9話 灰色の狼
獣要素登場です。
リュウゼに付与をつけたネックレスを返し、私は今度こそ宿に向かった。
***
今日は疲れたなあ。
私は桶をひっくり返して、自分に水をかけた。軽い水浴びだけど、水浴びができる宿は結構希少なのだ。
水浴びの後、私はネグリジェを着た。収納から出したものだ。シンプルな白色のネグリジェ。ネグリジェの袖や裾にはミントグリーンのフリルが付いているが、これ以上にシンプルなものはなかったのだ。
以前、買おうとした時、あったのはゴテゴテとした派手なやつばかりで、明らかに邪魔な薔薇の装飾が大量についてたり、悪役令嬢っぽい原色のやつとか。
まあ、選べる物がこういうやつしかなかったのだ。
あ、私はリュウゼがくれた、ネックレスを収納から取り出した。首に手を回し、ネックレスをつける。ずっしりとした重みはなく、とても軽かった。
それをつけたまま、私はベッドに座り、謎の羽を取り出し、眺めた。
これがなんなのか分からない。リュウゼにも訊きそびれたし……
羽軸についている魔石は月光が反射するたび、小さな光を放つ。
それに何故あの灰色の狼がこれを私に渡したのだろう。
考えていると、コツコツという小さな音が窓から聞こえた。見ると、あの狼が窓を叩いているではないか。
これは、中に入れてほしいっていう事なのかな?
私は窓を開け、狼を中に入れた。特に害意もない感じだし、なんだか親近感があるし……
狼のオッドアイは昼間より、夜の方が綺麗だった。暗闇の中だと、もっと幻想的に見えるのだ。
私は狼の頭に手を置き、優しく撫でた。毛がフワッフワだ。野生の動物って感じじゃないな。どこかで飼われているのだろうか。
狼は抵抗せず、私に撫でられるがままだった。確か、犬は耳の裏を撫でるといいんだけっけな。私が耳の裏を撫でると、狼は気持ち良さそうに目を細めた。この子、一応狼なんだけどね。
「貴方は狼なの?」
私は狼に向かってそういった。まあ、多分、理解していないだろうけど……と、思っていたのだが、狼はコクリと頷いた。
ーーあれ?もしかして、通じてる?
「飼い主はいるの?」
もう一回訊くと、狼は首を横に振った。いないって事?
それに、ちゃんと言葉が通じてるみたい。獣の中には言葉を理解しているのもいるって、本に書いてあったけど、本当みたい。この子、可愛いな。
「飼い主がいないなら、私が貴方を貰ってもいい?」
悪戯心でそういうと、狼は頷いた。あれ?いいの?
「本当に?」
確認のために訊くと、狼はまた頷いた。けど、狼、狼、じゃあ、呼びにくいな。名前をつけよう。
「……ヴォルフ」
確か、前世でそういう名前のキャラクターがいたな。
「ヴォルフ、と呼んでもいい?」
頷いてくれたので、これからはヴォルフと呼ぼう。名前が気に入ったのか、ヴォルフは私に頬擦りをしてきた。良かった。気に入ってくれたみたいで。
……収納に狼用の食べ物なんてあったかなぁ?これから、世話をするなら、ないと駄目だよね。
干し肉、とかは?大丈夫な気がする。
私は収納から干し肉を出して、ヴォルフに見せる。
「いる?」
すると、ヴォルフは上目遣いで私をみた。食べたいみたいだね。ついでに言えば、物凄く可愛い。
干し肉を渡すと、ヴォルフは慎重に干し肉を食べていく。荒っぽい食べ方かと思ったけど、違った。
干し肉を食べ終わると、ヴォルフはまたもや私を上目遣いで見てきた。ヴォルフの視線の先を辿ると、私のネックレスがある。
もしかして、首輪が欲しいのかも。けど、首輪は持ってないんだよね。チョーカーなら、首輪として、代用品になるかも。私は一つだけ持っているチョーカーを収納から出した。
ヴォルフはチョーカーを見るや否や、それを瞬時に私の手から奪い取った。よっぽど欲しかったみたいだ。そして、チョーカーを咥えたまま、こちらをキラキラとした目で見ている。
私はヴォルフの口から、チョーカーを取り、ヴォルフの首にチョーカーをつけた。元々、サイズが大きくて、着けていなかったのだけど、ヴォルフにはピッタリだったみたいだ。
眠い……
もうだいぶ夜遅くになってきた事だし、そろそろ寝よう。私はベッドに寝転がった。ヴォルフが寂しそうにこちらを見ている。
「一緒に寝る?」
私がヴォルフにいうと、ヴォルフは頷き、ベッドへと飛び乗った。私はヴォルフに腕を回した。ヴォルフはモフモフだし、温かい。丁度良い抱き枕なのだ。
私はもう片方の手で燭台を引き寄せ、ふっと軽く息を吹いて、灯を消した。
ヴォルフはただの獣?
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