リュウゼ 過去編 リュウゼ視点
これで過去編は終わりです。
今日、面白いものを見つけた。今まで、生きていて一番面白いものだった。
ーーー今日、アランが風邪によって欠席していたため、特にすることがなく、校舎の周りをぶらぶらしていた時のことだった。
にゃあという猫の鳴き声が聞こえた。学校の中にあまり動物が入ってくることはないので、暇潰しになるかと思い、猫の鳴き声が聞こえた方へと足を向けると、そこには氷の令嬢と呼ばれる、アランの双子の弟のルーズベルトの婚約者である、マリー・ヴァレンシュタイン公爵令嬢がいた。
普段は無表情、もしくは作り笑顔だが、今は猫と戯れながら、笑顔を見せている。こんな二面性があったとはね。気づかなかった。ついでにこっそり魔導写真を取っておく。
そして、こういう人は大体面白い魂なのだ。
魂眼を使い、少し覗いてみることにした。
久しぶりに見る、悪意で汚れていない魂。これだけでも十分珍しいのだが、もっと興味深かった。何故か、別のものがくっついているのだ。しかも、後から付けられたような感じではなく、元からあったかのように。初めてみた。
何故、そんなものが付いている?とりあえず、考察は後にしよう。今はただ観察をする。
何故か、本体?(大きい方の魂の欠けら)に欠けている部分があるのだ。ほんの少し、だけれど強引に引きちぎったように乱雑で。
思わず、笑みが込み上げてくる。
なんて、なんて、面白いんだ。こんなに面白い魂は初めてみた。
悪意で汚れていなくて、別の魂?がくっついていて、欠けているところがあって。面白い。
魂眼を切ると、突然、バッとマリー・ヴァレンシュタイン公爵令嬢がこちらを向く。
気づかれた?けど、不思議と逃げようと思わなかった。もっと、この少女と関わってみたいと思ったのだ。
彼女はこちらへと歩いてくる。
ようやく、お互いの姿が見えたので、挨拶をしようと口を開くが、彼女のほうが先だった。
「御機嫌よう。リュウゼ・シーレフ様。」
さっきまでの笑顔は影も無く、作り笑顔で挨拶をされた。あ、そうだ。ちょっと揺さぶりをかけてみよう。
「マリー・ヴァレンシュタイン公爵令嬢。今日は猫と戯れるのにはいい日ですね。」
さっきのことは見てたよ、と暗に言う。すると、彼女の作り笑顔が崩れた、と思った次の瞬間。
本能的に後退していた。その判断は適切だったと思う。何故なら、先ほど僕がいた場所にはマリー・ヴァレンシュタイン公爵令嬢の足があって、その足が当たった、校舎には大きなヒビが入っていた。
たった一回の蹴りで彼女は校舎に大きなヒビを入れたのだ。
これも、また僕が彼女に興味を持つ一因でもある。
あの華奢な体のどこにあんな力があるんだろう。それに速さが尋常じゃなかった。あと、少しでも遅れてたら、どうなっていたことか。
そして、そのあと平然と『修繕』で直していた。普通、あそこまで広範囲を『修繕』するのは膨大な魔力を使うし、大変なのに。
もっと、彼女の力を見てみたかったので、脅……友好的な話し合いをして、ちょっと訓練場で手合わせに付き合ってもらうことになった。
剣を扱ったことがないという。だが、素振りをしている時、剣が物凄い速さだった。あれは、僕の剣の師匠以上か?
ーーそして、手合わせで僕が負けた。
僕に同世代で勝てるのはアランと、何人かの名門騎士家系の子息が纏めてかかってきた時ぐらいだろう。
その僕に汗一つ流さず、彼女は僕に勝ってみせた。
彼女は面白い。この出会いは僕の人生で有益なものとなっただろう。
いかがでしたか?