スピンオフ 王子の懺悔
今回はルーズベルトの話です。
俺は今、激しく後悔していた。
なんてことを、俺はしでかしてしまったのだろう。
俺は、燃え盛る暖炉を見ながら思った。
ーーー彼女との出会いは9歳の頃だった。
「御機嫌よう。私、ヴァレンシュタイン公爵の娘のマリー・ヴァレンシュタインと申しますわ。」
9歳とは思えないほど大人びている彼女は俺に向かって、挨拶をした。
「俺はルーズベルト・セーコンド・レリーフ。この国の第二王子だ。」
この挨拶をしたあと、少し後悔した。悪い印象を与えなかっただろうか、と。俺の挨拶に答えるように、彼女は微笑む。
けれど、その笑顔が作られた偽物だというのはすぐに分かった。
「では、後はお若いお2人で。」
母上はそういって、薔薇園に俺の彼女の2人を置いていった。
何を話せばいいのだろう。そう考えて、俺はあまり同年代の子供と話したことがないのに気づいた。話すことがない。
なので、俺はじっとマリーを見つめていた。燃えるような真っ赤な髪。一見、派手に見えるけれど、どこか繊細で美しくて。アメジストのような紫色の瞳。いつまでも眺めてみたくなるぐらい、魅力的で。
ーーー今、思えば、これは一目惚れだったんだなと分かった。
「お、おい!」
緊張して思わず大きな声をあげてしまった。恥ずかしくて、顔がじわじわと熱くなってるのを感じた。
「こっ、婚約の件についてはどう考えてる!」
どうしても、緊張して高圧的になってしまう。けど、彼女はそんなことを気にもせず、答えてくれた。
「そうですね、ルーズベルト殿下のお気持ち次第ですわ。」
それは、つまり婚約してもいいってことか?
思わず感情が昂ぶる。
その日はそれで終わってしまったが、夜に高鳴る心を抑えるのはどんなに大変だったことか。
「母上。僕の婚約の件はどうなるのでしょうか。」
さりげなく、母に婚約のことを訊く。
「そうね。このままだとヴァレンシュタイン公爵令嬢になりそうよ。」
彼女が、俺の、婚約者になる。
その事実がどんなに嬉しかったか。婚約者になればずっと一緒に居られる。そして、そのまま結婚しよう。まだ見ぬ未来に俺は心踊らせていた。
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彼女が、俺のことを見ていない。
そのことに気づいたのはいつだっただろうか。確か、11歳ぐらいだったと思う。
彼女は俺と話す時、俺を見ていない。相槌を打つばかりで、その紫色の目は俺を見ておらず、映していない。
俺は彼女に興味を持ってもらえる為にいろいろなことをした。例えば、押し倒して見たりとか、彼女の絹のように滑らかな肌に触れてみたりとか。けど、彼女の瞳は相変わらず俺を映さない。
そして、だんだん焦り始めるようになった。彼女は美しい。魅力的だ。このままだったら、他の男に取られてしまうのではないかと。
だから、彼女に少しでもこっちを向いてほしい。そんな気持ちでそこそこ可愛い適当な学園の女子を選んで、彼女とわざと居合わせるようにしたり、親密そうな雰囲気を出したりして、彼女を嫉妬させようとした。
けど、それでも彼女は興味を示さない。
なぜだ。なぜだ。なぜ、彼女は……
そんな時、一つの案が思い浮かんだのだ。
彼女に適当な罪を擦り付ければ、彼女はきっと泣いてでも俺に助けを求めるだろうと。
そう思い、実行したが、彼女は特に抵抗もせず、そのまま牢屋に入れられた。そして、いつの間にか、彼女は処刑されることになっていた。
処刑台に向かう彼女の瞳はどこか嬉しそうにしていた。なぜ?
そして、騒ぎが起こった。彼女は愚かなことをした俺を呪うかのように、言葉を残していった。
今までの自分の行いを振り返れば、簡単だった。俺はなんて、愚かだったんだろうと。恋をしたというのに、無駄なことばかりして。最終的には彼女を死に追い込んだ。
誰が、こんな俺と一緒に居たいと思うだろうか。
俺はこの残りの人生を彼女への償いの為に生きる。
ーーーたとえ、どんなに苦しくても俺は彼女への償いの為に生きなければ、ならないのだ。
拗らせちゃった系です。
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