15話 ドラゴンをギルド内に持ち込んでみた。
私は地上に戻ろうとした時だった。
パキッ
何かが壊れるほんの僅かな音が聞こえ、その途端、不可視の波がドラゴンを中心に発生した。
その波に私が当たった瞬間、魔力が出せなくなった。
「え……?」
声が私の口から漏れた。
魔力を使って浮遊していた私が魔力を出せなくなると、どうなるか。落下するに決まっている。
私の体が傾き、落ちていった。魔法を行使しようとするも、出来ず、ただ落下していく。
この体が壊れることはないかもしれないが、何らかの後遺症はあるかもしれない。
落ちていく中、ただそれだけを考えていた。
もうそろそろ地面につくと思った私はゆっくり目を閉じ、体が地面に叩きつけられるのを感じ……なかった。
その代わり、人の温もりを感じたのだ。
目を恐る恐る開けると、ヴォルフの顔が近距離にあった。
「うわっ!?」
思わず口からそんな言葉が出てしまった。
「うわっ、って…なあ。」
ヴォルフが目を細めて笑った。確かに助けて貰ったのに、開口一番に「うわっ」はないかもしれない。
今の様子を鑑見るに、私はヴォルフにお姫様抱っこをされているようだ。今世初めてのお姫様抱っこなんだけど、それはどうでもいい。
「ありがとう、ヴォルフ。」
私はヴォルフの目を真っ直ぐに見つめて笑った。
「どういたしまして。姫さん。」
ヴォルフも笑顔で返してくれた。ヴォルフがいなかったらどうなっていたことか。
ヴォルフは私をお姫様抱っこから解放してくれたが、その温もりがなくなってしまったのを少し寂しく感じた。
そして、まだ問題は残っている。
「ねえ、ヴォルフ。このドラゴン、どうやって処理すればいいと思う?」
そう、ドラゴンについてだ。
ここまで大きいと、たとえ収納に入れても、冒険者ギルドで出すことができないし。
「俺だったら、解体してちょっとずつ持っていこうかな?」
なるほど、その手があったか。
「ヴォルフ、解体できる?」
私はあまりやったことはないが、方法はわかるし、実際にやっているところを見たこともある。
「ああ、できる。」
ヴォルフはブーツの横から小さなナイフを取り出し、鞘から引き抜いた。
じゃあ、一緒にドラゴンを解体してもらおう。
***
そのあと黙々とドラゴンを解体し続けた。
鱗も丁寧に剥ぎ取って、肉も部位ごとに分けて。
まあ、解体しても、量は変わらないのだけれどね。解体し終わった後は、収納に収納した。
ヴォルフも収納魔法が使えるらしいので、一部はヴォルフに持ってもらって、冒険者ギルドに向かった。
かなりきれいに倒せたので、値は張るはずだ。
冒険者ギルドに行くまで、私は頭の中で市場価格と照らし合わせながら、総額を計算していた。
かなりの値になったのはいうまでもないだろう。
ギギギー
冒険者ギルドの古びたドアを押し開けて、中に入った。
こないだよりも大分人が多いのが分かった。
やっぱり、前に人がいなかったのは魔物暴走で出払っていたからだろう。
急に冒険者達が騒めきだした。
何かの言葉が連呼されていると気がする。
えーと、銀髪の小悪魔?
何それ。もしかして、流行の何かだったりするの?
そんな考えを胸に抱きつつ、私は素材買取カウンターに向かった。ちょうど、誰も並んでいないみたいで、私達は、すんなりカウンターまで行けた。
「どのような素材をお持ちですか?」
カウンターに辿り着いたと同時にその男性職員が笑顔でいった。勿論、商業用スマイルでね?
「あー、ドラゴン?」
ヴォルフがそういうと、騒めきが更に大きくなった。
「そ、それは一体どこで?」
何故か、男性職員の顔に汗が浮かんでいた。けれど、まだ笑みを崩してはいない。
「森のところで、ゴールデン・ドラゴンがいたので、討伐してここに。」
私が答えると、男性職員の汗が2倍になった気がする。
「ゴ、ゴ、ゴールデン・ドラゴンですか……素材を見せていただいても?」
私は鱗の一枚を取り出し、カウンターに置いた。
男性職員は色々な角度に鱗を向けたり、光にかざしたりしていた。
「ほ、本物のようですね。」
わっ、という声がギルド中に広がった。
そんなに?確かに希少素材だもんね。
「す、す、すみませんが、別室にご案内させていただいても?」
「はい、構いません。」
即座に返事をした私達は別室へと連れて行かれた。
ありゃ?ここ、ギルドマスター室の隣の部屋だ。
部屋の中に入ると、部屋中にスライムシートが貼りめぐらされていた。
スライムシート、とはこの世界でいうビニールのようなものだ。スライムを粉にして、後色々な薬品を混ぜた物を布にコーテイングすることで出来上がるらしい。
近年開発されたそうだが、転生者が関わっている気がするのは気のせいだろうか?
閑話休題。
それがわざわざあるのは、解体用にかな?
その後、部屋にギルマスが遅れて入ってきた。
あ、また会いましたね。そういえば、今日の朝にも会ったばかりだ。
えーと、今日はCランク冒険者になって、リュウゼに会って、賊を返り討ちにして、ドラゴンに会って、まだ冒険者ギルドに戻ってきた、と。
こういうのもなんだけど、波乱万丈な一日だったと思う。
一日をしみじみと私は振り返っていた。
「では、素材を見せていただけますか?」
スライムシート製の服に身を包んだ、先程の男性職員とギルマスがこちらをみた。
私はヴォルフの方をちらりとみて、目で合図すると、ヴォルフは収納魔法からドラゴンの鱗と肉と骨を少しずつ出した。
「ほお……」
職員からそんな声が漏れた。彼は一つ一つ、じっくりと検分していった。
その間、私は背伸びをしてヴォルフの耳元に顔を近づけた。
「ねえ、ヴォルフはあの素材、全部売り払うつもり?私は肉の一部とか欲しいなと思ってるんだけど。」
私がそういうと、ヴォルフは顎に手をあて、少し考え始めた。
「んーと、そうだな。俺は別に売り払っても……いや、マスターが欲しがるかもしれないから一部貰っていってもいいか?」
どうぞ、どうぞ。ヴォルフの助力もあって倒せたことだし。
「いいよ?何処らへん?多分、私の収納の中に入ってると思うし。」
「確か、目、牙、爪、鱗の一部に、後は肉と骨もいいか?マスターはグルメだから。」
大半の素材だね。
ドラゴンの肉も高級食材だけど、骨も出汁に使えるって、レリーフ王国の図書館の蔵書にかかいてあったっけな。
私は中がスライムシートでコーティングされている特製のアイテムバックを取り出し、そこにヴォルフが今いった素材を詰めていく。
こっそり、ドラゴンの逆鱗も入れておいた。
爪とか目を欲しがるなら、魔術師とか錬金術師らへんだと思うから、逆鱗も入れておけば『マスター』は嬉しがるだろう。
諸々の物を詰め終わったので、私はアイテムバックをヴォルフに渡した。
読んでいただき、誠にありがとうございます!
申し訳ありません。これで毎日投稿はお終いとなり、不定期更新になります。最低でも月に一回は更新できるようにしたいと思うので、これからもよろしくお願いします。