5.5話 とある冒険者の話。
これはイシェルが笛男と呼んでいた男視点の話です。モブです。
なんだったんだ……
俺は先程まで魔物の群れがいて、戦場だった場所を眺めながら思った。
この街に魔物暴走がくると聞いた。ここーーリリアルの街は俺が生まれ育った場所だ。ここを守るために俺は冒険者になった。
だから、今回の依頼も引き受けた。この街のために死ぬ覚悟で。
……ドド……ドドドド
ほんの僅かな音だった。これは魔物の群れだ。俺はそう感じたので、笛を吹いた。
「ピーーーー」
それで、皆わかってくれたようで、
「魔物の群れが来たぞ!」
と、声が上がった。
「すみません。」
と、声が聞こえた。下を見ると、16、7歳ぐらいの女の子がいるではないか。とんでもない美少女だ。けれど、ここは戦場だ。早く帰るようにいったら、
「ま、魔物の群れが来るから、早く街に戻った方が……」
「あ、大丈夫です。私もちゃんとしたEランクの冒険者なので。」
冒険者証を見せられた。Eランクか……
「そ、そうか。」
そういうと、その女の子はとんでもないことを言った。
「2キロメートル程先に魔物の群れがありますよね。それが300匹程いると思うのですが、これって魔物暴走の本隊じゃないんですか?」
「さ、300匹〜〜?」
思わず声を張り上げてしまった。その『300匹』という言葉は冒険者達に波紋のように広がっていった。
「え?300匹?」
「魔物暴走って多くて150匹ぐらいじゃないのか?」
「え、300ってことはその2倍かよ!」
「これだけの人数で抑えつければ大丈夫だと思っていたのに。」
「俺達は軽く魔物暴走を止めるだけでいいって聞いてたのに、このまま放置したら、他の街も危ないぞ!」
この街だけでなく、他の街も危ない……
どうしようと悩んでいると
「ああ、やばい。」
「もう、終わりだ。」
という絶望の声が冒険者達から聞こえてくる。俺もそんなことを言いたくなってきた。
すると、
「じゃあ、ちょっと先制攻撃仕掛けてきます。」
と、その女の子がいった。
「え?何を……」
するんだ、といおうとしたが、もうその女の子はいなかった。
ボゴォォンという音がした。魔物の攻撃か、と思い、そちらに目を向けると、先程いた、女の子が空中に立っているではないか。
次々と魔物が飛んでいく。逃げたりする魔物もいるが、その魔物達が地面を踏むと、ボゴォォンという音がまたして、魔物が爆風に乗って飛ばされる。
これは、彼女がやっているのか?
空中に立っているということは空間系魔法を使っているということ。空間系魔法はかなり高度な魔法だったはずだ。
彼女がまた陣地に戻って来る頃には俺達はフリーズしていた。彼女が俺の前にやってきて、手をフリフリと振られた。
そこで、やっと俺は我に返った。
「き、き、君!」
俺は彼女に声をかける。
「はい?」
彼女はこちらを向いた。
「さ、さっきは何処へ……」
俺はさっき見たことが信じられなくて、本人に確認する。
「魔物の群れのところですけど……」
だよな。
「さ、さっき、『空中歩行』や、『爆発』を使ったかい?」
思い当たるのはそれぐらいだ。確か、『空中歩行』は上級魔術師でも使いこなす人が少ない魔法と聞いたことがある。『爆発』は魔力消費が多い魔法の代名詞とも言われてる魔法だ。
「使いましたけど……それが何か?」
平然として彼女はそういう。マジか……
そして、その言葉を聞いた他の冒険者達も我に返りだした。
「………」
沈黙が森に広がる。
「魔物の群れが来ますよ!」
彼女がいうとその事実に気づいた。そうだ、とやかく考えている場合ではない。魔物の群れが来るのだ。
「そうだ、魔物が来るんだった。」
「皆気を引き締めろ!」
誰かが、そう言った。俺も自分の武器を出して、気を引き締めた。
ーーーそして、俺達は全力を尽くし、戦った。
だが、それと同時に彼女の規格外さを知った。
彼女は一撃でどんどん魔物を倒していく。果てには剣に炎を纏わせて斬撃を放ったり、雷を落としたり。
あの雷は間違いなく人為的な雷だった。何故なら、あの雷は魔物だけを狙っているのだ。木にも当たらず、人に決して被害を及ぼさない。
大量に雷を落とすなんて、どんな大魔術だ。聞いたこともない。それにあの様子だと無詠唱でやっていたようだ。大魔術を無詠唱で。どんなバケモンだ。そうだとしたら、魔力量も半端ない筈だ。身体能力も高いようだし。なんなんだ、彼女は。
俺は死体から素材を剥ぎ取りながら、彼女を見ていた。
戦いが終わった後、彼女は何故か灰色の犬と戯れていた。犬?いや、狼か?
そして、犬?から何かを受け取ると、早々に街に戻っていったのだ。その時点で、もうこの場には魔物の死体しかなかったのだが。
果たして、彼女は天使だったのか、悪魔だったのか。彼女は人間、なのか?
この街にいるのなら、俺はいつかまた彼女と出会うだろう。
これで、外側から見たイシェルがなんとなくわかると思います。
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