リュウゼ 過去編<後編>
後編です。
「リュウゼ。」
私は校門前で待っていたリュウゼの肩をたたく。
「あ、マー……ク、待ってたよ。」
どうやら、私の偽名はマークというみたいだ。
「行こう。」
「ああ、馬車を待たせてるしね。」
私はリュウゼに続いて、馬車に乗った。そして、密室になってたときにリュウゼが話しかけてきた。
「それにしても……似合ってるね。」
私は男装の方が似合うってこと?
「失礼かもしれないけど、君は男装でも違和感がないね。」
まあ、そうかもしれない。私の顔も声も中性的だけど、普段は女の格好をしてるから、そういうことに気付きづらいのかも。
「男言葉で話せばいいの?」
「ああ、うん。ちなみに設定は僕の友人のマークって事で。」
「了解。」
そう言った後、馬車がガタンと大きく揺れた。どうやら着いたみたいだ。いつもなら、男性に手を引かれて降りるところだが、今は男装中。私は誰の手も借りずに馬車を降りる。
そして、着いたところは王宮訓練場。ここは、普通の訓練場とは違って、王騎士などが鍛錬するところだ。普通の人はここには入れない。貴族でさえも。けれど、王族から招待を受けた者は入ることができる。
この場合は多分リュウゼが第一王子から招待されていて、多分第一王子から友人も連れてきていいと許可されているから、私が入れるのだろう。私は前を歩くリュウゼの背中を見ながら、そんなことを考えていた。
「おや、リュウゼ・シーレフ様。そちらの方は?」
門番とリュウゼは顔見知りのようだ。よく来てるのかな?
「こちらは僕の友人のマークだ。」
「マーク様ですか……今後ともよろしくお願いします。では、どうぞ。」
門番が通してくれたので、結局私は一言も言葉を発することはなかった。
王宮訓練場は私が見たことのあるどの訓練場よりも大きい。そして、設備が充実してる。
さすが、だね。
「あれ?もしかしてどこのブースも空いてない?」
リュウゼがボードっぽいものを見ながら、呟いていた。
へえ。ブースがあるんだ。
「仕方ないか。共同利用が出来るのはブース1だけだし。そこに行こう。」
リュウゼに手招きされた。1と大きく書いてある木の扉を通りブースの中に入った。
「あ。リュウゼ様!」
王騎士の人達はリュウゼの姿に気付くとすぐに敬礼をした。
「僕の友人のマークだ。」
リュウゼは私を軽く紹介した。
「マーク様!」
王騎士の人たちは私にも敬礼をした。
「こ、こんにちは。今後ともよろしくお願いします……」
王騎士達に気圧されながらも、一応挨拶をしておいた。
「早速やろうか。」
リュウゼに肩を掴まれ、剣を渡された。訓練用の剣のようで、刃が潰されている。
「わ……僕、剣使ったことないんだけど。」
「じゃあ、ちょっと振ってみて。」
ギュン
剣が風を切る音がする。あら、意外と使える。
ギュン
ピュン
というように何回か素振りしてみたけど、意外とできた。前世だったら、重くて持てすらしないかな……
「じゃあ、いい?」
「いいけど。防御魔法とかかけなくていいの?」
だって、怪我はして欲しくないし。
「そうだね。かけておこう。じゃあ、防御魔法が展開したら、負けということにしよう。」
「分かった。」
私はお互いに防御魔法をかけながら言った。
「騎士団長。開始の合図を頼めますか?」
リュウゼが騎士団長にきく。
「了解した。」
私とリュウゼは地面にひいてあるラインの上に立つ。
「3、2、1、始め!」
訓練場に騎士団長さんの野太い声が響く。
リュウゼも私もまだ動かない。相手をみて、最高のタイミングを待つのだ。
それを数分続けたころだろうか。リュウゼが動いた。私に向かって剣を突き出した。私は剣で軽く防ぐ。そして、リュウゼがどんどん攻撃を繰り出してくる。まるで、水のように滑らかで美しい剣だ。何回か闘技場で剣士同士の戦いをみたことがあるが、今までみたどんな剣よりも綺麗で洗練されている。
さっきから私は攻撃を防いでばかりなので、そろそろ応戦しよう。
今日初めて剣を扱った私には剣技などは出来ないけど、身体能力では負けない。だから、たとえ乱雑だとしても、とにかく早い剣を繰り出した。
訓練場にはひたすら静寂が広がっていて、先程、鍛錬をしていた騎士達もただ無言で私達の手合わせをみている。
突然リュウゼがペースを上げた。攻撃と攻撃の間隔が狭くなってくる。が、なんだか乱雑になってってない?乱雑になるって事はほかの何かに気を取られているということ。
キュ
小さく風を切る音と共にリュウゼの片手に握られていたもうひとつの剣が私の方へ向かってくるが、その空間にもう私は居なかった。
そう、私は空中に飛んだのだ。くるっと軽く回転をして、着地する。
リュウゼが私に向かって攻撃しようとした頃には、私はリュウゼの首に剣を当てていた。
リュウゼから青白い光が放たれた。これは、防御魔法が展開したということ。
私の勝ちだ。
「負けました。」
そういうのと同時にリュウゼは手に持っていた2本の剣から手を離す。
カランという音が訓練場に響くと、一斉に周囲から歓声が上がる。
「おお、あの青の貴公子と呼ばれるリュウゼ様を倒したぞ!」
「誰だ?誰が倒したんだ?」
「リュウゼ様のご友人のマーク様だそうだ。」
「すごい戦いだったな。」
そんな声が次々と聞こえてくる。まさか、勝てるとはね。
誰かが肩に触れたようなので、振り返ると、リュウゼがいた。あ、けどこれ違う。貴公子モードじゃない。めっちゃ笑顔が黒い。
「じゃあ、マーク。今後とも宜しくね?」
リュウゼはそう言いながら、ギリギリと私の肩を握る手に力を込める。全く痛くないんだけど、ここで、逃げたらだめ。本能的にそう感じた。一筋の汗が頰を伝う。
「よ、宜しくお願いします……」
うん。これは今後も模擬戦しろってことだね。
私の暇な時間がーーーーー
私は心の中でそう叫んだ。
このあと、リュウゼ視点を投稿する予定です。