり、としながら後ろに下がる。


 私はそこを見逃さずに、刀を振り上げる。


 しかし、体勢を崩しながらもポセリアは地面に矛を突き刺す、そして地面から勢い良く水が噴射される。


「うわっ」


 私は咄嗟に噴出される水の柱をバックステップして避ける。


 後方に下がることを見計らっていたように涼しげに微笑む冴花が私の右足の脛を狙い薙刀で斬り付ける。


 着地の瞬間を狙うなんて小賢しい人ですね。


 私は刀の鞘を出現させる、そして鞘を地面に突き立てて跳躍して冴花を飛び越える。


 空中で鞘を一瞬で消して、今度は着地の瞬間を狙われないように刀身に炎を纏わせる。


 着地する前に刀で横薙ぎに一閃。


 炎の波が波紋のように拡がる。


 冴花は高く飛び上がり炎の波を躱す。


 私は鞘を再び出現させて、カチャ、と音を立てて刀を鞘に納める。


千花流奥義(せんかりゅうおうぎ)緋色(ひいろ)名残八重桜(なごりやえざくら)


 とか、ユキナさんの真似をして言ってみます。


 すると、桜の花びらのような緋色の火の粉を纏った八つのかまいたちが冴花に迫って行く。


 うわ、なんかイメージしただけで出来ちゃいました。


 冴花さんの着地の瞬間を狙う仕返しです。


 着地と同時に三つのかまいたを薙刀で弾いた冴花。


 だが、残り五つのかまいたちが冴花に迫る。


 左に飛び込むように前転して五つのかまいたちをやり過ごした冴花、その表情には先程の余裕はなく焦りが見える。

 

 明後日の方向に飛んでいくかまいたち、そのかまいたちに冴花さんを狙って、と念じてみます。


 そうすると、避けられた五つのかまいたち、弾かれただけで形を保っている三つのかまいたちが軌道修正して冴花を追尾する。


 避けるのは諦めて迎え撃とうとする冴花。


 冴花を庇うようにセツナが立ちはだかる。


「水泡よ、(わらべ)のように遊んで弾けて! ハプニング・バブル」 

 

 セツナが意気揚々と詠唱して両腕を、ばぁ、と広げると幾つもの大きな水泡が現れる。


 かまいたちが水泡に触れると、パァン、と大きな音を立てて弾ける。


 立て続けに大きめのシャボン玉に相殺されるかまいたち……情けない。

 

「どうして……貴女がクラリアの技を使ってるの?」


「へぇ、これクラリアさんの技なんですね。ユキナが使ってたから真似してみただけです!」


「杏捺さんみたいな人を天才と言うのかしら……やっぱり、怖い人」


 更に私のことを怖い人呼ばわりするセツナさん。


 それだとクラリアさんの技を真似したユキナも怖い人になるのですがそれは。


「じゃあ、こっちもそれ相応の対応をしないと」


 セツナは再びポセリアと冴花の後ろに下がって、三人で頷き合う。


「我が愛する片割れたちよ、その力を解放せよ――リミテッド・アフェクション」


 セツナさんが愛するとか小っ恥ずかしいことを言い終えると、ポセリアは全身に水を纏い、冴花は全身に冷気を纏いました、強そう。


「はぁぁぁ!」


 凛とした声を響かせてポセリアが矛を構えて、最初の攻撃とは比べ物にならない程の速さで突進してくる。


 ポセリアの突きを刀で弾く、しかしその一撃はとても重く私は後ろによろめく。


「おっとと」


 そこにポセリアの追い打ちを仕掛ける。


 激流のような水を纏った矛が真っ直ぐに迫り来る。


「やばっ……」


 思いっ切り真横に跳躍して突きを回避する。


 飛び上がったまま振り返ると草原を激流が抉っていく光景が見えます、えげつねぇや。


 着地しようと地面を見ていると、冴花がこちらに向かって疾走していた。


 また着地の瞬間を狙われる、と警戒していると、冴花は私の方へ飛び上がってきた。


 私より高く飛び上がった冴花は空中でとても大きな氷塊作り出す。 


 そしてその巨大な氷塊に薙刀を突き刺して、そのまま私に振り下ろす。


 今度は空中にいるので回避が難しいので迎え撃つ、刀の柄を思い切り握り締めて刀身に業火を宿す。

 

 あっ、やっぱり一度着地しますね。


 私は素早く着地して、そのまま地を踏みしめて飛び上がる。


 巨大な氷塊に刀身を走らせて焼き切り裂く。


 氷塊を砕かれた冴花はそのまま墜落していく。


 私は空中で反転して刀を刺突の構えで墜落していく冴花に狙う。


 地面に激突しそうだった冴花はセツナに受け止められた……あんな小柄なのに凄い力持ちです。


 セツナは空中にいる私を一瞥すると冴花をお姫様抱っこしたまま走り出す。


 十分距離を取ると冴花はセツナの腕から降りる。そしてその隣にポセリアも並ぶ。


「フラッド」


 私が着地する寸前にポラリアが凛とした声を響かせる、すると急に水が溢れ出して草原は大洪水となった。


 何故か激流はセツナたちを呑み込むことなく彼女たちを避けるように流れてる。


 流石に洪水に呑まれると大変ですね!


 炎の翼をイメージする、すると天使のような翼が生えて空へと羽ばたく。


 これは、凄く便利です。


 ぽかーん、としながら間抜け面で私を眺めるセツナさん。


 今度はセツナの前に出た冴花が涼しげな声で唱える。


「サウザンド・アイス・ブレイド」


 私を取り囲むように氷出来た千本の刀が出現する。


「うわぁ……」


 思わず苦笑してしまいます。


 さっきからやたらとポラリアと冴花が強くなってるので、恐らくセツナさんの何とかアフェクションで二人の力を格段に上げてるのでしょう。


 けれどセツナさんの力は変わらないみたいです、多分、限定的な愛情、だからあの如何にも自分のことが好きじゃない表情のセツナさんには効果がない、と思います。


「じゃあこの千本の刀を全部ぶっ壊して、セツナさんを倒しますね!」


 私がそう宣言すると冴花は不敵な笑みを浮かべて左手を上げる、すると私を取り囲む氷の刀が断続的に迫ってくる。


 これは一気に薙ぎ払って全部燃やし尽くした方が楽そうです。


 刀身に業火を纏わせて渾身の一撃を放つ。


 襲い来る千本の氷の刀は業火に呑まれて蒸発してゆく。


 悔しげに地団太を踏む冴花。いい気味ですね。


 そして隣にいるセツナさんを見る、本を空中に掲げて何やら大技を使う予定みたいです。


「天に煌めく数多の星々よ、狂乱の光と成りて降り注げ――ルナティック・レイ」


 空から途轍(とてつ)もなく大きな一筋の光が私を目掛けてゆっくりと落ちてくる。


 やばい。


 これは逃げようと炎の翼で羽ばたく、しかし二本の氷の刀が両翼を貫く。翼を無くした私は落ちていきます。


 冴花の方を見ると若干腹が立つしたり顔でした。


 そして尚も光は迫ってくる。


 私は落下しながら一か八かの光を打ち消そうと刀に今まで以上の焔を纏わせ解き放つ。


 だがしかし、光はいとも簡単に焔を呑みこんで消し去った。


 そのまま私は光に完全に呑みこまれた。


 

 草原に隕石が落ちたような大きなクレーターとなっていた。


 クレーターを満たす光の残滓を見つめていたセツナは吐息を零す。 


「……はぁ、少しは効いてくれたかしら?」


 ポセリアと冴花はセツナにそっと寄り添う。


「ポセリア、冴花……ありがとう。貴女たちのお陰で――」


「――まだ終わってませんよ!」


 私はクレーターから飛び上がりそのまま闇の焔を宿した刀を振り上げる。


 そして、咄嗟のこと身動きが取れないセツナにその切っ先を振り下ろす。


 飛び散る鮮血。


 私はセツナを庇ったポセリアを袈裟懸けに斬り捨てていた。


 苦悶に満ちた顔で地面に崩れ落ちるポラリアを受け止めるセツナ。


「ご、ごめんなさい、ポセリア……私の所為で、今治すから……」


 悲痛な表情のセツナが放つ淡い水色の光をポセリアは浴びて深い傷は塞がる。だがポセリアは起き上がることが出来ずに気を失う。


 私は刀を中段に構え直す。


 傷ついたポセリアを見て、すっかり戦意損失してしまったセツナ。


「もう戦えないなら私の勝ちでいいですか? セツナさんは、まだまだ本気を出してないようですけど」


「もう私の負けでいいわ……私は、大切なものを守れない!」


 悔しそうに下唇を噛むセツナ。


「……はぁ、じゃあ、暴れ足りないのでクラリアさんと戦わせてもらいますね」


「待って! どうして……?」


「甘えないでください、私が悪い奴だったら相手の命を奪うまで戦ってますよ? 私はあくまでも楽しい戦いが出来ればいいのですから」


「……貴女が悪魔なのは分かったわ」


「そういう意味で言ったんじゃないんですけど!?」


 私の反論に涼しげな表情で微笑を返すセツナさん。う~ん、この人はやっぱりユキナの妹ですね。


「冴花、ポセリアをお願い」


 冴花は頷いて気絶しているポラリアを抱き上げる。 


 セツナは冴花に背を向けて力強く言い放つ。


「後は私が戦う」


 冴花は微笑んでとポラリアを抱えたまま吹雪に包まれて姿を消した。


「彼女たちは大精霊で私と契約して人の姿になったのだけど……私が未熟な所為で力を引き出せなかったの」


「へぇ、そうなんですか」


「でも、もう私は、私の弱さから逃げない……杏捺、貴女を倒して大切なものを守る!」


 セツナは三角帽子とローブを本の中にしまう、独特なコスプレ少女が普通のセーラー服の学生になった感じがします。 


 そしてセツナはスカーフを解いてくるりと優雅に回る、スカーフは水色のロングソードに変わる。


「さぁ、ここからが本番よ」


 ロングソードを構えたセツナは地を蹴り真っ直ぐに私へ向かってる来る。


 私は刀に闇の炎を纏わせる。


 それを見たセツナは立ち止まり剣に輝く水を纏わせる。


「セイント・ウェーブ」


 光輝く水の四つの波状攻撃が切っ先から放たれる。


「えっと、ダークフレイム何とか!」


 私は刀を地面に差して一気に切り上げる、闇の炎の波が水の波状攻撃を迎え撃つ。


 輝く水と闇の炎がぶつかり合う衝撃に互いに体勢を低くして堪える。


 私はそのまま刀を振りかぶってセツナに迫る。


 セツナは剣を弓に変えて一瞬で矢をつがえて射る。


 銃弾より速い冷気を帯びた矢が向かってくる。


 咄嗟に屈んで矢を避ける。


 矢の着弾地点は氷河のように凍り付いていた。


 再び弓を剣に変えてセツナが肉薄する。


「はあぁぁぁぁ!」


 我武者羅に剣を振り回すセツナ。私はそれを刀で受け流す。


 一見無茶苦茶に見えるセツナの攻撃は、全て私の刀を狙ってるように思える。


 この刀はユキナが作り出した剣、彼女は壊れない剣と言っていた。しかし、一瞥しただけで刃こぼれしているのが見て取れた。


 恐らく作り出したユキナの魔力が薄まってきているから、だか、それに気づいた時には遅かった。


 最後に放たれたセツナの渾身の一撃が私の刀の刀身を根元から砕いた。

 

 刀を無力化したセツナは剣を構えて私を見据える。


「まだ続ける? なんて訊かないわ……貴女を倒して気絶させてでも戦いを終わらせるわ」

 

「もちろん私は抵抗するで、拳で!」


 私は一瞬で刀を本の中に仕舞って本を消す、そしてセツナの脳天を目掛けて蹴りを放つ。


「足じょん!」


 足じゃん、と言いたかったであろうセツナさんは若干噛んでます。


 セツナは剣を杖に変えて私の蹴りを受け止める。


「じゃあ今度は本当に拳で!」


「うっ、ぐっ……」


 直ぐに態勢を立て直してセツナの腹部に拳をめり込ませる。


「……けほっ、けほっ」 


 咳き込んで膝をつくセツナ。


 止めを刺そうと追撃に踵落としをお見舞いする。


 しかし、


 セツナの影から出現した謎の黒い少女の足を掴まれた。


「なぁ~んだ、怖くて可愛いお嬢さんはスパッツ履いてるのか……残念。久しぶりだねぇ、セツナ」


「クロナ……どうして貴女が!?」


 実はさっき刀を本の中に仕舞ったついでにスパッツを履きました、本を使うと一瞬で着替えられるから便利です。


 そしてクロナと呼ばれたセツナそっくりの全体的に黒い少女の腕を払いのけて数歩下がる。


「ワタシもいるよ、セツナ!」


「シロナまで! 一体どうして……?」


 気付くとシロナと呼ばれる白い少女が私の後ろに立っていた。


 クロナ、長い黒髪に瑠璃色の瞳に黒セーラー服の少女。


 シロナ、長い白藍(しらあい)の髪に瑠璃色の瞳に白セーラー服の少女。


 良く分からないけど、三対一になるパターンですか! 楽しみですね!


 私がワクワクしているとシロナさんが話しかけてくる。


「杏捺。今の、貴女ではわたしたち三人には敵わないわ」


「えっ、ちょっと人の思考読むのやめてもらえますか?」


「思考を読まなくても解るわよ。三人と戦いたくて仕方ない、って表情だもの」


「まぁ、三人と戦いたくて仕方ないのは事実ですから良いですけど!」


「いいんだ」


「いいんです!」


 シロナさんの見た目はセツナさんそっくりだけど、雰囲気はユキナに似てますね。


 セツナさんとクロナさんの方を見る。


「このダークサイド・ガーデンは激しい戦いの衝撃で次元に裂け目が出来たんだ……元の世界には影響もないけど、魔女の館の上空に次元の裂け目が出来ていたんだ、そこからワタシとシロナはセツナの魔力を感じたから来てみたんだ」


「そうだったの……でも、またクロナとシロナに逢えて良かった……」


 涙目になるセツナはクロナの両手を握る。


「うん、ワタシたちも感動の再会にしたいところだけど……まずはこの喧嘩を終わらせよう!」


 クロナさんは私の方を見て薄笑みを浮かべる、あっ怖い。


「杏捺、今回はわたしが一緒に戦うわ」


「え~、シロナさんもセツナさんとクロナさんたちの方に行っていいですよ?」


「わたしも久しぶりにセツナと戦いたいから、ではダメかしら?」


「なら仕方ないですね、一緒に戦いましょう!」


「ふふっ、ありがとう」


 セツナは剣を、クロナは大鎌を、シロナは杖を、私は拳を構える。


「ちょっと、杏捺、丸腰で戦う気!?」


「セツナさんに刀を折られたので!」


「……わたしやセツナでも直す事は出来るけど、それだとまた壊れるから。貴女自身が直さないと意味ないの」


「自慢じゃないけど壊すのは得意だけど、直すのは凄く苦手です!」


「知ってる」


「ですよねー」


「兎に角、刀を直しましょう」


「は~い」


 私は本から刀を取り出す、綺麗に刀身が折れてるから修理しやすいのかもしれない。


「その刀を掴んで、直れ~、って念じれば直るわ」


「それだけ?」


「それだけ!」


「簡単なんですね」


「ついでに刀に、絶対折れるな、刃こぼれするな、とも念じて」


「了解です!」


 言われた通りに刀の柄を握り締めて、直れ~、絶対折れるな、刃こぼれするな、と強く念じます。


 すると、折れた刃が闇の炎を纏い元通り、いや、前よりも緋色に煌めく刀に成った。


「やったぜ!」


「凄い……流石ね」


 そう言って驚嘆するシロナさん。


「シロナさん、ありがとうございます!」


「わたしは教えただけだから……その刀大切な物なのね」


「おっ、そうだな」


「くすっ、照れてる、可愛い」


 よし、今度シロナさんをからかってやろう、と決意するのであった。


「刀の修理も終わったねぇ……じゃあ、戦闘再開だねぇ。行くよセツナ!」


「えぇ、行きましょう、クロナ」


 クロナとシロナの二人は手を繋いで踊り出す。


(くら)き漆黒よ」


「流麗なる碧よ」


「「今、此処に交わりて新たな力を紡ぎ出せ!」」


 漆黒の闇と碧い水が交わって一つになってゆく。


「変身中に攻撃するのはお決まりですよね!」


「いやいやいや、そんなお決まりないから! 外道だから! 邪道だから!」


 シロナさんが何か突っ込んでるけど無視して攻撃します!


 闇の炎を纏わせて一点に集中して突きを放つ。


 放たれた闇の炎が一直線にクロナとセツナへ向かって行く。


 しかし、周りに渦巻く闇と水に阻まれて掻き消される。


「最近の魔法少女は変身中に攻撃されるのを想定して、変身中に防御魔法を展開する……ってこの前クロナと観たアニメでやってたわ」


「抜かりねぇな」


 感心しました。今回は、変身中に攻撃するの止めます。


 漆黒の闇と碧い光が晴れると、黒髪の先端が碧いグラデーションの長髪、ゴシックロリータ風のドレスを身に纏った妖艶な雰囲気の外見二十代前半の女性が現れた。


「うふ、うふふふっ……最高の気分だわぁ」


 黒の女性は瑠璃色の瞳を怪しく輝かせて私とシロナさんに視線を向けて、にたり、と微笑む。


「うわぁ……ヤバイ人が来ましたね」


「クロナとセツナが合体したから……クロツナ?」


「クロツナ……結構美味しそうですね!」


 私とシロナさんのやり取りをクロツナさんは苦虫を嚙み潰したような顔で見ていました。


「クロツナとか……貴女たちのネーミングセンス壊滅的じゃない。ワタシの名前は『ノワール』とでも呼んでちょうだい」


「あらやだシロナさん、クロツナさんが何かカッコいい名前で呼んでほしいみたいですよ、クロツナさんの癖に」


「あらぁやだわぁ杏捺さん、ノワールですって厨二全開じゃないですか、二十代前半の外見の癖に、クロツナさんの癖に」


 私とシロナさんのやり取りに堪忍袋の緒が切れたクロツナさんは漆黒の大鎌を出現させて構えました。


「貴女たちぃ……ワタシをバカにした事、後悔させてあげるわ!」


「クロツナさんになると、セツナさんの冷静さは吹っ飛んじゃったんですかねぇ」  


「多分、クロナが主人格になってるからだと思うわ。まぁ、クロナは単純なところも可愛いから」


「また……ワタシをバカにしてぇ!」


 叫びながら振り下ろされる大鎌を刀で受け止めようとする。


「ダメ、杏捺避けて!」


 シロナの声を聞いて咄嗟に右に飛び込むようにして大鎌を避ける。


 大鎌は地面に突き刺さると大地を深々と抉り、地平線まで伸びる一直線の地割れを作り出していた。


「クロナはわたしたちの中で一番力が強いの……セツナと合体したから更に力が強化されてる筈よ、破壊力だけならユキナお姉ちゃんよりも、貴女よりも上よ」


「それはそれは……」


「怖気づいた?」


「いや全然、凄く楽しめそうですね!」


 目の前のクロツナ(ノワール)は、私よりも強い。


 自分より強い相手と戦うのは、とてもとても愉しい。


 高揚しながら刀の柄を強く握り締め、闇の業火を刀身に纏わせる。


「杏捺さんブラストォォォ!」


 地を踏みしめ、刀を振り上げ、声を張り上げて、放つ一刀。


 闇の業火が草原を(おお)い尽くしクロツナに迫る。


「ちょっ、と……ふっっふ、そ、そのネーミングセンス」


 後ろのシロナさんは左腕で腹を抱えて、右手で口を押さえて必死に笑いを堪えてます。


「ノワールさんに『クロツナさん』と命名したシロナさんも同罪です!」


「確かに! まっ、いっか。クロツナ可愛いよ、クロツナ」

 

 そんな私とシロナさんやり取りを見ていたクロツナさんは呆れながら大鎌を振りかぶってゆったりと振り下ろした。


 すると辺り一面を焼き尽くしていた闇の業火は跡形もなく消え去った。


「ふわぁ……欠伸(あくび)が出る程ぬるい火ね、そんな弱火じゃあワタシを炙りツナに出来ないわよぉ~?」


 欠伸をしてから小馬鹿にしたよに、にったり、と微笑んで煽ってきました、ムカつきます。


「じゃあ今度はこっちからぁ……」


 クロツナは自分の影に沈んで姿を消した。 


 クロツナさんは、おそらく影から影に移動出来るのだろう、地味にズルい。


 辺りは焼け野原になっており、私とシロナさんの影があるだけだ。


 私は自分の影とシロナさんの影を交互に確認する。


 シロナさんは私の方を見てウィンクする。


「杏捺……少し目を瞑っててね」


「了解です!」


 今、目を瞑れば影から出現するクロツナさんに攻撃されるだろう。


 だがシロナさんに何か妙案があるのだろう、私は彼女を信じて両目を瞑った。


 音もなく私の影からクロツナさんが出現した、でも気配でわかるんですよね。


 しかし私は目を瞑ったまま動かない。


「フラッシュ!」


 シロナさんが叫ぶと閃光が辺りを真っ白に染め上げた。


「目が、目がぁ……!」


 大鎌を落として両目を手で覆って悶えるクロツナさん。


 その大きな隙を逃さず、クロツナさんの腹部を思いっ切り蹴る。


「うぐっ……」


 少しよろめいただけで、あまり効いてないようだ。


 ならば、今度は刀に炎を纏わせ、その炎を刀身に集中させた。


 緋色に煌めく刃で目が眩んだままのクロツナの腹部を目掛けて刺突する。


 刀の切っ先がクロツナの腹部に到達する寸前に、ぱっ、と両目を開いたクロツナと目が合った。


 あっ、やばい。


 先程の不気味な微笑みを浮かべていた彼女とは打って変わって真剣な表情をしていた。


 クロツナは切っ先を踊るようにするりと躱した。


 刀を反転させてクロツナに追撃を試みる。


 しかしクロツナは一瞬で私の懐に飛び込んできて、ぱぁん、と左頬を平手打ちされた。


 頬がじぃ~んと痛んだ、まるで母親が子どもを叱る時のような愛のあるビンタ。


 少し痛い程度なのに、全身の力が抜けて膝から崩れ落ちる。


 辛うじて刀は握り締めているが刀に炎を灯すことが出来ない、それどころか指ひとつ動かせない。


 膝立ちの姿勢のままクロツナを睨む。


「終わりね……杏捺」


 無表情で大鎌を振り上げるクロツナ。


 あぁ……ヤバいですね、これは死んじゃうかも。


 自分より強い人間に殺されるのは当たり前のことだ。


 諦めたように瞼を閉じる。


 すると思い浮かんだのは、ユキナの陽だまりのような微笑みだった。


 そうだ、まだ死ねない。


 強い人ともっと戦ったり、戦ったり、戦ったりしないと!


 そして、ユキナと戦ったり、戦ったり、戦ったり、からかったりしないと!


 やっと動いた左手で刀を地面に突き刺して、刀を杖替わりに立ち上がる。


「……もう、立ち上がれるの? 頑張らないでいいのよ、今楽にしてあげる」 


「させない!」


 私の目の前に飛び込んできたシロナが杖でクロツナの大鎌を受け止める。


「シロナ……邪魔を、しないで!」


 クロツナは大鎌を横に振り被って薙ぎ払う。


 シロナは杖の先端でクロツナの大鎌の柄を打ち上げるように殴って斬撃の軌道を逸らす。


 透かさず打ち上げられた大鎌を再び振り下ろすクロツナ。


 それをシロナは最小限の動きで右に躱して杖でクロツナの頭部に殴りかかる。


 杖はクロツナのこめかみに当たったが全く手ごたえがない。


「ちょっと……痛いじゃない」


 そう言って平然と笑うクロツナ。


 シロナは私の方を振り向いて叫ぶ。


「杏捺! 今のわたしたちではクロツナに勝てない! 逃げるよ!」


「へいへい」


 悔しいけど勝てないのは事実ですからね、戦略的撤退です!


「逃がすと思ってるの……?」


「逃がして?」


 シロナさんが上目遣いに瞳を潤ませてクロツナさんにお願いする。そんなんで逃がしてくれる訳が……。


「……さ、三分だけ待ってあげるわ!」


 頬を赤くして視線を逸らすクロツナさん、ちょろいぜ。


「行こう、杏捺!」


「あ~……はい」


 シロナさんと私はクロツナさんに背を向けたまま森の方へ走る。


 一瞬、振り返るとクロツナさんは頬を赤く染めたまま髪を弄りながら悩ましげに私たちを見ていた、乙女か! 



 森に入ってしばらくしてシロナさんが立ち止まる。


「ふぅ……少し休憩しましょう」


「と言っても、あと一分三十九秒しかないですけどね」


「数えてたの!? 凄いね杏捺は」


「いや、フツーですよ」


「そっか、じゃあこれでも飲んで」


 シロナさんは白藍の本を出してそこから二本の水色の小瓶を取り出した。


「何ですか……その怪しいおクスリは?」


「わたしが作った栄養ドリンクよ。社畜や廃人ゲーマの味方よ!」


「社畜でも廃人ゲーマでもないので遠慮しますね」


「いいから! 飲みなさい!」


 半ば強引に飲ませようとするシロナさん。


 仕方ないので飲んであげることにしました。


 柑橘系の微炭酸で結構美味しいです。


 疲労感という程の疲れではなかったけど少し体が楽になりました。


 シロナさんも、ぷはーうんまぁい、と一気飲みしてました。


 空になった小瓶を本の中に仕舞うと、シロナさんはニヤリと笑いました。


「いやぁ、飲んじゃったね杏捺さん」


「あ~、飲まない方が良かったパターンですね、これは」


「もう遅いわ! 白藍の光よ、緋色の焔と一つに交わり大いなる力と成れ!」


 シロナさんが言霊を唱えると、シロナさんが白藍の光になって私の中に入り込んでくる、不法侵入ですよ!


 白藍の光と緋色の焔が体を包み込み弾ける。


 すると、髪が腰まで伸びて先端が白藍色のグラデーションになっていて、白衣に、緋袴(ひばかま)に、足袋、草履と巫女装束になっていた。


『ふっふっふっ、似合ってるわよ杏捺、すっ、ごく綺麗よ!』


 半透明のシロナさんが背後霊みたいに私に憑いてます。


「あっ、それはどうも……でもこれコスプレじゃん」


『あぁ、この衣装は本物のだからコスプレじゃないわよ!』


「なるほど……?」


『あん、まり納得してないわね……でもこれで防御力めっ、ちゃ上がりましたよ!』


「それは良いですね!」


 何気に下に半襦袢(はんじゅばん)まで着てる本格仕様でした、元々着ていた下着はそのままで少し安心しました。


『じゃあ、戻ってクロツナを倒しましょう!』


「そうですね、シロアン行きます!」


『シロアン……色んな意味で美味しそう』


 シロナさんは和菓子が好きなんですね。


 体が物凄く軽く感じる、それなのに途轍(とてつ)もない力を感じる。


 シロナさんが力を貸してくれている、だからあのクロツナさんを、ぎゃふん、と言わせてやります!



 草原、だった焦土に戻ってきました。


「戻って来たわね……って、その姿は!?」


「シロアンです!」


「ネーミングセンスゥ!」


「シンプルで良い名前ですよね、シロアン!」


「はぁ……もういいわ」


 クロツナさんは諦めたように肩を落とします。


 幽霊姿のシロナさんがクロツナさんに、ビシッ、と指を差して高らかに宣言します。


『今のシロアンなら、クロツナなんて、ちょちょいのちょいよ!』


「そーだー、そーだー、クロツナさんなんて、けちょんけちょんだー」


 煽るシロナさんに便乗して私も煽ります。


 それを聞いたクロツナさんはわなわなと震えます。


 この姿になってから見えるようになったけど、半透明のセツナさんがクロツナさんの背後にいました。


『クロナ……あんな安い挑発に乗らないで』


「……今のワタシはノワールよ! シロアン、貴女が可愛い悲鳴を上げても、泣きながら許しを請っても許さないんだからぁ!」


 セツナさんが宥めるのも聞かず、私に大鎌を構えて突進してくるクロツナさん。煽り耐性低過ぎですね!


 私の首を狙う大鎌を刀で受け止める、確かに物凄い力だが今度は受け止められた。今の私たちの力なら互角かもしれない。


 刀を思い切り振り被って大鎌を弾く。


 よろめきながら体勢を崩すクロツナ。


「今です、シロアン・ブレイド!」


 光り輝く焔を刀身に込めて刀を振り下ろす。


 一筋の光の焔の斬撃がクロツナに迫る。


 無駄に衝撃波を生み出すのではなく、一点集中した斬撃。


 チッ、と舌打ちをして寸前のところで避けるクロツナ、ドレスの先端が少し切れて消滅していた。


「このドレスお気に入りなのに! もう……本当に許さない!」


『ノワール、私と交代してドレスを直すから』


「そんなの後でいいよ! シロアンの服をズタズタにして、辱めてやるんだから!」


 セツナさんのいうことを全然聞かない情緒不安定なクロツナさん。


 クロツナさん……クロナさんは確かに力は強い、けれど動きに無駄が多いしので隙が出来やすい。更に怒り狂って動きが物凄く単純になってる……これは勝ちましたね。


 と内心思いつつも警戒したまま刀を中段に構える。


「あぁ……そっかぁ、シロアンを倒すことばかり考えてたけど、別に倒さなくても、とっ、ても気持ち良くしてあげればいいんだ! そしたら快感で悶えて倒れちゃうもんね!」


 私に、にったりと妖艶な微笑みを向けるクロツナさん。


「何か凄い嫌な予感がするのですが……」


『何をする気なんだろ……わくわく』


「何で期待してるんですかシロナさん?」


『あぁ、今のわたしは杏捺と感覚を共有してるから、怪我したりするとわたしも怪我するの、でもわたし回復力が物凄く高いから腕が吹っ飛んでも直ぐに再生するのよ!』


「腕が、うにゅ、って生えてくるのですか?」


『そんなグロテスクな再生じゃないから! 光に包まれて、ぱー、ってなって、わー、ってなって再生するのよ!』


「なるほど、まるで意味がわからんぞ」


『えっと、兎に角、クロツナがどんな強い攻撃をしてきても今の杏捺なら直撃しても耐えられるし、わたしの再生力で無敵ということよ!』


「それ、負けるフラグ」


『テヘッ』


 まぁ、いくら防御力が高くなろうが痛いものは痛いし、出来るだけ避けますけど。


 クロツナさんの方に視線を戻す。


「我が愛から美しき乙女が逃げる事は叶わず、避ける事も叶わず、我が愛は美しき乙女を天国へ誘う――サディスティック・ヘブン」


 クロツナさんが変なことを言い終えると、彼女の周りに黒いハートが幾つも出現した。


「シロナさんあの魔法は……?」


『初見です! 気を付けましょう!』


「さいですか、取り敢えず当たらなければいいですね!」


『そういうことですね!』


 私とシロナさんが作戦会議っぽい事をしていると目の前にクロツナさんが居ました。


「アハッ……ワタシとイイコト、しよ?」


 とか言いながら大鎌でぶった切る気ですよ、怖い怖い。


 また刀で受け止めようとする――しかし、大鎌は刀をすり抜けて私の胸部も通り過ぎた。


 斬られた、と思ったが全然痛みがない、不可解に思いながらクロツナを見る。


「あ~あ~……当たっちゃったねぇ、シロアン。ふっふっふっ……ねぇ、とっても気持ちイイでしょ?」


「いや、寧ろ貴女の台詞が気持ち悪いの……うっ!」


 大鎌がすり抜けた胸部が熱を帯びる、そしてその熱が体全体に行き渡り体が火照る。


 全身が快感に包まれて、とてもとても。


「なにこれ……凄く、気持ち悪い」


「もう、シロアンは素直じゃないなぁ……凄く気持ちイイ、でしょ?」


 私は余りの不快感に刀を落として座り込んだ、クロツナは屈んでから私の左手を掴んで手の甲に舌を這わせる。


 それだけで背筋がゾクゾクして下腹部まで熱くなってきた。


 右手でクロツナの頬をぶん殴る。


 急いで刀を掴んで距離を取る。


「いたいなぁ、もう……素直にすればもっと気持ち良くしてあげるのに」


『ノワール、いえクロナ、もう止めなさい! 貴女はシロナと付き合ってるのでしょ、それに杏捺は貴女の恋人じゃないでしょ! こんな事していい訳……』


「いいに決まってるでしょぉ~? だって杏捺とシロナは今一つになってるんだから……仮に三人だとしても皆で合意の上でだったら何も問題ないよねぇ、本当にセツナは真面目だなぁ」


『私が真面目だからじゃないわ! 貴女が不誠実なだけよ!』


「堅苦しいなぁ……セツナは、もっと気楽に生きればいいのに」


 セツナとクロツナの口喧嘩を眺めながらポツリと呟く。


「ぜ、全然、合意じゃ、ないの……です、けど」


『そ、そうよ! 杏捺には、ユキナお姉ちゃん、がいるもん、ね!』


「あっ、はい、ユキナは私のものです!」


『認めた!?』


「それはそれはとして……これ、状態異常回復の魔法とかで消せませんか?」


『残念だけどそれは無理……これはクロナの愛だから、毒を取り除けても、愛から逃れることは出来ないの』


「シロナさんと合体してることは関係ないのですか?」


『……多分この魔法、美女には必中の魔法だと考えた方がいいわ。わたしもシロナも可愛い女の子が好きだもの』


「マジですかぁ……不細工に生まれればよかったかも、もしくは男性?」


『それは絶対にダメ!』


 急に声を張り上げるシロナさん。


『あっ、ごめんなさい……杏捺は美女として生まれる運命だったのよ! それに可愛い女の子だとユキナお姉ちゃんも喜ぶから、ね?』


 そう言って表情を和らげるシロナさん。


 男性、という単語を聞いた瞬間に剣幕になっていた。


 余り深く追及しない方がいいですね。


「まぁ……ユキナに好かれてるなら、このままで良いですね」


『うん、うん、わたしもそう思う!』


 と言っても現在進行形で私たちが不利な状況には変わらない。


 まだクロツナさんとセツナさんは口喧嘩をしている。


「シロナさん今からクロツナさんに卑怯な事するけど……いいですよね?」


『うん、わたしが許可するわ! クロナがあの魔法を習得してた事を秘密にされてたので、ちょっと、怒なので!』


「ヨシ! あっ、そういえば私の攻撃が闇から光になってるのは、シロナさんのお陰なんですよね?」


『そうそう、同じ闇と闇で戦うより、光と闇で戦う方がいいの……まぁ、どちらにせよ光と闇はお互いに弱点だから力比べになっちゃうけど』


「まぁ、楽しいので良いですよ」


『そうね。じゃあ、そろそろクロツナに引導を渡すとしましょうか!』


「らじゃ! シロアン・エンシェント・フレイム!」


 返事して直ぐに魔法を発動する。


 クロツナの周囲が光輝に満たされて一気に爆発する。


 爆風からクロツナが飛び出してくる。


「ちょっと……行き成り何するのよ!」


「あぁ、口喧嘩を止めてあげようと思いまして! シロアン・セイクリッド・ランス!」


 そう言って私は、光り輝く槍を四本作り出してクロツナへと射出する。


 クロツナは大鎌で受け止めようとせず、真横に飛んで回避する。


 恐らくクロツナの大鎌は今、こちらに絶対に攻撃を当てる事が出来るが、こちらの攻撃を大鎌で防ぐ事も出来ない状態だ。


 だから距離を維持したまま遠距離攻撃で倒す、卑怯なのは十分承知してます!


「シロアンなんとかなんとか!」


 自分でもよくわからない光と炎の魔法を立て続けにクロツナに放つ。


 回避し続けていたクロツナだが、段々動きが鈍くなってくる、そして魔法を回避する事が出来なくなり。


 立て続けに三十九発の光の火球が直撃する。


「ああ、ああぁぁあぁぁあぁぁぁぁ!」


 断末魔の悲鳴を上げるクロツナ。


 火球が地面を抉って砂煙を上げて焦げ臭い匂いがする。


 煙が晴れると、クロツナはドレスの大部分が焦げて頬が少し(すす)けてるが肌や髪は綺麗なままだった。


 だが既に満身創痍でガクリと倒れ伏した。


「そんな……このワタシが、ノワールが負けるなんて……」


 大鎌も消えて、私の体の不快な快感も少しづつ消えていく。


「やったか!?」


『多分、やったぜ! クロツナを倒したわ!』


 私とシロナさんは勝利の喜びを分かち合うようにハイタッチをする。まぁ、シロナさんは幽霊だからすり抜けてしまいますけど。


「うふっ、うふふふふふっ! 確かにワタシは負けたけど、シロアン……貴女の勝ちでもない、道連れよ! 我が痛みよ、愛と交わりて美しき乙女を蝕め――サディスティック・ペイン!」


 クロツナは詠唱を終えると完全に気を失った。


 そしてそのクロツナの体から黒いハートが幾つも飛び出してきて私へと降り注ぐ回避する事も叶わず、全て黒いハートが私の体に入ってきた。


 すると体が燃えるように熱くなり、激痛が体を駆け巡る。


「ぅ、うわっ……な、なにこれぇ、め、めっちゃ痛いんですけど!」


『痛い痛い痛い痛い痛い痛い!』


「シロナさん、落ち着いてください!」


 痛覚も共有してるから同じ痛みを感じてる筈だが、人によって耐えられる痛みと耐えられない痛みがある。


 しかし、この痛みは体が焼け付くよう熱くなって引き千切られるような痛みだ、私やシロナさんじゃなければ悲鳴を上げる前に死んでいた。


 刀を落として地面に這いつくばる。


 クロツナが最後に放ったシロナでも直す事が出来ない激痛の呪い。


 体への外傷が全くないのに指一本を動かすだけで体の内側への痛みが増していく。


 ふと、クロツナの方に視線を向ける、そこにいたのは気絶した黒セーラー服姿のクロナだった。


 そして視線を目の前に戻すと幽鬼のように朧気(おぼろげ)なセツナだった。


 何でセツナさんは気絶してないのですか!? ていうか髪が垂れて表情が見えない、怖っ!


 セツナは、ゆったりと私へと手を伸ばす。


 今度こそ絶体絶命ですね!


 そして屈んで勢い良く私を抱き上げるセツナ、その顔には大粒の涙が流れていた。


「ごめんなさい、杏捺、シロナ……クロナがバカな事をしたからこんなに傷ついて!」


 セツナの涙が密着した私の頬に当たる、それだけで体の激痛が綺麗さっぱり消えた。


 それと同時に変身も解けてシロナさんが出てきて、私たちをチラリと見てから急いでクロナさんの方へ駆けて行った。

 

「よし痛みもセツナさんが消しくれたみたいですし、私とセツナさんはまだ戦えますね!」


 私の提案にぶんぶんと首を横に振るセツナさん、長い髪が顔に当たって地味に痛いです。


「もう嫌ぁ……もう戦いたくない!」


「えぇ……それだと私の勝ちになりますよ?」


「これ以上……貴女を傷つけるぐらいなら私の負けでいい!」

 

「いや、でも……」


 セツナさんの涙がひと雫、私の体に触れる毎に戦闘意欲が失せてゆく。


 セツナさんの背中に両腕を回して口を開く。


「じゃあ、今回は私とシロナさんチームの勝ちですけど、また今度ちゃんと戦ってくださいね?」


 それを聞いたセツナさんは涙を拭って私を真っ直ぐ見つめる。


「うん……約束する」 


 そう呟いて僅かに微笑んだ。


 

 眠りについたクロナさんをおんぶするシロナさん。


 気持ち良さそうにすやすや寝てるクロナさん、その顔を見てると一発腹パンしたい気分になるけど、一緒に戦ってくれたシロナさんと呪いを消してくれてセツナさんに免じて止めておきます。


「ごめんね、杏捺、セツナ……クロナは夜のベットでお仕置きしておくから」 


「寝技……意味深ですね」


「寝技? 意味深? ……どういうことなの?」


「セツナは知らなくていいの」

「セツナさんは知らなくていいです」


「もぅ、はぐらかさないでよ……いつの間にそんなに仲良くなってるの杏捺とシロナは」


 セツナさんがいじける。そして私とシロナさんは顔を見合わせる。


「まぁ、戦友ですからね!」


「そうそう、そんな感じ!」


「そうなんだ……ちょっと羨ましいなぁ」


 私とシロナさんの返答に小声で何か呟いたセツナさん。


「ん、何か言いましたか、セツナさん?」


「羨ましいとか、何とか言ってたわ! どっちが羨ましいのかしら?」


「どっちもよ! 二人してからかわないで!」


 若干頬を赤く染めて恥じらうセツナさん。


 それを見てからかいの追撃を行おうとする私とシロナさん。


 しかしセツナさんは熱っぽい吐息を零して、桃色の唇に右人差し指を当てて、赤く染まった頬のまま潤んだ瞳で私とシロナを交互に見つめてくる。


 外見が幼いのに妖艶な雰囲気の美少女に見つめられて破壊力がヤバかったので、からかいの追撃を行う事が出来ませんでした! 不覚!


 これを自覚してやってるならただのあざとい美少女で、無自覚でやってるなら魔性の美少女ですね。まぁ、セツナさんの場合後者でしょうね。


 逆に私とシロナさんは頬を真っ赤にしてセツナさんから目を逸らします、悔しいのぉ。


 んん……おっほん、と咳払いするシロナさん。


「それじゃ、またね、セツナ、杏捺!」


「……またね、シロナ、クロナ」


「またです、クロナさん、シロナさん!」


 眩しい笑顔で手を振るシロナさん、名残惜しそうに少し微笑んで手を振るセツナさん、間抜け面で寝てるクロナさん、ついでに私も笑顔で手を振ってます。


 シロナさんたちを見送り、草原に戻ってくると夕暮れ時になっていた。


 茜色の光がセツナさんの碧い髪を照らしている。


「セツナさん、今日はありがとうございました、凄く楽しい戦いでした!」


 私がお礼を言うと複雑そうな表情になるセツナさん。


「私も……一応、楽しかった、です」


 セツナさんはそう言って視線を逸らして少し赤くなった頬を掻く、今なら夕陽の所為に出来ますね!


「また、戦う約束ですからね!」


「うっ……約束なんてしなければよかった」


 がっくりと項垂れるセツナさん。


 ふと耳を澄ませると、セツナさんの背後の森から何か聞こえてきた。


「セツナ無事ですかあぁぁぁぁ!」


 森から凄い勢いで駆けてきたクラリアさんが勢いそのままにセツナさんに抱き着いてきた。


「うわっ!」


 驚きながらもしっかりとクラリアさんを受け止めるセツナさん。偉い!


「セツナ無事ですか!? 怖い女の人に襲われませんでしたか!? 無理矢理服を脱がされたりされてませんか!? って、怖い人が目の前に!」


「クラリア落ち着いて! 杏捺は確かに怖い人だけど、悪い人ではないのよ」


 また怖い人呼ばわりしましたよ。


「あぁ、確かに私はセツナさんを無言で襲って、服も無理矢理脱がせましたね!」


 初めに無言でセツナさんに斬撃を仕掛けたり、クロツナさん状態の時に火球を当てて半裸状態にしたので、間違ってないです、はい。


「そ、そんなっ……!?」


「杏捺! 話をややこしくしないで! クラリアも信じないで!」


 驚愕の表情のクラリアさん、セツナさんはちょっと怒ってます。


 クラリアさんもからかう対象することにしました!


 セツナさんがクラリアに私たちの戦いの経緯を説明します、クラリアさんは説明を聞いてる時に終始顔が青ざめてました、世界の終わりを聞いてるような表情でした。


「兎に角、無事で良かったです、セツナ! 一緒に帰りましょう皆待ってます!」


「ふふっ、そうね、クラリア」


 手を繋いで一緒に帰る姿は仲の良い親子のようにも見えるし、姉妹のように見えた。


 セツナには帰る場所が二つある、クロナさんとシロナさんがいる魔女の館。もう一つはクラリアさんたちがいる村。


 少し私と似てると思った。


 セツナさんが振り返って私を見る。


「またね、杏捺。ユキナ姉さんのことよろしくね」


「あっはい、またです、セツナさん」


 まるで私の考えてることを見透かしてるように微笑むセツナさんに少し素っ気ない返事をしてしまった。

 

 クラリアさんは……私を睨んでますね、はい。


 そうしてセツナさんとクラリアさんを見送った後に私も森の泉へ行きユキナの元へ帰った。




「おかえりなさい、杏捺」


「ただいま、ユキナ」


 家の中に入ると香ばしいシチューの匂いがした。


「今夜はシチュースパゲッティよ! 沢山食べてね?」


 微笑んで嬉しそうにくるくる回るユキナ。


 私は無言でユキナの背後から抱き着いた。


 華奢な体の温もりを感じて、髪から微かに百合の香りがする。


 とても落ち着く、とても癒される。


「どうしたの……杏捺?」


「なんとなくですよ、ユキナ」


「そっか、なんとなくなら仕方ないね!」


 とても嬉しそうなユキナ。


 ちょっと戦って死にかけて、ユキナのことが恋しくなった、なんて二重の意味で恥ずかしくて言えない。


 それを察していてもユキナは訊いてくることはない。


 私のことを一番知ってるのは、私ではなくユキナかもしれない。


 ユキナは私の帰る場所。


 私の在り処だ。




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