エリートな俺の召喚獣がどう見てもひよこなのだが?
俺はアレン、この王立召喚士養成学園の一年生で、勉強、運動の両方に置いて、入学から半年間一位を取り続けるスーパーエリート様だ。
召喚士とは何か? それは異界に住むと言われる生き物と契約し、使役する才能を持つ者である。
この世には魔獣と呼ばれる何処からとなく出現し、闇のように真っ黒で、時に人型、時に獣型と言った様々な姿を持つ敵が存在し、そいつらは全ての生物に牙を剥くので、魔獣と戦い、勝つのが人類の唯一生き残る道だ。
しかし人間は非力なので、直接戦っても勝てる望みは薄く、俺らのような異界の生物を使役できる召喚士としての才能がある子供達は学園へと集められるのだ。
人類の希望として……
「アレン、お昼ご飯はまたお水だけなの?」
「レオンか。フ、エリートな俺には昼など水が有れば十分なのさ」
昼時、俺は誰も来ることがない裏庭にある秘密の場所で、昼食(水のみ)をとっていた所、この場所で俺が居ることを知る者、レオンがやって来た。
レオンはショートカットで立ち振舞いと制服姿は男のものだが、れっきとした女の子である。
召喚士と言うのは血筋が最も重要で、良いところの子供達が集まるが、悪く言えばボンボンの集まりである。
レオンもそれに漏れなく当てはまるのだが、レオンの両親は男の子に恵まれず、女の子であるレオンは跡取りとして男のように育てられたそうである。
以前、女の子なのに男の子ように振る舞う様子を同級生にからかわれている所を助けた時から仲が良くなった。
と言うかこの学園唯一の友達だ。
「はい、これ食べなよ。今なら周りに誰も居ないからさ。午後から遂に召喚獣との契約召喚だよ? お腹が減っていたら良い召喚獣も多分来ないよ」
レオンが差し出した物はそれはそれは重厚で食べごたえが有りそうなBLTサンドだった。
これは売店で売っているもので、非常に美味らしく、学園の生徒の過半数が大好物と言う化け物サンドだ。
ただスーパーエリートであるこの俺が他人から施しを受けるか?
「ありがとうレオン! 本当に助かる!」
「ふふ、どういたしまして」
ぶっちゃけよう、俺はスーパーエリートでも何でもなく、この学園唯一の庶民、と言うよりは貧乏大家族の長男である。
本来は召喚士の血統は貴重なもので、そのほとんどが上級国民であり、本来なら俺のような下町育ちの人間がその血筋を引くはずもない。
しかし、稀に突然変異とでも言うだろうか、急に召喚士としての才能を持って生まれる子供もいる。
それが俺だ。
召喚士の才能があるかどうかを調べる水晶が有り、12歳になった子供達は皆それに触れて検査をするのだが、俺が触れると水晶は反応し、この学園に入る資格を得たのだ。
そう、あくまで資格である。
この学園に普通に入学すると莫大な費用が掛かるのだが、俺は学費から制服代、果ては朝晩の寮のご飯までタダである。
何故なら俺は特待生枠と言うものだからである。
入試の試験において非常に優秀な成績を修めた者が得られる、学費を少なく、またはタダで学べる制度だ。
金は掛けられないが、将来妹や弟を楽にさせてあげたい、そう思った俺は死に物狂いで勉強した。
本来勉強が得意じゃない俺は、それこそ血反吐を吐くような努力
を入試までの二年間毎日続ける事によって、なんとか特待生枠をもぎ取れたのである。
これも全て召喚士になって将来バリバリ稼ぐ為だ。
「く~っ、美味い! コレは美味すぎるぞレオン! 朝夜二回の飯では普段は午後の運動がきつくてなぁ……本当に助かった!」
「あはは、喉に詰まらせないように気を付けてよ?」
俺は本来「フッ」とか言って、人を見下すような態度をとる人間では無いが、この学園ではどうしてもそのような態度をとらねばならない。
この学園では非常識なボンボンが多いので、俺のように庶民が自分より上の成績を取るのが許せない輩が一定数存在する。
そう言う輩は自分より格が下と見ると、途端に虐め、嫌がらせの嵐が始まる。
以前イタズラされた時は一人一人に倍返しにしてイタズラをおさめたが、ナメられて完全にターゲットにされてしまえば俺は一巻の終わりだ。
だから人を遠ざけるような態度で、普段は過ごしているのだ。
「へへぇ、レオン様ぁ、誠にありがとうごぜーやす」
「あはは! 何それ! 普段の態度からは考えられないよ!」
どちらかと言えば、俺は根はふざけた人間なので、素が出せるレオンは本当にかけがえの無い親友である。
「ねぇアレン、僕達はどんな召喚獣と契約出来るのかな?」
レオンは不安そうに俺に尋ねる。
召喚獣との契約は生涯一度きりだけで、その時どんな生物が出現するかはその時まで分からない。
誰もがより強い召喚獣を望むが、必ずしも強力な召喚獣とは限らない。
家からのプレッシャーを受けているレオンはさぞ不安なのだろう。
「レオンなら凄いものが出るかもしれないぞ? ドラゴンとか、デーモンとかな」
「ふふ、ありがとう。アレンは成績が良いから強い召喚獣が出るかもね」
「……強い方が有難い。俺は家族を養いたいからな……」
「そうだね……きっと出るよ、アレンなら」
「……そうだな」
レオンには俺の全てを話しているので、俺の言葉の意味、実情を理解しているので逆に元気付けられてしまった。
俺も結局不安なのだと実感してしまう。
「空気を暗くして済まなかった。ま、何事もなせばなるさ、勉強も運動でも必死に努力すれば、落ちこぼれだってエリートを装えるんだ、俺みたいに。」
「ううん、おかげで勇気が湧いてきたよ。そろそろ昼休みもおしまいだから教室に帰ろう?」
「ああ」
俺とレオンが教室に帰ると丁度昼休みの終了を告げる鐘が鳴り、遂に午後の特別授業である召喚獣との契約が始まる。
複数ある中の俺のクラスから契約が始まり、クラス全員が終われば次のクラス、と言う算段らしい。
学園の広いグラウンドの中心にはうっすらと光る魔方陣が描かれている。
召喚士はこの中心に立って心で願うことによって契約する召喚獣を呼び出すのだ。
そしてクラスメイトの連中が次々と召喚獣と契約していく様子を俺は静かに見守る
「わー! ケルピーだぁ!」「宜しくねハーピー!」「凄い! ナーガじゃないか!」
皆、中々の当たりを引いているようだ。
コレは俺も期待出来るだろうか。
「おーっほっほ! 少し宜しくて? アレン、エレガントな私はグリフォンと契約を結びましてよ。成績だけは優秀な貴方は一体どんな貧相な召喚獣が出るのか楽しみですわ! おーっほっほ!」
「……マリリン嬢か。ま、見ておけ。エリートな俺に相応しい召喚獣を見せてやる」
クラスメイトの派手好きなお嬢様であるマリリンは俺に分かりやすい嫌みを言うが、こいつの場合直接面と向かって言ってくるので中々憎めない奴だと思っている。
(頼む! トンでも無い奴が来てくれ!)
俺は魔方陣の中に入って念を込めると、魔方陣の輝きが強く増す。
七色に光始め、目が眩むほどの光が放たれる。
「こ、これは……!」
今までに無いくらいの反応……! 何か凄まじい存在が来る!
「ピヨピヨ」
「え?」
ひよこ? おいおい何処から迷いこんだんだ。
おかげで俺の召喚獣の召喚が成功していないじゃないか。
「やれやれ、何処から迷いこんだんだお前は?」
「アレン君、それが君の召喚獣のようですね」
「は? 先生それは無いでしょう」
「間違いありません。しかももう契約完了しているようなので、出来たら次の人に行きたいので早く出てもらえるありがたいのですが」
「ピヨ」
「あ、はい」
俺は言われるままどう見てもひよこにしか見えない召喚獣を手の平に乗せて魔方陣から出るも、周りの皆からは何とも言えない視線で注目を浴びる。
「俺の召喚獣がコイツ……? 嘘だそんな事!」
「そ、そのアレン? 先程の言葉は訂正致しますわ。か、可愛らしくて良いのでなくて?」
さっきまで俺を小馬鹿にしていたマリリンにまで慰められる始末に俺はつい、いつもの癖でナメられ無いための尊大な態度をとってしまう。
「フン、マリリン嬢にはコイツが何か分かっていないようだな」
「え……ひよこでなくて?」
「ククク、マリリン嬢にはタダのひよこにしか見えないわけか、コレはお笑いだな」
いや、どっからどう見てもひよこである。
「ま、まさか伝説の……!?」
「フ、流石マリリン嬢、ご慧眼だな」
伝説のなんだよ、と思いながらも勝手に乗ってくれるマリリンに便乗する。
「不死鳥、または鳳凰の雛とでも言いまして!?」
「いや、それは流石に……」
「流石アレン……! 私のライバルですわ!」
ざわざわと周りからざわめき立ち始める。
いや、それは言い過ぎだろ……! 成長したら間違いなくニワトリだよ!
「やはり学年一位のアレンと言う事か」「俺はてっきりひよこかと……」「まさか雛から契約など……前代未聞だな……」「庶民の癖に……」
ヤバい、せめてコカトリスとか鳥系の生物の事かと思ったらマリリンの想像力は俺の想像以上に高かったせいで話がどんどん大きくなっている。
これでは数ヶ月後には俺は学園内の居場所が確実になくなってしまうので、俺は弁明しようとすると、魔方陣が再度強く輝き出す。
「む、ここは? 私は竜と共に相討ちしたはずだが……?」
「あ、あの! 僕と契約してください!」
レオンが召喚したのはどう見ても人間の渋い中年男性だった。
えー、何あれぇ……召喚獣は人間以外、と明確な法則が有った筈だ
が、あれはどう見ても重厚な鎧を着て、ロングソードを腰から提げたおっさんである。
「貴殿が私を呼んだのか?」
「はい! 僕と契約して力を貸してください!」
レオンは多分この法則を忘れているのかがむしゃらにおっさんに契約を求めているが、周りの皆は顎が外れそうな位ポカンと口を開いている。
そして俺の召喚獣であるひよこ(仮)はいつの間にか頭の上に登り、俺の天然パーマの頭を巣に見立てて落ち着いている。
「一度失った命、救ってくれた貴殿に捧げよう」
「本当ですか! わーい、ありがとうございます!」
傍ではそんな話をしていたが、俺には頭に入ってこなかった。
(どうしようどうしよう! こんな召喚獣ではとてもじゃないけど魔獣となんて戦いにならないぞ! そしたら俺はどうなる、退学か!? 駄目だ! 俺が召喚士になるのは弟や妹、家族の為だ! 俺が稼いで楽にさせてあげなければならないのにっ。クソ、このひよこ(推定)人が焦っているのにスヤスヤと頭の上で寝てやがるっ! 今はまだ良い、他の召喚獣の雛鳥と勘違いされているが数ヵ月後には間違いなくニワトリになってしまう……! て言うか何で人生に一度しか召喚出来ないんだよ! ひよこ(恐らく)ってなんだよ外れも良いところだぞ、俺は何かバチに当たるようなことでもしでかしたか!? 済まない弟、妹、両親よ! 駄目な長男でごめんなっ!)
「アレン! グラウンドに魔獣が多数出現したから生徒は皆逃げましてよ!? 後は貴方だけなのだから早くしなさい! 」
「ぶつぶつ、コレはひよこなんかじゃない……」
「グルルルゥ」
「ひっ! アレン! アレン!」
うるさい! 俺は今どうやってこのひよこ(確定)を誤魔化すかイメージトレーニングをしているんだから邪魔をしないでくれ。
「グルオッ!」
俺は怒りの頂点に達しかけながら考え事をしていた所、非常に耳障りな獣の鳴き声が聞こえたのでプッツンと何かが切れた。
「うるせぇっ!」
「ギャン!」
視界の端から飛び掛かってきていたナニかに俺はカウンター気味に後ろ回し蹴りを炸裂させた。
んー? 魔獣ゥ? 元はと言えばこいつらが好き勝手に湧き出すから人間は発展せずに貧乏な人間が増えているのだろう。
つまり、我が家が貧乏なのはこいつら魔獣のせい、そう思うと憎しみが無尽蔵にわいてくる。
「テメェだけは生きてかえさない……!」
「あわわっ、アレンが狂戦士に……!」
俺は未だダメージから立ち直れていない狼のような姿をした魔獣に飛び掛かり、マウントポジションをとって左右の拳で交互に殴り付ける。
それに合わせて頭の上で羽を振るうひよこ(決定)。
「オラッ! まだまだっ!」
「ピヨ! ピヨ!」
「ギャン! ガウッ! クゥン!」
「あわわわわ……」
ん?さっきまで気がつかなかったけどマリリンが居たのか。
大方根は善良な彼女の事だからこいつら魔獣から逃げそびれたと勘違いした俺を見捨てておけなかったのだろう。
「…………」
「お、死んだか」
「ひえっ! 魔獣を素手で殴り殺した……!?」
魔獣は何処からでも出現し、死ぬと真っ黒な水のようになって体を保てなくなる。
この狼型の魔獣も例にならって消えてしまった。
「あああ、アレン」
「どうしたマリリン嬢」
「ま、周り……!」
マリリンが俺の肩を叩いて話し掛けて来たので言われた通り周囲を見回してみるとそこには先程倒した魔獣と同じタイプの魔獣が俺達を囲うように10匹近く居た。
「あ、死んだわ」
「ちょっとアレン! 諦めないでどうにかなさい! 私はまだ契約しただけでグリフォンの呼び方が分からなくてよ!」
そう言われてもこの数は俺みたいな普通の人間にはもうどうしようも無い。
なんとか隙を作り出してせめてマリリンだけでも……そんな思考がよぎった瞬間、一人の人間が一瞬で魔獣を切り尽くす。
「少年、見事な蹴りだった」
「アレン大丈夫!?」
「レオン、おっさん……」
「九死に一生を得ましたわ……」
レオンの召喚獣(?)のおっさんは目にも止まらぬ速度で魔獣を倒したのだ。
腰から提げていたロングソードで移動と同時に攻撃したのだろうか?
「私は騎士レゴリオだ」
「レゴリオさんは何故か契約しても帰らないんだ! 授業で習った事と違うね!」
「ピヨピヨ」
「わぁ! それがアレンの召喚獣? 可愛いね! あ、アレンの召喚獣も帰らないんだね」
……一つだけ思い付いた。
騎士と言う存在が何者かは分からないがレゴリオは人間の筈だ。
先程魔獣を簡単に切り伏せていたあの技を俺が身につければ召喚士として戦力不足として退学にならないはず!
「レゴリオさん、俺に剣を教えてくれっ……!」
「……少年、いやアレン、強い意思を感じる良い目をしているがそれは険しく、血反吐を吐くような思いをすると言う意味だぞ?」
「熱い! こんな物語でしか見れないシーンを僕が目の当たりにするなんて!」
「え、なにこの展開。私がおかしいのかしら……」
血反吐を吐く思いなんてこの学園に入学する時に何度も何度も味わってきたのだ。
だからその程度屁でも無い。
「血反吐を吐く? そんな道、もう通ってきた!」
「ピヨ!」
「ヒナ、それがお前の名前だ。いっそお前も家族だ、守ってやる……!」
ひよこ(絶対)のヒナは俺の感情に共鳴するように鳴く。
もうどんな奴が召喚獣でも俺が魔獣をブッ倒せば良いんだ……! 俺は家族を楽させる為には何だってやってやる。
「よし、ならばこれからは師匠と呼んでくれ」
「はい! 師匠!」
「わー! 男同士の熱い友情だよっ、憧れるね、マリリン!」
「私、もう付いていけませんわ……」
これは、将来狂召喚士と呼ばれる召喚獣を差し置いて自ら戦う、召喚士全否定の俺と、嘘から出たまこと。本当にひよこではなかった俺の召喚獣であるヒナの物語である。